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第六章 世界と仲間を救うために

十四 アルダリアでの最終決戦

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1・

みんな、当日までは慌ただしく過ごした。

現場の下見をしっかりして、魔石を使用しての魔力大砲らしい自走砲を所持する天空都市同盟軍がやって来るまでに、それを真横から強襲できる隠れ場所を準備した。

咲夜にはアーガスと共にいてもらい、エルフ達に混じって魔法の訓練をしてもらうのと、いざという時の為に護身術を覚えてもらった。

ユリアヌスと俺は同じく訓練に参加しつつ、化け物と噂されている討伐対象の巨大な魔物を、幾度か遠目に観察しに行った。

ゴールド迷宮の魔王レベルの化け物というだけあり、魔王だった頃のユリアヌスが乗っても大丈夫な巨大さの、コウモリの翼を背に持つ骨と皮だけの異様な姿の黒馬だ。

近くに寄った者は必ず殺されると言われたので、本当に遠くからしか見ていないものの、魔物から出てくる魔力の圧だけで、普通の人間なら恐怖で身動き取れなくなるだろうレベルだ。

そして、その黒馬のどこかから神石の気配も感じた。体の表面に持っているのか、飲み込んで内部にあるのかは、強力な魔力補助アイテムになってくれた神石のペンダントを装備していても分からない。

幸運ならば、戦いの最中で奪えるかもしれないと期待している。が、そう生易しい展開になりそうじゃない予感を強く感じる。

もしそうだとしても俺たちなら倒せると、俺は信じた。

そして、十日間でできる限りの準備を終えたのち。

太陽が真上にやって来るちょうどその瞬間に、俺たちは武器を手にして南の平原に立った。

朝早くに配置についたナーガの戦士たちは魔物から南西の岩場に、これから飛んで来るだろう飛行艇団の相手をするエルフ戦士とナーガ術士たちは、南東の湿地帯前の低木帯に隠れている。

そしてメイン攻撃隊の俺たちとエルフ魔術師たちは、全員が魔物の目を引くように草原が拓けた場所に瞬間移動して、そこから徒歩で南下して黒馬に近付いた。

巨大なやせ細った黒馬は、俺たちの存在に遠くからでも気付いていた。しかし注意深い性格でもあるのか、ある程度の距離まで近付かなくては、こちらを窺いじっと立ち尽くすだけで全く動かなかった。

いや……注意深いのではない。獲物を逃げられない距離まで懐に入れ込んで、全員捕まえて平らげるつもりなのかもしれない。

俺がそう感じた瞬間。不気味な黒馬は恐怖を煽るように大声でいななき、大地を蹄で破壊しつつ突撃を開始した。

後衛のアーガスが冷静な口調で、全員に指示を出す。

俺だけじゃなくアーガスと幾人かのエルフ魔術師たちも最高位防御魔法が使えるようになってくれたので、今の俺は最前線の俺とユリアヌスのみに防御魔法をかけ、ただひたすら攻撃を加えて黒馬の注意を引きつけるだけでいい。

咲夜も、アーガスの傍にいて命令を聞いて魔法を使用してくれる手筈だ。咲夜のことに気を取られないでいいから、相手が魔王レベルといえども俺は楽ができる。

まず黒馬の突撃を最高位防御魔法で防ぎきり、ユリアヌスと共に左右に分かれて武器で切りつけた。

俺の短剣での素早い攻撃はろくにダメージを与えなかったが、ユリアヌスの強烈な破壊の術は効果を上げて、一撃で黒馬の肩の皮を剥いで骨を露出させた。

打撃に弱いと気付いてアーガスにその情報をテレパシーで伝え、俺は短剣でもダメージが通りそうな場所を探して真横に回り込んだ。

骨と皮と筋だけというガリガリの黒馬ながら、腹を狙えばいくらかダメージが与えられると思ったが。

俺が腹の横に移動してすぐ、黒馬は再びいなないて全身のあちこちからいくつもの強烈なレーザー光線を発射した。

俺とユリアヌスにかかった防御魔法の全てが、一撃で壊れ果てた。

俺は慌てて距離を取りつつ、最高位防御魔法と魔力防御魔法の両方を重ね掛けした。

引き続いてユリアヌスが黒馬の前足で鋭く蹴られたが、その防御には間に合えた。

が、また予告なくレーザー光線が放たれた。ユリアヌスは二重の攻撃にダメージを受けてしまったが一歩も下がらず、果敢にもハルバートを振り回して黒馬の胸の部分を打ちすえた。

俺はユリアヌスの傍に移動して二人同時に最高位防御魔法をかけ、黒馬の動きを警戒しつつ、一度後衛の方を振り向いた。

下手な冒険者なら全滅していただろう、たたみかけた黒馬の攻撃に一応は対応しているが、初めての強敵との対戦にうろたえており、彼らを護る防御魔法はすぐには出そろわない。

親切で、そちらに最高位防御魔法を一度かけた。

その瞬間に、黒馬が俺を踏みつけにきた。

最高位防御魔法は消え、俺は間一髪で回避して少し下がった。

「何してんだ!」

ユリアヌスが怒鳴りつつ、ハルバートで黒馬の前足を攻撃した。

ユリアヌスの攻撃はまた黒馬の皮をそぎ落とし、骨を露出させた。

でも……何かがおかしい。

黒馬の目と口が青白く光った時、露出した骨も同じ色で一部が光った。

「避けろ!」

俺が叫ぶと、ユリアヌスは横に飛んで黒馬が彼に向けて吐いた太いレーザー光線を何とか回避した。

続いて後方から支援魔法と、攻撃魔法が立て続けに飛んできた。

少し生まれた隙でユリアヌスがまた攻撃に転じた中、俺は防御魔法を重ねがけしつつ地面に落ちた黒馬の体の一部を拾い上げた。

皮と共に落ちた骨の小さな欠片は、魔石だった。

黒馬の全身骨格は、魔石でできているようだ。故に魔王レベルなんだろう。体の巨大さから物理攻撃系の魔物だと勘違いしていた。

俺は情報をアーガスとユリアヌスにテレパシーで伝え、レーザー光線の攻撃は死ぬまで尽きることはないという予想も教えた。

実際、ユリアヌスを蹴ってはレーザー光線を多数発射する黒馬は、その魔力消費を感じさせないほどに勢いが減らない。

ユリアヌスの重い攻撃で骨である魔石を少しずつ削ってダメージを与えていれているのだが、いくら骨を露出させても痛がらないし、欠片がこぼれ落ちても意に介さない。

俺の攻撃は短剣も風魔法も相性が悪くて通らない。ユリアヌスを補助しかできない。思った以上に不利な状況だ。

一時撤退を考えた時、南西の遠方に予告なく兵士たちが出現した。周囲に人影がないから瞬間移動で来るだろうと思っていたその通りに、自走式の大砲をいくつも揃えた兵士たちが予想通りの位置にやって来てくれた。

予想通りだから、その真横に潜んでいたナーガ戦士たちとコボルトたちが動いて襲撃を開始した。おかげで大砲の集中砲火は防げた。

続いて空には飛空艇団が出現して、黒馬を避けて後方支援のエルフ達に向けて砲撃を開始した。

距離があるから砲撃といえどもアーガスたちだけで対処できているが、あれが近付いてきて主砲を放てばひとたまりもなく全滅するだろう。

近付くまでの間に、聖地からハヤブサが来て攻撃をしてくれれば良いのだが、その影はどこにも見当たらない。

総当たりが開始してもう逃げられない状況なのに、ハヤブサが来てくれない。繋がりがあるというアーガスが出撃を頼んだというが、しょせんは獣だから聞き入れられなかったのか。

黒馬とユリアヌスの攻撃は一進一退だ。俺が防御魔法を切らせばレーザー光線の攻撃で一気に不利に陥るだろうが、さっきみたいに別の場所を気にして隙を作るつもりはない。ただ黒馬は俺を狙う時がある。それに当たってしまえば、結局同じように隙を作ってユリアヌスも危険にさらされるだろう。回避するしかない。

黒馬のレーザー光線での攻撃、飛空艇団からの砲撃、そしてナーガたちに攻撃されつつも天空都市同盟軍が使用しだした大砲の弾も至近距離で着弾するようになってきた。

助けが欲しい。勇者四人に来てもらいたい。ハヤブサにも約束を守ってもらいたい。

精霊でも息切れしそうなぐらいに動き続けて攻撃を回避しつつ、ユリアヌスと自分に最高位防御魔法をかけ続ける。

ダメージがろくに通らない今、どうしても変化が必要で、ただそれだけを必死に願った。

すると突然、飛空艇の一つが派手に爆発して地上に落下した。

攻撃と防御の合間に顔を向けて確認したら、飛空艇の一つが至近距離で別の飛空艇を砲撃して次々と落とし始めた。

そしてよくよく観察すると、裏切った飛空艇の周辺には前に見た事がある風魔法が発生していて、それによっても攻撃している。

ハヤブサがそれに乗っていると気付いた。隠れて近付いて、安全な状態で敵を攻撃する作戦なのか。

続いてアーガスから、テレパシーで連絡が来た。あの飛空艇、エスタルドラの民が乗っ取っているんだと。

俺は嬉しくなり、巻き返せると希望を抱いた。

勇者四人が来てくれるまで堪えると決め、ユリアヌスの攻撃とエルフ達の攻撃魔法の邪魔をしないように補助すべきと決めた。

が、そう決めた次の瞬間に、目の前に見知らぬ者達が出撃した。

そしてその背後に、来てもらいたかった勇者四人組も。

立派な装備を身に着けた勇者の子孫たちは、黒馬の攻撃を回避しつつ俺とユリアヌスに攻撃を仕掛けようとした。

きっとまともにやり合えば、彼らは強敵なのだろうと思う。

でも黒馬に攻撃が効かないせいで不満が溜まりまくっていた俺は、作戦を絶対に成功させたいから瞬間移動で順番に背後を取り、急所を一撃して倒していった。

それに勇者四人も結局は予定通りに裏切ってくれて、勇者の子孫たちをバックアタックしてくれた。

そうして呆気なく倒れた精鋭たちを踏みつけた聖女の鈴掛さん、賢者の三森君、竜騎士の黒羽君は、ユリアヌスと共に黒馬に通じる鋭い攻撃を仕掛けてくれ始めた。

そして残った勇者の赤木君は、俺の前に立った。

「やっぱり、ろくでもない武器しか持ってないんだな。これ、後で返してくれ」

赤木君は俺に、物凄く立派な厚手の刃を持つ短剣を二本手渡してくれた。それから黒馬に向かい、悲鳴を上げさせる程の威力の白い雷を浴びせた。

俺は慌てて短剣を持ち替え、エルフ達に防御魔法を頼んで再び攻撃役に加わった。

必死になって浴びせた俺の一撃は、思った以上に黒馬の骨にめり込み、深く傷つけて大きく欠けさせた。

俺の攻撃も通ると心から感動した。すると、頭の中で声がした。

「ユリアヌスさんに、森で奪ったっていう大剣を使ってって言って!」

咲夜に言われて俺も気付いた。俺は言われるままに、ユリアヌスにそれを伝えた。

ハルバートのみで攻防を繰り広げていたユリアヌスは、俺の声を聞いてすぐに空間収納にしまい込んでいた黄金の大剣を取り出した。

黄金に光る大剣は、ユリアヌスが力を込めて振るうと肋骨の数本を一度で砕いた。

優位に立てたと心躍った。しかしまだ発射されている大砲の砲撃が俺たちの傍に着弾して、土煙を巻き起こした。

それにそちらのナーガたちの戦況は悪そうだ。コボルトたちも、きっと……。

でも考えないようにして、歯を食いしばって短剣を持つ両手に力を込めて振るった。

黒馬がレーザー光線を放つ。壊れた防御魔法をエルフ魔術師たちと咲夜、鈴掛さんが補ってくれる。

元々凄い装備を身に着けていた勇者と竜騎士の攻撃も、黒馬の骨を砕くのに成功している。

身体能力の上がる補助魔法も、切らさずにかけてもらえる。

とはいえ飛空艇団の砲撃はまだ止まず、とうとう黒馬と勇者と俺たちを巻き添えにする形で攻撃を仕掛けてくるようになった。

それに兵士たちの大砲も、気を抜いたら当たりそうな頻度で発射してくる。

まだまだ勝利は確信できないと思い直した。

すると突然、灰色で半透明の巨大なドームが出現してエルフ魔術師たちまで含んで俺たち全員を覆い尽くした。

飛空艇団の砲撃と大砲の音が消えた。攻撃が届かなくなった。

俺は立ち止まり、叫んだ。

「ユーリシエス!」

俺が叫ぶと、彼は突然俺の目の前に出現した。そして暴れる黒馬に向けて片手を掲げ、レーザー光線並に鋭いエネルギー魔法の一撃で頭を狙い撃った。

黒馬がうろたえた瞬間、ユリアヌスと竜騎士と勇者が同時攻撃で肋骨を全て砕いた。なのに、黒馬はまだ動いてレーザー光線で反撃してきた。

俺に当たりかかった光線は、ユーリシエスがどうにかしたようで寸前で音もなく消え去った。

「とりあえず、こいつを倒したいんですね?」

ユーリシエスは冷静に言う。俺は短剣をベルトに挟み、彼の上着を掴んだ。

「頼む。ナーガとコボルトを助けてくれ。ドームの外、向こうで大砲を持つ兵士たちと戦っているんだ。お願いだから!」

「ああもう、お願いなんてややこしいですね。後で素直に帰ると約束して下さいよ」

「約束する」

「分かりました」

取引は成立して、ユーリシエスは姿を消した。

俺は気合いを入れ直して、黒馬に飛びかかっていった。
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