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第三章 シルバー迷宮での攻防

4 彼らを探して

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1・

オゼロ門前町まで、精霊の瞬間移動術を使えば一瞬で到着できた。

相変わらず活気のある町中から、鉄柵に守られるシルバー迷宮まで徒歩で移動した。

歩きながらタンジェリンが教えてくれたが、ここだけじゃなく、迷宮のある地域一帯は地上部分が荒れ地やハゲ山になる事が多く、草木が根付きにくいとのことだ。

地中の迷宮に、栄養と土地の魔力と水を吸い上げられているというのが仮説らしい。この事象について精霊王が書き記した本などはいっさい無いらしく、事実は闇の中だって。

今の俺が調べて判明させることができたら、本にまとめようねという圧力らしい。

やっぱり精霊王の仕事は何気に多いなあと苦笑いしている間に、ブロンズ迷宮の入り口と違って手練の者の気配がする冒険者しかいないシルバー迷宮の入り口に到着した。

町から一つの丘を回り込んで来たのだが、ブロンズ迷宮と違って出入り口が十メートルほどの高さがある自然にできたような洞窟状のもので、全てを覆う鉄の壁の一部だけが人力で開閉されて人間たちが行き来している。

門じゃなくて開閉が不可能そうな壁にしているのは、昔にここから大型の魔物を逃がした過去でもあるからだろうか。後で検索して調べるか聞くかしよう。

ここでも門を守護する衛兵たちのカードチェックがあり、ゴールドカード三名と、クロエを含めた俺たち三名のシルバーカードの認証は滞りなく行われた。

門に入ってすぐ、クロエにどうしてシルバーカードなのか聞いてみた。

「私はまだまだ修行中の身です。これまで二人の主の元で修行を積んでいたのですが、先の主が引退されたので一時的に大森林に戻っていたのです」

その答えを聞いたマリエルが、驚いた顔をした。

「クロエさんは大森林の精霊なのですか? 知りませんでした」

俺、そういえばマリエルには何も話していない。貴族じゃなくてペールデール国の商人の息子っぽく振る舞っているが、嘘は嘘だ。

クロエはマリエルに、大森林には知り合いがいるからと、曖昧な答えを返して笑った。

俺はすぐにマリエルに話しかけた。

「そ、それよりマリエルさん。君のお仲間たちを探す手順を考えようか」

「あ、はい。でも、どこに彼らがいるかは知らないんです」

マリエルがそう言うと、タンジェリンが提案した。

「それなら、ここにいる冒険者たちに質問してみましょう。一階部分にいる冒険者たちは、比較的穏便に会話ができます」

とか言いつつ彼は財布を取り出した。穏便か、それ?

情報を買い取る形でだが、一階にいる冒険者たちから話を聞くことができた。

マリエルのお仲間たちは、中層中部にある冒険者たちが休憩できる村で滞在しているようで、ここ数日はそこから出かけて狩りをして帰って休むを繰り返しているらしい。

目的の素材があるのか、ただのレベル上げかもしれないが、今もそこにいる可能性が高そうだ。

それに時の人だけあって、他の情報も仕入れられた。

その実力は本当に、デビューして数日の冒険者じゃないそうだ。実際に戦う姿を見た冒険者たちが言うのだから、本当に本当らしい。

そして……マリエルが抜けた後、ブロンズ迷宮のマンティコアを倒す時に、回復魔法使いを新たに仲間に入れていたことも分かった。

彼ら全員が精霊と契約しているというのも、実際に見たという冒険者から聞けた。彼らの実力に見合う高位の精霊たちだと、その人は言った。

俺はその話を聞いて、彼らはいわゆる勇者パーティーではないかと感じた。衝撃的なデビューに、初心者の筈なのに見合わない実力。しかも全員がそうだなんて。

この情報を得た時の、マリエルの顔は見られなかった。でも同じ女性として傍に付き従ってもらっているクロエが、正直にその感情についてマリエルと話して、そして最後に笑顔にさせてあげた。

仲間って心強いと、正直に思った。

2・

本当なら充当に歩いて階段を降りて地下層に向かいたいんだけれども、今日はマリエルと仲間たちを会わせるのが目的なので、保護者たちの瞬間移動術で中層中部の村に向かった。

空は晴れ渡り、青々とした草原の中に、遊牧民たちが暮らすような素朴な村がある。

家々は豪華版のテントのようなもので、実は精霊は使わないんだけど迷宮のあちこちにあるトイレの清潔かつ安全版がある。シャワー付きの風呂もついている。ここを管理している国の職員にお金を払ったら借りられるそうだ。

村の傍にある綺麗な湖には小さな生き物たちがいるが、魔物じゃない。その水は新鮮で美味しく、人が傍に暮らしているのに汚染されていない。管理が徹底されているのだろう。

あちこちで冒険者たちが装備を外して寛いでいるところから見ると、この階は魔物が湧かないようだ。

ここでは何気なく雑談をすることで、勇者パーティーの足取りを掴めた。先に聞いたのと同じように、この牧歌的な村に拠点を置いて、ここから上層に狩りに出ているという。

同じようにここを拠点にする冒険者たちは多く、国の職員が常駐していて魔物の買い取りをしてくれたり、規模が小さいながら食堂や武器防具屋があったりするから、一生でも潜っていられるらしい。とはいえ、紫外線殺菌が無いだろうから不健康そうだが。

俺たちはすぐ、彼らを追いかけて上層への階段を登って行った。

村があるのは階にすれば十五階。最深部が三十六階のこのシルバー迷宮のほぼ中間地点で、だから中層中部と簡潔に呼ばれもする。

草原の大地の階層を歩いていてすぐ気付いたブロンズ迷宮との違いは、高低差があるところだ。

ほぼ平坦なブロンズ迷宮でも魔物と戦うのが大変だったのに、五階分のビルがすっぽり入るような高さの大地の裂け目があったり、小高い丘や少し深めの水場もあったりする。

崖から落ちたり溺れて亡くなる人もいると、タンジェリンが教えてくれた。

山岳地帯とか渓谷というレベルのものはないけれど、この分だとゴールド迷宮にありそうだ。今から覚悟しておこう。

とはいえ、超健康優良児の俺や精霊たちは、体の作りが根本から違うので疲れにくい。

唯一の人間のマリエルに合わせてゆっくりと進み、動きがブロンズ迷宮より良くなっている魔物たちと時折戦い、広大なフィールドを横切って次の階段を見つけた。

こうして歩いて理解したが、変わったのは魔物たちの動きだけではない。種類も豊富になり、草原では食肉に適した牛や鹿、蛇や鳥、豚類だけではなく(虫もだけど)、肉体を持たない魔法的生命体も出現するようになった。

大森林の精霊の一部にも似た性質の四大精霊がいるものの、迷宮に出るのは闇の属性のエネルギー体、いわゆる亡霊、悪霊、ウィスプと呼ばれるようなものだ。

まだ俺は遭遇していないが、これからはアンデッドも出てくるらしい。匂いとか見た目がキツイなら、閉鎖空間では絶対に会いたくない。

しかしそいつらは、日本のファンタジー業界でも有名な魔石を落としていく。石炭より高出力で長持ちする燃料になるから、冒険者たちはどちらかというと積極的に狩りに行くらしい。冒険者って、本当は全員が勇者だと思う。

こうして俺が新しい知識を覚え込んでいく間に、ここいらじゃほぼ無敵の俺の保護者たちのおかげで、手早く十二階まで登ることができた。

実際の時間でもう夕方になる頃で、迷宮内のフィールドにも夕暮れがやって来ている。

地下十二階は大地の裂け目が点在する、岩石と礫の多い歩きにくい地形だ。

一見広々としていて遙か向こうまで見渡せ、幻ではあるが迷宮の壁の向こう
にある山脈まで見渡せる。魔物たちは主に大地の裂け目に潜んでおり、戦闘は主に閉鎖空間になり得るそこで発生している。

道を伝ってスムーズに大地の裂け目に降りていける場所もあれば、クライミング技術が必要そうな裂け目もある。

戦いに行くだけで大変そうだ。

「ここには中層上部のボスがいますよ」

俺と一緒に裂け目を見下ろしていたタンジェリンが、遠くの方を指差して言った。

「そういえば、マンティコアを倒す時に、そんなこと言ってましたっけ?」

「はい。中層には二十階にもボスがおりますが、こちらのボスは本来は、あのマンティコア位の強さです」

上手く助けられたとはいえ、あの時の戦いは良い思い出じゃない。

だからボスに出会わず目的の人たちを助けられたらなあと思っていると、遠くの方で人が喋る声が聞こえてきた。

良く覚えてないものの、あの彼らの声にも聞こえる。

念のために脳内地図で確認を取ると、ボスを示す大きな光の比較的傍に、二つの複数人数のパーティーがいる。彼らが会話をしているのだろうか。

個別に名前とか表示されれば良いのに、この地図はしてくれない。俺のレベルを上げて検索能力も上げて、早めにそういう機能をつけたいもんだ。つけることが可能かどうかは知らないが。

「もしかしたら彼らかも」

不安げなマリエルが呟いた。仲間の勘は当たるだろうから、俺たちはその二つのパーティーのいる場所まで急いだ。

迷宮は太陽も無いのに、時間が経過するとどんどん暗くなってきた。ブロンズ迷宮と違って、ここには明確な二十四時間があるらしい。

灯りを点したとしても、岩や大地の裂け目には多くの影が落ち、視覚的な優位さが失われる。

まさかこの不利な状況でこれからボス戦なんてしないよなと思っていたら、俺の脳内地図内でエンカウントされ、実際の戦闘音が響いてきた。

冒険者って何なんだろう、マジ。

戦闘が始まってすぐ、俺たちはそれが行われている広めの大地の裂け目の上に到着できた。

崖から身を乗り出して魔法の灯火がいくつも浮かぶ現場を見下ろすと、そこでコブラの巨大化したような姿で数十メートルある大蛇と、二つのパーティーの面々が共闘していた。

「レナード!」

マリエルが叫んだ。

彼女のパーティーのリーダーが盾と抜き身を手にして蛇の正面に立ち、おとりとなっている。

ようやく彼らに追いつけた。
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