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二章 バンハムーバ復興作戦

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1・

クリスタの星としてのコアがある周辺を漂い、龍神のコアを使用して実験的に星の浄化を行いつつも、冷静になるまで色々と考えた。

そして完全に冷静になったと思えた頃、あれは話し合いじゃなく子供の喧嘩だと気付いて、とても恥ずかしくなった。帰りたくなくなった。

とはいえ、本当に帰らないでは仕事ができない。いや、まだ本格的に死にたくない。

しょうがないから、数日後だろう日に星の中から出て行き、小屋を目指した。

いなけりゃいいと思ったのに、小屋から少し離れた荒野にグレーピンク色のキャニオンローズ号だけじゃなくてカート商会の赤い宇宙船もあった。

会うと攫われるだろうかとドキドキし、なかなか小屋に近付けない。

するとツキシロがどこからともなく歩いてきたから、丁度いいのでその陰に隠れて小屋を窺った。

「お主は愉快な男じゃのう」

「いやいや、ユールレムに攫われるかどうかの一大事だぞ。警戒して当然だろう」

「誘拐犯が、真正面に堂々と宇宙船を停泊すると思うのか」

「油断させているかもしれない。念には念を入れる」

ツキシロの背中を押して小屋に近付いている途中で、小屋の扉が開いてレヴァンが一人で出てきた。

俺はビクついた。

レヴァンは気にせず近付いてきて、声をかけてきた。

「よう。何やってる」

「……俺を誘拐するのを諦めたのか?」

「まあ、色々と言われた事については、確かに一理あったからなあ。ユールレムからの依頼は破棄することにした」

「ええ? マジでか?」

「マジだ。俺たちは別の仕事をする。それじゃあ、元気でやれよ」

レヴァンはヒラヒラと手を振り、歩いて宇宙船に帰って行った。

完全に見送ってから、ツキシロを離して小屋に行った。

中に入ると、昼食を終えたらしいパセリとルッコラが帰るところだった。レヴァンが何しに来てたのか聞くと、フィルの手料理をご馳走されていたと教えてくれた。

二人が帰り、俺とツキシロがテーブルにつくと、自動的に昼食が出てきた。

「ポドールイの王様、給仕係で満足していますか」

「今さらですね」

聞いてみたものの、ピーマンの肉詰め定食を運んできてくれたエプロン姿のフィルは、生き生きとしてとても楽しそうだ。王様辞めたら料理人になりそうだ。

「王様をしていても、時折料理もしていますよ」

ポドールイ人お得意の、心を読んでの返事が来た。

「料理をしている時にお客様が来た場合に、次の王候補の者に王の代理を頼んでいたんです」

「ああそうか。それでローザ船長たちは、最初にその人の方に会ったんだな」

ファルクスに二度目に来て、ようやく本物の王に会えたローザ船長たち。

確か最初にファルクスで会った王だという人に、運命をどうにかしたければバンハムーバ母星に行き、龍神の神殿の前で待っていろみたいな助言を貰ったんだったか。

それのおかげで俺とピッピは命拾いをしたが……今の状況を考えれば、ローザ船長たちは俺を拾うことで当たりを引いたのか?

龍神のレドモンドとは、会わないのが正解だったのだろうか。

まだその辺りはハッキリしていないと思いつつ、美味しい料理を無言で平らげた。

食後のクッキーも漏れなく食べ尽くそうとしたものの、彼もまだ食べ足りないらしいツキシロに邪魔された。

そういえばいつクロと会うかを、考えないといけない。そろそろ、本気を出して星に潜らないといけないし。

まだポドールイの植民地とは完全に決定していないクリスタだから、もし派手に活動してしまってバンハムーバ勢力の者に発見されるととてもヤバイものの、ずっと休んでいる訳にもいかない。

ロゼレムのスラムの現状を考えれば、一日でも早くクリスタを移住可能にしてあげたい。目立たないように、星の奥の方での作業を始めた方がいいだろう。

だから……もう、お別れした方がいい。最後の言葉を、クロに伝えよう。

「ツキシロ、俺、クロに会いたい。それにピッピにも会いたい」

「了解した。後で、この小屋に連れて来るぞ」

「頼んだ」

なんていう会話をしたものの、食感が面白いザラメ糖がくっついているクッキーは譲らない。

一週間ほど飲み食い無しでいたのでもっと食べたいんだけど、何故か今日は大盛りをもらえなかった。先にレヴァンが食ったからか?

そう不思議がると、食器を片付け中のフィルが言った。

「運動前は、軽めの食事が良いですからね」

「はあ、運動前だったら仕方な…………ふぁ?」

変な声が出てしまった。

それ以上は聞かず、洗面所に素早く歯を磨きに行ってから外に出た。

周囲を見回し、誰が来るのか警戒して身構えていると、少しばかり見知った気配が荒れ地の上に出現した。

その姿を見て、俺は吐きそうになった。確かに大盛りじゃなくて良かった。

はっきり会ったのは初めてだが、この時代の龍神衣装に長く伸ばした金髪と、青い目の男。フロイスではなく、レドモンドの方だ。

いくらなんでも早すぎる。まだ俺の中に龍神のコアがあるのに、下手したら奪われて持っていかれてしまうじゃないか。

ここでの出会いも歴史と違うのか、それとも同じなのか……全く分からない。

俺の考えがまとまる前に、レドモンドがこっちに向かって歩いて来たので焦った。

しょうがないので話しかけた。

「あの、前に会った時、ぶっ飛ばして済まなかった。寝ぼけてたんだ」

「前とは、バンハムーバであの女子と戦った時の話か? やはりあれは、お前が攻撃してきたのか」

「ええまあ、訳も分からず……目覚めたら攻撃されていたから、つい。ごめんなさい」

目付きの鋭いレドモンドに、本気で謝罪して少しばかり頭を下げた。

レドモンドは、それなりの距離を置いて立ち止まった。

「龍神の神殿周辺で最初に会った時に、私を呼び止めようとしていただろう? あの時は、敵対する意思は無かったのか」

「い、色々とあって、俺はその時はバンハムーバで遭難していた。だから普通に拾って助けて貰いたかったんだけど……今は見ての通り、このクリスタでバンハムーバの準母星を作る以外の目的に沿うつもりはない。かといって、話し合いをしたくない訳じゃない。いや、逆にとてもしたい」

「……前に戦った時は、不意打ちで倒された。あれは勝負のうちに入らない。改めて私と戦え。勝てば、私に質問することを許してやる」

……脳筋か?

「それで、俺が負ければ何をしなくちゃいけないんだ?」

「何もしなくていい。再戦だけで十分だ」

前にぶっ飛ばされたのがトラウマになってて、俺を負かしたいだけなのか。外見や雰囲気からして知的っぽいのに、ロック並みの脳筋なのか?

それとも、この時代の龍神はプライドが高すぎてしょうがないのか?

どっちにしろ、俺が勝てばまたゴネそうだが、話し合いをしてもらう為には戦った方が良い……のか?

断るのが賢いという考えもあったが、やる気満々なレドモンドがいつの間にか豪華で切れ味良さげな剣を持って睨んできていたから、大人しくしてもらう為にも決闘を受けることにした。

巻き添えにできないので、小屋から適度に離れた位置まで徒歩で移動した。

俺は適当な武器を持ってないので素手でいいとして、決闘開始となった。

だが、お互いがまず龍神の生命力を利用してレーザー光線みたいに狙撃してみたら、両方が素早く避けた分、クリスタの大地がぶっ飛んだ。

一度中断し、龍神の力は使わず、武器攻撃と魔法攻撃で戦おうと提案した。レドモンドはここを保護すべき準母星とは思ってないにしろ、拒否したら俺が決闘を拒むかもしれないと思ってくれたのか、受け入れてくれた。

ということで、仕切り直しての決闘を開始しようとしたら、俺が素手なのが気になるのか、全く見知らぬ重たい槍が俺の足元にドスンと出現した。

周囲を見回しつつ拾ってみたものの、常人がふりまわすレベルの重さじゃない。龍神として馬鹿力のある俺なら何とか大丈夫だが、こんなの寄越すのは……ツキシロ辺りか。

何にしろ、有り難く使わせてもらう事にした。

こうしてようやく準備が終わり、本格的に決闘を開始した。

幾度か武器を打ち込み、攻防戦を繰り広げた。レドモンドが魔法も多用してくるところを分析してみると、彼は俺より一撃の力は弱いが技術に勝り、魔法攻撃や補助、回復も行うオールラウンダーだ。

かたや俺は魔法が不得意で、攻撃も補助も治癒もほぼ無しで馬鹿正直に槍を振り回す事だけしか出来ないものの、一撃で勝り防御力もハンパなくある。

多少、レドモンドの攻撃が当たったところで気にもせず、小手先で負けても大技で一撃必殺を狙うので、向こうは警戒して距離を置く。

そうすればレドモンドの剣の攻撃力は減り、俺はというと効果的な一撃を繰り出しにくい。

どちらも、何度も何度も踏み込んでは避けられるを繰り返し、先の見えない長期戦で消耗し始めた。

そのうち、どれだけの時間を戦ったか分からなくなった。

早く倒れろよと両方が思っているだろうが、どうも倒れる気配がない。丈夫な龍神という身の上を恨みつつ、汗だくになり泥まみれになってもお互いが止めない。

龍神の力で雨を降らせばさっぱり出来そうだが、星の大気を浄化しきれていないから降るのは毒の雨だ。健康に差し支える。

そうして辛抱し続け、最終的に不快指数値が百を確実に越えたところで、俺はとうとうレドモンドから距離を置いて両手を挙げて叫んだ。

「休憩するぞ!」

レドモンドは少しばかり驚いたようだが、立ち止まって剣を降ろし、頷いてくれた。

俺はせめて水を飲みたくて、早足で小屋に向かった。

すると小屋の向こうのキャニオンローズ号から見慣れた宇宙服の二人が出てきて、手招きしてきた。

ポプリが叫ぶ。

「エリック様、船でお風呂が沸きましたよ! 入っていって下さ~い!」

「何だと、厄介になってもいいのか!」

「構いませんとも! レドモンド様はどうされます?」

「……?」

当たり前だが、レドモンドは混乱した。

そこにフィルが登場した。

「レドモンド様、狭いですがこちらでお風呂をどうぞ。衣装も洗って乾かしますので」

「?」

「俺は行く」

龍神に変身していたとはいえ長いこと風呂に入ってなかった俺は、好意に甘えまくってキャニオンローズ号の風呂に入りに行った。

2・

一時間半後。

小屋の方で借り物の服を着た俺とレドモンドは同じテーブルを囲み、フィルの手料理とビールを片手に顔を合わせていた。

未だ流れに納得できてないらしいレドモンドが固まっているのを見ながら、俺は少し早い夕食を堪能した。

「どうしてこうなった? 決闘はどうなったんだ」

「まあ、一時中断でいいだろ。今のうちにちょっと話をしようか」

「決闘は終わってないだろう?」

「周囲がその再開を阻んでいるんだから、今は諦めろ」

ツキシロはおらずフィルだけが同じ部屋にいるが、ポドールイ領地の小屋の中で彼の笑顔には逆らい辛いだろうに。

「それで、バンハムーバ龍神派と貴族院の話し合いはどうなった?」

質問すると、レドモンドは色々と悩んでいる姿を見せてくれた後で、ため息をついて口を開いた。

「フロイスに出席して貰い、和解に及んだ。これで一応、愚かな内乱は終結した」

「そりゃ良かった。後は、このクリスタを準母星として整備して、バンハムーバの民を移住させるだけだな」

「お前は、本気でそんな計画を実行に移すのか? 既にバンハムーバの力の源は奪われ、お前の体内にあると感じるんだが……母なるバンハムーバの星以外に、龍神の力を宿すことに罪悪感はないのか? 始祖の龍神が選んだ星以外に、我らの星はない。その力を返せ」

出来るなら奪い取りたいだろう気迫はあるものの、レドモンドは常に冷静に俺の動きを見定める目付きをしている。脳筋には思えない。

決闘をしたのは、俺の戦闘力を見定めたかっただけなのかもしれない。

「……あのさ、悪いけど、俺の作戦にはこれから生まれてくる人の命がかかっている。俺の知り合いだけじゃなくて、あちこちに移住して別れてしまった一族の命を多く救える。今、バンハムーバの星を焼き尽くそうとしている恒星のコントロールシステムが研究されているが、その結果が出て星に帰還できるのは二千年後だ。そんなに長く、虐げられている現実があるバンハムーバの民をバラバラにしておけない」

「その意見は理解できるものの、実際に行動に移すかどうかは別問題だ。何故、龍神として名乗り出ずに、お前一人でこんな大それた計画を実行しようとしたんだ? 我らに相談があってしかるべきだったんじゃないのか」

「それは、最初はあんたかフロイスに会って、話をしようとしていた。でも成り行きでポドールイに行ってしまい、そこで自分という存在がとことん受け入れられない現実を知った。レドモンドだって、龍神といってもユールレムの蛇である俺に、味方をしようと思えるのか? 思えないだろう?」

レドモンドは答えるつもりがあったようだが、その彼の言葉を遮って続けた。

「それにはっきり言って、クリスタの準母星化は俺にしかできない仕事だ。だから一人で考えて一人で行動するだけで良かった。けれども今は、こうして無償で協力してくれる仲間がいる。俺は有り難く、彼らと共に作業をしているところだ」

「……無償、か」

レドモンドは意味ありげに、フィルに視線をやった。

「フィル王がここをポドールイの植民地にしようとしているのは、お前の作業の邪魔をさせない為だろう? そして上手いこと整備が出来れば、我らバンハムーバ王国に権利を譲るつもりなんだろうな?」

「ああ。なんだ、分かってくれているのか。じゃあ、そういう事で理解してくれるな? 俺を自由に活動させてくれ」

「……」

レドモンドはもう一度、俺からフィルに視線をやった。何だか、嫌な予感がしてきた。

室内は静かになり、窓に吹き付ける風まで止んだようだ。

そんな中、レドモンドが言った。

「宇宙国連法に則って植民地を増やしたければ、星に居住地を建設し、国の民を連続で一ヶ月間は居住させないといけない。それが終わって初めて、国連に植民地化の正式な申請ができる。国連軍の調査の後、不正がないとされてようやく国際社会に認められるようになる」

「ああ、知ってる。だからポドールイ国は、それに則って活動中だ」

「この植民地化のチャレンジ中は、その居住地と国民に対して、他の勢力はどんな理由があろうと邪魔をしてはいけない。してしまえば、その星を公式に植民地化する権利を奪われる決まりになっている。だが、先に植民地化作業を始めた国がまだ一ヶ月の期間を経ていなければ、途中退場の可能性がある為に、別の国もチャレンジに参加する事が可能だ」

「ポドールイは……開始から二週間が過ぎたところだな」

壁にカレンダーがかかっているから、俺はそれを見て言った。

「言いたいことは分かる。バンハムーバも小屋を建てたんだろ? 別にいいと思うけど、そのうちフィルが権利を譲るから、住まなくてもいいんじゃないのか」

俺がこう言うと、レドモンドが怒り出す寸前の表情に、俺を憐れに思っているかのような目付きを含めて、言いようのない態度を示した。

「お前は、それだけの力を持ちつつも、驚くほど愚かな男だな。今現在、植民地化レースでバンハムーバは第四位だ。ポドールイが権利を放棄しても、次にチャレンジ期間が長い星に権利が移る。この星はバンハムーバの物にはならない」

「…………は? いや、どういう事だ? 俺なにも――」

そう、なにも知らないと気付いた。地中で俺が活動している間に地上で何があったのか、確認しようとしていなかった。

「残りの一割……」

俺は呆然としつつ、フィルに目をやった。
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