上 下
5 / 139
Helium

第五話 ワイドの街

しおりを挟む
 村長から聞いた道なりを頭で反芻し、森へと足を踏み入れながら真は先程貰った銀硬貨を指でつまみながら眺めていた。

 デバイスを起動させ、フィールドを半径1メートルで展開。もう少し狭い範囲で展開させられるならばこの硬貨の素材がはっきりするのだがフィールドの範囲設定が最低半径1メートルなので仕方ない。

 真はデバイスに注視し、元素一覧を確認した。
 フィールド内で補足された元素は高濃度順に表示される様になっている。
 N、O 、H、C、Ag、Si、Mg、Fe、Rb、unknown1、unknown2と数多くの元素記号、他にも多くの元素があるだろうがあまり濃度がその範囲内で低いと判定されれば表示はされなくなる。


「半径1メートルとなると鑑定も難しいか……だが金属だな」

 銀が高濃度に含まれて事からやはりその硬貨が銀だと判定出来た。
 他にもケイ素やマグネシウムも含まれるが、それが硬貨に残存する物かはたまた大地の鉱物分かは検討が付かない。


「Rbか。この銀貨に含まれているのか?それで酸化してこんな色に」

 だが土に含まれる鉱物は多用である。
 どうあってもこの判定方法では銀が含まれる事ぐらいしか分からなかった。

 それより気になるのは先程ブルーオーガと対峙した時にも表示されたunknownの表記である。
 未知の元素を補足出来る機能などこのデバイスにあったのかどうかと疑問だ。

 確かに新元素の発見は科学の発展と共に容易にはなったが、現在と言っていいのか真のいた時代の地球ではもう新元素はあり得ないと言われていた。
 ここは恐らく、いや間違いなく他の星だろうがこの元素が何か分かれば大発見になるだろう。
 と言っても、もう戻る術の無い真には関係の無い事だが。


 とにかく今、これからの目的は村長の言っていた街へ向かう事。
 そこで出来る限り現地民を装い、情報を得る事だ。
 先程の村より人口が多ければ真の存在に疑問を持つ者も少ないだろうと考えての事である。今度は下手に地球上の技術を使わない様に気を付けようと心に誓った真であった。


「加速システム」

  設定を改め1.3倍に変更した加速システムの程よい速度で森を疾走する。
 ついでに反発応力を上部に向けて発動、木々を突き抜け一気に上空20メートル程まで飛び上がった。
 鬱蒼とした木々の海が辺り一面に広がり、夕陽が真の視界を一瞬奪いそうになるが目を反らしながら薄目で周りの状況を確認する。
 数キロ程先に一筋の河が見えた、恐らくはあれが村長の言っていた物だろうと当たりをつけ、引っ張られる重力によって真の体は地面へと落下する。

「あっちの方角だな……重力操作と」

 空中で体勢を立て直しながら冷静にデバイス操作を行い、重力設定を範囲1メートルで0.1倍に。
 真の体はまるで木々から落ちる木の葉の様な速度でゆっくりと地面へと降り立った。











 街、そう呼ばれるからにはそれなりの範囲で構造物や家屋が建ち並び人が行き交う地域を思い起こしていた真にとって目の前にあるそこはまるで都内の外れの一角を切り取ったかのような場所だった。

「これがワイドの街ね」

 街全体が簡単に見渡せる程小さいじゃないかと検討違いな事を思いながら、街の入り口であろう二本の柱に刻まれた街名を一瞥し真は足を踏み入れた。
 辺りは草地に囲まれ、まるでそこだけがどこからか運ばれてきたかのように家屋が密集しその街を形作っている。

 村からこのワイドと言う街までも随分距離があったように思う。
 この世界に他にも幾つか街があったとしてひとつひとつがこうも離れ敷地が狭いとなればこの世界はよっぽど開発が遅れている事になる。

 それでも真はポツポツと歩く同じ人間を見るなり僅かばかりの安心感を得ていたが、その誰もが真をチラチラと伺い見ては目を逸らして過ぎ去っていく。
 少しばかり気になる視線に自分の服装に原因があるのかとも考えた。確かに周りの人間が灰色や茶ばんだ色合いの皮服に身を包んでいるのを見れば自分の合金製ブーツはどこか浮いて見えるが上は見かけだけならただの黒いシャツにしか見えない筈だ。

 実際は対アンドロイドキルラー戦闘用の特殊化合物によるメッシュアーマーだがそんな事は知る人間でなければ分からないだろう。

 そんな不可思議な視線を受けながらも真は街を静かに見渡しながら練り歩いた。

 街には殆ど人通りが無く、たまに見かける人間もどこか生気を失った様な表情で黙々と何かの仕事に従事している様に見える。
 建物は一階から二、三階程度の木造家屋しか見られなかったが時折見る鉄製の看板であろうそれの文字を読める事に真は安堵し、とりあえずは人の集まっていそうな場所を探した。


 ふと看板に酒場とだけ書かれた一軒のログハウス調の家屋を見つけ、そこから外まで響く笑い声を耳に留めて真は足を向けた。

 真の突然の入店に店内の喧騒はぴたりと止み、中にいる数人の人間が一斉に振り返る。
 中は酒樽やグラスが散乱し、アルコール独特の臭いが充満している上、此方を鋭い眼光で睨む男達は皆屈強に見えた。
 先程まで外を歩いていた人間とは違う生気のある、怒気を含んだ異様な雰囲気に一瞬呑まれそうになる。

 しかもそこにいる男達の中にはまるで中世ヨーロッパの騎士かの様な剣を腰に差している者までいる。
 真はほとほと此処が今までいた世界では無い事を実感せざるを得なかった。



「おまっ――」


 真が店内に一歩足を踏み入れると、一人の男が立ち上がり様此方へ何かを言おうとしたがもう一人の、銀色に光る胸当ての様な物を付けた男がそれを止めて真の元へ近付く。


「見ねえ顔だ……あんた冒険者だろ?」


 男の突然の問いに真は答えあぐねたが、直ぐ様頭を切り替えそうだと答えた。

「見た所武器もねえって事は魔力マナ使いか、まあいい、宿ならこの先の二階家が空いてるぜ。まぁゆっくりしていきな」


 男はそう言うと真に背を向け再び散らかったテーブルに足を乗せて悠々とグラスを煽る。
 周りの連中も真に一瞥くれたがそのまま何事もなかったように黙って自らのテーブルにあるジョッキやらグラスに手をつけていた。

 先程とは違い静まり返る店内に何処か場違いさを覚え、真は何も聞くこと無く先程男が言った宿とやらにとりあえずは向かうことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

M.A.T 対魔法筋肉特殊奇襲部隊

海王星型惑星
ファンタジー
日本中のマッチョが集まるボディビル大会に挑んだ竹月 力(たけつきりき)。 しかし、竹月は最高のコンディションで挑んだにも関わらず、ライバルである内田垣内(うちだかいと)に敗れる。 自分の筋肉に自信を失った竹月だったが、大会後2人は謎の光に包まれ... 彼らは魔法が支配する世界に転送された。 見慣れない街、人々、文化、そして筋肉。 戸惑う2人は王国突如招集を受け、魔王軍の進軍に抗う為の特殊部隊に配属される。 そこには筋骨隆々のゴリ、細、ソフト、ガリ、様々なマッチョで溢れかえっていた。 部隊の名は「対魔法筋肉特殊奇襲部隊」 (anti-Magic muscle special Assault Team) 通称M.A.T。 魔力がすべてのこの世界で己の肉体のみで戦う超特殊な部隊だった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった

ありあんと
ファンタジー
アラサー社会人、時田時夫は会社からアパートに帰る途中、女子高生が聖女として召喚されるのに巻き込まれて異世界に来てしまった。 そして、女神の更なるミスで、聖女の力は時夫の方に付与された。 そんな事とは知らずに時夫を不要なものと追い出す王室と神殿。 そんな時夫を匿ってくれたのは女神の依代となる美人女神官ルミィであった。 帰りたいと願う時夫に女神がチート能力を授けてくれるというので、色々有耶無耶になりつつ時夫は異世界に残留することに。 活躍したいけど、目立ち過ぎるのは危険だし、でもカリスマとして持て囃されたいし、のんびりと過ごしたいけど、ゆくゆくは日本に帰らないといけない。でも、この世界の人たちと別れたく無い。そんな時夫の冒険譚。 ハッピーエンドの予定。 なろう、カクヨムでも掲載

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

処理中です...