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一章 滅びゆく定め

5 荒れ果てる理想

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1・

龍神に就職してから一度も切れてなかった黒髪を、きれいさっぱり短くした。その方が、俺は似合うと思う。

それだけでハイテンションになった俺は、首都の中央付近までの二十キロメートルを一時間もかからず走って制覇した。

イージスに聞いた情報に従って、フロイスという龍神がいるかもしれない龍神の神殿をまず発見して行ってみた。

が、門は固く閉ざされて一般市民に公開などはしていなかった。

鉄格子の門の向こうに仏頂面の神殿兵たちがおり、お上りさんぽい俺を睨み付けてくる。

とりあえずフロイスはいるか聞いてみたが、いないと返された。それだけだ。

夜になって城に侵入した方が捕まるだろうと思い、夕暮れ時の空を見上げた。そして一度行ってしまおうかとしたが、神殿内部の庭で何かの騒ぎが起きたので振り向いた。

龍神に仕える神官の衣装を着た一人の青年だろう者が、庭に座り込んでいる。そして別の神官たちに、威圧的な厳しい口調で何かをまくし立てられている。

「私はただ、より話し合いを多く持ち、分かり合った方がいいと思っているだけです」

「既に暗殺未遂を何度も起こしてる奴らに、今さら話し合いなんか通じるか! 一度でも龍神様を殺めようとするだけで、万死に価する!」

「しかし、貴族院、王家の方々は始祖の龍神様の直系の子孫です! おいそれと討伐する訳にいきません! ですからフロイス様も、手を出しかねておられます!」

「王族など既に名前のみの役立たずだ。理想もなく、実力行使しかできっこないクズだ!」

「彼らは龍神様の縁者です!」

「うるさい、もうなにも言うな!」

感情的な言い争いは、神殿兵が鎧戸を閉じたので見えなくなった。

それなら侵入してやると思い、魔術的なバリアも通り越して中庭に瞬間移動した。

倒れる神官を蹴っていた全員が、俺が突然に出現したので驚いて動きを止めた。

「仲間割れは良くないぞ。神官同士、冷静になって話し合いを――」

「お前も貴族院の手の者か!」

それ言われたの二度目だなと思いつつ、素早く動いて投石を避け、倒れる神官に飛び付いた。

「もう要らないなら、貰っていく」

置いておいても消されるぽいので、軽く持ち上げて一緒に逃げた。

神殿から遠い裏通りで立ち止まり、その神官を降ろした。

打ちひしがれる彼は、それでも壁に手をかけてよろけつつ立ち上がった。

「どこの誰だか存じ上げませんが、感謝いたします。けれど、この争いに口出ししてはいけません。命に関わりますので」

「俺も無関係じゃないから気にするな。ところで、これから逃げる当てはあるのか? それよりも、逃げたら処刑されるとかあるのか?」

俺の時代にはないが、この混乱期には何でもありそうだ。

「……私よりも、救っていただきたい方がいます。もしかしたら、追っ手がかかり、危険な目に遭われているかもしれません」

「貴族院とかいう奴の構成員か。とすればバンハムーバ王家の一員でいいんだな?」

率直に聞くと、怪我をしている彼はそのせいでなく顔を青くした。

「その、しかし、貴族院を抜けられた方です。信頼に足るお方です」

「まあ……後で、詳しい事情を聞かせてくれ。先に助けよう」

「えっ」

驚く彼から、問題の存在がいるホテルを聞き出した。それからまた彼を担ぎ上げ、そのホテルまで走って行った。

2・

神官が余計にグッタリしたが、それ以外の問題はなくホテルに無事到着できた。

彼をロビーの隅っこに置いて、彼の言う十二階の部屋に行こうとした。

そうしたらエレベーターが全て封鎖されていて、神殿兵と神官たちが見張りに立っていた。

仕方なく非常階段の方に行き、十二階分を駆け上がった。

途中にいた神殿兵は、全て一撃で倒した。殺してはいない。

さすがに疲れてきたものの、休んでいる時間はなさそうなのでそのまま十二階フロアに突撃した。

ちょうどエレベーターに乗せられそうになっている、拘束されたバンハムーバ人が見えた。

周囲の余計な人たちを一掃してから彼を連れ、瞬間移動でロビーの隅っこに戻った。

神官がメリル様と泣いて喜んだから、人物的に合っていたようだ。

このままロビーにいたら発見されるだけだから、二人の腕を掴んで野っ原の宇宙港まで瞬間移動した。

一度行った場所ならすんなり瞬間移動できるようになり、俺も龍神のレベルが上がったかと惚れ惚れした……かったのに、すっかり日の暮れた宇宙港のキャニオンローズ号周辺で、銃撃戦が繰り広げられていた。

事情は分からないがピッピが乗っている以上、どちらに味方をするかは決まっている。

神官と王家の人には隠れていてもらい、闇夜に隠れて襲撃してきた人たちを闇夜を使って襲撃していき、全員の武器を壊してやった。

襲撃者が逃げていったのを見送り、俺はため込んでいた思いの丈を夜空に叫んだ。

「働きたくないわーい!」

叫んでスッキリしたところで、無事だった二人を連れてキャニオンローズ号のタラップを上がっていった。

開いた出入り口に、人影が立った。

副長は俺を確認し、二人も共に中に入れてくれた。

しかしバンハムーバ王家の青年を確認すると、お互いが眉をひそめた。

「お客人、悪いがこの男は乗せられない。神官だけでも危ういのだぞ」

「二人は知り合いなのか」

「はい。面識があります」

俺が聞くと、バンハムーバ王家の青年の方がおずおずと答えてくれた。

「お客人、猫を返すので降りてくれ。助けてくれた事は感謝する。だが、貴族院メンバーと龍神の神官と話をするだけでも、こちらの身が危うい。事情を察して、早く行ってくれ」

二人を助けてもらいたかったが、副長のこの言い分では絶対に無理だろう。

「分かった。ピッピを返してくれ。すぐに出て行く」

行く当ては、俺も彼らもないだろう。それでも、ここには居られない。

副長は俺たちを置いて立ち去った。見張りとして残ったのは、見知らぬ乗組員だ。

「イージスはどこに?」

何気なく聞いたが、彼は気まずそうにして答えなかった。

数秒間その意味を考え、なぜこの船が銃撃されても飛び立たなかったか気付いた。
配管の修理はすでに終わっているようだ。なら出て行けないのは、人が揃ってないからか。

「彼らはどこに行った。無事に帰って来るのか?」

「え、ええと」

挙動不審にしかならない乗組員の態度から、どういう事態なのかは分かった。

もう縁を切るところの海賊たちなんて、放っておいてもいい。
そう思う心もあるし、龍神の仕事を絶対的に優先させたい事情もある。

でもそうして見捨てるのは、俺のやり方じゃない。

たとえ海賊としても、彼らは極悪非道ではなく、事情があるだけの心優しい人たちに思える。人殺しの後ろ暗さが、彼らからは全然感じられない。

信頼したからピッピを預けた。今度は俺が彼らを助けないといけない。

副長の気配が近付いてきた。

俺は何も告げずに夜の闇の中に戻り、走ってキャニオンローズ号から遠ざかった。

3・

闇夜の中で立ち止まり、地面に手をつけて精神集中した。

ユールレムの蛇の力は、ユールレムの母星以外では効果が落ちるとしても、この星でもある程度が使用可能なようだ。

イージスの気配がどこにあるか探ると、スラム地帯の隅の湖の畔にいる感覚があった。

試しに龍神の姿でありユールレムの蛇の姿でもあるそれに変身して地中に潜り込むと、少し抵抗感があったものの地中移動ができた。

本気を出せば光速もぶっちぎれる龍神のようなスピードを出せば、近所など一瞬にして移動できた。

地上に戻り、湖の畔に立った。

ボロい小屋の傍に二人が倒れている。

血を流して動かない。

可哀想にと呟き、近付いていってイージスの様子を確認した。

エネルギー弾の方の銃で撃たれているが、まだ命の気配はある。

慌てて治癒魔法を使用し、まだ確認していない金髪の槍使いの美人の方にも魔法を向けた。

初級の治癒魔法しか使えない自分にイラついた。こんな時に、どうしてホルンやみんなはいないんだと考えた。

彼らがいれば一瞬で問題なんて解決できるのに。何故俺はいま、たったの一人なんだろう。

落ち込みそうになる心を何とか引き上げつつ、しばらく経過すると、両方共が動き始めた。

助かったとホッとしたら、イージスが突然に飛び起きて俺の胸に短剣を突き刺した。

お互いに目が合ってから、彼は間違えた事に気付いたようだ。

遅いよと思いながら、前のめりに蹲った。

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