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第35話 王都見学 奴隷商
しおりを挟む皆が楽しみにしている、王都見学の日が来た。
王都の中は比較的安全なので自由行動となる。
堅苦しいお城から出られて、お小遣いを貰って自由に回れる。
テンションが上がるのは当たり前だ。
ここ暫く訓練と座学ばかりだったクラスメイト達は皆が浮足だっていた。
俺は聖人と戦ったその日から約束通り『勇者扱いの待遇』となった。
今日の王都見学のお小遣いも俺達のパーティは1人金貨10枚(約100万円)貰っている。
他のクラスメイト達は金貨5枚だから此処でも差がついている。
多分、無能のままだったら貰えないか、貰えてもそれが手切れ金だった可能性が高い。
気にしても仕方が無い。
よく考えたら前の世界でも、修行、修行で余り人と出掛けた事は無かった。
特に行きたい場所は無いから、二人につきあう形で良いだろう。
「2人は何処か行きたい所はある?」
「「奴隷商!」」
俺は耳が可笑しくなったのかも知れない。
とれいしょう?
お店の名前?
違うよな?
「…聞き違い?」
「その、あっていますよ…奴隷商です」
「奴隷商ですわ」
俺が思わずフリーズしていたら二人して俺の腕を組み歩き出した。
奴隷商…なんで?
◆◆◆◆
時は少し遡る。
「綾子、貴方家事は出来るのよね?」
「塔子ちゃん、私は『パチモン完璧美少女』ですよ! 出来る訳無いじゃないですか?」
当たり前ですわね。
綾子だって本当は令嬢なのですわ。
家事が得意なわけありませんわ。
しかも、理人様が居ないからって自分から『パチモン』なんて言い出しましたわ。
「前に理人様にクッキーやお弁当をあげていましたわよね!」
大体の理由は解りますわ。
どうせメイドにでも作らせていたのですわ。
「そんな物使用人に作らせたに決まっているじゃないですか? 塔子ちゃんは確か花嫁修業をしていましたよね」
「北条家の花嫁修業に料理や洗濯があると思いますの?」
「…なさそうですね。ですが理人くんは料理も出来るし家事も万能です。前にくれたから揚げなんて絶品でしたよ、うへへへへっ」
「理人様からの手作りから揚げ、羨ましい、なにその顔マウントとっていますの? まぁ、料理は良いとして洗濯が問題ですわ! まさか綾子、下着を理人に洗わせても平気ですの?」
「下着…ああっ」
「ようやく気が付きましたわね! その分じゃ貴方も家事は壊滅的なんでしょう? 使用人が必要ですわ…私達」
「そうですよ、ああっ不味いです、それでどうします?」
「今度の王都見学、なん組かは『奴隷商』を見学するらしいわ『良い子が居たら買う』ってクラスの男が嫌らしい顔で叫んでいましたわ」
「奴隷、私達には使用人が必要ですね」
「そうよ、だから私達も見に行きましょう」
「そうですね」
こうして私達は『奴隷商』の見学を入れる事にした。
◆◆◆
話しを聞けばなんて事は無い。
二人ともお嬢様なので『使用人』が欲しいのだそうだ。
まさか、綾子もお嬢様だったなんて知らなかった。
塔子みたいな感じではないけどお手伝いさん位は居たらしい。
「あれっ、だけど綾子はお菓子をくれたよね」
「理人くん、此の世界には電子レンジもオーブンも無いし、全自動洗濯機も無いから…ごめんね」
確かに無いな。
それじゃ仕方が無いか。
二人と共に奴隷商に向かった。
奴隷商は思っていたイメージと違い、前の世界で言うペットショップに近かった。
とは言ってもガラスは貴重品なのか無いから檻ではある。
クラスメイトは既に何人か居たが、愛玩奴隷のコーナーに釘付けになっていた。
「お客様達も愛玩奴隷の見学ですか?」
国から『異世界人が見学に行く』と連絡がいっているのだろうか。
店員の愛想が凄くよい。
奴隷商は国から許認可を貰っている商売なので、怪しい商売では無いと聞いていた。
「愛玩ではなく、家事奴隷が見たいのですわ」
「私も同じです」
「解りました、それでは家事が得意そうな奴隷を中心にご案内します」
店員に連れられて奥に入って行く。
新たに加える事になる相手はこの二人に任せた方が良いだろう。
二人が熱心に話を聞いているなか、暇な俺は1人で店の中を歩いていた。
確かにクラスメイトが夢中になるのは解かる。
まるで漫画やライトノベルのヒロインみたいな存在が売られているんだ。
誰もが気になるのは仕方が無いだろう。
だが、俺が気になったのは奥の暗い部屋だ。
カーテンで仕切られているが明らかに劣悪なペットショップの様に糞尿の異臭が此処迄してくる。
見た感じでは、入っても良さそうなので、そのまま入った。
薄暗くて臭いな。
多分、悪質なペットショップのバックヤードに近い。
檻は沢山あったが、その檻の殆どには人が入っていなかった。
多分、店が閉まったあとは、この劣悪な場所で奴隷は暮らしているのかも知れない。
当たり前と言えば当たり前だな…
端の方の檻に1人だけ人が入っている檻があった。
「こんな所で何をしていますの?」
薄汚れた金髪に痣だらけの肌、だがその痣の間から見える肌は白く、どこぞのパチモン女神より綺麗に見えた。
「いえ、奴隷商の見学をしていて迷い込んでしまいました」
「まぁ、そうですの? 此処は鉱山行きや犯罪奴隷の居る場所ですわ、貴方のような方が望む奴隷は居ませんわ」
とはいう物の彼女以外此処には居ない。
「その割には誰も居ませんが」
「鉱山行きの奴隷は今日の朝にドナドナされていきましたわ、犯罪奴隷で鉱山行きは男女とも同じですわね…という事で此処には私しかいませんわ」
全員売り払い先に行ったと言う事か。
なら、なぜ彼女は此処に居るんだ。
「それなのに何故貴女は此処に居るのですか」
今の話なら此処に奴隷が居るのが可笑しい。
「私はちょっと理由(わけ)ありの犯罪奴隷なのですわ..しかも公爵家から嫌われていますから、まぁ買い手はつかないので此処に居るのですわ。惨めに此処であざけ笑われながら死んでいくのですわ」
「何でそんな事になったか教えて貰える」
「そうですわね、どうせこのまま死ぬ運命ですので、お話しするのも一興かもしれません」
俺はこの女性に何故か惹かれる物を感じた。
こんな場所にいて悲惨な状況なのに彼女の凛とした姿に俺は思わず見惚れてしまった。
そして彼女は語りだした。
彼女の名前はフルール.ルーラン、公爵家の令嬢だったそうだ。
だが、今現在は奴隷、それも犯罪奴隷として売られている。
幾ら何でも公爵家の令嬢が奴隷にまで落とされる物だろうか!
「それが酷い話で『家』を守るために一生懸命頑張った結果がこれですわ」
なんでも、フルールは公爵家の『裏』を仕切っていたのだそうだ。
「汚い仕事の殆どは私がやっていましたのよ」
誘拐、暗殺、拷問、それが彼女の仕事だった。
家を守るために、自分の部下『黒騎士』を使い敵対する家の貴族や商家の暗殺。
貴重な情報を握っている人間を攫ってきて拷問にかけて話を聞く。
俗にいう『汚れ仕事』が彼女の仕事だった。
ルーラン公爵家の為にその人生を捧げてきた。
そうとしか思えなかった。
「それが何で、こんな所で奴隷になっているんだ」
「他国の王家にお姉さまが嫁ぐ事になりましたのよ! しかも王子の正室なので将来の王妃候補にね、その結果姉の結婚をスムーズに行うため、邪魔者として『実家の判断で』切り捨てられましたの」
何となく話が解かった。
要は『王子の妻の実家になるのだから汚い部分は無くしたい』そういう事だ。
「酷い話だな」
「ええっ、いっそ殺してくれれば良かったのですが、上級貴族は殺す事が出来ずに、無実の罪を着せられて奴隷落ちですわ」
「それなら、抗議」
「無理ですわね! 今回の罪は無実ですが、私30人以上拷問にかけて殺していますから…ただ私利私欲で殺した訳じゃないですが」
凄い犯罪者の筈なのに、嫌悪感が全く起きない。
何故だろうか?
「あのさぁ、貴族だったフルールに聞きずらいけど、家事は出来たりする」
まぁ貴族のお嬢様には無理だな。
「出来ますわね、公爵家とは言え側室腹で、正室の方から嫌われていましたから」
「出来るんだ」
「まぁ普通にはですわ」
犯罪者で悪人の筈だけど、何故か憎めない。
しかも、彼女なら塔子や綾子を守るのに適任かも知れない。
彼女で良いんじゃないかな?
俺はカーテンをあけて塔子と綾子の様子を見たが、まだ誰にするか決めかねている様だった。
「悪いけど、購入しようと思う人が居たから、購入しようと思う」
「えっ、そうなの」
「そうなんですか?」
「ああっだけど、もし綾子や塔子が気に入った人が居たら別に購入しても構わないから、見ていてくれて構わないよ」
「そうですか、では私はもう暫くみてみます」
「わたしも」
◆◆◆
俺は店主を呼びだし、購入の意思を伝えた。
「奴隷を購入して頂けるのですか?」
「はい、この方を購入しようと思います」
店主の顔が困った様な顔になった。
「あの、この奴隷は犯罪奴隷なのですが、大丈夫なのでしょうか?」
「はい構いません」
「良いですか? 犯罪奴隷の場合は普通には売り物にならないからこそ安値がついています、それでも大丈夫ですか? また奴隷が問題を起こした場合の責任はその所有者にあります。そして安い代わりに生体保証がつきませんし、奴隷紋は必然的に一番きつい物になります。」
「別に構いません」
店主は少し困った様な顔をした。
そして最後に一言聞いて来た。
「貴族に嫌われますが良いですか?」と。
多分これが一番言いたかったのだろう。
「構いません」
「そこ迄言われるのなら解りました。異世界人は特権階級ですので、手続きします、犯罪奴隷なので一番安い奴隷の値段として金貨1枚、奴隷紋の代金が金貨1枚合計金貨2枚になります」
金貨2枚を差し出すと奴隷商はフルールを檻から出して連れてきた。
そして俺にナイフを渡してきたので、話を聞くと指を傷つける様に言われた。
そのまま指を傷つけると、店主は俺の血がついた指を持ちながら、そのままフルールの背中をめくり俺の手を持ちながら何やら呪文を唱えた。
そして俺の指先の血を擦り付けるとフルールの背中に紋章が現れた。
「これで奴隷契約は終わりました。これでこの犯罪奴隷は貴方の者です」
フルールは驚いた顔をしていた。
「あの、もしかして私を買って下さったのですか?」
「そうだよ」
「この最後の『黒薔薇のフルール』生涯貴方1人に忠誠を誓いますわ」
髪はボサボサ、奴隷服で物凄く臭いフルールだけど、その姿は何故か気高く思えた。
◆◆◆
本来は奴隷を購入すると体を洗って綺麗な服を着せて引き渡される。
だがフルールは犯罪奴隷なのでそれが適応されない。
その為、追加で銀貨3枚を支払い、それをして貰っている。
他のクラスメイト達は結局誰も購入しなかったようだ。
理由を店主に聞いてみると「高額な奴隷に興味津々の様で『お金を貯めてくる』とおっしゃっていました」との事。
彼等のお金は金貨5枚(約50万円)そこから奴隷紋の代金金貨1枚を引くと金貨4枚。
普通に人族なら手が届く範囲の奴隷も居る筈なのに..
「人族なら手が届く範囲の人も居そうですが…」
「はははっ貴方様以外の方は人族ではなく、皆さまエルフやハーフフェアリーに興味があるようで食い入る様に見ていました」
「そうですか…」
確かにエルフは美人だけど…俺からしたらボリュームが少なくて、いや人の好みに文句は言うまい。
「それでは、もう暫くお待ちください」
そう言うと店主は去っていった。
代わりに塔子と綾子が入ってきた。
「奴隷を買ったと聞きましたわ、そう言えば、どんな奴隷を買いましたの?」
「私も気になります」
俺はフルールについて話した。
「女性でしたか、 それでなんでそんな危ない犯罪奴隷を選んだのですか?」
「私も気になります」
どうして選んだのだろうか?
不思議と犯罪奴隷なのに怖く無くて、何故か信頼できそうな気がした。
何故だろうか。
そしてつい口に出てしまった。
「何となく二人に雰囲気が似ていたんだ」
「私に似ているのでしょうか?」
「理人くん、私と塔子ちゃんは似ていないと思いますよ」
あれ、確かにそうだ。
「俺も上手く言えないけど、塔子と綾子ってなんだか根っこの部分が同じに思える時があるんだよ…それはなにって、言われても困るんだけどね、そしてフルールにも同じ物を感じて…ごめん上手く言えない」
「「!?」」
「どうしたの?二人とも」
「なんでも有りませんわ」
「何でもないよ」
二人とも凄く驚いた顔をしていたけど…その理由は俺には解らなかった。
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