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第一章 龍神に覚醒したはずの日々

6 友人との時間

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1・

翌朝、目覚めて風呂に入って食事をして通学した。

こういうサイクルがこれから自分の日常になるのだと思うと、ワクワクして嬉しくなった。

たとえ、未だにクラスメイトに友人が一人もいなくてもだ。

このハルトライト高校の課程は、座学が中心で運動をするものはない。出入りが自由な部活に入るか、個人的に学校の施設を使って放課後に運動するしかない。

そのおかげで、運動音痴の僕の弱点がさらされなくて有り難く思う。

そういう訳で今日も午前中の授業を机にかじり付いて対応し、休憩時間は庭などに行って音楽を聴いた。

すると何故か、今日は誰かに見られている気配があった。ミンスさんがいるのかと思ったけれど、それなら声をかけてくる筈。

もしかしたら誰かが僕と友達になりたがっているのかもしれないと気付き、その辺りをわざとらしくウロついてみた。

しかし、誰もいないし声をかけてもくれない。

おかしいなと思いつつも、友人を増やす計画には前向きになった。

そして、お昼休みが来た。

今日はどうなんだろうと思っていると、ミンスさんはフライングで来るような事もなく、普通にやって来て微笑みつつ手招きをくれた。

「あの、今日は、というか、もう二度と食堂に行きたくありません」

「そうなの? それじゃあ丁度良かったわ!」

ミンスさんは僕の腕を掴んで、楽しそうに校庭に向かった。

他に人のいない芝生地帯に、先にローレルさんがいて歓迎してくれた。

「今日は頑張ってお弁当作ってきたんだよ! 食べてって!」

「ええ~?」

いや僕が食べていいのと戸惑いつつ、すでに準備万端なピクニックシートの上に誘導された。

立派なバスケットの中には数種類のサンドイッチが入っていて、もしかしたら僕が昨日選ぼうとしていたのを覚えていたのかも……と思ったものの、本当はただの偶然だろう。

とはいえ、僕の食べたかったものをいただきつつ、両脇に友人が二人いるのは嬉しい。

「えーと、ありがとうございます。これ、いただきますね」

「はいどうぞ~。このアボカドサンドは私が作ったのよ?」

「えっ、その、食べても良いものですか?」

勿体ないという意味で言ってしまうと、ミンスさんは一瞬真顔になり、次の瞬間に大笑いした。

「毒は入ってないわよ!」

「あっ、いえ、そういう意味ではなくて!」

僕が焦ると、同じく笑うローレルさんが言った。

「食べるのが勿体ないんだろ? ショーン君がそういう人なのは分かってるから、気にせずお食べ」

「ええと、会ったばかりなのに、僕がどういう人なのか分かるんですか?」

「生真面目で脇が甘くて後ろが見えない、喋りが下手くそな男の子」

「うっ」

胸に矢が刺さった。

「な、何故、バレて……」

「ショーン君、本当に可愛いよね~! よーしよしよし」

「お姉ちゃん! 止めてあげて!」

サンドイッチが飛んでいきそうになったが、カルチェ姉妹の良心の方が襲撃から救ってくれた。

「と、とりあえず、いただきます」

「「はーい」」

二人が揃って返事してくれたから、今度こそ頂いた。

正直に言うとアボカドを食べるのは生まれて始めてなのだけど、ディップとして潰して調味料で味付けしてあって、それも相まって美味しかった。

「美味しいです。その、料理できる人って、凄いです!」

「ウフフ、そう言ってもらえると嬉しいな」

「じゃあ今度は、あたしの作ったガッツリ系カツサンドだ!」

アボカドサンドを食べきる前に、ローレルさんにカツサンドを差し出された。

「あい、あーん」

「む、無理です!」

本当に無理なので、皿の上に置いてもらった。

そんなこんなでも、三人で楽しく昼食を頂けた。

食べながらも、ミンスさんには昨日教えてもらった曲を全部聴いて全部気に入ったし、知らない曲も聴いてみたと話した。

ミンスさんは驚き、僕が本当にオールドクラシックファン仲間になったのをとても喜んでくれた。

他にもお勧め曲があるので、また曲名を書いて持ってくると約束してもらえた。

ローレルさんはオールドクラシックのファンではないものの、ミンスさんが聴いているのを一緒に聴いて、気に入ったものはあると教えてくれた。

こんな風に同じ話題をしながら笑いあえる友人がいるなんて、なんて……なんて、楽しいんだろう。

「あ、お姉ちゃん! ショーン君が泣いてる!」

「たぶん、うれし涙だね! 今度こそ、よしよーし」

「あああ、もう、勘弁して下さい!」

嬉しいんだけど、からかわれるのはもう嫌だ。

スクッと立ち上がり、手を振り払った。

「ありがとうございました! とっても美味しかったです! ではまた!」

感謝しつつも走って逃げ出したら、二人は大笑いしていた。

うん、多分、こんなでも友人だよね?

2・

そしてまた、新しい日がやって来た。

土曜日なので、一年生の授業は午前中だけしかない。なのでお昼は、家に帰ってから食べてもいい。

だけれど、何となく来るかもしれないと思って待っていると、ミンスさんは本当に来た。

今日は一緒にコンビニに行ってみた。売り切れ状態ではないパンの棚からそれぞれが好きなのを買って、外のベンチに座って食べた。

ミンスさんが新しくくれたお勧めの曲名が書かれた便箋を片手に、有料サイトで確認して一つずつ聴いていった。

全部が心を打たれる曲で、それをミンスさんと一緒に聴いているととても幸せだ。

今日はローレルさんがいないし、落ち着いてゆったりできる。居心地が良すぎて、気付いたらベンチに座って二時間も経過していた。

「あ、もうこんな時間……」

焦り、音楽を止めてスマホをしまい込んだ。

「もう帰らないといけないの?」

「え、いや、だって、僕にそんなに時間かけてもいいんですか?」

「私が? 私は暇だけど……でも、帰るわ」

「それじゃあ……」

先に行こうかな、どうしようかな、と挙動不審気味になってしまい、自分で恥ずかしくなったところで、コンビニの窓に貼ってあるポスターに気付いた。

「あれ、文化祭はあるんですね。体育祭はないと聞きましたが」

「ええ。でも決闘祭りみたいなのはあるわよ。陸軍目指してる面々が、力比べするの。一学期にあったんだけど、面白かったわ」

「へえ…………って、そうだ。文化祭では、舞台で生徒が出し物をするようなものはあるんですか?」

「あるわよ。講堂でブラスバンド部と軽音部、演劇部なんかがメインで出し物をするの。個人で芸を持ってても出ていいのよ。去年のをお姉ちゃんと一緒に見物したんだけど、サックス奏者で全国で賞とった人が単独演奏してて、物凄く格好良かったわ。もう卒業しちゃったけどね」

「個人でも、いいんですね。じゃあその、ミンスさんは出ないんですか?」

聞くと、ミンスさんはきょとんとしてから恥ずかしがった。

「大勢の前では、恥ずかしくて歌えないわ」

「えっ、だって、校庭で歌ってたじゃないですか」

「あれは、ショーン君みたいに聞きたい人しか寄って来ないでしょ? でも舞台に立つと、私の歌が好きじゃない人もいるじゃない」

まさか無敵感溢れるミンスさんが、弱音を吐くと思わなかったので驚いた。でも、よく考えれば普通のことだ。弱々しいのは僕の専売特許じゃない。

「そう、ですよね。自分も、そういうところでは、歌うどころか、話そうとするだけで倒れます」

「倒れちゃうか……ショーン君らしいわ」

「僕は……本当は、もっと強くなりたいんですけれどね」

理想は遥か彼方だ。

「そうなの? そのままでも、可愛くていいと思うわよ?」

「勘弁して下さいよ。僕だって男です。いつか好きな人を作って結婚して子供もできて、それで僕は家族を守るんです」

何になりたいという夢は持ってなかったのに、大人になったら結婚して、家庭を持ちたいと思っていた。

それを力説してしまってから、また恥ずかしくなってきた。

「まあでもその前に、一人前に仕事がこなせるように、ならないといけないですよねえ」

「そうだけど、でも意外と男っぽいのね? その……見直した」

ミンスさんは、ニコリと笑った。でも僕は戸惑った。

「ですが、今は……男っぽくないです。見直されても、困ります」

「あのね、ショーン君は優しい人でしょ? 優しい人って、本当は心が強いのよ? だからショーン君は必ず、将来はみんなより強い人になってるわ」

「……ありがとうございます」

こんな僕を知っても信じてくれる人は、初めてだ。実の家族ですら、意気地なしの僕を持て余していた。だからクリスタに引っ越しさせた……。

少し落ち込むと、ミンスさんが軽く腕を叩いてくれた。

「ショーン君、引っ越してきたばっかりなんだから、明日の日曜日に街を案内してあげようか? 街じゃなくても、どこかの施設に行くでもいいけど」

「え、あ、その、引っ越してきたのは僕だけじゃなくて、同じ宿の男の子もいて……」

「うん。じゃあ、みんなで一緒に行こうか。取りあえず集合場所と時間は決めるけど、どこに行くかはその時に決めようよ。どこに行きたいか、明日の朝までに考えてみてね」

「はい…………いいんですか?」

「いいわよ。私、友達少ないのよ」

「……?」

人当たりが良いし明るいし面倒見も良いのに、どうしてだろうと不思議に思った。

でもそれを質問なんてできず、ただ僕はミンスさんとスマホの電話番号とメルアドの交換をした。

そして明日朝八時に、高校の正門前で待ち合わせと決めた。

「じゃあ、また明日ね」

ミンスさんは嬉しそうに手を振り、三年生の教室がある校舎の方に歩いて行った。

僕は正門に向かおうとして、少し離れた場所にイツキが立っているのを発見した。

「イツキ……丁度良かった。一緒に帰ろう」

声をかけて、近付いて行った。

「でもどうして、残ってたんだよ。今日は先に帰ってとメールしたのに」

「帰ろうとして友人に捕まって、少し運動をしていたんです。ところで先ほど、耳にしましたが……明日、出掛けられるのですね?」

「あ、聞いてたんだ。じゃあ丁度いい。どこ行きたい?」

聞くと、イツキは視線を逸らした。

「私は音痴なので、歌いたくはありません」

「ああ。じゃあカラオケ店は無理だね。惜しいけど……じゃあ聞き役で!」

「え、あの、折角ですから、家に帰ってからじっくりと話し合って行く先を決めませんか?」

「うん。そうしよう。嬉しいなあ!」

みんなでお出かけだと思うと嬉しくて、思わずぴょんぴょん飛び跳ねてしまった。

でもすぐ、子供っぽいと恥ずかしくなって止めた。

僕を見るイツキの顔が、珍しい何かに遭遇したような感じになっている。

余計に恥ずかしくなって、それからはクールな感じで前を向いてただ歩いた。
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