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第十六話 私の教育は間に合わなかった。

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第四十八話 全てが遅すぎた

ロゼがとうとう取り返しのつかない事をしてしまいました。

私、ロザリーの教育は間に合わなかったのです。


数日前にマリアとロゼの部屋を様子見した事があります。

その時、私が目にした物は、殆ど何も無いマリアの部屋でした。

貧乏貴族で生活していた私の部屋の方がまだ物がありました。

何故こうなっているか、想像はつきます。

マリアの物を取り上げる様な存在はこの屋敷にはロゼしか居ません。

『ロゼ、貴方は本当に私の子ですか』

ロゼの部屋で見たもの、それは持ち物に埋め尽くされた部屋でした。

しかも、大切な宝石も無造作に置かれています。

恐らく、マリアから無理矢理取り上げたのでしょう。

「ロゼ?」

この子は、自分の部屋とマリアの部屋を見比べて何とも思わないのでしょうか?

「どうかされたのですかお母さま」

「これは一体どういうことなの...貴方何をやっているの?」

「ちょっと待って、お母さま何しているの」

「良いから...黙りなさい」

マリアの宝石箱にネックレスに指輪、出てくる出てくる、しかも信じられない2つある物も沢山あるじゃない。

何を考えているの?

なんでもかんでも取り上げた訳ね...信じられないわ。

「お母さま、何をしているの? 勝手に私の物を出さないで」

此処まで、此処まで人の心を考えられない子になってしまったの...

「これは貴方の物じゃないでしょう? 半分以上がマリアの物じゃない」

1/3なんて物じゃない、あそこから更に取り上げるなんて信じられない。

目についたものだけで残されたマリアの宝石1/3の半分以上がある。

多分、他の所も見れば、更にある筈だわ。

「だって、マリアお姉ちゃんがくれたんだもん」

本当にくれたとしても...欲しがらなければ寄こす訳は無い、意地汚いにも程がある。

同じ物が幾つもあるじゃない?

中には主人や私が、2人に買い与えた物まで2つとも持っている...本当に意地汚い。

「あのね...流石に二つも同じ物は要らないでしょう? ドレスだってこんなには要らない筈よ」

「だけど、お姉ちゃんがくれたんだから関係ないでしょう」

「貴方が無理やり奪ったんじゃ無いの、知っているわ」

「お母さまだって同じことしていたじゃない」

確かに私もしていたわ...だからこれから返すつもりだ...そうしないと、この子の為に良くない。

「確かにそうだったわ、だからお母さんは返すつもりよ」

私が返せば、ロゼだって返さざる負えなくなる筈よね。


「そうなんだ、お姉ちゃんに返す位なら、私に頂戴」

「ロゼ、幾ら何でも怒るわよ、いい加減にしなさい」

この子が何を言っているのか解らない...まるで言葉が通じない誰かと話しているようです。

「なんで怒られるのかロゼ解らない」

逆になんで、この子は解らないの?

マリアに確認したら...本当にあげていた。

私がマリアに返しても、ロゼがきっと取り上げる。

その事を主人に相談したら...

「マリアだってあげた物をとり返すのは不本意だろう、マリアには生活費を余分に与えて新たに買いそろえよう」

という事になった。


私は教育を本当に間違えていた。

勝手に派閥を作り、家に迷惑を掛けた。

王迄巻き込んだ事件を起こしたのに反省が無い。


ようやく私も腹が決まったわ。



婚約者が居るからマリアには『マリアを結婚するまでの間に淑女にする事』

貴族の妻として充分な作法やマナーを自分が知る限り教えようと思う、それが私なりの恩返しだ。

だが、マリアは優秀だ、ただ教えるだけで簡単に覚えてしまう。



それに比べてロゼは...実の子ながら情けない。

あれ程の問題を起こして...それなのに『まだ前と同じままだ』

全然変わろうとしない。

皆がマリア以上に時間を割き、指導しているのに...

『自分からは何も変わろうとしない』

言葉で幾ら言っても解らない。

『ロゼは実の子だ、腹を痛めた子だ』

幾ら何でもそれはしたく無かった。

だが、此処まで腐ってしまったからには...もうこれしかない。

私は『鞭を手に取った』

あの子は...人の気持ちが解らない。

ならば、こうするしかない。

だが...こんな事はしたく無い。

私は思わず、躊躇してしまった。

今日は止めよう、明日にしよう。

それを繰り返していたら...





「貴方...今、なんて言ったの?」

「ロゼがまた問題を起こした、今度はマリアの婚約者フリードと共に『マリアの婚約破棄をして自分が婚約者にすげ替わる』宣言を王族の前でしたそうだ...これから行ってくる」

「私も行きます」

「今後どうなるか解らないが、恐らくこれから話し合いになる可能性が高い...そうなった時の為に、家の準備をしていてくれ」

「解りました」


私は目の前が暗くなった。

私は...殴りつけてもロゼを教育するべきだった。

さっさと『鞭を使った教育をするべきだった』

あの場で、マリアから取り上げた物を返させ、ちゃんと謝らせるべきだった。


私が躊躇した為に事件がまた起きてしまった。

そして、取り返しはもうつかない...




私は話し合いに備え使用人たちに準備をさせた。

それから暫くして、宰相のユーラシアン様、ドリアーク伯爵様にオルド―伯爵様達とフリードが家族と共に帰ってきた。

夫の顔は凄く窶れていた。

衛兵に連れられた、フリードとロゼは両脇を抱えられていた。

「お母さま、助けて」

「私は神に誓って間違った事はしていない」

二人は喚き散らしていた。

その後ろでマリアは静かに下を向いていた。


私は...今度こそ間違えない。


「マリア、本当にごめんなさい...私の躾が悪かったばかりに、詫びは必ずさせて貰います、誰かマリアをすぐに部屋に、それからミルクティーとそうねお菓子を用意してあげて」

「お義母さま...私は大丈夫です、余り気になさらないで下さい」

「私も後で直ぐ伺います、今はゆっくりとお休みなさい」

「有難うございます」

なんでこんな大人の対応が出来るのよ『悲しいでしょう』『辛かったでしょう』それなのに...マリアは...

「悪いのは私、さぁお休みなさいな」

「はい」


私はマリアが部屋に行くのを確認した。

夫たちはそのやり取りを見ながら、応接室へと向かっていた。

此処で私に言葉がなく、ただ会釈で行くと言う事は本当に緊急な話だ。

私も同じ様に会釈で返した...本来は宰相のユーラシアン様がいるのだ。

だから、しっかりとした挨拶が必要な筈だが、今回はその時間すら惜しいのかも知れないわ。



「とりあえず、ロゼは自室にフリードは客室に軟禁しなさい、良い!トイレ以外は一歩外に出さない様に」

「お母さま、あんまりです、ロゼはロゼは悪くありません」

「ロザリー様、話を聞いて下さい、俺はロゼを不憫な思いをしているロゼを助けようとしただけなのです!」


此処に来てまだそんな事を言うのですか?

フリード、最早貴方には『殿』すらつける気にはなりません。

『貴公子?』こんな節穴しか持たない人間が『貴公子』よそ様の子ながら、ロゼと同じでどうしようもない人間です。

こんな人間『奇行子』で充分です。

「ロゼ...貴方、自分がどんな事をしたのか考えなさい、反省なさい」

「私は悪くありません」

私ははロゼの頬を叩きました。

人に初めて手をあげました、それが娘になんて、本当に情けない。

「お母さま...なんで」

「馬鹿な子、反省も出来ないの...『人の物を盗っちゃいけない』そんな事は卑しい平民でも解る事です『大切な物を勝手に持ち出してはいけない』これも普通に平民の子だって解る事、貴方を人間だと思っていた私がいけなかった、これからは『獣に躾ける』つもりで対処します」

「お母さま...」

「まだ頬を打たれたいのかしら? とっとと行きなさい」

「解りました、お母さま」


もう私は貴方に何もしてあげれないかも知れません。

貴方達の処分は夫達の話し合いで決まりますが...貴族の婚約破棄は大事なのです。

きっと貴方達の思った以上の処分が下るでしょう..甘んじて受けて下さい。


「ロザリー様、なんでそこ迄、貴方はロゼを虐げるのです...貴方は母親じゃ無いですか?」

「私が虐げる、いえ...今迄私はロゼを甘やかしすぎていました」

「嘘だ、貴方も含み、使用人まで貴方達はロゼを..」

「黙りませんか!無礼者...マリアがロゼを虐げた? 貴方はマリアの婚約者の資格はありませんね、何処が『貴公子』なのかしら?その目は腐っているんですか? 節穴なんですか?」


「幾らロザリー様でも、そんな侮辱は許せない」

やはり、此奴はマリアに相応しくない。

「貴方こそ許せないわ、マリアはねぇ~確かに義理だけど娘なのよ? それだけじゃない私の派閥だから、私が庇う存在なのよ? それがロゼを虐げた? そんな濡れ衣着せられて黙っていられないわ」

「貴方はロゼの母親じゃないですか? 情が無いのですか」


「良いわ、今回の話は貴方のせいでとんでもない事になった、きっと後でしっかりと説明される筈、されなければ私がする...その上で判断なさい...自分が如何に愚かだったか、きっと気がつくわ...とっとと、この勘違い男を連れて行って」

「「はっ」」


「俺はロゼを...」

「見苦しい、早くつれて行きなさい」


あの『奇行子』真実を知ったらどうなるのでしょうか?

ロゼ、もう取り返しはつかないわ...今日の話し合いは長くなるでしょう...

そして決まった事はもうひっくりかえる事は無いでしょう...

最早、母として私は貴方に何もしてあげられないかも知れません。

そして私はマリアの部屋へと向かっていった。



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