20 / 57
第20話 声優と『知り合い』
しおりを挟む釘宮ゆかり、この子も凄く綺麗だ、茶色い髪で腰まで届くロングヘア―、人形の様に整った顔立ちにスレンダーな体、但し胸が貧乳と言うかほぼ少年の様に無い、そして背が低く140センチも無いかも知れない。
だが、この子は…ネットでは出てこなかった。
「時間が掛かってすいません、ほら、みう、ゆかり…すぐに劇の準備に入って」
「「はい」」
良かった…さっきの空気は引き摺っていない。
流石はプロ…直ぐに…
「みうは正平くんとこのままお話をしたいけど…駄目かな?」
上目遣い話しかけてきた。
これ、凄く困る。
目を潤ませて今にも泣きそうな目で、縋る様に声を出す。
「それなら、ステージに戻らなくても良いよ、だけど俺、みうちゃんの声優としての声が聞きたいから、ゆかりちゃんと、座ったままで良いから、幾つかのシーン演じてくれない?」
「あの…あ~んはもう終わりなの?」
「そんなに気にいってくれたなら終わった後に続きをしてあげる…でも今は声優としてのプロのみうちゃんが見てみたい」
「解った…ゆかり…『子猫ちゃんの魔法使い』出来る!」
「出来ない訳ないじゃない! 私が出ていた作品だよ」
「それじゃ、やるわよ」
「了解」
◆◆◆
「あんた馬鹿~やれば出来る子なんだから、ちゃんとやりなさいよ!」
「え~みう出来ないよ…そんな…そんなのってないよ…」
「出来ないなんて言わせないわ…貴方は魔法使い…出来ないなんて言わせないよ」
「グスっスン、スン…解ったよ…みうが…みうがやれば良いんでしょう…魔法使いなんだから…」
「そうよ魔法使いなんだから…」
「解ったよ…みう頑張るよ..」
凄いな…役に入った途端急に変わる。
まるで、そこにアニメのキャラクターが居るみたい思える。
目を瞑ると…そこは、そうアニメの世界に迷い込んだみたいだ。
「あんた馬鹿! そそそそそんな事言っているんじゃないわ? 貴方の事、嫌いじゃないわよ…そんな事も解らないの?」
ゆかりは…ツンデレなキャラクターや強情で素直に慣れない役が多いみたいだ…
みうは…素直で健気な女の子や、少しやんちゃで元気な感じの女の子のキャラが多い気がする。
気がつくと1時間近く『声だけの演技』と言える物を続けていてくれていた。
2人とも台本も無いのに凄いな。
「流石に…喉がかわいたよ」
「私も…」
俺は直ぐにコップにスポーツドリンクを注ぎ、二人に手渡した。
「ありがとう…そのみう、凄く嬉しい…さっきから嬉しいことばかりだよ…今日のステージは…うん、凄く最高…だよ」
「あの私も良いの? そんな…男性の手作りドリンクなんて夢みたい…いたいたいただきます」
完璧に演じきっていた、二人がしどろもどろに成るのは、見ていて凄く面白い。
いいなぁこう言うの。
「あの、正平くん、そろそろ握手会良いかな?」
「正平くん、呼んでくれて嬉しかった…さようなら…グスッ」
ゆかりが帰り支度を始めた。
「あれっゆかりちゃんは握手会に参加しないの?」
「ゆかり…もうお金が無いんだ…今迄頑張ったけど…もう無いの…元からお金儲けが下手だから『ツンデレ』みたいな男性に嫌われるキャラばかりしか無いの…正平くんに最後に会えて嬉しかった…今日もね…お金が無いから何でもしますって…マネージャーの真田さんに頼み込んで連れて来て貰ったんだ…グスっ」
「なら…握手会に参加しなよ」
女を泣かすのはホストじゃない。
泣かせて良いのは嬉し泣きの時だけだ。
「そんな…正平くん、私、正平くんに沢山のお金を払って…」
「みうちゃん…今日は俺のおごりで良い…金を貢ぐ必要は無い…それに握手会以上の事をしてあげるからね…納得して」
俺はお金が欲しいからホストをしていたわけじゃ無い。
あれこそがモテる男の頂点に見えたからだ。
彼女達はそれに充分俺に貢いでいる。
プロの声優二人を貸し切ったステージ…充分すぎる報酬だ。
「正平くん…あの握手以上って…えっえっ…そんな顔が凄く近いよ…」
「嫌なのかな?」
「ううん、嫌じゃない、嫌じゃないけど…奇跡みたいで信じられない…」
「みう、君は、凄く可愛くて素敵だね食べてしまいたい」
そのまま抱きよせた。
「嘘…おじさん、みう…おじさん大好き、世界で一番…ううん、宇宙で1番大好きだよ…愛しています…お金でも何でも」
おじさん…そうか『Bランクのおじさん』この世界の人気小説のシーンに似ているかも知れない。
「みう…俺は正平…おじさんじゃ無いよ? 酷いよみう…俺はこれでも11歳なんだよ」
「だけど、みう知らない、知らないんだもん、あれ以上カッコ良い人なんて…」
「そう…俺、あんなのに負けちゃうの? 悔しいから止めてあげない…何処が良い? 額が良いかな、それともその薔薇のような唇が良いかい?」
「正平くん…何を言っているのか、みう解らない…解らないよ…幸せ過ぎて解らないよ…おじさんじゃないよ…みうが好きなのは、ううん大好きなのは正平くんだよ…だけど、解らないよ…」
「残念時間切れ…だから僕が決めるね…その湖の様に透き通る瞳に決めた」
「決めるって何を…ええっえええええー――っ」
チュッ…俺はみうの瞳に軽いキスをした。
「キキキ、キス…そんな…キュウウウウ」
気を失ったみたいだ…
まぁ大丈夫だよな…俺は耳を胸にあてた。
心臓の音はしっかりしているから問題ない。
「あんた馬鹿ぁぁぁぁー――女の子にこんな事して獣じゃない」
ゆかりのこのセリフは確か「お嬢様と下僕」というこの世界の女の子向きアニメのセリフだ。
だが、そのアニメ…余り面白くない、下僕側がなっていない。
「ゆかり姫、貴方のその美貌の前にはすべての男は下僕みたいな者ですよ」
「しょしょしょ正平くん…ななななっ、あんたなんか好きじゃないんだからー――っ」
「ゆかり姫…これはアニメでも小説でもありません…そして俺は下僕でもありませんよ?」
「私は、私は…握手で満足…満足なの…こんな事して貰っても、もう何も無いの…明日から」
「何言っているんですか? これはゆかり姫を楽しませるだけじゃなく俺が楽しみたいだけですよ?」
俺はゆかりの手をとり引き寄せた。
自然と後ろからゆかりを抱きしめる形になる。
「あの正平くん…私、私もう何もないの…何も無いのよー-ヒクッグス、スンスンうえぇぇぇぇー-ん」
泣かれてしまった。
だが、止めない…
「貢物なら、まだあるでしょう…」
「スンスン…もう何も何もないの…何も…無い」
「まだ、ゆかりが残っているよ…髪の毛からつま先まで全部貢いで…ゆかり…」
俺はそのままゆかりの首筋にバンパイヤの様に吸い付いた。
「あああっ、貢よ貢いじゃう…こんな私で良いなら受け取ってくだ…キュウウウウウッー-」
しかし、この世界の女の子は、何でこんなに気絶するんだろう。
前の世界だったら、お持ち帰りできちゃう位まずい…でもこの世界じゃ、それもご褒美か。
◆◆◆
「正平くん…今日はありがとうもう思い残すことは無いよ、最後に良い思い出が出来たよ」
「私も、もう思い残すことは無いわ…正平くんの事一生忘れない」
まさか、ゆかりも病気なのか…
このまま見捨てて良いのか…
「マネージャーさん、あの二人とも何か病気だったりするんですか?」
「至って健康ですが!」
「嘘、言わないで下さい、さっき寿命とか言っていたじゃないですか?」
「ああっ…それですね」
何てことは無かった。
この世界の男性は基本的に女性を好まないが、一部例外がある。
それは少女…大人の女性は受け付けないが、胸が膨らんでない男に近い体型のうちなら受け入れられる男が僅かだが居るらしい。
俺から見たらロリコンにしか思えないが…
そんな男性にモテる事を目的にしていたのが、みうみたいなタイプという事だった。。
「もう、みうも12歳そういう男性からも嫌われる年齢、いい加減、気持ち悪いから声優を辞めさせろって連絡が沢山の男からくるのです…他の路線変更も無理、12歳位までが勝負だったんですが…ロリ系アイドルとして寿命ですね」
この世界は可笑しい…
ロリコンも…可笑しいのか?
前の世界なら『みうちゃん…ハァハァ』とか言ってもうとっくに誰かの者になっている筈だ。
「あの…それじゃ傷者とは…」
「みう…此処迄してくれたんだから、見せるべきだよ」
「そうね…少し気持ち悪いけど…ごめんね」
そう言うとみうは上着を脱いだ…
前の世界と違い女性の体に価値が無いからか脱ぎっぷりが良いな。
確かに大きな傷がある…
「確かに傷があるね」
「私、胃ガンに掛かって、胃の半分を摘出したの…その時に実は50歳の男性から告白受けて『顔見知り』になれそうだったの…でも腹腔鏡で取れない大きさだったから大きくお腹を切らなくちゃならなくて…これがその手術の後…話は勿論流れちゃった…だから、両方の意味で傷者なんだよ…きっと誰ももう、相手にしてくれない」
「そんな事は…」
「あるよね真田さん…今日のコンサートも、間違いだと思っていた位だよね」
「私は嘘は言わない主義です…その通りです」
「あの…ゆかりちゃんが人気が無いって言うのは」
「この子も同じ12歳…もう難しい歳なんです…それよりこの子はお金が無いから、アイドル活動なんてもう出来ない…今でも他の子が男性に嫌われるからやらない『ツンデレ』みたいなお金が掛からない役しかしていません…まぁ男性に貢げない貧乏人ですから」
なんだか聞いていてせつなくなってきた。
今、俺の『ご学友』は2人。
それですら琴美さんは目立つと言っていた。
そういえば…
「『顔見知り』ってなんですか?」
「あはははっご冗談を男性が付き合う、最低レベルじゃないですか? 嫌だな…説明いります?」
説明を聞いた。
そうか…『ご学友』って言うのは未成年レベルだと最高のレベルなのか…
だから、あれ程の話題になったんだな。
実際にはその下に 『友達』『知り合い』『顔見知り』と下のランクがあったんだ。
流石にこの世界の常識をこれ以上聞くのは不味いな。
『友達』はなんだか、ご学友のその下でまた、何か大変な事になると思う。
『顔見知り』は怪我をしなかった場合のみうの待遇だから何だか嫌だな。
『知り合い』うん、これなら響きからして大した事が無い気がするし『顔見知り』より上だ。
「みう、ゆかり…俺は二人を気に入った、体の傷だって別に何とも思わないし、凄く可愛いと思う」
「「正平くん…」」
「俺には既にご学友が2人居て、余り増やさない様に言われているんだ」
「あなた、何を言っているんですか…11歳の少年が?2人のご学友なんて...」
「真田さん、静かにして!」
「黙って下さい!真田さん」
「それで、差をつけるようで悪いけど『知り合い』で良いかな? それで良いなら二人を迎えたい」
「嘘…そんな、傷者なのに…良いの? 本当に良いの?正平くん…グスッ、私頑張って良かったよー――っ最後まで、本当に最後まで頑張って良かったよー-っ」
「私、貧乏だったのに…奇跡みたい…貧乏でも…幸せになれるんだ…ありがとう…神様って、神様って本当に居るんだね…うわぁぁぁぁん、ありがとう、正平さんありがとう…臓器でも何でもあげるからねー-っ」
その後マネージャーの真田さんが、お互いのスマホを使って『知り合い』申請をした…間違えるといけないからか申請ページが違うのか…申請方法がよく解らなかった。
「これでみうは正平くんの者だよ、何でもしてあげるから24時間何時でも連絡して」
「私は髪の毛一本からつま先まで正平さんの者だから…何でもするから、何時でも電話して下さい…待ってます」
二人は手をぶんぶん振りながら…去っていった。
「正平様…」
「真田さん、え~と」
「この度はうちの声優タレント二人との『知り合い』登録ありがとうございます。こんな嬉しい事はマネージャーとしてありません…これはお約束のお金です…受け取って下さい」
「俺は要らないと言いましたので受け取れません」
「みうはあれでもプロです、受け取って下さい、アイドル最後に最高のチャンスを貰い成功したのですから受け取るべきですよ」
どうあっても引っ込めないから仕方なく受け取った。
「解りました」
「マネージャー生活32年、此処迄素晴らしい事はありません、まさか私の担当したアイドル2人が男性の傍にいる権利を手に入れしかも『知り合い』になるなんて、こんな事初めての経験です…それでは私もこれで失礼します」
嘘だろう…『知り合い』になっただけで…これ…
不味い、また琴美さんに怒られる…
11
お気に入りに追加
642
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う
月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
【リクエスト作品】邪神のしもべ 異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!
石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。
その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。
一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。
幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。
そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。
白い空間に声が流れる。
『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』
話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。
幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。
金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。
そう言い切れるほど美しい存在…
彼女こそが邪神エグソーダス。
災いと不幸をもたらす女神だった。
今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる