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第25話 それぞれの立場
しおりを挟む「この状態をどう見ればよいのじゃ。マリンお前はどう見る」
正直言わして貰えれば、余にはどうして良いのか解らない。
『無能』が『剣聖』に勝つなど前代未聞の事じゃ。
大体騎士に勝てる『無能』など今迄の話で聞いた事が無いわい。
農民にすら勝てぬ存在の『無能』が簡単に剣聖を倒してのけた。
ゴブリンがドラゴンを狩った。
その方がまだ信じられるわい。
こんな事、本来なら、あり得ぬ事じゃ。
「どう見ると言われても、私も困ります!こんな可笑しな話、見たことも聞いた事もありません」
余ですら解らないのじゃ、マリンだってどうして良いのか解らないじゃろう。
「そうじゃな」
勇者の大樹は体調を壊したと言って一切訓練に出なくなり引き篭もり状態。
こんな勇者等前代未聞だ。
それですら頭が痛いのに、剣聖の大河は壊されてしまった。
ヒーラー達の話では、日常生活を送れるようにするのが精いっぱいで、戦えるようにするのは無理なようじゃ。
『仮にも剣聖のジョブ持ち』
戦えないからと言って無碍には出来ぬ。
商業組合にでも引き渡し、書類仕事でも教えて、それなりの立場にし、生きて貰うか、実際にジョブは継承されないが『剣聖の子供』のブランドが欲しい貴族に払い下げる位しか思いつかぬ。
もう少し真面なら城においても良かったが、ああも、騎士や文官達から嫌われた状態では裏で何をされるか解らんし庇いきれぬ。
「お父様の心痛も解りますが、理人殿に『剣聖』が再起不能にされたのも事実です。 言いたくないですが勇者も心が病んで使い者にならないと聞きます。聖人殿と戦い勝利を納める様であれば適当な肩書でも与えて、塔子殿に綾子殿と一緒に『聖女パーティ』として正式に国として認め、送り出しては如何でしょうか?」
頭が痛い事に、塔子殿から『聖女パーティ』を組みたいと申告された。
あの馬鹿勇者がした事があるから無碍にも出来ない。
最悪、三人で国を捨てる。
そんな選択をされたら、困るのは余達じゃ。
国を出た途端に帝国や聖教国が涎を垂らしてスカウトする未来が見えるわい。
「そうだな、聖人殿との戦い次第、今はそれで判断するしかないか」
「そうです!お父さま!更に言うなら、最悪負けた方の命も奪う必要があるかも知れません」
命を奪う…何故そうなるのじゃ、理人は兎も角『大賢者』は貴重な戦力だと思うが。
「マリン、何故そう考える」
「理人殿と大樹殿たちはどうやら確執があるようです。もし理人殿を主軸戦力にする場合は禍根をたった方が良いでしょう! それに五大ジョブのうち二人が倒される事があれば『大樹殿を含む5職は弱体勇者パーティ』戦力として期待は出来ません!最早価値は無く要らない存在です」
『弱体勇者』女神が何かの事情で力が弱った時に送り出す勇者で、力が弱い存在の事か。
マリンはこう言っているが、『大賢者』の少女を襲った事で女神イシュタス様を怒らせ『罪人勇者』として能力を大きく削られてしまったのかも知れぬ。
女神イシュタス様は慈愛に満ちた女神。
あの所業を嫌っても可笑しくは無い。
マリンも口には出さぬが、その可能性も考えているのであろうな。
「確かにそう考えるべきかもしれぬな」
だが、仮にも5職、慎重に判断せねばならぬ。
「『剣聖』を失った今、実際は4大ジョブ、更に勇者は隠しているが弱体している可能性がある…そのうち2人が離反し理人側についている…もし、大賢者に力が伴ってなければ…勇者側を斬り捨てる事を考慮すべきです! もし大賢者すら倒し得るなら、あの『異世界の剣聖の剣技』を操る理人は今後勇者以上に必要な存在かと思います」
我が娘ながら頭がよく回るわい。
「そうじゃな」
「ですが、聖人殿は大賢者です! 理人は剣技こそ一流ですが魔法と戦えるか、そこを見極めなければならないかと思います」
「剣士の理人には魔法を使う相手は天敵じゃな」
「そうです、異世界には『魔法』が無いと聞きます…この戦いの結末でどうするか決めては如何でしょうか?」
「それしかないのう…まさか、この国の生末を『無能』に任せる事になるかも知れぬとは、おもわなんだ」
「最早、勇者に拘る…そういう訳にいかないのかも知れませんね」
何故余の時に限って、この様なイレギュラーが起こるのか…
頭が痛いわ。
◆◆◆
テラスちゃんが戻ってきた。
とは言っても1日居なくなっていただけだが。
『理人、話がついたよ』
『話って何ですか?』
『僕ね、邪神ちゃんと一緒に魔王ちゃんと話して来たんだ』
『邪神…魔王や魔族が信仰する神様ですか?』
『大体、そんな感じだよ…邪神ちゃんも魔王ちゃんも良い人達だったよ…地球人を攫った事も無いし、僕の敵では無さそうだから、少し話をしようと思って行ってきたんだ』
テラスちゃんにとって女神は敵だから、敵の敵である邪神側に話をしに行ってきた…そう言う事だ。
魔族側は『異世界から転移された戦士』に凄く困っていたそうだ。
まぁ、ある意味ズルみたいなもんだから当たり前だな。
勿論、魔族側の神である邪神も同じ事は出来る。
魔王からも要請が幾度も邪神にあったのだそうだ。
だが、邪神は『それは他の世界の神から大切な存在を誘拐する事だ』と魔王を諭したのだそうだ。
『ねぇ、凄く良い神だよね? あの糞女神とは全く違うよ!それで僕、凄く気に入って話してきたんだ』
『魔王と邪神と話して来たんですか? 凄いですね』
『そうなのよ! それでね!理人に大ニュースがあるんだ!』
『大ニュースですか?』
テラスちゃんが手をぶんぶん振って興奮しているのが解かる。
『何と!理人は魔族と戦わない人生が約束されたよ!~ぱちぱち』
地球から人間を召喚(テラスちゃん曰く誘拐)をしない邪神や魔王をテラスちゃんが褒めていた所から話が盛り上がったのだそうだ。
そして話題が俺の事になり、話をした所、邪神と魔王が俺の事を気に入ったそうだ。
「異世界からの戦士を無効化出来る人間、実に興味深い」
「彼が戦えば戦う程、こちらにとって厄介な存在が減る」
そういう事らしい、しかもこの世界には今回召喚されたクラスメイト以外にも沢山の異世界人が居るとの事だ。
『それで結局どういう事なのですか?』
『基本的に魔族は理人と戦わない。もし魔王城に行っても歓迎してくれるって、一切襲う気は無いって。まぁ魔物は微妙みたいね、知能が低い存在は魔王や魔族の言う事を理解できないから戦うしかないみたいだね!狩っても問題無いって!あとこの世界の竜種は魔族とは関係ないんだって。知能がある存在、俗にいう『魔族』は魔王と邪神が話をして襲わない約束をとりつけたわ、だから理人も襲わない様に気をつけてね…まぁ人がいるときは小芝居位はして理人が困らない様にしてくれるって』
これは完全に魔族と手を組むそういう事だ。
『それで良いのでしょうか?』
『良いに決まっているじゃない! テラスちゃん達の敵は『女神』なんだよ!忘れちゃ駄目だからね!なんなら速攻で魔族に寝返って戦ってくれてもいいんだ! まこれでさぁ、もしこの世界が魔族の世の中になっても理人は困らないよね!まぁ理人が生きている間は、人類全滅までは進まないと思うけど?』
『あの、魔族かどうか見分けるにはどうするんですか?』
『名乗りを上げると良いよ『我が名は理人』ってね。会話が出来るなら魔族でなく魔物でも大丈夫な可能性もあるらしいから。但し、魔王が関与しない種族もあるから、その場合は戦うしかないみたいだね。だけど強い魔族の殆どは魔王側だからまずは安心して良いみたい』
これだと俺は..人類の敵みたいだ。
『これだと、俺は人類の敵みたいですね』
『まぁ僕からしたら『私を裏切った存在』『敵の女神の世界の人間』『女神』は敵だから殺してしまっても心は痛まないよ!殺しても全く問題無し!…理人は気にしないで、好きなように生きて良いからね』
そうは言うけど…本当にこれで良いのか?
よく考えて行動しよう。
『解りました、俺なりに考えて行動しようと思います』
『それで良いよ…それでさぁ!塔子と聖人の事だけどこの二人のジョブは確実に奪った方が良いと思う!そうすれば魔王は貴方にきっと凄く感謝するから。それに現状既に敵なんだから、奪わない手は無いよね』
『そうかも知れません』
『まぁ聖人とは戦うのが決まっているんだよね?その時に奪っちゃうとして『塔子』の方はさっさと済ませちゃわない?…僕はあと数日で理人の前から居なくなるから、その前に決着をつけちゃおうよ!』
俺は塔子の事が解らなくなってきている。
敵かと思えば、意外に味方にもなってくれる。
それに…なぜか子供の頃に会っている。
そんな気がしてならない。
どうすれば良いのだろうか?
『そうですね』
『気が無い返事だね?聖人は兎も角、塔子からジョブやスキルを奪うのが嫌なら平城さんと同じ様に『貴方の物』にしちゃえば? 性格は兎も角、外見は好みなんじゃないの? いずれにしても早目に決着をつけて、僕を安心させてくれよ』
『解りました』
一体自分がどうしたら良いのか…解らなくなってしまった。
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