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第47話 剣聖 卑怯を教える
しおりを挟む「石割――っ」
その後もカイト達の様子が気になった俺は他の二人の様子も見に行く事にした。
リタは剣聖。
普通に考えれば、剣の修行をしている筈だ。
恐らく、俺の予想では近くの森に居る。
そう思って見に来たんだが……居た。
一心不乱に剣で大きな石を叩いている。
剣聖の凄い所は、成長すれば『何でも斬れる』存在になる事が。
この世界では剣聖以外滅多に身につかないスキル『斬鉄』がある。
名前こそ『斬鉄』だが、実際は鉄どころかドラゴンの強靭な鱗さえ切断する。なんでも斬れるスキルだ。
勿論、これは最初から覚えている訳でなく成長したら身につくスキルだ。
その前段階が『石割り』
これは最初から剣聖なら持っているスキルで、その名の通り石すら割るスキルだ。
このスキルを鍛えていけば、やがて斬鉄のスキルを覚える事になる。
「リタ、精が出るな」
「あっ!? リヒト、ゴメン今迄気がつかなかったよ」
それだけ剣を集中して真剣に振っていた。
そういう事だろう。
「いや、いいんだ、だけど随分真剣に剣を振っているんだな」
「まぁね……ここに来るまでに実際にこの目で酷い目に遭った人たちを見たからね…..だから、少しでも早く強くなって、人々を助けたいんだ」
「どうして、そこ迄……」
「だって僕は剣聖だからね。 勇者のように人々に希望与えるようなカリスマは無い。聖女のように人を治療する力は無いからね。ただただ剣を振り、相手を殺す。それが剣聖。他の者みたいに他には何も無い。純粋な攻撃力、破壊力、それを持っているのが僕だ」
「そうだね」
「うん、だから僕の役目は殺す事。魔物も魔族も殺して殺して殺しぬく事。それしかない……その僕がこの体たらく、だから人が救えなかった」
「だが、それはまだ旅に出たばかりだから仕方ないだろう?」
「うん、だけど、それは甘え。剣聖のジョブを持つ僕に求められるのは戦闘力だけだよ。あの言葉凄く応えたよ」
「あの言葉?」
「そう『勇者の旅は救世の旅。人々を救う旅でもあるんだ。その旅の中でオークやオーガ等に襲われている村や町を救う。助けてあげれば『勇者様ありがとう』となる。その反面、今みたいにサボっていると、村や町が滅んで『なんで勇者様来てくれなかったの』と生き残った人に一生恨まれる。そのうち、歩くだけで石をぶつけられるようになる事すらある。それが嫌なら『死ぬ程努力する。それだけだ』ってカイトに言った奴だよ。勇者を剣聖に置き換えたらまんま僕に当て嵌まるからね……尤も実際に、被害にあった人を見るまでは解らなかったんだ……僕って馬鹿だよね』
「それに気がつくなら、馬鹿じゃないよ」
これがあのだらけていたリタなのか?
今なら、リタが剣聖に選ばれたのが解かる気がする。
「そう? そう言って貰えると助かるよ。それでさぁ、リヒト少しで良いから剣の相手してくれない」
俺にリタの相手が務まるのか……
まぁ良いや。
リタには一つ教えてあげたい事がある。
「良いけど!? ただ、戦い方は冒険者流。それで良いなら相手してやるよ」
「僕は別に構わないよ……剣聖だからね、手加減はしてあげる! だけど、それでも怪我したらゴメンね」
この先リタが成長したら、これは通じない。
だが、今ならまだ通じる筈だ。
「そう」
「先手は譲ってあげる……ほら来なよ」
「それじゃ……行くよ! 必殺……ハバネロアタック」
「うっペぺ……ああっああ痛いーーっ目が痛いし……ハァハァいやぁぁぁぁーー痛いーーーっ苦しいよ……ハァハァ」
ハバネロアタックとは物凄く辛い調味料やそのほかを風上からぶちまける技だ。
風の強い日に相手が風下にいたらまず初見じゃ防げない。
ちなみに、今回は死なない様な物を使ったが、本当の闘いならこれに毒を混ぜて使う。
「はははっ、これは撃退用だから水ですすげばすぐにおさまるよ。今回は俺の勝ちだね、はい水」
涙目でリタが見ている。
「ううっ、まだ目が痛くて涙がでているし、鼻水も……卑怯だよ......」
「うん、卑怯だよ! だけど相手が盗賊や魔族だったらリタは殺されているよ……戦いには卑怯なんて無い。生きている奴が勝ち。寧ろ卑怯な方法で勝てるなら『やれ』だ……覚えておいた方が良いよ」
盗賊ならこの位の事はヤル。
こういう相手もいるんだ。
それは教えておいた方が良い。
「解った……」
「それじゃ俺は行くね」
「リヒト、ありがとう」
卑怯な方法で負けてお礼が言える。
随分変わったものだ。
「どう致しまして」
多分、リタももう大丈夫だ。
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