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四章 魔界を駆け抜けて
十二 聞きたいこと
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1・
決闘を終えた後、学園の方から宿の提供があった。
竜王の客人ということで、彼と同じ扱いになるそうだ。
魔王やそれに準ずる方々が来た時に使うらしいホテルは、宇宙の国連本部のホテルと同じような豪華さがあった。
日が暮れてから到着し、広間でみんな一緒に食事を頂いてから、自分にあてがわれた部屋に行ってみた。
キングサイズのベッドがある、広々とした室内。トイレと風呂もちゃんとあり、風呂の方なんか軽く泳げそうな広さだ。
今日はとても疲れたから、風呂を発見してすぐに入り、天国だと思いつつしばらくお湯に浸かった。
出てから、準備してくれていたシルク製らしいパジャマを着込み、部屋の方に戻っていくと。
キングサイズベッドの上に、あられもない姿をした見知らぬお嬢さん方がいる。
全力で部屋から駆けだしたものの、廊下で捕まった。しかし流石に大問題なのでみんなが助けに来てくれ、彼女らは連行されていった。
その一部始終を見ていた陸君が、何故だか笑っていた。
何か不気味なのでそちらを見てしまうと、目が合ってしまった。
「ノア、分かっているだろうが、私は夢魔の王だ」
「分かっていますとも」
タメ口が怖いと思った。
「ならば、私の怒りも察してくれ。明日は私と対戦するから、そのつもりでな」
「えっ」
驚いている間に、陸君はさっさと部屋に帰っていった。
正直、彼とは戦いたくない。でもきっと僕に拒否権はない。
全てを諦めよう。
その後、みんなと話し合った結果、真夜中の危険性を回避する為に僕は部屋替えをし、女子部屋に泊まる事になった。
ルナさんが僕の部屋で寝てくれると言うが、大丈夫だろうか。
そしてソヨンさんは……僕の見張りとして、誰か来たら追い払う役目になった。
「いや、悪いからソヨンさんも休んで下さいよ」
「交代制ですので、お気遣いなく」
抜き身を手にして椅子に座るソヨンさんは、頑なな態度だった。
しょうがないので、まあまあ大きめのベッドの隅っこに入り、布団をかぶって横になった。
薄暗い程の照明の中で目を閉じ、知らぬ間に眠った。
しかし何だか気配がするので目覚めると、目の前にソヨンさんの顔があった。
意味が分からずしばらく見つめ合っていたら、そのうちソヨンさんが後ろに下がっていった。
僕はむくりと起き上がり、ついさっきあった出来事を思い出してみた。
何故に、自分がソヨンさんにキスされてたかと。
そのソヨンさんは近くの壁際で壁に向かって立ち、小声でごめんなさいと繰り返して謝っている。
何かの事故だろうか。それとも……いやそれより、何だか落ち着かない。胸がドキドキする。嬉しいけど恥ずかしい!
ファルダニア様に無理やりされた時は緊張しかしなかったけど、今は充実感がある。
……もしかしたら自分は、ソヨンさんが好きなのだろうか。確かに、強い女の子は大好きだけど。
それに、僕のカリスマ能力に耐性が出来てる筈のソヨンさんは……?
考え続けても、頭の中身が暴発しそうなだけだ。
じゃあ聞けばいいと思ってベッドから出て、壁際に立つソヨンさんの前まで行った。
背中に話しかけるのも何なので壁に片手を置いて、ソヨンさんの顔を覗き込もうとしてみた。
「ソヨンさん、質問があるんですが」
「ひゃい、な、なんでしょうか」
若干震えるソヨンさんは、振り向いてくれない。
「その……そうだ、どうして髪の毛の色を変えたんですか? 髪型も」
違う問いが口から出てしまった。
「それは……そのう、誰かが好きになってくれるかと」
誰か。
「僕は……好きですよ。金髪も、髪の毛降ろしてるのも」
違う、他に聞かないと。
「いやそれはいいとして……ソヨンさん、もしかして、僕のこと好きですか?」
思い切り良すぎたかもしれないけど、聞きたい。
いつも何かとはた迷惑な優等生ぽい麒麟の僕も、一応男の子だから!
ソヨンさんはようやく、ゆっくりと振り向いて僕の顔を見上げてきた。
先ほどと同じぐらいの近さに、ソヨンさんの顔がある。
僕は……大変な事がありすぎてソヨンさんにすがりたいだけのような気がしつつも、大好きには違いないので自分から顔を近づけた。
扉が開く音がして、絨毯の上を歩く足音がした。
「ソヨンさん、見張りの交代を……」
ロレンスさんがそう言った時、僕は間一髪で布団に潜り込んでいた。
ソヨンさんは早足で立ち去り、扉を閉じていなくなった。
しんとした室内。しばらくして、ロレンスさんが呟いた。
「……邪魔してすみません。誰にも言いませんから」
僕は彼に背を向けたまま、震えつつ頷いた。
2・
あまり良く眠れないまま朝になり、起き出して着がえて朝食のために広間に行こうとした。
そうしたら、朝も早いのに廊下で正座しているカイさんに出会った。
「何をしているんですか?」
「結論から言うと、反省させられています」
「何故ですか?」
「ノア様を狙ってきた敵を、一人もらっただけです」
廊下の向こうの方から、物理的ツッコミ役のレオネルさんが放ったスリッパが、カイさんの頭を直撃した。
「……それは、年齢的にアウト?」
「いいえ、魔界じゃそんな物はないです。子が欲しいという女性を放っておかないのが、魔人の男性ルールです」
もう一個スリッパが飛んできた。
カイさんは頭を掻いた。
「魔界ではそうやって出来た子は、集落単位でみんなが育てるものなんで、そう気にすることはないんです」
「それでもここ、過去ですが?」
「別に気にする事ないですねえ」
清々しい程の態度なので、僕がおかしいのかと思ってしまった。
ただ言動を正したいのだろうウィリアムさんとレオネルさんが、距離を詰めて来ているが。
「それよりノア様、こういう関係で聞きたい事があるなら、いつでも聞いて下さいね。スパッと答えますよ」
「えっ」
タイムリーだ。
周囲を確認したら、ウィリアムさんとレオネルさんとロレンスさんしか見当たらない。
「じゃあその……」
カイさんの隣にしゃがみ込み、耳打ちして聞いてみた。キスしたあと、どうすんの、と。
「まさかそれ……先に質問しますが、今まで繰り返してきた転生で彼女いましたか?」
「いません。一度だけ片思いして、勝手に失恋しました」
「ミネットティオルに帰還した時のあれですよね。とすれば、何もご存知ないという事ですか?」
「知りません。だから聞いてます」
「さすがにそれをここで教えると、私の命が無くなる恐れがあるので、また後日改めてという事で良いですか?」
「え? いえ、そんなに深刻な話じゃなくて、デート先なんかを」
「そっちですか……」
カイさんが、命拾いしたという表情をした。
「お金があればショッピングで贈り物をするという選択肢もありでしょうが、映画館が良いんじゃないですかね。趣味が同じなら何度行っても楽しめますよ」
「趣味ですかあ。まだ聞いたことないから、後で……」
言いかけて、変な雰囲気になったのに気付いた。
僕は、マズイ事を口走ったようだ。
「詳細は聞かないであげて下さい……」
ロレンスさんが呟いてくれた。
「そういえば、もう食事の準備は終わったようです。行きましょう」
「あ、隊長。もう立っていいですか」
「何の為に正座しろって言ったか憶えてないな」
「どうしてスリッパ投げたんだろう?」
「朝の体操でしょ」
みんな、聞かなかった振りを始めてくれた。
じゃあみんなで朝食を頂きに行こうか、というほのぼのした空気になった。
なのに、全てを踏みにじる空気が、瞬時にして僕の隣に立った。
「朝食なんか、食べている暇があるんですか」
確実に僕を敵とみなしている陸君の睨みに、僕はもう戸惑うしかなかった。
「時間は午前十時。昨日と違って生徒用ではなく教員の魔法開発用の設備を借りたので、そちらにいらして下さい」
「陸君、どうしてそんなに僕に敵対するんだ」
「貴方のグズグズしたやり方では、大魔王には到底勝てないと思うからですよ。心配せずとも、貴方の魂は皆と共に未来に連れ帰って差し上げます」
「それは……大魔王に負けた時は、結果としてそれを頼むことになるかもしれない。でも今は――」
「おままごとをしたいのなら、そうしろと誰しもに命令できる実力を身につけて下さい。今の貴方は口だけです。私にすら勝てないくせに」
「僕は、陸君とは本気で戦いたくないだけだ」
陸君は、心底から怒った目つきをした。
「ふざけるな。セシリアの状況がどうなっているのか分からないのに、よくもそんな甘えた事が言えたものだ。大魔王は彼女を返すと約束はしたが、無事で返すとは言ってないんだぞ。現実を見ろ!」
「それは、分かってる。でも今すぐ行っても、勝てるとは思えないから――」
「それが甘えた事だと言ってるんだ! お前が出来なけりゃ、私がセスを殺す。それが嫌なら止めてみせろ」
過去の世界を壊しても、魔界の法を覆しても貫き通そうという気迫が陸君にはある。でも今の僕には……ない。
まだ、話し合いで終われると思っているからか。
陸君は行ってしまおうかとしたが、思い止まったようにまた僕を睨み付けた。
「先に命じておく。お前がもしどのような原因で死んだとしても、未来には連れ帰ってやる。その代わりに、私の子として生まれ変われ。お前は魔人としては使えないが、麒麟としては役立つ。そのぐらいの礼はしろ」
「……それはどういう意味で――」
陸君は、強すぎる殺気を放ったまま瞬間移動して消えた。
今は無事だけど、確かに食事を取りたい気分じゃない。
「ノア様」
いつの間にか傍にいたウィリアムさんが、僕の腕に軽く触れた。
「彼はこの世界に来る直前、トリスタン大魔王様に頼み込み、セシリア王女と婚約しました。その為の怒りでもあるのです」
「……!」
先に言ってくれれば良かったと思った。
でも魔界で再会してすぐの僕では、絶対に陸君を助けられない状態だった。
今は少しだけましになっただろうが、それでも父にも陸君にも一撃で倒される可能性が高い。
僕が出来ることは……今の状況がどうであれ、本気で戦う事だけだ。
僕は、いつの間にか全員集まっていた廊下で、何があろうと決して邪魔をしないようにと頼んだ。
決闘を終えた後、学園の方から宿の提供があった。
竜王の客人ということで、彼と同じ扱いになるそうだ。
魔王やそれに準ずる方々が来た時に使うらしいホテルは、宇宙の国連本部のホテルと同じような豪華さがあった。
日が暮れてから到着し、広間でみんな一緒に食事を頂いてから、自分にあてがわれた部屋に行ってみた。
キングサイズのベッドがある、広々とした室内。トイレと風呂もちゃんとあり、風呂の方なんか軽く泳げそうな広さだ。
今日はとても疲れたから、風呂を発見してすぐに入り、天国だと思いつつしばらくお湯に浸かった。
出てから、準備してくれていたシルク製らしいパジャマを着込み、部屋の方に戻っていくと。
キングサイズベッドの上に、あられもない姿をした見知らぬお嬢さん方がいる。
全力で部屋から駆けだしたものの、廊下で捕まった。しかし流石に大問題なのでみんなが助けに来てくれ、彼女らは連行されていった。
その一部始終を見ていた陸君が、何故だか笑っていた。
何か不気味なのでそちらを見てしまうと、目が合ってしまった。
「ノア、分かっているだろうが、私は夢魔の王だ」
「分かっていますとも」
タメ口が怖いと思った。
「ならば、私の怒りも察してくれ。明日は私と対戦するから、そのつもりでな」
「えっ」
驚いている間に、陸君はさっさと部屋に帰っていった。
正直、彼とは戦いたくない。でもきっと僕に拒否権はない。
全てを諦めよう。
その後、みんなと話し合った結果、真夜中の危険性を回避する為に僕は部屋替えをし、女子部屋に泊まる事になった。
ルナさんが僕の部屋で寝てくれると言うが、大丈夫だろうか。
そしてソヨンさんは……僕の見張りとして、誰か来たら追い払う役目になった。
「いや、悪いからソヨンさんも休んで下さいよ」
「交代制ですので、お気遣いなく」
抜き身を手にして椅子に座るソヨンさんは、頑なな態度だった。
しょうがないので、まあまあ大きめのベッドの隅っこに入り、布団をかぶって横になった。
薄暗い程の照明の中で目を閉じ、知らぬ間に眠った。
しかし何だか気配がするので目覚めると、目の前にソヨンさんの顔があった。
意味が分からずしばらく見つめ合っていたら、そのうちソヨンさんが後ろに下がっていった。
僕はむくりと起き上がり、ついさっきあった出来事を思い出してみた。
何故に、自分がソヨンさんにキスされてたかと。
そのソヨンさんは近くの壁際で壁に向かって立ち、小声でごめんなさいと繰り返して謝っている。
何かの事故だろうか。それとも……いやそれより、何だか落ち着かない。胸がドキドキする。嬉しいけど恥ずかしい!
ファルダニア様に無理やりされた時は緊張しかしなかったけど、今は充実感がある。
……もしかしたら自分は、ソヨンさんが好きなのだろうか。確かに、強い女の子は大好きだけど。
それに、僕のカリスマ能力に耐性が出来てる筈のソヨンさんは……?
考え続けても、頭の中身が暴発しそうなだけだ。
じゃあ聞けばいいと思ってベッドから出て、壁際に立つソヨンさんの前まで行った。
背中に話しかけるのも何なので壁に片手を置いて、ソヨンさんの顔を覗き込もうとしてみた。
「ソヨンさん、質問があるんですが」
「ひゃい、な、なんでしょうか」
若干震えるソヨンさんは、振り向いてくれない。
「その……そうだ、どうして髪の毛の色を変えたんですか? 髪型も」
違う問いが口から出てしまった。
「それは……そのう、誰かが好きになってくれるかと」
誰か。
「僕は……好きですよ。金髪も、髪の毛降ろしてるのも」
違う、他に聞かないと。
「いやそれはいいとして……ソヨンさん、もしかして、僕のこと好きですか?」
思い切り良すぎたかもしれないけど、聞きたい。
いつも何かとはた迷惑な優等生ぽい麒麟の僕も、一応男の子だから!
ソヨンさんはようやく、ゆっくりと振り向いて僕の顔を見上げてきた。
先ほどと同じぐらいの近さに、ソヨンさんの顔がある。
僕は……大変な事がありすぎてソヨンさんにすがりたいだけのような気がしつつも、大好きには違いないので自分から顔を近づけた。
扉が開く音がして、絨毯の上を歩く足音がした。
「ソヨンさん、見張りの交代を……」
ロレンスさんがそう言った時、僕は間一髪で布団に潜り込んでいた。
ソヨンさんは早足で立ち去り、扉を閉じていなくなった。
しんとした室内。しばらくして、ロレンスさんが呟いた。
「……邪魔してすみません。誰にも言いませんから」
僕は彼に背を向けたまま、震えつつ頷いた。
2・
あまり良く眠れないまま朝になり、起き出して着がえて朝食のために広間に行こうとした。
そうしたら、朝も早いのに廊下で正座しているカイさんに出会った。
「何をしているんですか?」
「結論から言うと、反省させられています」
「何故ですか?」
「ノア様を狙ってきた敵を、一人もらっただけです」
廊下の向こうの方から、物理的ツッコミ役のレオネルさんが放ったスリッパが、カイさんの頭を直撃した。
「……それは、年齢的にアウト?」
「いいえ、魔界じゃそんな物はないです。子が欲しいという女性を放っておかないのが、魔人の男性ルールです」
もう一個スリッパが飛んできた。
カイさんは頭を掻いた。
「魔界ではそうやって出来た子は、集落単位でみんなが育てるものなんで、そう気にすることはないんです」
「それでもここ、過去ですが?」
「別に気にする事ないですねえ」
清々しい程の態度なので、僕がおかしいのかと思ってしまった。
ただ言動を正したいのだろうウィリアムさんとレオネルさんが、距離を詰めて来ているが。
「それよりノア様、こういう関係で聞きたい事があるなら、いつでも聞いて下さいね。スパッと答えますよ」
「えっ」
タイムリーだ。
周囲を確認したら、ウィリアムさんとレオネルさんとロレンスさんしか見当たらない。
「じゃあその……」
カイさんの隣にしゃがみ込み、耳打ちして聞いてみた。キスしたあと、どうすんの、と。
「まさかそれ……先に質問しますが、今まで繰り返してきた転生で彼女いましたか?」
「いません。一度だけ片思いして、勝手に失恋しました」
「ミネットティオルに帰還した時のあれですよね。とすれば、何もご存知ないという事ですか?」
「知りません。だから聞いてます」
「さすがにそれをここで教えると、私の命が無くなる恐れがあるので、また後日改めてという事で良いですか?」
「え? いえ、そんなに深刻な話じゃなくて、デート先なんかを」
「そっちですか……」
カイさんが、命拾いしたという表情をした。
「お金があればショッピングで贈り物をするという選択肢もありでしょうが、映画館が良いんじゃないですかね。趣味が同じなら何度行っても楽しめますよ」
「趣味ですかあ。まだ聞いたことないから、後で……」
言いかけて、変な雰囲気になったのに気付いた。
僕は、マズイ事を口走ったようだ。
「詳細は聞かないであげて下さい……」
ロレンスさんが呟いてくれた。
「そういえば、もう食事の準備は終わったようです。行きましょう」
「あ、隊長。もう立っていいですか」
「何の為に正座しろって言ったか憶えてないな」
「どうしてスリッパ投げたんだろう?」
「朝の体操でしょ」
みんな、聞かなかった振りを始めてくれた。
じゃあみんなで朝食を頂きに行こうか、というほのぼのした空気になった。
なのに、全てを踏みにじる空気が、瞬時にして僕の隣に立った。
「朝食なんか、食べている暇があるんですか」
確実に僕を敵とみなしている陸君の睨みに、僕はもう戸惑うしかなかった。
「時間は午前十時。昨日と違って生徒用ではなく教員の魔法開発用の設備を借りたので、そちらにいらして下さい」
「陸君、どうしてそんなに僕に敵対するんだ」
「貴方のグズグズしたやり方では、大魔王には到底勝てないと思うからですよ。心配せずとも、貴方の魂は皆と共に未来に連れ帰って差し上げます」
「それは……大魔王に負けた時は、結果としてそれを頼むことになるかもしれない。でも今は――」
「おままごとをしたいのなら、そうしろと誰しもに命令できる実力を身につけて下さい。今の貴方は口だけです。私にすら勝てないくせに」
「僕は、陸君とは本気で戦いたくないだけだ」
陸君は、心底から怒った目つきをした。
「ふざけるな。セシリアの状況がどうなっているのか分からないのに、よくもそんな甘えた事が言えたものだ。大魔王は彼女を返すと約束はしたが、無事で返すとは言ってないんだぞ。現実を見ろ!」
「それは、分かってる。でも今すぐ行っても、勝てるとは思えないから――」
「それが甘えた事だと言ってるんだ! お前が出来なけりゃ、私がセスを殺す。それが嫌なら止めてみせろ」
過去の世界を壊しても、魔界の法を覆しても貫き通そうという気迫が陸君にはある。でも今の僕には……ない。
まだ、話し合いで終われると思っているからか。
陸君は行ってしまおうかとしたが、思い止まったようにまた僕を睨み付けた。
「先に命じておく。お前がもしどのような原因で死んだとしても、未来には連れ帰ってやる。その代わりに、私の子として生まれ変われ。お前は魔人としては使えないが、麒麟としては役立つ。そのぐらいの礼はしろ」
「……それはどういう意味で――」
陸君は、強すぎる殺気を放ったまま瞬間移動して消えた。
今は無事だけど、確かに食事を取りたい気分じゃない。
「ノア様」
いつの間にか傍にいたウィリアムさんが、僕の腕に軽く触れた。
「彼はこの世界に来る直前、トリスタン大魔王様に頼み込み、セシリア王女と婚約しました。その為の怒りでもあるのです」
「……!」
先に言ってくれれば良かったと思った。
でも魔界で再会してすぐの僕では、絶対に陸君を助けられない状態だった。
今は少しだけましになっただろうが、それでも父にも陸君にも一撃で倒される可能性が高い。
僕が出来ることは……今の状況がどうであれ、本気で戦う事だけだ。
僕は、いつの間にか全員集まっていた廊下で、何があろうと決して邪魔をしないようにと頼んだ。
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