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マリベルに何が起こったのか?

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「マリベルさん!?」

「セレ坊?」

俺は驚きを隠せない。

国はリヒトが勇者に選ばれた後、勇者の支度金という名目で両親に金貨800枚(日本円で約8千万)支払った。

ソニアやリタ、ケイトの実家にもそこ迄では無いが支払っていた。

まぁ、俺は四職で無いし、身内も居ないから何も貰えなかったんだけどね。

金貨800枚と簡単に言うけど、ジミナ村はど田舎だ。

多分、質素に暮らせば生涯金貨300枚も使わないで家族が生活出来る。

まさか、ジミナ村に何か問題が起きたのか?

それなら『糞、すぐに田舎に帰るべきだった』俺なら盗賊だろうが倒せる。

「マリベルさん、まさかジミナ村で何か起きたのでしょうか?」

「えっ、ジミナ村! 普通に平和だけど?」

「それなら、何故マリベルさんが」

「それは..ほらうちのリヒトが勇者に選ばれたでしょう」

マリベルさんが悲しそうに話し始めた。

◆◆◆

「うちも含んで、四職に選ばれた家族には莫大なお金が支払われたじゃない?」

「金貨800枚ですよね?」

「そうよ、それがね、うちには間違いだったのよ…」

リタの家やソニアの家やケイトの家は、そのお金を使って家を直したり、田畑を増やしたり、貯金したりしたそうだ。

だが、リヒトの家は違っていた。

リヒトの親父リューズは、今思えば働かないで遊んでいる様な人だったな。

顔はムカつくがリヒトに似て2枚目だ。

働かないリューズの代わりに一生懸命働いていたのがマリベルさんだった。

俺には『仕事を出来ない駄目人間だが、家族には優しい人』に見えていたんだが、どうやら違ったようだ。

マリベルさんの収入無くして生活出来ないリューズは…言われて見れば寄生虫みたいな男だったようだ、『収入が無いから優しい人を演じていた』だけだったらしい。

リヒトが勇者になり『お金が手に入った』リューズは、すぐに本性を現し、すぐに街に遊びに行き賭け事をする様になった。

最初はそれでも街と家を行き来していたが、次第に家に帰って来なくなったそうだ。

様子を見に街に行って見つけたら…若い女と腕を組んで歩いているリューズの姿だった。

直ぐにマリベルさんが詰め寄ると

「今の俺はモテるんだ、今更ババアの出る幕じゃないぞ」

「そうそう、オバサン、リューズに寄生して生きているんでしょう? 財産目当ての糞ババアが何言っているの?」

そう罵倒され目の前が暗くなったそうだ。

多分、此処で離婚すれば、マリベルさんはまだ、幸せだったのかも知れない。

だが、放心状態のマリベルさんはそのまま村に戻った。

そして、目を覚ましてくれるかもしれないと思い、村で待っていた。

そんなマリベルさんの元に1か月ちょっとでリューズは帰ってきた。

その時にはもう、金貨5枚位しか持っていなかったらしい。

「マリベル、俺はようやく目が覚めた、これからはもう浮気はしない」

そう言ったそうだ。

その結果、マリベルさんは離婚で無く再構築を選んだ。

だが、これは大きな間違いだった。

「マリベル、今迄苦労を掛けたから、残り少なくなってしまったが、これで街で美味しい物を食べよう」

「そうね、ありがとう」

だが、街に行ってマリベルさんを待っていたのは『奴隷として売られる運命だった』

しかも、近隣の街だと素性を知られる可能性があるから、態々『流れの奴隷商』に売ったらしい。

金額は二足三文で。

リューズの目当てはマリベルさんを売ったお金でなく、マリベルさんが隠し持っているお金、金貨100枚だった。

貰った金貨800枚のうち100枚だけはマリベルさんが、何かあった時に使う為に隠していたらしい。

クズのリューズは『家探しすれば見つかる』だろうと、タガをくくり、マリベルさんを売り払った。

◆◆◆

「大変でしたね」

「あはははっ笑っておくれよ、一生懸命主人に尽くし、頑張った結果がこれさ」


本当に酷い話だが、前世とは全く違うのがこの世界だ。

街などの都心部では若干薄い物の『男尊女卑』が田舎では普通にある。

ジミナ村は豊かで良い村だが、あるか無いかと言えば男尊女卑はある。

俺は男だから関係ないが、もし女だったらきっと孤児の俺は酷い扱いだったかも知れない。

まぁ奴隷を買っている俺が言えた義理では無いが『普通に田舎では嫁を田んぼや牛や畑と交換』なんて風習もある。

若い子で、これなのだから、31歳のマリベルさんにはもっと酷い事が起きても可笑しくない。

だが、俺には凄く気になった事がある。

「なんでリヒトの名前を出さなかったんですか?」

「母親の私が子供に迷惑を掛ける訳にいかないだろう? それにあの子の性格じゃ父親につくかも知れないしね」

まぁ、リヒトは二枚目の親父を慕っていたな。

クズのリューズも自分に似ているリヒトに優しかったしな、よく小遣いをやっていた。

そのお金もマリベルさんが稼いでリューズにあげたお小遣いから何だが、リヒトには解らないだろう。

しかも、他の面は良い奴だがリヒトは「女にだけはだらしない」これはリューズ譲り。

女関係で小言を言うマリベルをリヒトは嫌っていた。

確か子供の頃に

「なぁセレス、お前の好みはどういう女なんだ」

「俺の理想はお前の母親だよ」

「俺の母ちゃん? 物好きだな!あんなので良ければ何時でも譲ってやるぜ!」

そんな会話をした思い出がある。

それから暫くして、リューズから

「お前、マリベルが好きなんだってな? お前が15歳になる事には彼奴はババアだぞ、だがな、それでも欲しいっていうなら、その時はよう、俺に言うんだ金貨5枚で譲ってやるぜ、まぁガキのお前が乳恋しさに言っているだけで直ぐにそんな気持ちなくなるだろうがな」

そんな事を言っていた。

確かに言っていた。

村社会だから、未亡人は『夜這い』の対象だし、20代前半から徐々に女性の価値はなくなる。

そうか、今思えば

『しかも、20代半ばから女扱いはされにくい世界だ。もし旦那が居ても、その位の年齢の女性であれば真剣に話せば譲ってくれる可能性すらある。』

これはリューズから聞いた事だ。

俺の中にあった『『案外ジミナ村に帰る』それで幸せになれるかも知れない。』これは村に帰れば、マリベルさんを譲って貰える。

そんな気持ちがあったからこそ、そう思っていたのかも知れない。





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