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まもって
しおりを挟む「はっきりしない態度にはうんざりしたわ」
つんと顎をそらせて沙那さんが言う。
「まだ自分達にはいくらでも時間があると思っていたんだ。沙那はお父さんの反対を押し切って自分の店を持ったから、和解なんて出来ないと思っていた……
それを相模くんが和解させたと聞いて、焦らないはずかないだろう……
沙那の気持ちが相模くんに傾いていったとしても、まだ俺にも気持ちが残っていないのか。
俺達は嫌いあって別れたんじゃないだろう。すれ違いでお互いの気持ちがわからなかっただけなんだよ」
いつもクールな御山さんが、熱心に沙那さんに言い募っている。
それだけ沙那さんが大切なんだろう。そこは負けていないと思うのに、沙那さんの隣へ踏み出す勇気がまだなかった。
屈み込んで片膝をついた御山さんが、左胸のポケットから、ベルベットの小箱を取り出して沙那さんへ差し出した。
「沙那は自分の店を取るか、両親の店を守るか悩んでいたんだろう? 俺を選んで。俺が沙那の両親の店を守っていくよ」
驚きに見開いた沙那さんの目から、はらはらと大粒の涙がこぼれ落ちる。
「俺にしときな。一生後悔させない」
「……ありがとう。私の大切な店を守って……」
沙那さんの手がベルベットの小箱に伸ばされる。箱に重ねられた手を、御山さんの大きな手が包みこんだ。
左胸にあるポケットから取り出したベルベットの小箱は、そのまま心臓から気持ちを取り出したように見えた。
そのまま伸ばされた左手に血が通うように、御山さんの気持ちが込められているようだった。
固唾を飲んで見守っていた人達から、わあっと歓声と拍手が沸き上がる。
ぼんやりと見ている俺の横で、やっぱりもらい泣きしているミオが盛大に拍手していた。
あぁ、俺振られたんだ。
御山さんが言っていたことは本当だったんだ。沙那さんがそんなに悩んでいたなんて知らなかった……
気付けなかった時点で、俺は負けていたんだ。
箱を開けて取り出されたリングが、透明な輝きを伴って沙那さんの左手薬指にとまる。
遠くに行っちゃったな…
自分はこうやって憧れの気持ちと、少しの淋しさと、切なさで沙那さんを見ているんだろう。
あの花を生けている横顔に憧れていた。
沙那さんは自分の生ける花のように凛としている。
横顔の沙那さんはやっぱり自分を見てはいなくて、沙那さんの前にあるのは生き生きとした花と御山さんだった。
祝福に沸く人の輪の熱狂がひいてから、ゆっくり沙那さんに近づく。
噛み締めていないと歯がかちかちいいそうで……一歩一歩確実に歩かないと、振るえてしまいそうで……
俺に気付いた沙那さんの目にまた涙が盛り上がる。頬を押さえた沙那さんの様子から、御山さんも俺に気がついた。
支えるように抱き寄せた御山さんを見て、悔しいけれどやっぱり敵わないと思った。
「沙那さん…少しでも俺を好きになってくれてありがとう」
「……ゆう…き…ごめん……」
声にならない、つぶやき。
はらはらとこぼれる涙でさえ綺麗に見える。この人が、自分を見てくれて、付き合ってくれて嬉しかった。
「自分よりも、御山さんのほうが沙那さんのことをよくわかっているんですよ……俺なんか敵いっこない。
御山さんになら、沙那さんのご両親のお店も任せられる。
これがみんなのためになる選択なんです。沙那さんは、間違ってなんかいない」
カメラマンでしかない自分は、沙那さんを支えられたとしても沙那さんの両親の店を守ることなんてできなかった。
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