上 下
10 / 14
リピート:2

10話 転入生

しおりを挟む
「えぇ、今日からこのクラスの仲間になった三隅祐幸君だ。三隅君は前田市からご両親の都合でこちらに来る事になった。みんな仲良くするように、では日直」

「きりーつ、れい」



 あれから友作はニ度目の、否三度目の小学6年を過ごす事となった。

 前回の時は自分の将来を変える事に精一杯で、特に気に留めていなかった転入生、三隅祐幸。

 だがこの三隅と友作は、後に今までの派閥を全て捨てる程共に短くも長い時を過ごすかけがえの無い親友になる筈であった。


 それが本来の歴史であり、その記憶の断片を友作はこの瞬間確かに取り戻していた。

 しかしそのきっかけは一体何だったか。

 最も大切なそれをどうしても思い出せぬまま、転入生三隅祐幸の紹介は終わる。



「おぉーい! 友、八幡公園行こーぜ」

「友君早くしないとあの場所取られるって」

「わかった、わかった。今行くって」


 今日は始業式でHRが終わり次第自由の身となれる、小学生にとっては貴重な一日である。

 恐らく他のクラスの人間の幾ばくかも友作達と同様、学校近くの八幡八幡神社に隣接する八幡公園へ集まるだろう。


 そこで何をするというわけでもないが、近くの駄菓子屋で様々な資材を仕入れ思い思いの遊び方で時を過ごすのだ。


 しかしその公園における場所取りについては、やはりそれなりのヒエラルキーが存在する。

 学年、有名度、そして何より、早いもの勝ちであった。


 恐らくは公園内の敷地、その大半を占める神社境内を使って遊ぶ事になるであろう人間にとって、如何に早く公園へ到着するかが今日を楽しむ為の重要な岐路となるのだ。


 友作は担任教師に席やら何やらを紹介され、一人ポツンと明日の為の準備をする転入生三隅を一瞥すると、親友達と共に教室を出た。



「っしゃあ! 一番乗りぃ、宏場所取りな!」

「えぇ! 俺駄菓子屋行きたかったぁ、てか大地金持ってんのかよぉ?」

「あぁ? なめんなよ、俺は今日100円持ってる! ウマメン二個も買えるぜ」

「相変わらず貧乏だなぁ、どっかのお坊ちゃんとは大違いだ」



 子供らしいやり取りにふと笑いが込み上げて来た友作は、場所取りは自分がやるからいいと二人を見送る事にした。


 友作にとってこの一年は本当に幸せな日々であった。

 日銭を必死で稼ぎ、その日を暮らすので精一杯だったあの頃。


 日々変わる職場。
 休憩時間は与えられず、トイレでこっそりとパンを齧りながら休むような毎日。

 トイレットペーパーすら買えずに駅から盗んだ日もあった。

 そこから必死の思いで這い上がろうと、正社員になるも、結果的にブラック企業でゴミのように使われ、挙句女運の悪さまで最悪だった人生。

 それが今では過去に戻っただけにも関わらず、夢のような毎日を過ごしている。 

 これは一体誰の采配か、神も流石の有様に同情でもしたのだろうか。

 どこか晴れ晴れとした表情で物思いに耽る友作の背中に、細くどこか優しい絹のような感触が滑る。


「ゆーくん! 何してんのぉ?」

「さゆこそ、こんな所で暇してないで勉強した方がいいぞ。変な男に騙されないよーにな」

「えぇー、なにーそれ!」


 三河さゆりはたまにこうして友作の元へ突然現れては、何気ない会話でちょっかいを掛けていた。

 しかし今の三河は同年代女子陣でも人気トップ3位には入るのではないだろうかと思われるほどに交友関係も広い。

 友作達が遊んでやっていると言うよりは、最早三河に対して、いつも構ってくれてありがとうと言うべき存在になっていた。


 そしてそれが本来の形。
 ただ少し前世と違うのは、友作が三河さゆりの事をさゆと呼ぶようにした事位だろう。


 それは友作にとって友好の証であり、自分にとって三河がかけがえの無い友人だと感じてしまったから。

 そして何より今の友作は、30年を費やした前世の記憶を有用に使いながら、今この年齢を楽しむと決めた結果でもあった。


「ゆーくんは頭いいもんねぇー、あんなのとふざけてばっかりのくせに」


 三河は遠目に小さいカップ麺から溢れるお湯にあたふたしながら笑い合う宏と大地を恨めし気に見つめながらそう言った。


「まぁ、今の段階では、だけど。でも本当、遊ぶ相手はなんだかんだ選ばないと。さゆが変なギャルにでもなってしょうもない男に捕まるのは見たくない、というか、まあ、そんな感じだ」

「だぁかぁら、なにそれ、パパみたいなこと言う」


 確かに前世の自分はその位のおっさんだったなと、油断するとつい出てしまうおっさん節に今後気をつけなければと友作は思案を巡らせた。


「じゃあ、遊ぶ相手はゆーくんにしよ! ねぇ、宏、大地、私も混ぜてー」


 可愛らしい好意の言葉に返事する間もなく、三河は気恥ずかしさを隠すように二人の男子の元へと走っていった。




「熱っつぅ!」

「ばぁか、お前お湯入れ過ぎなんだよっ!!」

「うぉぉ! てめぇ、俺のウマメンがぁ!」

「あはは、いいよいいよまた買ってあげるからさ」

「いやでもよぉ」


 何やら駄菓子のラーメンをこぼして揉めながら戻ってくる大地と宏に、追加でもう一人のメンバーまで加わり賑わっていた。

 桑野圭。
 お金持ちの家らしく、羽振りがいいが全く嫌味の無い男子だ。

 更にそれにくっついて来たのか、他の女子陣まで集まり大所帯となって戻ってきた貧乏と普通家庭の悪ガキ二人。

「あぁ、さゆりー!」

「わぁ、りほりほー」

「友! 見ろよ、ウマメン、大量!」

「圭ちゃんに奢ってもらっただけだろが、肝心の銃はどこ行った、銃は」


 全く、と。

 何故こんなにも多くの友人がいた事を今まで忘れてしまったのだろうか。

 いつから自分は一人になってしまったのか。

 つい過去を思い出し、後悔の念が押し寄せる。

 友人が居なくなった事は、全て友作自身が決めて進んだ結果。

 そしてその先の未来も。


 だが今はそんな未来の事よりも、今この瞬間だけを無性に大切にしたかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~

テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。 なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった―― 学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ! *この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

ゆめまち日記

三ツ木 紘
青春
人それぞれ隠したいこと、知られたくないことがある。 一般的にそれを――秘密という―― ごく普通の一般高校生・時枝翔は少し変わった秘密を持つ彼女らと出会う。 二つの名前に縛られる者。 過去に後悔した者 とある噂の真相を待ち続ける者。 秘密がゆえに苦労しながらも高校生活を楽しむ彼ら彼女らの青春ストーリー。 『日記』シリーズ第一作!

魔法少女の敵なんだが魔法少女に好意を寄せられて困ってる

ブロッコリークイーン
青春
この世界では人間とデスゴーンという人間を苦しめることが快楽の悪の怪人が存在している。 そのデスゴーンを倒すために魔法少女が誕生した。 主人公は人間とデスゴーンのハーフである。 そのため主人公は人間のフリをして魔法少女がいる学校に行き、同じクラスになり、学校生活から追い詰めていく。 はずがなぜか魔法少女たちの好感度が上がってしまって、そしていつしか好意を寄せられ…… みたいな物語です。

萬倶楽部のお話(仮)

きよし
青春
ここは、奇妙なしきたりがある、とある高校。 それは、新入生の中からひとり、生徒会の庶務係を選ばなければならないというものであった。 そこに、春から通うことになるさる新入生は、ひょんなことからそのひとりに選ばれてしまった。 そして、少年の学園生活が、淡々と始まる。はずであった、のだが……。

EAR OF YOUTU

チャッピー
青春
今年から高校生となる耳塚柿人。しかし、目を覚ますとそこはら耳かきがスポーツとして行われている世界だった。 柿人は先輩に誘われて、耳かきの世界へ飛び込んでいくが…?

俺に婚約者?!

ながしょー
青春
今年の春、高校生になった優希はある一人の美少女に出会う。その娘はなんと自分の婚約者といった。だが、優希には今好きな子がいるため、婚約は無効だ!そんなの子どものころの口約束だろ!というが彼女が差し出してきたのは自分の名前が書かれた婚姻届。よくよく見ると、筆跡が自分のとそっくり!このことがきっかけに、次々と自分の婚約者という女の子が出てくるハーレム系ラブコメ!…になるかも?

犬猿の仲だけど一緒にいるのが当たり前な二人の話

ありきた
青春
犬山歌恋と猿川彩愛は、家族よりも長く同じ時間を過ごしてきた幼なじみ。 顔を合わせれば二言目にはケンカを始め、時には取っ組み合いにまで発展する。 そんな二人だが、絆の強さは比類ない。 ケンカップルの日常を描いた百合コメディです! カクヨム、ノベルアップ+、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...