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第四章 真実に立ち向かう者達

十四 トーマのエピローグ

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1・

一年間、みんなは真面目に、時に冗談も交えて俺の運命を変える方法を探し続けてくれた。

おかげで人に言いたくない目(素っ裸)にも遭ったし、マズイ食べ物も口に突っ込まれたし、変な魔法の餌食にもなった。ユリアヌスに騙されて混浴温泉にも突っ込まれたので、タロートに謝罪しつつ彼をぶっ飛ばした。

そういう馬鹿をやりつつも、魔王たちとの戦いの中で理解した現実は、どう足掻いても太刀打ちできないものだった。

ウィネリア様は、俺を世界樹に実らせて精霊王として復活させるために、精霊王レオンの肉体の一部の引き継ぎをさせる設定にしていた。

だからトーマのこの体内には、魔王の因子が今も存在する。

俺がユリアヌスと他の六人を救出した作戦のように、肉体を捨てるしか魔王を完全に滅する方法がないのだ。

そうすればウィネリア魔法世界は、かつて預言者集団が行使した呪いから完全に解き放たれる。

しかしそれは同時に、精霊王が二度と世界樹に実らないという意味にもなる。

だからみんなは、その事実が判明した後には、精霊王を監視する体制を常に整えておいて俺と将来生まれる精霊王の保護をすべきと訴える派と、精霊王がいなくても世界は平和になると訴える派に分かれた。

俺はそのみんなの必死な様子を、それだけ想ってもらえてとてもありがたくて、ニコニコ笑って傍観した。

みんなが何を言ってくれようが、俺はただ嬉しかった。

だから俺は、俺以外の魔王を全て解放できた後で、精霊王のお城に仲間たちとお世話になった方々を全員招待した。

俺が生まれた日に使った王座の間で、雑談メインの立食パーティーだ。

表向きは戦勝会。でもみんな、分かっていたと思う。

これまでに魔王の居城とゴールド迷宮は全て消して、ブロンズとシルバー迷宮のいくつかだけ残した。

もう、俺の任務は完全に終わった。

俺のお別れ会は楽しいうちに終わって、そしてお開きになった。

名残惜しそうに一人一人と帰って行き、何か言いたげなリヒトだけが残った。

「ありがとう。リヒトが俺の秘密を暴露してくれたから、隠し事がないこの一年間を、心から楽しく過ごす事ができた」

「別に、礼など言わなくていい。お前はその幸せを、サフィリシスだった私に先にくれたんだ。だからお返しだ」

「ああそうか。でも……ありがとう。そして、これからも頼む。精霊王がいなくなって、世界樹の転生システムも変化してしまった後に森を総べる事ができるのは、妖精の女王のプリムベラだけだ。けれど精霊たちは変にプライドがあって、妖精に従わない者も多い」

「分かっている。プリムベラは俺にとっても大事な友人だ。俺が生きている限りは、大森林と彼女を厚く支援する」

「本当にありがとう。もうそれだけが、今の俺の心残りだ」

俺はため息をついて、周囲を見回した。

「ユーリシエスは残ってくれると思ったのに」

彼がいないと、俺は激痛を感じつつ死ななきゃいけない。それはゾッとする。

「ここにいますよ」

声がして、ユーリシエスが傍に出現した。彼は無表情で俺を見る。

「じゃあ、よろしくお願いします」

「リヒトーフェン様はどうされます? 立ち合われますか」

「リヒトがそうしたいなら」

リヒトは頷いてくれた。

立ち合いはリヒトだけでも十分だ。彼だけじゃなく、他のみんなにもまた会うつもりだから、悲しく泣きわめくような別れはいらない。

俺はこれから新たな肉体と名前を貰える事で、魔王因子を持つ肉体と魂の両方と完全に決別できる。本当の、全ての終わりがやって来る。

「さようなら」

リヒトに言うと、ユーリシエスが動いた。

光が点滅して、意識を失った。

2・

長い時間が経過したように感じた。

周囲で人の声と気配がする。

うっすらと意識を取り戻した感じで、過去のことがチラチラと脳内に浮かんでくる。

自分がどこにいるのか分からず、目を開けて確認した。

傍にいる大人が、俺に微笑みかけつつ手を伸ばしてくる。

まるで大事な何かに触れるように、柔らかく丁寧に。

「よしよし、うちの子は本当に可愛いなあ」

そう言いつつ俺のほっぺたを突こうとする彼のことを、ほんの少し思い出した。

「ふぁ……」

名を呼びたいのに上手く伝えられない。とてももどかしくて、その感情だけで泣き出してしまった。

大騒ぎする俺を抱き上げたタンジェリンは、他にいる人たちに助けてと言いつつ、おしめなのか食事なのかと右往左往し始めた。

他の知り合いたちも集まってきて、笑顔を見せてくれる。

たくさんの記憶が呼び起こされる。今度は、嬉しくて泣いた。

みんな、またこれからもよろしくね!
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