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第11話 騎士の力とヒーラーの憂鬱

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走り込みが終わったあとは、騎士について幾人かに別れて剣を学ぶようだ。

「皆さんは1人を除き、すぐに我々等超えていくでしょう! ですが『基礎』だけはしっかり覚えて下さいね。 どんなに素晴らしいジョブを貰っても最低限の事が出来なければ、意味を成しませんよ!たとえ剣に於いて最強の『剣聖のジョブ』を持っていても暫くは我々には勝てませんし、基礎を学んだ方がより強くなれます!学ぶと言う事は絶対に大切なのです!」

その1人は俺の事だろう。

だが可笑しい。

4人全員がこの場に居ない。

大樹だけが居ないのであればまだ解る。

ジョブやスキルを奪ったからな。

だが、他の3人までもが居ないのは不気味だ。

何か企んでいる可能性が高い。

一応警戒位した方が良いかも知れない。

『気になるなら、僕が様子を見てこようか?』

テラスちゃんの声が聞こえてきた。

『お願いしてよいかな』

分体とはいえ『天照様に使い走りをさせた』なんて爺ちゃんに知れたら、地獄を見るかもしれない。

『暇だから、散歩ついでに行ってくるね』

そう言うとテラスちゃんは行ってしまった。

◆◆◆

俺事、工藤祐一は驚きを隠せない。

「ほらほら、どうしました! そんな剣じゃゴブリンすら斬れませんよ!」

騎士からの指導は実戦的で『何処からでも掛かって来い』そう言われた。

しかも、騎士側は躱すだけで一切攻撃して来ないという話だった。

確かに騎士は強いと思う。

だが、俺にだって意地はある。

俺は剣道部のレギュラーにして剣道2段。

中学の時は全国大会で優勝した事もある。

そんな俺が『騎士』のジョブを貰ったんだ。

真剣を持っての戦いじゃ勝てないかも知れないが、木刀なら通じる筈だ。

今迄、気が遠くなる程竹刀や木刀を振ってきた。

手にはタコが出来ている。

『度肝を抜いてやる』

そう思い、上段から木刀を振りおろした。

だが…

「素人にしては筋が良いでしすね、ですがそんな素直な技じゃ私には通用しませんし、魔物には通用しません!」

俺の攻撃は簡単に躱されてしまった。

「嘘だろう」

俺は青春のほぼ全てを剣道に捧げてきたのに…

「なぁ~にが『嘘だろう』ですか? これが現実です。以前の召喚者の中にも剣の経験者はいましたが、最初から通用した者は1人もおりません。まぁ、1か月もしたら私も含んで誰も貴方に勝てないでしょうがね」

悔しくて仕方が無い。

この騎士に勝てるのは、俺の技術や腕じゃない。

女神様から貰った『ジョブ』のおかげで成長して勝つ。

ただそれだけ…

そういう事だ…俺の8年間は此処ではなんの役にも立たない。

そう言う事だ。

「本当に通用しないのか…」

「しませんね『剣道』ですよね? そんなのは平和な世界のお遊びでしょう? 盗賊を殺し、魔獣を斬る為のこの世界の剣を学んだ我々に通用するわけが無い! 今迄来られた異世界の方の殆どは人すら殺した事が無いのですから仕方ないと思いますよ…余り気に病まないで下さい…この世界の剣を学んで暫くしたら、皆さんは直ぐに私なんかより強くなれますから」

悔しくて仕方が無い。

頑張って学んだ『剣道』が否定された。

平和な日本じゃ『人斬り』さえ居ない。

言われてしまえば、俺にはなにも言い返せない。

『技』も『技術』も俺は未熟だ。

悔しい…剣道が負けたんじゃない。

俺が負けたんだ。

もし、此処に来たのが、昔の侍ならきっと違った筈だ。

「そろそろ、此方も攻撃しますよ」

そう言いながら騎士は手を前にだした。

木刀すら使わないのかよ…

「幾ら何でも…えっ」

俺の木刀をかいくぐりビンタが飛んできた。

俺は思わず目を瞑ったが、実際にはビンタされず、その手は俺の首を優しく触った。

「これが実戦ならもうその首は刎ねられています」

悔しい。

此処に居るのが、俺じゃ無くて宮本武蔵か柳生十兵衛だったら違った筈だ。

だが、此処にそんな人物は居ない。

負けるのが悔しいんじゃない。

『剣道』を馬鹿にされても言い返せない。

そんな自分が悔しいんだ。

◆◆◆

「大樹大丈夫なの?」

「しっかりしろ!」

「本当に大丈夫かい」

走り込みで苦しそうに走る俺の様子に気が付いた大河が、傍の騎士に俺の状態を報告した為、そのまま俺はヒーラーの元に連れて来られた。

可笑しな事に同級生の中で俺だけが、走り込みについていけてなかった。

何が起きているのか解らない。

俺達の中で一番運動が嫌いな、塔子ですら余裕で走っていたのに、俺だけが、追いつけていない。

「ハァハァ、少し息苦しくて、足が痛いが大丈夫だ」

仲間に弱みは見せられないからこう言ったが…大丈夫じゃねーよ。

「運動不足からいきなり走ったので肉離れを起こしたようですね」

ヒーラーはこう言うがどう考えても可笑しいだろう。

「ハァハァ、俺は『勇者』のジョブを持っているんだぞ、それが何故こうなるんだ」

多分ジョブの影響だろうか?塔子は楽々走っていた。

流石に部活をやっている奴程じゃないが、俺の運動神経は悪くない。

幾らなんでも、塔子以下になるなんてわけが無い。

『可笑しい』

幾ら何でも、これは無い。

「あははははっ!嫌ですね!たとえ勇者であっても最初は、そんな物ですよ! 召喚された直後は、騎士はおろか、衛兵にすら勝てないのは当たり前の事ですよ!他の方に比べて大樹様は『ジョブ』に上手く体が馴染んでないだけだと思います!何しろ『勇者のジョブ』ですから、馴染むのに時間がかかるのでしょう!召喚された直後は、ゴブリンには辛うじて勝てる。そんなもんですよ!」

「そ、そうなのか?」

『馴染んでない』それだけなら別に良い。

力が手に入るまでの我慢だ。

「ドラゴンだって卵から孵ったばかりなら農夫に叩き殺される。それと同じです。尤も異世界の方は1か月もしたら皆さん簡単にオーガを狩れる位強くなり、特に勇者は竜種すら倒せるようになりますから、それまでの辛抱ですよ!」

「本当か!そういう事は早めに言ってくれ!心配して損した!」

暫く我慢すれば…あとは好き放題出来る。

「すみません、言葉足らずでした」

「それで、俺が普通の騎士より強くなるのにどれ位掛かるんだ!」

「そうですね、1週間もあれば余裕じゃないですか?」

あぶねーな。

ちゃんと教えてくれよ。

平城の時に理人とやりやっていたら、負けたのは俺じゃ無いか。

1週間か…理人に絡むのは1週間後からだ。

借りを返して無様に叩きのめしてから追放してやる。


「ありがとう」

「今日は念の為、このまま休んでいた方が良いでしょう。それじゃ何かありましたらまた呼んで下さい」

そう言うとヒーラーは帰っていった。

「まぁ良いんじゃないか? 理人を血祭りにあげるのは、暫くは様子見って事で」

「そうだよ、下手に仕掛けて玉砕より遙かに良いよ!それじゃ今日はこのままさぼっちゃいますか」

それまでは手をまわして城から出て行かせ―ねーようにしないとな。

「大樹に聖人、お前等サボりたいだけだろうが!まぁお前達居た方が退屈しねーから良いけどな!俺もあんな暑い中走りたくねーから気持ちは解る!それで塔子はどうするんだ?」

「そうですわね、私は苦しんでいる理人でも見てくるとしますか…無能ゆえに訓練についていけずに苦しそうにしている理人…考えただけでゾクゾクしますわね」

「うわぁ…塔子って虫とかの手足千切って遊んでいたりしそうだよね」

「聖人…私そんなのは幼稚園で卒業していますよ」

「あはははっそうなんだ!うん行ってらっしゃい」

普通にしていれば綺麗なお嬢様にしか見えねーのに…この性格。

塔子は俺以上に狂っているよな。


「塔子らしいな」

「ああっ塔子らしい」

「僕も大概性格悪いけど『S』という意味では塔子には負けるね」

そうか、直接手を下さなくても『無様な姿を見る』それもありだな。

理人の無様な姿を暫くは楽しむとするか。

◆◆◆

弱りましたね…王に伝えねばなりませんが、どう説明しましょうか…

報告すればきっと王や姫の機嫌を損ねてしまいます。

さっきは咄嗟に嘘を言いましたが…どう考えても、そんな事はあり得ません。

あの勇者大樹は不完全ながら『魅了』を使ったと王から聞きました。

その力を使って女性に不埒な真似をしたそうですが、それを聞いて王は凄く喜ばれていたようです

確かにやった事は酷い事かも知れませんが『こんなに早くに勇者の力が発動した』のですから王にとっては喜ばしい事でしょう。

確かに、その子には気の毒ですが勇者の為です。

女の犠牲の一つや二つ問題ありません。

それに『大魔道』なのですから同じパーティで行動させるのに好都合です。

『そのまま犠牲になって貰い、止めた無能にも犠牲になって貰う』それで良い。

王もそう考えていた筈です。

まぁ、貴重な『大魔道のジョブ持ち』ですが戦力として使えれば問題はありません。『勇者』が戦力として使い、他も自由にすれば良い。あくまで『勇者』優先です!それに価値のない『無能』は死んでも誰も困りません。

倫理が無い訳ではありません。

ですが、そこ迄『勇者』はこの世界に必要なのです!

此処で問題なのは勇者が『魅了』を使ったという事です。

勇者の覚醒が遅れる事はよくある事です。

ですが『魅了』を使えたと言う事は、既に勇者の力に目覚めたと言う事になります。

覚醒した状態の勇者が通常の走り込みにすら耐えられない等、過去にはありませんでした。

最悪、心臓疾患や病持ちの『欠陥勇者』の可能性すら考えないとならないかも知れません。

これで折角『機嫌が良かった王がまた不機嫌になりそう』ですね…

宰相殿の頭が剥げない様に祈るばかりです。


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