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第二十六話 【閑話】清貧王女の伝説
しおりを挟むマリアを見て思ったのだが、あの子は本当に何者なのだろうか?
我が子ながら、考え方がしっかりし過ぎている。
ただ、それだけなら解るが...偶にまるで啓示でも受けた様な事を言い出す。
本で読んだと言うのだが、その様な本を俺は見たことが無い。
一体、あの子は何処で、その様な本を見たと言うのだろうか?
それよりも、あの子位の歳であんなに本が読める物でない。
暇さえあれば、本を読んでいて悦に浸っている。
本を好きな女性...これがロザリーの娘ならまだ解る。
ロザリーは読書家で有名だ。
あれはあれで他の貴族の娘にしては、贅沢を好まない。
そこが気に入りお見合いを受け、後添いにした。
まぁ、それ以外は特に取り柄のない、地味な女なのだが。
本を読み、僅かな贅沢しかしない...貴族の妻としては割と理想的だ。
それにしたって、あくまで貴族の範疇、実際にはあくまで他の者に比べてであり、宝石やドレスも普通に欲しがる。
だが、マリアは異常だ...
ロザリーとは違い『興味が薄い』のではなく『全く無い』
物に対する価値を見出さないという位に『物欲が無い』
あそこ迄、贅沢に関心が無い人間は、市民はおろか平民にも居ないだろう。
価値が少ない品とはいえ、使用人にも色々渡しているようだ。
物を与えれば、人は動く。
それがまして貴族が持つ様な物であったり、お金だったら使用人だって人の子、同じ様に扱わないだろう。
確かにそれは当たり前の事だ。
マリアに聞いたら「『お金がある者が人を使う時にはチップ払う』そういう事を本で読みましたの」と言ったが...
そんな話はこの国は無いし、近隣諸国にも無い。
書物に無いなら『自分で考えた』のかとも考えたが...そんな事は無いだろう。
そんな事を子供が考えられる物では無いだろう。
少なくとも、あんな考えを俺を含めあの齢では出来る者なんて知らない。
賢いと名高い【第二王子のアーサー様】ですらあそこ迄では無い筈だ。
これは別に親の欲目でも何でもない。
恐らく子供だが『今直ぐ王立アカデミーで通用するのでは?』とさえ思えてしまう。
これが男であるなら、王族のご学友として推挙したい位だ。
あの子には何かある...そう考える位に我が子ながら不思議な子だ。
この国や近隣諸国には『女神の愛し子』の伝説が残っている。
これは前世の記憶を持って生まれてきた子供の逸話だ。
女神に愛された子供は、そのギフトとして前世の記憶を持って生まれてくる...そんな話だ。
この国の王妃には【清貧王女】と呼ばれた幼少期を過ごした王妃が居る。
戦争で疲弊したこの国を立て直す為、自らが『物を持たない事』により貴族や市民にも節約を促した。
その政策は成功して『王女ですら贅沢しないのに』という話で貴族や市民は贅沢をしなくなった。
その王女の部屋にはベッドと机、筆記用具に本しか無かったという。
そして、その王女は暇さえあれば本を読んでいたという。
『本は沢山書庫にあるし無料で読めるのだから、読まない手は無いわ』
そう言っていたらしい。
マリアを見ていると、まるで生まれ変わりを見ているようだ。
多分、マリアが同じ状況で王女に産まれたなら...同じ事をするだろう。
清貧王女の話は、王族から貴族にまで美談として伝わっている。
平和になり裕福になった、今のこの国に、その様な生活をする人間は王族、貴族、平民を問わず居ないだろう。
だが、美談と語られる【清貧王女】の様な生活を送ろうとしているマリアを咎める事は親として出来ない。
自分が大切にしている形見の品...それすら手放すマリア。
まだ、2品だから解らない...だがもし、これからも同じ様に簡単に手放す様なら...【清貧王女】の生まれ変わりの『女神の愛し子』
その可能性も踏まえて...見させて貰おう。
まぁ、仮にそうだとしても干渉はしない...『女神の愛し子』は幸せをもたらす。
もし見つけても、知らない振りをする、そういう習わしだからな。
誰もが知らない所で糸は更に、こんがらがっていく。
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