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勇者なんて要らねーよ

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「リリ言ってくるね…リリはこの部屋から出ないで」

「あうわうわ」

一応、リリが外に出ない様に奴隷紋を使いお願いをした。

まだ当分、生活に困らない程のお金がある。

それなりに冒険者として優秀だったからな…

だが、問題はこれからだ。

魔王の天下になったから『討伐』の仕事は無い。

いや、ある事はあるが…相手は人間だ。

都心部で生きる事が出来なくなった人間が森などで盗賊をしている。

それが獲物だ。

ちなみにスラムにも人間はいない。

今現在は、人間から、沢山の物を手に入れた為、魔族は裕福だからスラムは無人だ。

人間は…こんな所に住んでいたら、そのまま食われてしまう。

そろそろ俺もお金を稼がないといけない。

その為には、俺が働いている間にリリの面倒をみてくれる人が欲しい。

普通なら冒険者ギルドに依頼できる。

冒険者ギルドは街の何でも屋を兼ねているからな。

だが、リリは人間だ。

人間をエサに考えている存在に任せるのは怖い。

冒険者だから、最低限の信頼はあるが…例えば料理の食材に人間を使った物を出したり、と種族の差はあるかも知れない。

俺が留守の間、リリを見てくれる人間が必要だ。

そう考えて俺は…再び市場に来た。

しかし…此処は、人間には地獄だよな。

「兄ちゃん、兄ちゃん、雌の肉の5歳もんが入ったよ、柔らかくてうめーよ」

「人肉のステーキ串だ、食べ歩きにどうだい?」

奴隷売り場に行く前に、この道を通らないといけない。

人間の死体や切り刻んだ状態で売られている人肉を見ながら歩かないといけない。

人間にとっては正に地獄だな。

だが、今の俺は何とも感じない。

心が完全に魔族になっているのが解かる。

昔の俺なら…そこで死んでいる人間を守る為に魔族や魔物と戦っていた。

これでも勇者パーティのメンバーだったんだ…

今の俺には…それは気にならない。

何時から俺はこうなったのかな…解らない。


◆◆◆

「買ってーーっ買ってーーっ私を買ってーーっ」

「お買い得ですよーーーっ、絶対に損をさえないわーーっ」

「お兄ちゃん、お兄ちゃんだよね…」

相変わらず凄いなこの場所は….今日も客は殆ど居ない。

確かに、戦争が一方的に終わり、大きな国の殆どの人間は、その時、欲しがった魔族の報奨金の一部として渡されたらしい。

需要と供給で供給が上回っているのだから…来ないか。

人間を奴隷やペット、性処理に使うのは魔族の中では獣姦扱い、オークやゴブリンでも変態扱いだから少数派なのだろう。

しかし、何時見ても、筋肉質の女やデブしか置いてない…完全に美的感覚が違う。

「しかし、見事に筋肉質の女ばかりだな」

「オークやゴブリンは直ぐに壊しちゃうからな…頑丈な女が人気なんだ、良質だろう?」

「亜人は魔族扱いだから、売り物には成らないのは解かるけど…ああいうエルフみたいに細い感じのは居ないのかな」

「あはははっ、確かに一部オークには人気があるが、あれは使い捨てとしての人気だぜ、1回で壊れちまうらしい…その壊れて泣き喚くのがあいつ等好きなんだよ…こう言う所じゃ、流石に使い捨ての粗悪品は売りたくねーから、細いのはさけているんだ」

やっぱりなどう見ても鍛えぬいた男に近い体の存在しか居ない。

多分、強そうだが、魔族社会じゃ意味はないだろう。

見た感じだと家事は出来なさそうだ。


「何だい、兄ちゃん、また壺を買いに来たのかい?」

「ああっ、俺は線の細いタイプが好みなんだよ」

「それじゃ、奴隷にはすくねーな、まぁ壺なら偶にいるけどな…但し」

「解っている、壺はあたりハズレがある? そうだろう?」

「その通りだ、解っているならいいさぁ…だがよ、今は…あたりばかりなんだが、兄ちゃんからしたらハズレしかねーな」

確かに面構えの良い、騎士みたいな感じしかいない。

絶対に家事なんて出来そうもないな。

「またくるわ」

「良かったら3日後に新しい壺女が入荷予定だから、来てみると良い」

「解かったよ!おっちゃん」

俺は収穫も無く市場を後にした。


◆◆◆

そう言えば、教会に来れば神官様が『ジョブ』をくれると言っていた。

だから、教会に来た。

「おや、貴方はリヒト君、早速来られたのですか?」

外は、通常の教会だが、中は凄く禍々しい。

流石は邪神を祀っている。

そう言う場所だ。

「はい、宜しくお願い致します」

そう言いながら、俺は金貨1枚を神官様に差し出した。

勿論、出さなくても良いが、寄進をするのはマナーだと聞いた。

「これは、これは…有難うございます…それではこの紙を咥えながら、邪神様に祈りなさい…すると体が熱くなります…その後に紙を見れば、貴方が授かったジョブが浮かび上がります」

「解りました」

俺は貰った紙を口に咥えて邪神の像の前に跪いて祈った。

俺は、女神イシュタスに祈り、ジョブは貰っている。

果たしてそんな俺に邪神はジョブをくれるのだろうか?

暫く祈ると、辺りに黒い羽が舞う様に落ちてきた。

「まさか…堕天使の祝福…私は今奇跡の瞬間に立ち会っているのか?…」

なにやら、神官様が棒立ちしている。

体が熱い…

紙に文字が浮かびあがった。

「神官様…これ」

「こここ、これは…魔王子…素晴らしい」

魔王子(デモノプリンス)?

「これは、そんな素晴らしい物なのですか?」

「素晴らしいも何も、この世で2番目に凄いジョブでこの世界に1人しか授かれません『魔王』のジョブの次に凄いジョブです」

王子とついているが、魔王は不死だから後継者という訳では無いのだろう..

「良く解らないな」

「このジョブは、魔族の使う全ての魔法を使いこなし、多くの魔族を従えさせる能力があります…この世界で魔王様に仕える未来が待っている最高のジョブです」

副官に手が届く…そういうジョブか。

「それじゃ、リリも治せたりしますか…」

「はぁ…あの奴隷ですか? 好きですねリヒト君も…無理ですね」

「何故ですか?」

「だってリヒト君はまだ十代…赤ん坊に近い子供じゃないですか? ちゃんと魔法が使えるようになるまで200年位かな?人間の寿命が間に合いませんよ」

数千年もしくは寿命が無い 魔王種の十代は確かに赤ん坊だ…200年経ってようやく人間で言う8歳位、そう言う事だな。

「有難うございます」

「それで、リヒト君、ジョブ何ですが、あと1つ読めない文字で書かれた物があるんですが…まぁ大した物じゃないでしょう?」

「見せて貰っても良いですか?」

「はい、どうぞ」

多分、上級剣士だ。

ジョブは悪落ちしても消えない…

女神イシュタスから貰ったジョブがそのまま残っていたんだろう。

だが…嘘だろう…何で『勇者』のジョブがあるんだ…

勇者のジョブは勇者が亡くなった時、身近な人間に移る事もあると聞いた事がある。

ガイアの身近な者は三職以外じゃ俺しか居ない…そう言う事か。

だが..要らねーよ。

くれるなら、聖女の男版、聖人が欲しかった。

こんなジョブ貰っても今更おせーよ。

「どうかされましたか?」

「いえ..大丈夫です」

俺はお礼を言うと教会を後にした。


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