上 下
34 / 69
{ 竜王編 }

34. 宴

しおりを挟む
粛々と式典は進められ、ようやく全ての儀式を終えたのは、陽が沈みかけた頃だった。
舞踏会場へと続く、王族控え室で……彼女を出迎えた。

その瞳と同じ色のドレスを身に纏った彼女は……燦然とした輝きを放っていた。
朝抱きしめたその感触が、まだ残るその腕に、彼女を迎え入れる。

どこか心あらずといった様子で、遠慮がちに微笑む彼女に、もどかしさを覚えつつも……手を差し出すと、その頬に赤みが増した。

王族専用の扉が開かれた。

「我らが竜人族の崇高なる王! カイラス・ノルデンシュルド陛下!
……そして、ロマルス皇国の姫、ルミリーナ・セウェル・ロマルス様!」

大広間に集まった列席者がこちらを一斉に見上げる。
彼女の手が僅かにこわばった。
腕に添えられたその細い指先を包み込むように……自分の手を重ねる。
広間へと続く階段を、手を繋ぎ彼女の数歩前に立ち、ゆっくりと降りて行く。

『綺麗だ』

そう囁くと、俯き足元を見ていた彼女が顔をあげ、真正面で目が合った。

輝きに満ちた微笑みが広がった……。
彼女を飾る宝石でさえ、その笑顔の前ではくすんで見える。

見つめ合うほど、ルミの虜になっていく自分がいる。
その感情は心地良くあると同時に……どこまでも深みに嵌まっていくようで、恐ろしくもある……。

ルミを初めて目にする者達も、今日この場で、私の横に並ぶ彼女が、どういう存在か……認識するだろう。

拍手に包まれながら……広間の中央に足を運ぶ。
向かい合わせになり、会釈をすると、また完璧な所作で美しいお辞儀を返された。
女と踊ることなど、苦痛でしかなかったが……
まさか、心躍らすような……このような気持ちを抱くようになるとは……。

この場の主役は俺ではない。
ここに至った全ては、ルミの為に行動した結果であり……俺にとって、主役は常にルミだった。
だが彼女がそれに気づくことはないだろう。
……それでいい。
(お前を囲み、縛り付け、お前の愛情を独占しようとする、この企みに……どうか気付かないで欲しい)

演奏が始まった……。
身体を寄せ、ゆっくりとステップを踏む。
その演舞曲は、まるで生まれて初めて耳にするかのように新鮮で、心地よく……目の前の最愛の人と、寄り添い見つめ合いながら踊るその行為が……奇跡のように尊いものと思えた。
ここに至るまで自分を思い悩ました事全て、今この瞬間に昇華されていく……。

踊りは終盤を迎えた。
片腕を伸ばすと彼女が身を翻しひとり軽やかにターンし離れ、横でピタリと止まった。
そしてその瞬間、彼女の両肩からその背に密着するように垂れ下がった白い布が……ほんの僅かに、翻った。
盛大な拍手が会場を包む……。
一瞬自分の目が捉えたその何か……その正体に、理解が追いつかず……
背筋に凍るものが走った時、考える間も無く、その身を引き寄せ、強く抱きしめていた。

そのまま膝から抱き上げると、驚いた彼女が首に手をまわす。
見上げると、目があった。戸惑い、困惑したその表情……。

今、衆目の視線を浴びる、この場で……何も言ってはいけない……。
彼女を困らせてはいけない……。

懸命に自分を抑える。
だが……とてもこの場に留まることは出来なかった。
彼女を抱き上げたまま、先程降りてきた階段を駆け上がり、彼女の部屋へ向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。 十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。 途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。 それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。 命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。 孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます! ※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)

夕立悠理
恋愛
 伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。 父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。  何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。  不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。  そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。  ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。 「あなたをずっと待っていました」 「……え?」 「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」  下僕。誰が、誰の。 「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」 「!?!?!?!?!?!?」  そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。  果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

【完結】身代わりの人質花嫁は敵国の王弟から愛を知る

夕香里
恋愛
不義の子としてこれまで虐げられてきたエヴェリ。 戦争回避のため、異母妹シェイラの身代わりとして自国では野蛮な国と呼ばれていた敵国の王弟セルゲイに嫁ぐことになった。 身代わりが露見しないよう、ひっそり大人しく暮らそうと決意していたのだが……。 「君を愛することはない」と初日に宣言し、これまで無関心だった夫がとある出来事によって何故か積極的に迫って来て──? 優しい夫を騙していると心苦しくなりつつも、セルゲイに甘やかされて徐々に惹かれていくエヴェリが敵国で幸せになる話。

【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される

未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】 ミシェラは生贄として育てられている。 彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。 生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。 繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。 そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。 生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。 ハッピーエンドです! ※※※ 他サイト様にものせてます

処理中です...