37 / 104
第37話 王都見学 お茶とドラッグストア
しおりを挟む残りの王都見学はフルールを交えて三人で見てまわる事になった。
奴隷商を出た俺達は少し話をする為に近くの喫茶店に入る事にした
「ご主人様、此処のお店のケーキは物凄く美味しいのですわ」
「そうか?それじゃ入るか?」
前の世界のケーキの味を知っている俺からしたら、この世界のケーキは微妙に思えた。
「「…」」
二人の様子が何やら可笑しい。
「フルールさん、貴方は奴隷ですわよね?」
「はい塔子様奴隷ですわ! それがどうかされましたの?」
「その割には随分と理人と馴れ馴れしいと思うのは気のせいでしょうか?」
「私が見てもそう思います」
「塔子様、綾子様、当たり前の事ですわ! 私は理人様の奴隷なのですわ! いわば身も心も主である理人様に捧げた身なのです。ご主人様が喜ぶように行動するのは当たり前のことですわ」
「ですが、此処は大通りです。もう少し慎みを持って行動なさい」
「私もそう思います」
「あらっ二人ともヤキモチですか? 奴隷にヤキモチ焼いてどうするんでしょうか? みっとも無いですわよ」
「別にヤキモチなんて焼いてません! ただ私はもう少し慎みを持ちなさいと言っているんです!」
「なぁ~に変な事を想像してるんでしょうか? ただ私は理人様の手を引いただけですわ…この位貴族の子女では普通の事ですわよ! それとも二人ともご主人様の『手も握った事も無い』なんて言いませんわよね?」
「「ううっ」」
「俺たちはまだそういう関係じゃないんだ、余りからかわないでくれ」
「そうですの? まぁそれなら私と同じですわね、まぁ拷問という仕事柄、裸にしたりちょん切ったり、四肢の切断とかは経験ありますが、それ位ですわ」
フルールが話していると、たいした事をしていない様な気がするのは気のせいか?
ちょっと待て『ちょん切る』。
思わず俺は股間に手をあてがいそうになった。
「凄いな」
「拷問とか毒殺は慣れですわ!最初は抵抗がありますけど、慣れてしまえばどうって事はありませんわ。お肉を料理するのとなんだ変わりませんわ…どちらかと言えば目を潰したり、溶かした鉛を口に流し込む方がよっぽど…」
「フルール、その話はもう良いから、早くお店に入ろう」
「そうですわね」
四人でお店に入り、ケーキと紅茶を注文した。
フルール曰く、コーヒーは基本美味しくない店が多いから紅茶がお勧めなのだとか。
しかし、貴族令嬢なのになんでこんなにお店に詳しいのだろう。
◆◆◆
「そう言えば、塔子はどうして話し方を変えたんだ?」
凄く気になっていた。
最近の塔子は『私(わたくし)』『ですわ』と貴族風に話すし、俺に『様』をつける。
これはこれでお嬢様の塔子に似合うが『塔子じゃない』そういう気がする。
「塔子ちゃん、貴族と余り話せてない理人くんが可愛そうだから、令嬢風にしていたみたいですよ?」
「そうなのか?」
「ええっ、そうですわ、それに…この方が」
「塔子は元の方が似合って良いんだけど?」
「え~と理人様」
「塔子に『様』とかつけられると他人行儀みたいで寂しいんだけど?」
「わっわかりました…理人! 理人…これで良いですか?」
「うん! やっぱり塔子はその方が似合っているよ!」
「そう?解りましたわ…から」
この方が塔子に似合っている。
別に、石のやっさんがフルールが加わる事を忘れて、加筆して塔子と喋り方が被るから焦って、なんて事じゃないからな。
「その方が塔子らしくて良い」
「そうですか? なら戻します」
うん、この方が余程良い。
◆◆◆
話せば、離す程フルールを仲間にしたのは正解だったようだ。
「随分とフルールは色々な事に詳しいんだな」
「『汚れ役』でしたからね、小さい頃から奴隷商に人を売り飛ばしたり、犯罪者ギルドと付き合ったりしていましたわ。案外依頼する時は『場所』に拘りがある協力者も居ますから自然と詳しくもなりますわ」
此の世界に疎い俺達には一番必要な人間、それがフルールだったのかも知れない。
「凄いな…」
「そうですわね。私は凄いですわ!何しろこれでも『黒薔薇』ですから」
「黒薔薇?」
フルールから聞いた話だと『黒薔薇』と言うのは公爵家に置いて代々『裏事』を取り扱う人間に与えられる称号なのだとか、そしてそれには女性が選ばれるそうだ。
「先代はお母さまでしたわ。『殺人を恐れず』『知恵が回り』『残酷な事に手が染められる』それを持って『黒薔薇』になれる。 そして私は劣等生ながら黒薔薇になれましたわ。あとは咲きほこるだけでしたが…摘まれてしまいましたわね」
本来ならフルールは『黒薔薇』になる事で公爵家の裏でナンバー2になり、将来は約束されたような物だったが…失脚してしまった。そういう事だ。
しかし、塔子も綾子も凄いな。
普通なら引く話なのに、さっきから驚いた様子が全く無い。
塔子は何となくこういう事は嫌いじゃ無さそうだが、綾子が普通に聞いているのが不思議でならない。
「綾子、大丈夫!」
「えっ何がですか?ちょっと驚きましたよ!まるで小説や映画みたいな話ですね…絵空事のようです。ですが、フルールさんが味方になるなら心強いと思います」
そう言いながら驚いた顔に見えないのは気のせいだろうか?
俺が綾子を見つめると綾子は慌てて口にハンカチをあてがった。
気のせいだよな?
「ちょっと、なんで理人は私には聞かないのよ」
「塔子は、こういう事に慣れていそうじゃないか?」
「確かに…って一緒にしないでよ。私も流石に人なんか殺して居ないわよ!」
塔子に追い詰められて自殺した子の話を俺は聞いた事がある。
『自殺に追い込むのが殺人』なら経験はあるよな?
下手したら、俺もその的の1人だったかも知れないし、それを今言うのは野暮だな。
「そうだな。綾子はあまり聞きたく無いなら、耳を塞いでいても良いよ」
「大丈夫です! 此処は異世界だから、私も頑張らないと」
そう言ってガッツポーズをとる綾子はハムスターみたいで可愛い。
「扱いが違いすぎます!」
「悪い、塔子も聴きたく無いなら耳を塞いでいて良いよ」
「大丈夫よ」
しかし、女の子って凄いな。
フルールの話を普通に聞いていられるんだから。
◆◆◆
夕方になり鐘がなった。
お城に戻る時間になった。
「ごめん10分だけ待っていて」
「どこか行かれるのですか?」
「ちょっと買い忘れ」
そう言うと俺は三人に背を向け走り出した。
此処は安全だと聞いているし、フルールが居るから大丈夫だよな。
俺は三人と別れ、テラスちゃんがくれたご利益『世界観』を使った後に、近くの『薬店』に入った。
やはりそうだ。
只の薬店、が前の世界のドラッグストアになっている。
この品揃えはまるで『ヨンテンドラッグ』みたいだ。
売っている物は、全部日本と同じ。
更に手持ちのお金が『円』に変わっている。
俺は目薬とコーラのペットボトルを20本買うとアイテム収納に放り込んだ。
地味に前の世界と違い消費税が免除なのが嬉しい。
『世界観』
異世界で不自由しないように『日本』のルール、環境を理人のみ適応。
本来の理人は日本で平穏に暮らす権利があったから、その権利を理人に与える。
この世界は理人が本来住む世界で無いので、神の権限で税金も免除。
やはりこう言う意味だったのか。
だが、これは『理人のみ』だから塔子や綾子、フルールは連れて来れないんだろうな。
今度時間がある時に検証してみるか?
俺はドラッグストアから出て後ろを見たが…もう只の『薬店』だった。
三人の元に走って戻り、若干後ろめたさを覚えながら城へと一緒に帰った。
13
お気に入りに追加
2,798
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。

【リクエスト作品】邪神のしもべ 異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!
石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。
その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。
一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。
幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。
そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。
白い空間に声が流れる。
『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』
話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。
幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。
金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。
そう言い切れるほど美しい存在…
彼女こそが邪神エグソーダス。
災いと不幸をもたらす女神だった。
今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる