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現場

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楽しくて長かった冬休みも終わり、学校が始まった。
少しずつ春が近づいているといっても、フィルニースは冬が長く春の訪れを感じるのはまだだいぶ先だろう。
園芸部にいると特に春まで長いと思う。

『雪解けまで活動は停止です』

そう掲示板に張り紙が貼ってあるのを見てアレンシカはため息をついた。

園芸部はアレンシカにとって無心で活動が出来る上、大好きな花に囲まれる素晴らしい部活であるというのに、ここ最近は活動も出来ない上に気を暗くすることばかりだ。
それは、少し花壇に近づくと顕著になる。

「好きです!」

そう大きな声が聞こえた。ここ最近はよく聞く言葉だった。
卒業式が近づき、家の関係で卒業式まで学園には通わないという生徒も多い。だから自分や相手が学園にいる間に、告白しようと思う者も多いのだ。

いつもだったら、思いが遂げられるようにと微笑ましく思いながらも邪魔しないように通り過ぎるだけなんだろう。
相手が相手ではなければ。

「ウィンノル殿下……。」

ちらりと目線をずらすと、そこにいる告白を受けていた相手はアレンシカの婚約者で想い人だった。
ウィンノルはけして自分には向けない笑顔で、少し気を使いながらも相手に告げていた。

「気持ちはとても嬉しいよ、ありがとう。でも私には決められた相手がいるからごめんね。」

にっこり、優しい笑顔。
その優しげな瞳は自分には絶対に向けられないものだ。その紡ぐ言葉が相手には望まれない言葉であっても、優しく暖かな笑みを浮かべるその彼は自分を前にした時とは大違いの笑みだった。

「卒業する人達が王子に告白してるらしいっすね。」

「ルジェ…。」

ぼんやりとその様子を見ていると後ろからルジェが現れた。
ルジェは少しだけウィンノルへ目を向けたが興味はないようでアレンシカと話す。

「ここ最近は一日一回は誰かしらに告白受けてる感じです。あんまり庭園には近づかない方がいいっすよ。雪で覆われてても告白スポットですわ。」

「そうなんだ……。」

さすが王子は告白の嵐らしい。告白の相手はまだ名残惜しいのかウィンノルと話し込んでいる。それに嫌な顔もひとつせずに穏やかなにウィンノルは談笑していた。

「ルジェはどうしてここに?」

「……まあ、見てなきゃいけないんすよ。いろいろ、報告しなきゃいけないことがあって……。」

「そうなんだ……。」

「そういえば聞きました?ユース王子から。」

「……ああ、うん。」

次の学年からアレンシカはウィンノルと同じクラスになるらしい。
というのも、昨日突然邸宅にユース王子が来て言ったからだ。

「なんでも、ユース王子がクラス編成について進言したからだとか。」

「そうなの?」

「はい。王立の学園だからっていろいろやりすぎてる感じありますよね。確かにクラス編成は成績の他にも、仕えてる家とか婚約関係とかも考慮されるといってもあんまりじゃないっすか?」

「……そう、かな。」

「そうっすよ。……なーんかユース王子もフィラル様も王族だからって理由の他に別の考えがあるんじゃないかと思う時があるんですよね。」

「別のって……?」

「さあ……。そこまでは。王子の考えなんて俺には分からないので何とも。」

「そうだよね。」

アレンシカも婚約者である彼の気持ちが全く分からない。その気持ちはよく分かっていた。

「あ。」

どうやら告白は終わったようだ。告白した相手はどことなくスッキリした顔をしていた。だが目にはまだ恋情を携えているように見える。
二人は別れ、別の方向に歩き始めた。

「俺もそろそろ行きますわ。」

「うん、またね。」

「……まあ、王子ともなると単純に好意以外の他の理由で告白されることもあるんで、そんな気落ちする必要はないですよ。」

「えっ。」

「ちょっと落ち込んでるみたいなんで。」

「あは…。」

「……全部が全部、好きだからじゃないと思うんで、そんな気にせずに。じゃあ。」

ルジェは少しだけ手をあげてアレンシカと別れるとウィンノルの歩いた方へと歩きだした。

「そう、なのかな……。」

アレンシカにはみんながウィンノルへの好意があって告白しているようにしか見えなかった。
だって自分以外にはとても優しくて、丁寧で、素敵な微笑みを浮かべるのだ。誰だって好きになるに決まっている。そうとしか思えない。
羨ましくて、ないものねだりだって分かっているのに、断られていても優しい笑みを向けられる彼らがひどく羨ましい。

「……こういうところが駄目だって、分かってるのに。」

アレンシカにはどうしても欲しかった。
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