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夜中
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辺りは誰もいないはずなのに、夜の闇に響いた声。その声は昨日の一日でずいぶんとよく聞いた声だ。
当たり前だった。あんなに怒られていたのだから。
「……ここで何してるんですかー、エイリーク君。」
「それはこちらが聞きたいね。ミラー。」
振り返った先にはエイリークが薄っすらと笑みを浮かべて立っていた。
確かに誰もいないはずだった。ここまで一人で来ていたのだから。何度も周りを確かめて、本当に一人きりだけで来た。
それなのに何故音も立てずそこにいるのか。
プリムには全く分からないけれど、分からなくても何も問題がなかった。
辺りは小さな灯りがチカチカするだけ。
「私は眠れなくって、ちょっと散歩しようかなって思いましてー。」
「ふうん。それにしては散歩って感じじゃないね。」
無邪気に首を少し傾げて不思議そうにするエイリーク。
いつもの色は夜の色になって風の動きに合わせて揺れる。
「うーん、エイリーク君には関係ないんですけど。」
「確かにオレには関係がないね。アンタがどこで何をしようが誰と乳繰り合おうが。」
暗い暗い目。なんだとっくにバレているのか、とプリムは思った。
もっともここは高台の小屋までの一本道。どこに行くか何が目的かなんてこの先に何がいるのか知っている人ならば一目瞭然だろう。
「でも今は残念ながら同じ組になってしまったから。迷惑だね。昨日もあんなにわざと迷惑かけて来たやつ、ここまで野放しにすると思う?」
じろりと音が鳴りそうな目だった。
だけどプリムには今のこの時も楽しかった。
責められようが批難されようが迷惑だと思われようが、ずっとずっと楽しいものだった。
だからエイリークが何を言ったって平気だ。だから自分が何を言ったって平気だ。
「だって面白いんですもん。……公爵子息様の婚約者がおんなじ組の子とひと時を過ごしたなんて、どうなるのかなって。きっと面白いんですもん。きっと楽しいんですもん。」
エイリークは何も言わない。何も返さない。
「んーと、だからエイリーク君はこのまま帰って、明日になっちゃえばいいと思います。もしよかったらエイリーク君も明日をお楽しみに待っててくれたっていいですし。」
何も言わないただ無表情で立っているだけのエイリークに対してプリムはにこにこの笑顔で言う。
何も反応がないのは少し面白くなかったが、プリムの頭の中には既に明日どうなるかの想像と妄想しか入っていない。
これから起きることで、明日は何になるか。それだけがプリムの楽しみだ。
「うんうん、きっとその方が良いですよ。なんか庶民って私より楽しいことなさそうですし。うん、それがいいですよ。とっても面白いじゃないですか。」
ふふふと笑いながらプリムは楽しそうにつま先をその場でポンポンと弾ませる。
エイリークは何も言わない。プリムにはそれが確定になった。
気を良くしたプリムはまた笑って、ゆらりと手を降った。
「じゃあまた明日、エイリークくん。」
ばいばい、と続けてエイリークを背に余裕で行こうとした。しただけだった。
動けなかった。ひと呼吸する間にエイリークが目の前に来ていてギリと腕を掴まれたからだった。
その力はとても強くとても痛い。爪も食い込まれている。長袖の上からでもしっかりと力が入り込んでいてとても痛い。
分からない。プリムには何故こうなっているか。
今まで怪我をしてもこんなに痛いことはなかった。痛くなかった。
エイリークはただ真っ暗な目でプリムを見ている。
何もない。何も入っていない。
ただ夜に鉢合わせただけだったのに、黒い塊になった木よりも月明かりの届かない一歩先の暗闇よりも、分からない。
「アンタさ、」
当たり前だった。あんなに怒られていたのだから。
「……ここで何してるんですかー、エイリーク君。」
「それはこちらが聞きたいね。ミラー。」
振り返った先にはエイリークが薄っすらと笑みを浮かべて立っていた。
確かに誰もいないはずだった。ここまで一人で来ていたのだから。何度も周りを確かめて、本当に一人きりだけで来た。
それなのに何故音も立てずそこにいるのか。
プリムには全く分からないけれど、分からなくても何も問題がなかった。
辺りは小さな灯りがチカチカするだけ。
「私は眠れなくって、ちょっと散歩しようかなって思いましてー。」
「ふうん。それにしては散歩って感じじゃないね。」
無邪気に首を少し傾げて不思議そうにするエイリーク。
いつもの色は夜の色になって風の動きに合わせて揺れる。
「うーん、エイリーク君には関係ないんですけど。」
「確かにオレには関係がないね。アンタがどこで何をしようが誰と乳繰り合おうが。」
暗い暗い目。なんだとっくにバレているのか、とプリムは思った。
もっともここは高台の小屋までの一本道。どこに行くか何が目的かなんてこの先に何がいるのか知っている人ならば一目瞭然だろう。
「でも今は残念ながら同じ組になってしまったから。迷惑だね。昨日もあんなにわざと迷惑かけて来たやつ、ここまで野放しにすると思う?」
じろりと音が鳴りそうな目だった。
だけどプリムには今のこの時も楽しかった。
責められようが批難されようが迷惑だと思われようが、ずっとずっと楽しいものだった。
だからエイリークが何を言ったって平気だ。だから自分が何を言ったって平気だ。
「だって面白いんですもん。……公爵子息様の婚約者がおんなじ組の子とひと時を過ごしたなんて、どうなるのかなって。きっと面白いんですもん。きっと楽しいんですもん。」
エイリークは何も言わない。何も返さない。
「んーと、だからエイリーク君はこのまま帰って、明日になっちゃえばいいと思います。もしよかったらエイリーク君も明日をお楽しみに待っててくれたっていいですし。」
何も言わないただ無表情で立っているだけのエイリークに対してプリムはにこにこの笑顔で言う。
何も反応がないのは少し面白くなかったが、プリムの頭の中には既に明日どうなるかの想像と妄想しか入っていない。
これから起きることで、明日は何になるか。それだけがプリムの楽しみだ。
「うんうん、きっとその方が良いですよ。なんか庶民って私より楽しいことなさそうですし。うん、それがいいですよ。とっても面白いじゃないですか。」
ふふふと笑いながらプリムは楽しそうにつま先をその場でポンポンと弾ませる。
エイリークは何も言わない。プリムにはそれが確定になった。
気を良くしたプリムはまた笑って、ゆらりと手を降った。
「じゃあまた明日、エイリークくん。」
ばいばい、と続けてエイリークを背に余裕で行こうとした。しただけだった。
動けなかった。ひと呼吸する間にエイリークが目の前に来ていてギリと腕を掴まれたからだった。
その力はとても強くとても痛い。爪も食い込まれている。長袖の上からでもしっかりと力が入り込んでいてとても痛い。
分からない。プリムには何故こうなっているか。
今まで怪我をしてもこんなに痛いことはなかった。痛くなかった。
エイリークはただ真っ暗な目でプリムを見ている。
何もない。何も入っていない。
ただ夜に鉢合わせただけだったのに、黒い塊になった木よりも月明かりの届かない一歩先の暗闇よりも、分からない。
「アンタさ、」
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