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第19話 コンサート
しおりを挟む亜美から話を聞いたから、コンサートやイベントが、やたら気になってきた。
無料どころかお金まで貰えるなんて凄い話だ。
何時もの様にネット検索で『日本一の声優』『小学生』で検索してみたら『森沢みう』という名前が出てきた。
緑色の髪にポニーテールに赤いリボン、顔は幼い感じだがスレンダーな感じの美少女だ…なにより驚いたのは、その報酬…コンサート握手付きで500万円。
これ、貰う方なんだから凄いよな…
しかし、他の女の子でも50万~100万は居るけど、この金額は凄すぎる。
俺は興味半分にスマホで連絡をとった。
◆◆◆
嘘でしょう…電話の青いランプが点灯した。
これは、男性からの直通電話だ。
「はい、お電話ありがとうございます、こちらムーンプロダクションです」
「森沢みうさんの問い合わせは…」
「こちらですが、どういったご用向きでしょうか? クレームですか?」
「いえ、握手つきコンサートの件です」
「握手つきコンサート…森沢みうで間違いないですか?」
「はい」
「あの..本当にみうで良いんですか?」
「はい」
「あの…男性ですよね」
「はい、男性です」
おかしいな…みうは完全に男性に嫌われているのに…
「ちょっと待って下さい! 今、みうに変わりますね」
「はい、お願いします」
「みう、男性から電話…コンサートの申し込みだって」
「どうせお金目当てのお爺ちゃんかなんかかな?」
「それでも貴重な男性ですよ」
「そうね、仕方ないわ」
「森沢みうです、私のコンサートの申し込みありがとう!」
「いえ、こちらこそ」
嘘、凄く若い気がする…絶対にこれお爺ちゃんじゃない。
「あのね、みうは12歳なんだけど、その幾つかな?」
「多分11歳だよ、ごめん名前を名乗ってなかったね、水野正平って言います」
「水野正平くんって言うんだ…私より1つ下なんだね、凄く澄んだ声している…素敵!」
「そんな、本業の子に言われるなんて照れちゃうよ、それでコンサートの予約なんだけど何時なら取れるのかな?」
「え~みうの方は何時でも大丈夫だよ? でも早い方が良いよね? 正平くんが良いなら…今からでもどう? 会場も直ぐ手配するから」
「会場手配って大変じゃないの?」
「ううん、正平くんが私のコンサートを見たいって、言ってくれたんだもん! みう頑張るよ!」
「だけど、良く考えたら俺、1人じゃ自由に出歩けないから、今日は無理だ、ごめん」
「そんなぁ…グスっ、みう…ようやく男の子の手が握れると思ったのに…ごめんね..つい…そういえば正平くん、何処に居るの?」
「男性専用宿泊施設だけど?」
「DSSSだね…なら大丈夫だよ、そこコンサートホールが幾つもあるから、そこに行くから」
「それなら大丈夫だね…それじゃ待っているから」
「うん、会えるのを楽しみにしてるからね」
まさか今の私に、こんな話がくるなんて…信じられないよ。
◆◆◆
凄いな…声優の女の子が…俺と会うのを楽しみにしている。
多分、前の世界なら、この子のライブやコンサートのチケットを取るのに凄く苦労して良い席を取るのには万単位のお金を払らう…そんな感じの筈だ。
しかし、なんで500万なんだ?
結婚を前提にした付き合いなら、確かにこの世のものとは思えない設定があったけど…コンサートの設定としては金額の桁が違う。
結局、俺はその理由を聞けなかった。
暫くすると徳永さんから『イベントコンサートを行うと電話が掛かってきているけど、本当ですか?』と確認の電話があった。
本当だと伝えると驚かれた。
そこから僅か1時間でコンサートの準備が出来たと連絡があり、会場に行ってみると…
なんだこれ…
席は1つしかない…だが、その席は電動リクライニングチェアだった。
しかも前の世界で言うなら大企業の社長が座るような…まるで『巧巣鴨』で見た数百万していた椅子に見える。
その近くに冷蔵庫があり、そこには沢山のジュースがあって、その横には沢山の料理がブッフェ式に並んでいた。
更に、その横には森沢みうグッズが大量に置かれていた。
「凄く待遇が良いんですね…」
思わず声に出してしまったら…
「そりゃもう、大きなイベントですから力も入りますよ! 会場がDSSS何です! 武道館でもドームでもなくDSSS…しかもあの『森沢みう』のイベントですから気合も入ります! 万が一あの傷者が『顔見知り』にでもなったら、日本が震撼しま…あっすみません、つい…そろそろ始まりますよ」
傷者ってなんだ?
ライトが暗くなり、スポットに照らされたみうが現れた。
「正平くー-ん! 今日は私のコンサートを頼んでくれてありがとう! 頑張って楽しませるから…宜しくねー-っ」
『来てくれてありがとう』のセリフはこの世界じゃ聞く事はないんだろうな…
「宜しくねー―――っ!」
「嘘でしょう…掛け声に答えた…脈ありなの(ボソッ)」
近くのスタッフのお姉さんの声が聞こえた。
ステージの上では…なんでだ『森沢みう』が泣いていた。
「みうのイベントで、グスッ…声を返してくれるなんて…正平くんありがとう…みう、頑張るね!」
声優がメインの筈なのに…歌も上手い。
亜美と比べるとロリ系声優特有の舌ったらずに聞こえる幼ない声で歌ったり話したりしている。
やはり、アイドルとかスターは凄い。
歌が上手いのは当たり前だけど、聞いていて心が揺すぶられ引き込まれる。
亜美もそうだったが、スターと言うのは例えどれ程沢山の人が居ても、その子の方に目が行く…こういう存在を言うんだ。
それが良く解る。
本気でナンバー1ホストが喋りだすと、女が彼しか見えなくなる。
それを複数に行えるのがきっとアイドルなんだと思う。
「ううっう、みうも男性相手にこんなイベントが開けるなんて…良かった、最後にこんな良い思い出が出来るなんて、もう寿命が…」
凄く気になる…まさか病気なのか?
寿命が…もう、嘘だろう。
『あの…すみません、寿命って何ですか?』
『もう、寿命が…みうにはありません…これが多分、最後のコンサートです…』
あんなに明るく歌って踊っているのに…もうすぐ死ぬのか…
「ハァハァ…正平くん、今日は本当に…ハァハァありがとう、此処からはリクエストに応えるよ、なにか、みうにして欲しい事はあるかな?」
彼女は声優だけど…歌や踊りしか見てないな…
そう言えば前の世界の声優は劇をやっていた気がする。
「もし…体が辛く無かったらだけど、劇かアニメの1シーンがみたいな…必ず目に焼き付けて置くから…」
「みうとしてはそれだと、他の子を呼ばなくちゃならないから…少し残念なんだけど…真田さん、だれか直ぐに呼べる子居るかな?」
「え~と釘宮ゆかりなら、土下座して頼まれたから車に居ますが…」
「大丈夫かな? 正平くん、釘宮ゆかりしか居ないけど大丈夫?」
何で確認とるんだろう?
「大丈夫です」
「凄いですね~それじゃ連れてきます」
「お願いします」
この世界のアイドルとか声優より男性の方が価値が高いんだな…
こんな状態なのに、みうの周りには誰も居ない。
どちらかと言えば、みうから俺を守るような立ち位置に警備関係の人間が数名いる。
間が持たない。
沢山、たのしましてくれたんだ…少し位なにかしてあげても良いだろう。
「みうちゃん…ゆかりちゃんが来るまで良かったら、こっちに来ない?」
「えっ良いの?」
凄く驚いた顔をしている。
「すみません、警備の都合上、余りお勧めできません」
「構わないよ…俺は問題ない」
そう言うと、みうはステージから降りてこっちに来たが、少し手前で止まってしまった。
「あの…みう、今凄く汗くさいから…此処で良いよ…」
「そんなの気にしないから…来なよ」
「うん..解ったよ…だけど、本当に嫌いになったりしない?」
これズルいよな、可愛い子が上目遣いでお願いする…亜美も良くやるけど…こんな事されたら普通に断れない。
「しないから、大丈夫…ほら」
そう言うと俺はみうを手招きした。
「みうちゃん…疲れたでしょう? 座って」
「あの…ここ正平くんが座っていた…場所」
「俺は良いから…座ってよ」
「あの…本当に良いの?」
なかなか座ろうとしないから、ちょっとだけ押した。
そのまま、みゆは椅子の上にもたれかかった。
病気なのに頑張ってくれたんだ…少し位何かしてあげたい。
そう思った。
「座っちゃった…正平くんが座っていた椅子に…嬉しいな、正平くんに包まれたみたいで…うん嬉しい」
俺は冷蔵庫から飲み物を出し、コップに注いだ。
多分、汗をかいたからスポーツドリンクが良いか...
「はい、どうぞ」
「嘘、嘘、正平くんの手作りドリンク…本当に良いの?」
ただコップに注いだだけで…それが手作り…本当にこの世界の男は何もしないのな。
「はい…どうぞ! みうちゃんは好きなな食べ物、嫌いな食べ物はある?」
「特にないけど、みうはお肉が好き」
「そう…それじゃこんな物かな」
沢山食事があるから、そこから適当にみうが好きそうな物を選んで皿にとり、みうに差し出した。
「待っている間、少し食べない」
「あの…ディナーショーの分って幾ら払えば良いのかな…」
「これは一生懸命頑張ってくれたサービス…はいあーん」
「あーんって、何をすれば…良いの…うそ…それ食べて良いの?」
「そうだよ…口をあけてほら…」
「あ~ん…凄く美味しい…これ幾ら払えば良いの…」
「お金は要らないよ…ほら」
おずおずと口をあけて目を瞑るみうが可愛い。
これ、見方によってはキスする前の顔に見える。
「ハァハァ、時間かかってすみません…釘宮ゆかり、ただいま…きゃぁっ…凄い…」
え~と、ただ軽食を『あ~ん』しているだけで何で驚くんだ。
みうやゆかりみたいな子供なら兎も角、警備の女性からマネージャーまで…
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