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第50話 【閑話】元勇者の旅立ち
しおりを挟む俺達に一体何が起きたと言うんだ!
俺も大河も聖人も『力』を失ってしまった様な気がする。
恐らく、あの無能の理人と同じになってしまった様だ。
大河は『怪我が治ったら何時か理人を殺してやる!』
そう息巻いていたが、恐らくその何時かはもう来ない。
体が壊れてしまって、もう『剣聖』としては絶望的なようだ。
急に性格も丸くなり始め、時間が経つにつれ『俺が全て悪かったんだ』とか言い出しやがった。
聖人は体が回復して『呪いが解けたんだ』と訳のわからない事を言って喜んでいたが、今では魔法は使えない。
つまり、三人とも理人と同じで『無能』になった。
そういう事じゃ無いか?
それは2人も同じ考えだ。
もう一度、あの水晶の様な宝玉による鑑定をして貰いたいが、それは無いという事だ。
なんでも、あの鑑定はかなりの教会の実力者が行っており『鑑定ミスは重罪にあたる』から、慎重に行っていて過去に一度もミスは起っていないとの事だ。
一応相談した。
「鑑定ミスなんて絶対に無いから安心して下さい!」
そう強く言われ、取り合って貰えなかった。
これは俺たちにとって『良い事でもあり悪い事』でもある。
良い意味では『能力が無くなった事』が教会や周囲にバレない。
悪い意味では『討伐にいかされる』
鑑定ミスでは恐らく無いだろう。
今の状況は『鑑定した後にジョブが無くなった』様な気がする。
最初の頃は間違いなく『ジョブ』や『スキル』の影響を受けて自分がまるで超人にでもなった様な高揚感があり。
事実無双できる力があった。
大河が騎士を楽に倒せる位の能力があったんだ。
『無い』とは言えない。
多分『失った』それが正解だ。
あくまで憶測だが、俺達の能力は『女神』から貰ったものだ。
そう考えたら『失っても』可笑しくない。
地球、いや日本に置き換えたら、恐らく俺達は『悪人』だ。
悪人には神や仏は罰を与えている。
至極真面な話だ。
最早、どうして良いのか俺には解らない。
「おい、大河体はどうだ!」
「良く無いね、もう剣聖としては無理なんじゃないかな?」
「そうか…」
それしか言えなかった。
大河が弱音を吐くんだ…もう自分の体が真面じゃない。
きっと自分でも解っている筈だ。
「大樹くんに大河くん」
「聖人、あの時は正直ムカついたけど、もう気にしてないからな、弱弱しく話さないで良いぜ!お互いスクラップなんだ、水に流してやるよ!それより大樹これからどうすんだ!」
「もう仕方ねーよ! 訓練はメッキが剥がれない程度誤魔化しながらして『旅立つ』しかねーよ! その後は支度金を使いながら魔王の元でなく『北の大地』を目指そうと思っている。まぁこれはあくまで俺の考えだが」
「北の大地?」
「北の大地ですか?」
「ああっ、隣の国、ルブランド帝国との境界だな。そこには魔族の幹部が居るらしいぞ」
「大樹、そんな所に行ってどうするんだ」
「そうですよ! 危なそうじゃ無いですか」
「そこ迄の道中で俺たちは死んだ事にするんだ。その後の人生はどうなるか解らないが死ぬよりはましだ…死んだことにして別人として人生をやり直すしか無い…そう思っている。幸いこの世界は前の世界と違い戸籍の管理は無い…」
「そうか…」
「それが良いかも知れませんね」
まずは生き延びる事。
それだけ考えれば良い。
◆◆◆
「私の命にかえてのお願いに御座います。大樹殿たちの再鑑定をお願い致します」
何が起きたのか解らぬ。
何故かアレフロード国が勇者の所属の移転を申し出てきた。
勇者が教会の所属になる。
皆が喜んでいたのだが、僅か数日で事態は急転した。
誰しもが『偽物』と言うのだ。
ジョブの鑑定は人の一生を左右する鑑定だ。
故に、失敗は許されぬ。
もし間違って鑑定した場合は『最悪は鑑定しら者に死罪』を言い渡さなければならない。
今回の件が間違っていたのなら『勇者の鑑定』に失敗したことになる。
それは、アレフロードだけでなく、この世界を巻き込んだ大きな失敗となる。
そんな失敗は許されぬ。
だが、何人もの司祭クラスが『命にかえて』と言ってくる。
流石に教皇の私でも無視は出来ない。
「流石に司祭たちの命は重すぎる。まずは『鑑定眼 極』を持つジュベルに内密に鑑定をさせよ…その結果を持ってして判断する」
これで落ち着いた。
ジュベルは世界で3人しか居ない『鑑定眼 極』を持っている。
その目で見れば全てが解かる。
宝玉(水晶)を使った鑑定をすれば、最初の鑑定者の顔に泥を塗る事になる。
故に誰にも気がつかれずに鑑定するのであれば彼の力が必要だ。
間違いであって欲しい。
そういう期待を持って、ジュベルに鑑定を依頼した。
◆◆◆
「ご報告いたします。あの勇者達は残骸に御座います」
偽物なら兎も角『残骸』とは聞いた事が無い。
何が起きたのか解らない。
「残骸とはどういう意味なのだ」
「それをこれから説明致します」
そこからジュベルはメモを私に見せながら説明をしだした。
【ジュベルのメモ】
青山 大樹
ジョブ 異世界人 ←
スキル:翻訳
赤城 大河
ジョブ 異世界人 ←
スキル:翻訳.アイテム収納
木沢 聖人
ジョブ 異世界人 ←
スキル:翻訳.アイテム収納
「私の『鑑定 極』はその素質を見る為HPとMP以外は全て見る事が出来ます。その私に見えるのがメモの通り『ジョブ無しの状態』です」
不味い、これは鑑定を見誤った。
そういう事か?
「それでは鑑定を見誤ったと言う事ですか」
「それは違います。見ての通り虫食い状態ですから、元は勇者、剣聖、大賢者だった可能性が高いと思われます。それが何かの原因で無くなった。そう判断するのが正しいかと思います。」
だが、ジョブが失われるそんな事があり得るのか。
「その様な事が起き得る事なのでしょうか?」
「過去の話では『勇者が魔王相手に臆した時』『剣聖は女に現を抜かして剣の修行を怠った時』にそのジョブを失った者がいると書物で見た事が御座います。恐らくはその類かと思われます。ついでに調べた所、あの三人にはそれが起きる原因がございます。」
私は話を聞いて驚いた。
勇者は同じ五大ジョブの女性を犯そうとし、剣聖は騎士に死にかねないような大怪我をさせていた。
そして大賢者は何かと横柄だった。
「それは本当の事ですか」
「王家に仕えている者のうち信仰の熱い者数人から聞いた結果でございます。嘘はございません」
これでは勇者等では無い。
ならず者では無いか?
「それでは彼等は…」
「教皇様の思われる通り『女神の逆鱗』に触れ、その資格をはく奪された者かも知れませぬ」
こんなガラクタだからエルド6世は寄こした。
そういう事だ。
だが、異世界人である事は間違いない。
「『最早勇者でない以上教会、聖教国の支援は必要ない』但し異世界人ではあるのだから、最低限のお金と身分証を渡し、明日でも出て行って貰う。その辺りが妥当だ。私は顔を見たく無いから、トーマ司祭、貴方が執行しなさい」
「解りました」
横に立っていたトーマに全て任せました。
勇者資格を失った、ただのクズとは私は話もしたくありません。
「確か、トーマ、ジュベル、私が聞いた話では勇者を含む五大ジョブが失われた時には代わりに『引き継ぐ者』が現れると聞いたのですが間違いありませんか?」
「「はっ、間違い御座いません」」
「それならこれより教会は彼等を探し出す事に注力する事にします『本物の勇者』を手に入れる事を最優先にします。それを全ての教会に通達して下さい」
私は勇者達をこよなく愛しますが、それは女神の使徒だからです。
本物の勇者の為なら何でも致しますが。
その資格を失った者には寛容には成れません。
◆◆◆
それから5日後、三人は旅立つ事になる。
大河と聖人の治療はしっかり行われ『ある程度まで治った』
支度金として金貨を1人当たり15枚(日本円で150万円)渡された。
これが教会の『彼等への最後の慈悲』であった。
このお金と治療が『教会の手切れ金』であった事を彼らは知らない。
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