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湯浅裕子

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流石に一文無しはまずい。

家に飛んで帰るとシャワーを浴びて着替えてから箪笥を漁った。

「竜二何してるんだー-っ」

「何しているのよー-っ」

「うるせい糞親父に糞婆ぁー-っ、金を持っていくに決まっているだろうが」

普通に考えたら碌でもない無い息子にしか思えないだろうな…

だが、違うんだぜ…俺の親は両方ともクズだ。

親父はヤクザにさえなれないチンピラで薬中。

お袋はピンサロやりながら薬中。

散々ぱら、俺にも暴力を振るっていたが…俺が強くなると同時に立場が逆転した。

ガキだった俺に新聞配達や牛乳配達をさせて俺から搾取してきたんだ…

やり返しても問題ない筈だ。

「うるせーな…まだ俺から搾取した分は返してもらってねーだろうが---っ、どうせ、また薬かギャンブルに使うんだから、関係ねーよ」

「親不孝者――っ」

「そんな」

「あん?また死ぬほど殴るぞ? ちっ10万か」

俺は10万を無造作に突っ込むと家から飛び出した。

◆◆◆

気が付くと俺は新宿に来ていた。

何となくだが、此処なら俺でも生きていける…そう思ったからだ。

だが、現実は甘くない。

水商売だろうが、風俗の仕事だろうが、しっかりと履歴書や身分証が必要だった。

最初の内は漫画喫茶やカプセルホテルに泊まっていたが、お金は無くなる一方…俺が浮浪者同然になるのは時間の問題だった。

『糞っ、俺がなんでこんな思いしなくちゃいけないんだ』

飯も真面に食えねー。

そして…俺は本物のチンピラに落ちていった。

肩がぶつかる、目が合う…それだけで喧嘩を吹っ掛けて金を奪う。

だが、これもそうそう成功しなくなる。

俺に鬼気迫るものが漂い始めたのか…誰も目もあわさず、俺とは距離をとって歩く奴ばかりだ。

『何だよこれ!』

しかも、警官に会う度に追っかけられる。

最初、徳丸や川音の事がばれたのか?

そう思ったが違うようだ。

『未成年の家出少年』そう見えるから追っかけられる…それだ。


財布の中は62円。

最早泊まるどころか飯も食えねー。

いっその事…次会った奴を…駄目だ。

『喧嘩を買わない奴』から奪うのは俺のポリシーに反する。

ハァ~肩がぶつかる…目が合う…その瞬間に謝るんじゃねぇーよ。

そんなんで、なんで不良やってのか解からねー。

「ハァ~腹減ったな…もう丸2日間飯食ってねーな」

俺は噴水のある公園でベンチで眠っていた。

「あんたさぁ…こんな所で寝ていると風邪ひくよ?」

「うるせぇな…放っておけよ」

この糞アマっどうせ…ただ声を掛けてきた、それだけだろうが?

「別に突っぱねるのは自由だけどさぁ? あんた、その分じゃ飯も食えて無いんだろう? 牛丼で良けりゃ奢るよ? さぁどうする?」

糞…

「解った、奢られる…」

「そう、そう、子供は素直に奢られるのが一番よ!」

俺はこの女について行くことにした。

「牛丼の並みと特盛一つ」

「はい」

「私の名前は湯浅裕子…まぁホテトル嬢をしているんだけどね」

※今でいうデリヘル嬢です。

ホテトル? ああっ…

「お前、いきなりそんな事言って恥ずかしいと思わないのか?」

初対面のガキとはいえ初対面の人間に自分が風俗嬢だと言って恥ずかしくないのか?

「恥ずかしくないよ。私は誇りを持ってこの仕事をしているからね」

「そうかよ」

「そうだよ…これから君が食べる牛丼だって私が体を売った金から払うんだ…どんな金でも金は金だよ」

確かにそりゃそうだ…金は金だ。

「そうだな、当たり前の事だ…ありがとうな」

「へぇ~お礼がしっかり言えるんだ、偉い偉い」

裕子が俺の頭を撫でやがった。

人の頭を…結構悪くいないな。

「気安く触んなよ…」

「そう…それで何があった! 言えるなら言ってみ…まぁ嫌なら無理してまでは聞かないよ」

気が付くと俺は自分に何があったのか話していた。

なぜ裕子に話してしまったのか解らないが、此奴に聞いて貰いたい、何故かそう思ってしまった…

「そんな所だ…」

「まぁ、お姉さんが思った以上だね…それでどうするのかな?」

「わかんねー」

「だろうね…仕方無い…何がやりたいか解かる迄、私がどうにかしてやる…但し、甘やかさない」

結局、俺は裕子に連れられて行き、ホテトルの電話番と電話ボックスのカード貼りをする仕事を貰った。

案外、楽で事務所と言いながらコタツが幾つかあってそこで電話を受けるだけだ。

これは案外楽な仕事だ。

それとは別に、電話ボックスにカードを貼りに行く仕事もある。

だが、このカード貼り、意外に大変だ、電話BOX事に貼る位置が決まっていて、ズレて貼ったら大事になるらしい。

この仕事を週に3回する事を条件にホテトルの事務所に住むことをオーナーが許してくれた。

それとは別に週2回、スナックの手伝いをさせられている。

これは『ホテトルなんて所詮は非合法だから、水商売でもなんでもちゃんとした仕事を覚えな』と裕子に言われたからだ。

湯浅裕子という女は、一言で言うなら『おせっかい』それに尽きた。

俺の稼いだ分はしっかりと俺にくれ…ガキだった俺に、寝床や生き方を教えた女…それが『湯浅裕子』だ。

「裕子姉貴」

「なんだよ…私はあんたの姉貴になったつもりは無いんだけどね?」

俺の人生にとって唯一信頼できた人間…ヤクザで言う『兄貴分』そう思える人間、それが『裕子姉貴』だ。

◆◆◆
「良治どうしたのかな? さっきから私を見つめて」

「いや、なんでも無い」

『此奴なら』つい思ってしまう訳だ。

裕子姉貴の孫か…確かに少し似ている。

どうしても特別扱いしてしまう訳だ。

結局、この日は学校をサボる事にした。









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