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第三章 シルバー迷宮での攻防

7 判明する物事

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1・

俺たちのテントで、再びの話し合い時間になった。

「トーマ様が先ほど、何をされていたのか遠くから聞いておりましたが……」

「う、ごめんなさい」

タンジェリンに謝罪すると、彼が申し訳なさげに笑った。

「いいえ、本当に、謝罪など止して頂きたいのです。あなた様が誰に力や祝福を与えるかは、自由です。我らが意見できる筈もありません」

「いやでも、問題だとは思うんです。意図せず……プリムベラを妖精の女王に任命してしまって、これから何が起こるか分かりません。マリエルたちの問題が先にあったのに、同じ過ちを繰り返したのは良くない事です」

周囲が甘いから、自分は絶対に自分に厳しくないと、下手したら世界が滅びそうだ。そういう力を精霊王は持っているんだと自覚しなきゃ、次に傷付くのがタンジェリンたちになるかもしれない。

それは物凄く嫌だ。

悪い雰囲気の中、さっきより落ち着いているハルセトが発言した。

「進化させた者の力を奪い、元通りにすることは可能なのですか?」

「あ、それ……」

世界の魔力をコントロールできるなら、できそうだ。

自分の手を見てやれるかなと思うと、タロートが言った。

「生命体の格を下げる程に人からエネルギーを奪い取る力は、恐らくトーマ様にも備わっているものと思われます。しかしトーマ様は、それを使用できないかと。魔物の存在に繋がる闇魔法の駆使は、使う者と使われた者の両者の堕落に繋がると……予想ですが、そう思います」

それ怖い。

「俺は、精霊王でいなきゃいけないんですよね。たぶん、お医者さんのように、手術で患部を切り取るような人の傷つけ方はできると思います。ただタロートさんの言うとおり、既に進化させた者の力を削ぐのは……魂に手を入れるのは駄目だと思います」

こういう話をしていると、過去の自分の記憶か気持ちか分からないものが、心にじんわりと浮いて出てくる。

自分はこの世界において、絶対的な光でなければいけない。命を奪う者になってはいけない。それは破滅に繋がる…………破滅?

何の破滅だかと不思議に思うと、タンジェリンが彼らへの対策をどうすべきかと話しかけてきた。

「それは……その、考えたんですけれど、きっとマリエルさんは勇者パーティー……彼らとの旅を再開させると思います。でも彼女はまだ精霊と契約していません。ですから、良ければですが、クロエさんにマリエルさんと契約してもらいたいんです」

そう言うと、クロエは少し驚いてから、嬉しそうに笑って頷いた。

「トーマ様のご命令、感謝と共にお引き受け致します。私はあの子が大好きなのです」

「良かった。ありがとうございます。それで彼らと行動を共にして、彼らの身体になにか異変があったり、他の問題が発生しそうな時には、逐一報告してもらいたいのです」

「はい。全てお任せ下さい」

とても頼れるお姉さん風のクロエだから、絶対に役立ってくれると思う。

それにあのパーティーには、盾役と攻撃役が一人ずつしかいない。クロエは剣術の心得のある武人だから、その意味でも彼らの助けになるだろう。

こうして一つの問題に区切りを付けられて、物凄く安心できた。

2・

「さて、トーマ様。お忘れかもしれませんので、改めてご説明させて頂きましょうか?」

「あ、タンジェリンさん、分かってますよ。勇者パーティー……って、勝手に言っちゃってますが、その子供たちのパーティーだけじゃないですものね。マンティコア戦で助けた大人たちも、俺の力でパワーアップしている筈なんですが」

タンジェリンとタロートは、深く頷いた。

「全く、噂を聞きませんね。勇者パーティーの噂を聞く時にそれとなく探りを入れましたが、存在すら浮かび上がってきませんでした。しかし、冒険者を辞めたとは思えません」

タンジェリンの言葉に、俺も深く頷いた。そして考えてみた。

「たぶん、マンティコアを倒したので、ブロンズだったとしてもシルバーカードに昇格したとは思います。この迷宮にいるか、他の地方のシルバー迷宮に移ったかは分かりませんけれども」

それ以外はもう追跡しようがないかなと思うと、ハルセトがボソッと呟いた。

「人間とは、欲深い上に好奇心が旺盛な種族です。同時に警戒心も強く、ずる賢く、計算高いものです。故に、我らも引きつけられる魅力があるといえば、あるのですが」

「うん?」

「そのもう一つのパーティーの人間たちが平均的存在であった場合、自分たちの身に起こった問題を放置しておくでしょうか。調べようとして……勇者パーティーの存在を知ったとすれば、同じ現象だと理解するでしょう。もしかしたら、彼らには既に接触しているのでは?」

「おお」

ハルセトの人間に対する偏見ぽいものは気になるけど、彼の推理はいいとこ行ってると思う。

聞き出しに行こうかなと腰を浮かせたら、クロエが契約の話のついでに聞いてくると言ってくれた。

俺が頻繁にウロチョロしたら、彼らこそ胃潰瘍になりそうだ。

そういうことで問題のパーティーの特徴を聞いたクロエが出かけた後、残った四人で話を続けた。

「最後の話題になります。本来我らがこの迷宮に訪れた目的についてですが」

「何でしたっけ?」

タンジェリンに返すと、三人が黙り込んで俺を見つめてきた。

「冗談ですよ。覚えてますよ。迷宮の魔物が過去よりも手強くなったかどうか、ですよね?」

「はい、そうです」

タンジェリンが、本気でホッとしたらしいため息と共に言った。

「結果として、昨日の中層上部のボスの強さは、我らが戦った時代のボスとさほど変わらない強さであったと思います」

ハルセトが増えたので、比較検証は三人がそれぞれ駆け出しだった時代の記憶と行えるのだが、後の二人もタンジェリンの意見に賛成のようだ。

「ただ、この村に帰るまでにレナードさんに話を聞いたところ、彼らがこの迷宮に入る前までは、今より強い攻撃を加えていたという情報があったようです。つまり、何故か今になり昔の強さに戻ったのです」

「……えーと、他のボスについても、検証した方が良いですよね?」

俺が視線をさまよわせて呟くと、いつも冷静なタロートが控え目な感じで言い始めた。

「私は冒険者ギルドでトーマ様のカードの発行を待っている間に、ホールにいる冒険者たちに話を聞きました。我らがマンティコアを倒した後に、一週間程度で復活したそれは、勇者パーティーにより狩られました」

「ああうん」

「その時はまだ、彼らの強さが目立っていて噂にならなかったようですが、その後、今から数日前に別のパーティーが討伐しに行き、何だか弱くなっていると言ったそうです。前にも倒した事のある方々だったそうで」

「ふーん」

無関係者を装うかと思った。

しかしタンジェリンは言った。

「つまり、トーマ様が関係された地域の迷宮ボスが、弱体化したようです」

「あー、うん。元通りってね。前の俺が死んで数百年が経過して、さすがの俺の威光も消えてしまって魔物が強化されたようになっていた。けれど俺が戻ったので弱まった、という結論でよろしいですか?」

「あと何カ所かは、調査した方が確実かと。ですので、この迷宮にいる他の三頭のボスについても調べましょう」

ハルセトが言った。彼は味方かと思ったんだけど……って、何のだが。

追い打ちでタンジェリンが言う。

「結局、大森林内部で植物や鉱物の生産が減少した原因と同じものでしたね。トーマ様、ですから御身を大事にされて下さい」

「ううん? 大事にしてるよ? それにほら、俺が関与しないとボスが弱体化しないかもしれないし?」

「ええ。ですのでトーマ様は、これまで通りに我らに護られてお進み下さい。万が一にも、一人でウロついてはなりません」

笑顔で釘を刺されてしまった。ブロンズ迷宮なら一人で行って良い? とかもう二度と言えなくなった。

「でも、修行しなきゃ俺は成長できなくて、記憶も戻らずに呪いの真実も分かりませんよ!」

「それならば、大森林の城に戻られて、部屋に隠っての瞑想修行に切り替えましょう。魔物を倒さずとも、己を知ることで成長できます」

「ええ……?」

それ、強制的にどこかの寺に入れられたみたいなものじゃないか。生まれたての子供に勧めるなよ!

大人になれば一人歩きも許される。だけど、大人になる経験を積むには……何十年も瞑想か、後方支援を頑張るしかないのか。

本気で落ち込んだ俺に、言い負かした当人のタンジェリンが美味しい果物を切り分けて皿に入れ、持ってきてくれた。

固形物は本当に嬉しいと気を紛らわせている間に、クロエが戻ってきた。

マリエルとは無事に契約を結んだという。マリエルは本気で、冒険者に復帰したんだ。

そして問題のパーティーについて。特徴が盾役二人と攻撃役二人、魔術師二人だけでは特徴が無くて分からないかと思ったものの、魔術師の一人が黒髪長髪の二十代程の魅力的な美人だと言っておいたら、そこにヒットしたようだ。

この村にやって来てすぐの頃、今から一週間ほど前に話をしたそうだ。その時の彼らは、俺みたいな外見の少年に命を助けられたかと質問してきたらしい。

レナードたちは、彼らも俺に助けられたと言っていたのを覚えてくれていた。その質問だけで行ってしまい、その他の冒険者たちにも話しかけられまくったので、会った事をすぐ忘れていたようだけど。

彼らは、より地下に向かう階段方面に行ったらしい。

一週間ほど前なら、まだ彼らがこの迷宮にいる可能性がある。それこそ上がった能力でゴールドカード昇格を目指して、最奥のボスに挑みに行ったのかもしれない。

だから俺たちは、ボスそのものの調査ともう一つのパーティーを追いかける為に、これから最奥を目指すことを目標とした。
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