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一章 滅びゆく定め
2 焼け付く大地
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1・
脇腹に食らったダメージが思ったより大きくて、ヨロヨロしながら起き上がってみると、目の前の床に俺の飼い猫ピッピが転がっていた。
俺は声にならない悲鳴を上げ、あの瞬間に俺に飛び付いてきて一緒に来てしまったんだろうピッピを抱き上げ、必死になって治癒魔法を使用した。
グッタリして意識のなかったピッピは、目覚めるとすぐに暴れ始めた。
しかしさっきまでいた部屋とは周囲の様子が全く違う、こんな知らない場所で逃がしてしまっては問題なので、必死になってあやして落ち着かせた。
ピッピが落ち着いてくれたところで胸に抱きしめ、改めて周囲の様子を確認した。
知らない場所なのだが、石造りの建物自体は龍神の神殿と似通っている。
けれどさっきまでいた神殿の部屋には絨毯やその他の調度品があったのに、ここには絨毯どころか窓にガラスもカーテンもない。
そしてジリジリとやけつくような熱気が、外からやって来る。室内なのに、まるで真夏の浜辺にいて直射日光を浴びているようだ。
俺はカシミアに殺される事はなかったが、どこか知らない場所に飛ばされたのだけは確実だと思える。
誰かいれば事情が判明すると思い、その場を離れて歩き回ってみた。
しかし誰もいない。それに、全部の場所に物が無く、荒れ果てた廃墟と化しているのが分かった。
俺は最悪の展開を予想しつつも、広大な敷地を歩いて通過し神殿の正面玄関に回り込んだ。
巨大な石柱が支える大きな屋根を持つ玄関口にある紋章は、明らかにバンハムーバ王国の龍神のもの。
遠くの方に目をやると、バンハムーバ王族が暮らす為なのだろう城の姿が確認できた。
バンハムーバ母星の龍神の中央神殿とバンハムーバ王家の居城の位置取りは、それらが最初に建てられた数万年前から変わらない。
少しずつ位置をずらして新しい神殿や城を作り続けてきて、ずっとご近所に存在しているのは、バンハムーバの常識だ。
つまり、空にある恒星からの容赦ない熱波に焼かれるこの場所、この星は、間違いなくバンハムーバだ。けれど誰もおらず、確実に滅んでいる。
神殿を背にして町の様子に目をやっても、知らない町並みのそこは壊れて荒れ果てているだけの、無人の星だ。
全ての民はどこに行ったのか。それにバンハムーバなのに見慣れない世界は、どこなのか。
俺は、ピッピがいなかったらここで泣き叫んでしまっていたかもしれない。
でも、暑いのに直射日光を遮るために上着の中に押し込んでいるピッピがニャーニャー鳴くから、混乱する隙なんて無くなった。
「よしよし。良い子だな。お腹が減ったのか?」
そう言ってから、水も食べ物もないと気付いた。
誰もいない廃墟に、開店中のコンビニやレストランがあるとは思えない。
龍神の俺なら、無理すれば一ヶ月は飲まず食わずで活動できる。でも、子猫のピッピは今日の餌がないだけで弱ってしまう。この異常な暑さもあり、一週間も保たないだろう。
とにかくキャットフードをまず探したくて、ピッピを気遣いながら町中に走って行った。
瓦礫とゴミが散らばる道を進んでいき、発見したお店らしき場所に侵入して何かないか確認した。
けれども食べ物どころか、金目の物は一切残っていない。大勢の強盗がやって来て、綺麗に全て持ち去って行ったかのような徹底ぶりだ。
壊れた食器はあったから、俺はそれを手にして建物の陰に座り込んだ。
水だけならば、水神である龍神の力でいくらでも出現させることができる。
食器に少し水を溜めて地面に降ろしたピッピに差し出すと、彼女はそれを申し訳なさそうに舐めて飲み始めた。
その可愛い姿を見ながら、さっき拾った新聞紙と雑誌の切れ端を床に並べた。
熱気で劣化してぼろぼろの新聞紙と雑誌の発行日は、国際宇宙歴二万八千五百年。
俺が記憶している歴史上の最後の宇宙戦争があってから、千年も経っていない。
俺がいた時代は宇宙歴四万千五十五年。一万三千年ほど前の日付が、ここにあるという事だ。
もう、状況が呑み込めた。俺は過去のバンハムーバに飛ばされた。
しかもこの時代、バンハムーバのソーラーシステムを支える恒星が異常活動を始め、バンハムーバの母星を人が住めない灼熱の世界に変えたと習った。
バンハムーバ母星が唯一、滅亡の危機に瀕した時代だ。
この時、バンハムーバの民は龍神も含めて他の星に引っ越した。そして恒星の異常を収める研究を続け、二千年後には再びこのバンハムーバ母星に戻ってきた筈。
で、今がいつなのか分からないが、町の様子が酷いといっても建物の基礎がしっかりしているし新聞紙が完全に崩壊していないから、逃げてからそんなに時間が経っていないと思える。
あの恒星が落ち着くのは、それこそ二千年後ぐらいだろう。
それまで、ここで一人で生きられる訳がない。俺だけなら龍神に変身して宇宙に逃げ出し、別の星まで生きたまま渡れる。でもピッピは無理だ。
どこかに残された宇宙船を見つけて、それを使って逃げない限り干物になってしまう。
でも、きっとそんな都合の良い船なんてないだろう。それでも探さないと、ピッピは……。
駄目な未来を思い描いても仕方がないので、そういう雑念は首を振って全部追い出した。
もう水を飲み終わったピッピを抱き上げ上着に入れてから、また町の様子を見に行った。
宇宙船が残されている可能性があるのは、お城か宇宙軍の基地かだろう。
しかし日が出ている間に動くと、この暑さでピッピが弱ってしまう。しかし急がないと、命に関わる。
どうすればいいんだと悩み、また物陰に座り込んだ。
そして生ぬるい温度の地面に手を当てて、ふと気付いた。
今この時代に、バンハムーバ母星から龍神の力の源であるコアが運び出され、クリスタに移植されて準母星になる筈。
コアには、宇宙でだろうが母星上であろうが、死んでいった歴代の龍神たちの体から自由になった始祖の龍神の力が寄り集まるようになっており、バンハムーバ人たちが次の龍神として覚醒する時の力の供給を助ける。
コアが無くても龍神の力は、始祖の龍神の身体を供物として受け取ったバンハムーバ母星に寄り集まる性質があるようながら、そうして溜まった力は母星に存在するか、その比較的近隣の星にいるバンハムーバ人に宿りやすい。
遠くの星にいても龍神に覚醒する器がある者の力が強ければ、龍神として覚醒できるかもしれないが、それは相当低い確率になるだろうと言われている。
だからバンハムーバ人がいなくなった母星にコアがあっても、今までのようには龍神が生まれなくなる。バンハムーバ人の心の拠り所であり最高権力者、かつ戦闘力的に優れた守護者がいなくなる。
バンハムーバは宇宙文明を二分する大国の片翼だが、龍神がいなくなれば勢力図は確実に書き換えられる。
再び宇宙戦争が起こってもおかしくないし、その戦いでバンハムーバが負ける確率が高い。
誰しも思い浮かぶ駄目な未来を回避するため、この時代の龍神は母星からコアを持ち出した……というのが、俺の知る歴史。
そしてその準母星クリスタへの移植は、民が完全に避難してから行われたと聞いている。
もし今、まだ龍神の力の源であるコアが星の中にあれば、これから龍神の誰かが拾い上げに来る筈だ。きっと部下もいっぱい連れて来るだろう。
その時に発見して貰えるなんて幸運は……いや、あるかもしれない。
早速確認だ!
俺は龍神の中でも、星を流れる龍神の力のコントロールが大得意だ。だから龍神に変身して龍脈から星の中に潜らなくても、地面に手を当てて意識を地下に飛ばすだけで、コアの様子が観察できる。
……のだが、星の中をいくら探しても、龍神の力の源が無い。
既に持ち出された……にしては、バンハムーバの星全体に流れる龍神の力が膨大だ。
龍神が同時期に発生するのは四人程度の筈で、それ以降は力が足りずに覚醒する人がいなくなる。
今、このバンハムーバにある龍神の力は、あと二人ぐらい発生していてもおかしくない程に満ちあふれている。
コアが持ち出されていれば、この力も一緒に引っ越しする筈だ。
なのに引っ越していないらしい状況がある。意味が分からない?
考え込んでいる間に、空が薄暗くなってきた。もう夕方になったのかと空を見上げ、そこに雨雲をまとった一頭の龍神の姿が浮かんでいるのを発見して驚いた。
青く輝く体を持つ、体長百メートルはある立派な龍神だ。この時代の龍神だ。
乾いた大地に僅かな雨を降らしつつ上空を通り過ぎようとする龍神を、俺は追いかけて走った。
そして分かって貰いたくて大声で叫んでみたら、足元に鋭い何かが突き刺さった。
立ち止まってそれがやって来た方を見ると、瓦礫に隠れて銃を構えた男が一人、口元に指を一本立てて俺を凝視していた。
人がいた! と驚くと同時に、逆側から腕を掴まれ物陰に引っ張り込まれたので、悲鳴を上げそうになった。
けれど、悲鳴を上げるとピッピが怯えるだろうから全力で堪えた。
俺を物陰に引き込んだ黒髪長髪で目つきの鋭い若い男は、さっきのと同じように口元に指を一本立てた。
静かにしろという意味だと分かったので頷いて、空を泳ぐ龍神を見送るだけで済ませた。
龍神の姿が遠くの空に消えてから、俺を捕まえたイケメン黒髪男に質問した。
「なんで、龍神と接触したらいけないんだ」
「そう言うという事は、お前は取り残された国民か。全国民避難から二年間も、どこで何をしていた」
「ああ……迷子だった。いや、違う場所で仕事があった」
「仕事か」
切れ長の目のイケメンは、通信機器なのだろうイヤーカフに触れて小声で何かを伝えた。
背後で足音がしたので振り向くと、俺の足元を狙撃した童顔だが背の高い男が近付いてきていた。
「そっちは何者なんだ?」
「え? いや、この格好見て気付かないのか? どう見ても海賊だろ」
「……なるほどな」
彼らのようなのが、バンハムーバに残された物資を奪い取ったおかげで、町中が荒れ放題になっているのか。
そして、龍神に見つかったら駄目な理由も納得した。
「海賊に偏見があるのか?」
バンハムーバ人らしい金髪で青い目の童顔男は、愛想が良いながら手強い雰囲気を崩さない。
俺は大勢の軍人とつき合いがあった身だから、彼が軍人ぽいと気付いた。
「偏見というか……犯罪行為は嫌いだが、海賊を狩る海賊にはなってみたい。俺の夢だ」
前に、龍神で海賊だった存在がいると聞いたことがある。だから、龍神だけどいつかなれると夢見ていた。
「義賊に憧れてても、実際はそんな楽に戦闘に勝てる訳がないんだから、なれっこないぞ」
「いや、俺ならなれる。なってみせる。船さえあれば、この世界でも――」
思わず熱く語ろうとすると、上着の中のピッピが暴れ出した。
海賊の二人は驚いて銃口を向けてきたが、俺は動じずにピッピを上着から出した。
「お願いがある。キャットフードを売ってくれ」
「あるわけないだろ」
銃を下ろしてくれた童顔男が、呆れたように答えた。
ならば、船に乗せて近くの星まで送っていってと頼んだ。
彼らはどこかと通信を入れてから、俺を彼らの宇宙船まで案内してくれた。
脇腹に食らったダメージが思ったより大きくて、ヨロヨロしながら起き上がってみると、目の前の床に俺の飼い猫ピッピが転がっていた。
俺は声にならない悲鳴を上げ、あの瞬間に俺に飛び付いてきて一緒に来てしまったんだろうピッピを抱き上げ、必死になって治癒魔法を使用した。
グッタリして意識のなかったピッピは、目覚めるとすぐに暴れ始めた。
しかしさっきまでいた部屋とは周囲の様子が全く違う、こんな知らない場所で逃がしてしまっては問題なので、必死になってあやして落ち着かせた。
ピッピが落ち着いてくれたところで胸に抱きしめ、改めて周囲の様子を確認した。
知らない場所なのだが、石造りの建物自体は龍神の神殿と似通っている。
けれどさっきまでいた神殿の部屋には絨毯やその他の調度品があったのに、ここには絨毯どころか窓にガラスもカーテンもない。
そしてジリジリとやけつくような熱気が、外からやって来る。室内なのに、まるで真夏の浜辺にいて直射日光を浴びているようだ。
俺はカシミアに殺される事はなかったが、どこか知らない場所に飛ばされたのだけは確実だと思える。
誰かいれば事情が判明すると思い、その場を離れて歩き回ってみた。
しかし誰もいない。それに、全部の場所に物が無く、荒れ果てた廃墟と化しているのが分かった。
俺は最悪の展開を予想しつつも、広大な敷地を歩いて通過し神殿の正面玄関に回り込んだ。
巨大な石柱が支える大きな屋根を持つ玄関口にある紋章は、明らかにバンハムーバ王国の龍神のもの。
遠くの方に目をやると、バンハムーバ王族が暮らす為なのだろう城の姿が確認できた。
バンハムーバ母星の龍神の中央神殿とバンハムーバ王家の居城の位置取りは、それらが最初に建てられた数万年前から変わらない。
少しずつ位置をずらして新しい神殿や城を作り続けてきて、ずっとご近所に存在しているのは、バンハムーバの常識だ。
つまり、空にある恒星からの容赦ない熱波に焼かれるこの場所、この星は、間違いなくバンハムーバだ。けれど誰もおらず、確実に滅んでいる。
神殿を背にして町の様子に目をやっても、知らない町並みのそこは壊れて荒れ果てているだけの、無人の星だ。
全ての民はどこに行ったのか。それにバンハムーバなのに見慣れない世界は、どこなのか。
俺は、ピッピがいなかったらここで泣き叫んでしまっていたかもしれない。
でも、暑いのに直射日光を遮るために上着の中に押し込んでいるピッピがニャーニャー鳴くから、混乱する隙なんて無くなった。
「よしよし。良い子だな。お腹が減ったのか?」
そう言ってから、水も食べ物もないと気付いた。
誰もいない廃墟に、開店中のコンビニやレストランがあるとは思えない。
龍神の俺なら、無理すれば一ヶ月は飲まず食わずで活動できる。でも、子猫のピッピは今日の餌がないだけで弱ってしまう。この異常な暑さもあり、一週間も保たないだろう。
とにかくキャットフードをまず探したくて、ピッピを気遣いながら町中に走って行った。
瓦礫とゴミが散らばる道を進んでいき、発見したお店らしき場所に侵入して何かないか確認した。
けれども食べ物どころか、金目の物は一切残っていない。大勢の強盗がやって来て、綺麗に全て持ち去って行ったかのような徹底ぶりだ。
壊れた食器はあったから、俺はそれを手にして建物の陰に座り込んだ。
水だけならば、水神である龍神の力でいくらでも出現させることができる。
食器に少し水を溜めて地面に降ろしたピッピに差し出すと、彼女はそれを申し訳なさそうに舐めて飲み始めた。
その可愛い姿を見ながら、さっき拾った新聞紙と雑誌の切れ端を床に並べた。
熱気で劣化してぼろぼろの新聞紙と雑誌の発行日は、国際宇宙歴二万八千五百年。
俺が記憶している歴史上の最後の宇宙戦争があってから、千年も経っていない。
俺がいた時代は宇宙歴四万千五十五年。一万三千年ほど前の日付が、ここにあるという事だ。
もう、状況が呑み込めた。俺は過去のバンハムーバに飛ばされた。
しかもこの時代、バンハムーバのソーラーシステムを支える恒星が異常活動を始め、バンハムーバの母星を人が住めない灼熱の世界に変えたと習った。
バンハムーバ母星が唯一、滅亡の危機に瀕した時代だ。
この時、バンハムーバの民は龍神も含めて他の星に引っ越した。そして恒星の異常を収める研究を続け、二千年後には再びこのバンハムーバ母星に戻ってきた筈。
で、今がいつなのか分からないが、町の様子が酷いといっても建物の基礎がしっかりしているし新聞紙が完全に崩壊していないから、逃げてからそんなに時間が経っていないと思える。
あの恒星が落ち着くのは、それこそ二千年後ぐらいだろう。
それまで、ここで一人で生きられる訳がない。俺だけなら龍神に変身して宇宙に逃げ出し、別の星まで生きたまま渡れる。でもピッピは無理だ。
どこかに残された宇宙船を見つけて、それを使って逃げない限り干物になってしまう。
でも、きっとそんな都合の良い船なんてないだろう。それでも探さないと、ピッピは……。
駄目な未来を思い描いても仕方がないので、そういう雑念は首を振って全部追い出した。
もう水を飲み終わったピッピを抱き上げ上着に入れてから、また町の様子を見に行った。
宇宙船が残されている可能性があるのは、お城か宇宙軍の基地かだろう。
しかし日が出ている間に動くと、この暑さでピッピが弱ってしまう。しかし急がないと、命に関わる。
どうすればいいんだと悩み、また物陰に座り込んだ。
そして生ぬるい温度の地面に手を当てて、ふと気付いた。
今この時代に、バンハムーバ母星から龍神の力の源であるコアが運び出され、クリスタに移植されて準母星になる筈。
コアには、宇宙でだろうが母星上であろうが、死んでいった歴代の龍神たちの体から自由になった始祖の龍神の力が寄り集まるようになっており、バンハムーバ人たちが次の龍神として覚醒する時の力の供給を助ける。
コアが無くても龍神の力は、始祖の龍神の身体を供物として受け取ったバンハムーバ母星に寄り集まる性質があるようながら、そうして溜まった力は母星に存在するか、その比較的近隣の星にいるバンハムーバ人に宿りやすい。
遠くの星にいても龍神に覚醒する器がある者の力が強ければ、龍神として覚醒できるかもしれないが、それは相当低い確率になるだろうと言われている。
だからバンハムーバ人がいなくなった母星にコアがあっても、今までのようには龍神が生まれなくなる。バンハムーバ人の心の拠り所であり最高権力者、かつ戦闘力的に優れた守護者がいなくなる。
バンハムーバは宇宙文明を二分する大国の片翼だが、龍神がいなくなれば勢力図は確実に書き換えられる。
再び宇宙戦争が起こってもおかしくないし、その戦いでバンハムーバが負ける確率が高い。
誰しも思い浮かぶ駄目な未来を回避するため、この時代の龍神は母星からコアを持ち出した……というのが、俺の知る歴史。
そしてその準母星クリスタへの移植は、民が完全に避難してから行われたと聞いている。
もし今、まだ龍神の力の源であるコアが星の中にあれば、これから龍神の誰かが拾い上げに来る筈だ。きっと部下もいっぱい連れて来るだろう。
その時に発見して貰えるなんて幸運は……いや、あるかもしれない。
早速確認だ!
俺は龍神の中でも、星を流れる龍神の力のコントロールが大得意だ。だから龍神に変身して龍脈から星の中に潜らなくても、地面に手を当てて意識を地下に飛ばすだけで、コアの様子が観察できる。
……のだが、星の中をいくら探しても、龍神の力の源が無い。
既に持ち出された……にしては、バンハムーバの星全体に流れる龍神の力が膨大だ。
龍神が同時期に発生するのは四人程度の筈で、それ以降は力が足りずに覚醒する人がいなくなる。
今、このバンハムーバにある龍神の力は、あと二人ぐらい発生していてもおかしくない程に満ちあふれている。
コアが持ち出されていれば、この力も一緒に引っ越しする筈だ。
なのに引っ越していないらしい状況がある。意味が分からない?
考え込んでいる間に、空が薄暗くなってきた。もう夕方になったのかと空を見上げ、そこに雨雲をまとった一頭の龍神の姿が浮かんでいるのを発見して驚いた。
青く輝く体を持つ、体長百メートルはある立派な龍神だ。この時代の龍神だ。
乾いた大地に僅かな雨を降らしつつ上空を通り過ぎようとする龍神を、俺は追いかけて走った。
そして分かって貰いたくて大声で叫んでみたら、足元に鋭い何かが突き刺さった。
立ち止まってそれがやって来た方を見ると、瓦礫に隠れて銃を構えた男が一人、口元に指を一本立てて俺を凝視していた。
人がいた! と驚くと同時に、逆側から腕を掴まれ物陰に引っ張り込まれたので、悲鳴を上げそうになった。
けれど、悲鳴を上げるとピッピが怯えるだろうから全力で堪えた。
俺を物陰に引き込んだ黒髪長髪で目つきの鋭い若い男は、さっきのと同じように口元に指を一本立てた。
静かにしろという意味だと分かったので頷いて、空を泳ぐ龍神を見送るだけで済ませた。
龍神の姿が遠くの空に消えてから、俺を捕まえたイケメン黒髪男に質問した。
「なんで、龍神と接触したらいけないんだ」
「そう言うという事は、お前は取り残された国民か。全国民避難から二年間も、どこで何をしていた」
「ああ……迷子だった。いや、違う場所で仕事があった」
「仕事か」
切れ長の目のイケメンは、通信機器なのだろうイヤーカフに触れて小声で何かを伝えた。
背後で足音がしたので振り向くと、俺の足元を狙撃した童顔だが背の高い男が近付いてきていた。
「そっちは何者なんだ?」
「え? いや、この格好見て気付かないのか? どう見ても海賊だろ」
「……なるほどな」
彼らのようなのが、バンハムーバに残された物資を奪い取ったおかげで、町中が荒れ放題になっているのか。
そして、龍神に見つかったら駄目な理由も納得した。
「海賊に偏見があるのか?」
バンハムーバ人らしい金髪で青い目の童顔男は、愛想が良いながら手強い雰囲気を崩さない。
俺は大勢の軍人とつき合いがあった身だから、彼が軍人ぽいと気付いた。
「偏見というか……犯罪行為は嫌いだが、海賊を狩る海賊にはなってみたい。俺の夢だ」
前に、龍神で海賊だった存在がいると聞いたことがある。だから、龍神だけどいつかなれると夢見ていた。
「義賊に憧れてても、実際はそんな楽に戦闘に勝てる訳がないんだから、なれっこないぞ」
「いや、俺ならなれる。なってみせる。船さえあれば、この世界でも――」
思わず熱く語ろうとすると、上着の中のピッピが暴れ出した。
海賊の二人は驚いて銃口を向けてきたが、俺は動じずにピッピを上着から出した。
「お願いがある。キャットフードを売ってくれ」
「あるわけないだろ」
銃を下ろしてくれた童顔男が、呆れたように答えた。
ならば、船に乗せて近くの星まで送っていってと頼んだ。
彼らはどこかと通信を入れてから、俺を彼らの宇宙船まで案内してくれた。
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