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【プロローグ】始まりの一服

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    綺麗な季節の花達が咲き乱れるそれなりに見慣れた婚約者の家の東屋で、つい昨日見た朱金の髪に漆黒の瞳の婚約者の顔を見ながらいつも通り用意して貰ったお茶を1口飲んで私は文字通り固まり


ーーこの紅茶一服盛られている


という事に気付いてしまった。




◇◇◇◇◇◇◇◇


    私、ジュリアンナ・リモーネは世間から魔女と呼ばれています。



と言っても魔術が使えるとかそういう本物の魔女ではなく、沢山の薬を作って許可を取り、下町で販売していて、一応貴族の端くれなので身バレ防止で頭から足元まですっぽりとローブを被り商売をしているので通り名として【正体不明の薬術魔女】と呼ばれています。


もちろん身内と師匠以外は私の正体は知りません。



    私は毎日楽しく薬を作っているだけで良いのに心配性な両親が私に内緒でいつの間にか侯爵令息との婚約を結んでました。



向こうも私も乗り気では無かったので会うのは月1開催の互いの家でのお茶会と、エスコートが必要な場合のみ。なので当然私が薬術魔女こんなことをしているのは婚約者は知らないはず、そう、知らないはずなんです。



なのに…



「失礼する、こちらは薬術の魔女殿のお店で間違いないだろうか?」



「申し訳ございません、魔女様は只今調剤中で手が離せない様でして、私が伺わせて頂きます。」



来客の音がしたので店裏の扉から、顔を出そうとすると何故か今このお店に居るはずのない人物の声でした。



    片方は今朝出かける前に聞いた声だし、もう片方はちらっと見えた目立つ朱金の髪で恐らく婚約者と思われる。





何故が私の婚約者が???



と悶々と悩んでいる間にどうやら婚約者は帰って行った様で扉の開閉音がして店は静寂を取り戻した。



「もう良いよ」


と声がしたのでひょっこりと顔を出すと…



「兄様…」



そこには何故か今朝出掛ける前に会ったはずの兄が完璧な変装をして立っていた。



    兄は限りなく銀に近い水色の髪に紅玉を溶かしこんだ様な綺麗な赤い瞳の人間離れをした美形の持ち主なのだが、今は水色の長い髪はこげ茶色の短髪だし瞳は私と同じ翠色になっていた。


美形の面影は無く、下町にいる兄ちゃん風になっている。 


自分の容姿がとても目立つのを理解している兄様が編み出したオリジナルの変身術らしい。



「良かったよかった、何となく胸騒ぎがして急いでアンナを追い掛けて来て店番をしといて正解だったね」



「…あの、」



「それにしても困った者だね、いきなり訪ねてきて」



「兄様、仕事は…」



「ああ、大丈夫だよ。しっかり売りつけてやったから」



「そうじゃなくて…仕事」



のらりくらりと会話を避けるが本来兄は王城で仕事中のはずである。


朝から会議があると文句を言っていたので間違いない。



のにここに居るという事は…



「分かりました。リーナ様に連絡しますね」
「!待って!辞めて!それだけは!!!!」



リーナ様というのは兄様の副官をしている方で魔術はもちろん武力も強く、逃亡癖のある魔術師団長兄様を物理で締め上げる事が出来る素敵で頼りになる女性です。



辞めて、帰る、いえ、戻りますからぁ!!


と泣いている兄様を放置して私は右耳のピアスをトントンと2度叩きリーナ様に連絡を取る。



『アンナ様ですか?どうしました?』



直ぐにリーナ様から応えがありピアスからハスキーボイスが聞こえる。ちなみに兄様の顔面は蒼白になっています。



「すみません、兄様がいつの間にか私のお店に居まして…」



『…………そうですか、会議の準備で忙しい時を狙って逃げたんですね、ありがとうございます、今行きます。』



その後直ぐに通信は切れ、兄様は絶望した様な顔をしていてとても心苦しいのですが、仕事を放り出すのは駄目です。



「お待たせしました。団長の回収に来ました。」



ふわりと扉も開けずに店の中に降り立った黒い団服に身を包んだ赤髪の女性ーリーナ様は着地と同時に兄様にかかと落としを入れてました。
相も変わらず鮮やかな仕留め方です。



兄様は魔術は一応この国一強いのですが体力と腕力は非力なのでリーナ様に頭が上がらないんです(物理で)




すみませんでしたと泣いている兄様を回収してリーナ様は再び飛んで王城へ戻っていきました。



さて、やっと落ち着いたのであの婚約者が一体何を求めにやってきたのか在庫を確認してみましょう。



「んん???」




私は在庫と兄様が受け取った硬貨を照らし合わせて首を捻った。



無くなった薬(()内は1瓶の値段)
・腹痛薬    1瓶  (銅貨2枚)
・睡眠薬    1瓶  (銅貨5枚)
・解熱薬    1瓶  (銅貨2枚)
・増血薬    1瓶  (銅貨4枚)
・麻酔薬    1瓶  (銀貨1枚)
・麻痺薬    1瓶  (銀貨1枚)



合計銀貨3枚と銅貨3枚あれば十分なのにあるのは金貨3枚(銅貨10枚=銀貨1枚、銀貨100枚=金貨1枚)とか過剰に貰いすぎですし、これじゃぼったくりもいい所です……



というか婚約者は何を買いたかったんです?睡眠薬に麻酔薬に増血薬………婚約者は医者ではなく普通の騎士だったと記憶しているのですが…




…次に会う時にさり気なく余剰分はお返ししましょう、訴えられたくないので………






◇◇◇◇◇◇◇◇◇


という事が昨日あり、私は婚約者とのお茶会にこっそりおつりを持ち込み今に至った訳です。



で、婚約者様、私にを盛って何か恨みでもおありですか?

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