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一章 滅びゆく定め

3 宇宙船キャニオンローズ

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1・

瓦礫に隠れて町中に着陸していたグレーピンク色の宇宙船キャニオンローズは、小型と中型の間ぐらいの微妙な大きさがあった。

素早さがなく防御力も無いかもしれない船でよく宇宙海賊をやっていると思ったが、そこは素人には分からない事情がきっとあるのだろう。

だから、何も突っ込み入れなかった。

そこに到着してまず、宇宙船の外でピッピを押収された。

普通だったら暴れたが、ピッピをさらっていったのが船の機関士の少女だったので、とりあえずの世話を任せるという意味で預けておいた。食事もくれるらしいし。

次に持ち物検査された。俺は何も持っていないと思い込んでいたが、革ベルトに最初からついていたポーチの中に、十グラムの金の延べ棒が三つ入っていた。

きっと、俺を追放するにしろすぐに死なれたくないカシミアの好意だろう。

それを引き渡して正式に、どこかの星まで連れて行ってもらえることになった。
とりあえず、お客として宇宙船に乗ることができたから良かった。

しかし部屋の余りがないとかで、連れて行かれたのが物置だった。

仕方がないので掃除道具の横に置かれた椅子に座ってぼんやりしていると、突然に船を揺らす衝撃が襲ってきて驚いた。

物置を飛び出して窓から外を見ると、空に宇宙船が一隻あって、遠慮なく連続砲撃してくるところだった。

危険を察知した俺はほぼ無意識でバンハムーバの龍神の力を操り、遠隔操作で星から青白いエネルギー流れを汲み上げて船を守る盾にした。

即興で作った盾にしては丈夫だったみたいで、この船自体のバリア機能も含めて船体に損傷はなかったようだ。

そうして砲撃を乗り越えた後、すぐにこちらの船が発進した。

いきなり全速力で地上から飛び立つなんて通常じゃあり得ないものの、躊躇したら死ねる状況だから普通といえば普通か。

船はあっという間に宇宙に出て行き、敵の方は追いかけてこなかった。

小さな窓から、宇宙空間を確認した。

青くて美しい海が自慢のバンハムーバの星に、その海の姿がない。ギラギラ輝く恒星にさらされ、水蒸気となり宇宙に放出されたのかもしれない。

当たり前ながら、既に自然界は崩壊している。バンハムーバを引っ越す時に全ての生物と植物のサンプルを持ち出して、別の星で育てていたと習った。

それらを里帰りさせることで、二千年後にはこの荒れ果てたバンハムーバも元通りに復元されるのだろう。

けれど、母なる星は滅びた。俺の目に、茶色い塊としか映らない。

俺の故郷はルハイドという別の星だが、しかし龍神としてバンハムーバ母星に愛着があった。
だから死体のような姿を見て、思った以上にショックだ。

窓の外のバンハムーバ母星は、どんどんと小さくなっていく。船はこのまま、別の安全な星に渡るのだろうか。

……そういえば、ピッピは無事なのか。確認しないといけない。

誰かが呼び止めてきたように感じたが、機関室に行けば会えるかもしれないと思って、ピッピを呼びつつそちら方面に突き進んでいった。

船の構造的に、そこが機関室かと思えた場所に入ってみると、突然襲いかかられた。

棒状の何かで素早く打ちかかってきたそいつの腕をカウンターで掴み、引くと同時に軽く足を蹴って床に転がした。

攻撃の鋭さから、かなりの手練の者と思う。けれど、龍神として怪力などの身体能力向上効果を持つ化け物レベルの俺にとっては、強敵ではない。

バンハムーバ人の金髪に青い目を持つ体格の良い女性は、転がされてもすぐに飛び起き、槍を握り直してまた攻撃を仕掛けようとしてきた。

「うわっ! 済まない、ごめん! ただ俺は猫を探してるんだ!」

両手を挙げて敵意がないことを示し、どうにか許してもらおうとした。

すると、目の前で槍が止まってくれた。

そして背後で、猫の鳴き声がした。

「ピッピちゃん、無事か!」

俺は笑顔で振り向き、ピッピを抱き締めている機関士の少女に飛び付いた。

猫を返してもらいたいだけなのだが、少女が怯えて悲鳴を上げた。

再び背後からの攻撃を感知したので、素早く振り向きざまに槍の穂先を受け止めてねじり取り、床に投げ捨てた。

槍は砕けて折れてしまった。体勢を崩した彼女が倒れそうになったから、ちゃんと受け止めてあげた。

「マジですまん。怪我はないか?」

一流の戦士だろうが美人である彼女を気遣ったものの、彼女は返事をせず無表情で俺から離れて壊れた槍を見た。

「えーと、弁償してあげたいけど、俺って無一文なんだ。許してくれ」

「おいちょっと」

廊下から呼びかけられたので、振り向いた。知らない顔の中に、あの童顔の男がいる。

「それは一体、どうやって破壊した?」

「あ……の、俺は身体能力向上魔法を学ぶ学生だったんだ。卒業してすぐこっちに来て……あの場所に捨てられた」

とりあえず簡単に説明してみた。
聞いた全員が不思議そうな表情をしたが、これからずっと取り引きがある彼らじゃないから、それ以上は教えない。

「髪の毛が長いし、やっぱり上級魔術師なんだな? 向こうに訓練室があるんだが、手合わせしてくれないか」

「ええ? いやそれよりピッピを返してくれ」

そう言うと、童顔男はピッピの前に立ち塞がった。

「返してほしくば、俺と手合わせしろ!」

「なんだよもう。俺は客だろが! そう言うなら金返せよ!」

「俺に一回勝ったら一本返すぞ」

「……よし、乗った」

無一文にとり、背に腹はかえられない。

本当は魔法を使っていないことは、本職の魔術師が見れば分かってしまう事だろう。けれども安易に正体をさらしたくないので、嘘を貫き通す。

訓練室に移動して童顔男イージスと戦ってみた結果、彼の戦い方が国際連合軍で教育を受けたもののように感じた。

基本的に綺麗な動きで、無駄がない。どこの地方の癖もない。
だけど無駄がないから俺みたいな存在自体が反則な奴にかかると、どんな武器でかかってこようが力押しで勝利できた。

彼は若いだけあり、まだ経験が足りない。

かく言う俺も若いが、宇宙軍士官学校の在学中に手練の教官たちに色々と教えてもらった経験がある。だからイージスよりは経験値があると思う。

そのイージスに三度勝ったところで、金の返却を希望した。

「ああ。新しい槍を買って渡しておく」

イージスはしれっと言った。まあ、予想はついていたが。

その後、なし崩し的に他の乗組員たちからも手合わせを頼まれたから、金及び物をくれと頼んで戦った。

この船の夜時間がやって来た頃には、小銭だけだがこの時代の現金を入手できていた。とてもありがたい。

2・

風呂を借りることができ、念願のピッピを取り戻して、みんなの好意で食堂のソファーで寝ていいことになった。

夜勤の乗組員がたまに通りかかる以外は静かで薄暗い場所で、ようやく落ち着いて自分の状況を考えられた。

未だに、なぜ自分が過去の世界に送られたのか分からない。
未来を救う為に、単純に俺の存在が邪魔で遠くにやっただけというなら、俺はこの世で何も考えずに好き勝手に生きてもいいだろうが。

けれど、どこだっていいなんて雑な追放をするなら、いちいちポーチに金を隠す事はない。

何かの訳があって、俺は狙ってここに飛ばされたんだろう。

そして完全な仮定だが、未来にいるカシミアたちが頑張ってホルンたちを消さないのではなく、過去の俺が何かして、ホルンたちを消さないようにしなくてはいけないような気がする。

そしてそれは、龍神の俺でしかできない事だ。そうでなけりゃ、大国のトップなんていうややこしい立場の俺以外を、この過去に送り込んだだろうし。

ホルンは準母星クリスタ出身だ。それが生み出される前に俺が送り込まれたというのは……もしかしたら、俺が何らかの手出しをしないとバンハムーバ準母星のクリスタが生まれないんじゃないだろうか。

バンハムーバ母星に龍神の力の源であるコアは無かったが、あれは持ち出された後というより、コアそのものが無い状態であるように感じる。
コアはどこに消えてしまったのか。それを探している者は、他にいるのだろうか。

この事実を知れた俺が何もしないでいるとクリスタが無くなり、ホルンが生まれず存在そのものが消えてしまうかもしれない。
クロも、前世がクリスタのバンハムーバ人だ。

ロルシュは、出自がクリスタにまったく関係無かった筈。だから消えない存在だったのかも?

この仮説を確かめる為には、今一度こちらの龍神に会って話を聞く方が良いだろう。龍神は変身していなくても仲間の龍神が判別できるし、偽者とは思われないだろうし。

それで必要なら、手を貸せばいい。その後、帰れるなら帰る方法を探そう。

せめてピッピだけでも、未来に返してやりたい。飼い主は俺だが、それよりも世話をしていたみんなの方に懐いていたし。

俺は、俺に添い寝してくれているピッピを見た。

未だに、どうして俺に飛び付いてきたのか分からない。誰かが一人で行かせるのは忍びなくて、投げつけてきたんだろうか。
なんて可哀想な事を。

でも、ピッピがいてくれると心が安まる。まだ全てと別れてしまった実感はないが、そのうちきっと悲しく思うだろう。

その時に、ピッピは傍にいてくれるだろうか。
それが……少し不安だ。
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