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第47話 旅立ち (第一部 完)
しおりを挟む演習が終わり、これで一通りの訓練は終わりとなる。
同級生の多くは青い顔をして演習から帰ってきた。
『人殺し』その経験を積んだのは俺達だけだ。
それでも『生き物を殺す』その経験はかなり辛かったようだ。
特に女の子にはかなり泣き言を言う臨時パーティが多くいた。
あと3日間は所謂『自由時間』だ。
もう訓練は無いが希望を出せば追加訓練や解らない事などは教えて貰える。
俺は1人で隠れて購入したコーラを飲んでいた。
この日本人向けサービスはどうやら『俺だけの物』のようだ。
どういう仕組みか解らないが、元日本人も含み周りに誰かが居るとコーラが突然この世界の『グアラ』という不味い飲み物になってしまう。
その為、コーラが飲みたければこっそりと隠れて飲むしかない。
勿論、塔子や綾子に渡してあげる事も出来ない。
お店も同じで『世界観』を使い俺1人が入った時にだけ『日本仕様』になる。
当人にその気が無くても彼女達も同級生もテラスちゃん判断で『地球の神』を裏切っているからこうなるのかも知れない。
何だか自分1人だけと言うのは後ろめたい気もする。
今ある分を飲んだら、暫くは自重しよう。
◆◆◆
『随分と面白い子を仲間にしたんだね』
お城の裏庭で1人ぼんやりしていると、突然テラスちゃんから神託が降りてきた。
声が聞こえるのは嬉しいが。
まさか祈りもしないのに神託が降りるなんて驚愕だ。
俺は周りをキョロキョロと見た。
『周りには誰も居ないよ!それにこの声は理人にしか聞こえないから安心して良いからね』
『それなら、安心ですね。面白い子とはフルールの事でしょうか?』
『そうだよ! よくこんな一神教(人族限定)の世界で神を信仰しない子がいたもんだね…凄いよ!』
確かに言われて見ればフルールが女神に祈っている姿は見たことが無い。
此の世界の人間が持つ、女神を彫った装飾品も持って無いような気がする。
『確かに彼女は女神を信仰して無さそうですね』
『ええっ完全完璧に信仰してないよ『女神臭さ』が全く無いんだもの』
『女神臭さ?』
『神には解るんだよ! 理人もこの世界の馬鹿な女神に臭いとか言われなかった?』
あれは例えで言ったんじゃ無くて、本当にそういう臭いがするのか。
『確かに言われましたね』
『でしょう? 本題に戻すけど、彼女からは『女神臭さ』が全く無い。つまりは女神を信仰していないって事だよ?この世界の人族じゃ結構貴重な存在だと思うよ』
確かに世界を挙げて女神を信仰している。
その中で信仰していないのは凄いな。
『確かに凄い事ですね』
『凄いよ! つまり、彼女は神的に言えば『この世界の二人目』の日本人になれる可能性があるんだよ!』
此の世界で2人目の日本人?
異世界生まれのフルールが?
『それは一体どういう事でしょうか?』
『良い?塔子と綾子は貴方の持ち物みたいな物。僕にとってはどうでも良い存在なんだ。簡単に言えば理人が楽しい生活を送るのに必要な物。それだけの価値しかない。例えば理人が、死にでもしたら僕にはもうどうでも良い人間になるんだ』
確かにテラスちゃんからしたらそうだろうな。
自分達への信仰を捨てた人間なのだから、塔子は元から信仰は薄かった気もしないでもないが。
『確かにそうですね』
『そうなんだよ! だけど彼女は『まだ無垢な存在』なんだ、どの神にも染まっていないんだよ。これは凄い事なんだ。例えばもしこれから先『僕を信仰するなら…理人を通じて氏子』になる事も可能なんだ』
『異世界人なのにですか?』
『日本人と言うのは語弊があるかも知れないね。解りやすく言えば『この世界で二人目の僕の子』にする事が出来る存在なんだよ』
信仰者そういう事だな。
『ですが、どういった条件で『テラスちゃんの子』に出来るのでしょうか?』
『まぁ、正直なれるかどうか解らないけど『僕達の素晴らしさ』を説いて彼女が心から信じてくれた時に道が開けると思うよ。ダメもとでやってみるのも手だよ。それに理人も欲しいでしょう?本当の仲間』
『え~と』
『僕はお見通しだよ?隠しても無駄だからね。一緒にケーキを食べたり、コーラを飲むような相手が欲しんだよね? 幾ら理人の願いでも塔子や綾子にはそれはしてあげられない。この先余程の信仰を示せば話は別だけど、無理だと思って。だけど彼女となら多分可能だよ』
『そういう事ですか』
『そういう事だよ! まぁ頑張ってね』
『はい』
元日本人にはチャンスはほぼ無いのか。
だが、フルールにはチャンスはあるんだな。
◆◆◆
「となると私は此処しかないのですわ」
「フルール離れなさい」
「何を考えているんですか? 離れて下さい」
夜が来たのでこれからベッドで寝るだけだが、三人で揉めている。
俺がベッドに入ると右側に綾子が左側に塔子が入って川の字で寝るのがいつもの光景だ。
そしてフルールは綾子か塔子の横で寝ていたのだが、今日は違った。
「私だって偶には理人様の傍で眠りたいのですわ」
そうフルールが言い出した。
塔子も綾子も俺の横は一切譲らなかった。
その結果、フルールが強硬に出て、俺に抱き着く様に上に乗っかってきたというわけだ。
そして今、2人はベッドから出てフルールの引きはがしに掛かっている。
美少女3人に抱き着かれて嬉しいだろうって?
此処は異世界なんだよ。
日本と違ってエアコンなんかない。
男だから俺だって嬉しい事は嬉しい。
だが、重くて暑い…
『重い』なんて言ったら、多分傷つくだろうし言えない…この間、暑いから少し離れて欲しいと言ったら塔子も綾子もこの世の終わりみたいな顔をしていた。
両脇を固められた状態で何時間もこちらを見つめてくるんだ。
横を向いて片側を向くと顔を向けた方は嬉しそうだが、背を向けた方は悲しそうに凝視してくる。
気のせいか歯ぎしりすら聞こえてくるんだよ。
正直言うと、気が休まらない。
俺は目で天井を睨みなが寝返り打たず寝るしかなかった。
だが、とうとうその天井側も塞がれそうだ。
これ嬉しいのか?
最初は嬉しいかも知れないが、連続だと結構辛いと思うよ。
結局3人は話し合いの結果、右、左、上を日替わりで変える事で決まったようだ。
俺の意思は…考えて貰えない。
昔マンガや小説で同じシーンを見て『羨ましい』と思っていたが…実際は暑くて重い。
それだけだよ。
それに、気が休まらない。
◆◆◆
残り2日。
最後の1日はささやかな宴を用意してくれると言うので、実質今日1日が最後の自由時間となる。
まぁ『旅立った』あとは自己責任の世界だが『完全に自由』だ。
クラスメイトは外出許可を得て『奴隷商』と『冒険者ギルド』に行く者が多い。
奴隷の支払いは異世界人は信頼があるから、後日持参のつけが効くようだ。
俺がフルールを迎い入れた事と緑川さんの女性パーティが美人揃いだったのが大きく影響を与えたようだ。
皆がいそいそと出掛けていった。
「馬鹿ですわね」
「本当に馬鹿ね」
「大丈夫なのかな?」
3人とも呆れて見ていた。
緑川さんは仕方ないとしても、他のクラスメイトは止めた方が良いだろう。
気心が知れた女神から強力なジョブとスキルを貰った仲間と一緒の方が絶対に安全だ。
この世界はライトノベルや漫画と違う。
出会った人物が物語のヒロインの様に『真の仲間』になんてなってくれる妄想だ。
しかし、美少女、美少年に弱い彼らは…大丈夫か?
まさか『容姿重視』でパーティ組んだりしないよな?
まぁ、気にしても仕方ないな。
彼らの人生に口出し等出来ないからな。
貴族と婚約が決まった者は今日の朝旅立っていった。
彼女達はもう戦う事はほぼ無いらしい。
『戦う者』と『戦わないで済むもの』両方の気持ちを考え宴に参加させずに早目に馬車で旅立たせる事が決まったようだ。
何故かフルールがドナドナを歌っていた。
フルールになんでその歌を知っているのかと聞くと、昔の異世界人(元日本人)が伝えた歌でかなり前からあるそうだ。
だが、なんでフルールはドナドナを歌っているんだ。
◆◆◆
宴が無事終わり、いよいよ旅立ちの日となった。
金貨の入った袋と望んだ者は簡単な装備を貰う。
王様やマリン王女に見送られながら城門を出た。
そして…
「「「「「「「「「「「「「「「行ってきます。またな(ね)」」」」」」」」」」」」」」」
これは、同級生皆で決めていた言葉だ。
俺達も皆にならい「行ってきます。またな」と返した。
このうち何人が帰ってこられるのだろうか?
きっと、かなりの数が死ぬんじゃないかな?
そう思った。
きっと全員が無事には帰ってくる事は無いだろう。
「さぁ行こうか!」
「「「うん(はい)」」」
俺達は魔王城に向け旅立った。
(第一部 完)
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