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白い花
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取り締まり室で、誠は、小さな机を挟んで先ほどの強面の中年の刑事と向かいあっていた。
お母さんがどこにいるか、あなたは知ってますね?
それであなた、お母さんをどこに隠しました?
いえ、隠してなど…
本当のことを言えるだろうか
誰が信じる?
あぁ、また疼き出した。
うう、うぅん
誠は唸り声をあげて、机の上に突っ伏した。
どうかしましたか?
しっかりしてくださいよ!
お気持ちはわかりますがね
本当のことを言っていただかないとね
その時、誠が刑事の腕を掴んだ。
助けて、助けてください…
唸るように誠は叫び、次の瞬間、刑事はああっ!
と大きな声をあげた。
何をした?!
噛みついたな、おまえ!
しかし、誠は机に突っぷしていて反応がない。
どうしました?
若い方の刑事が飛んできた。
どうしたんですか?
噛みつかれた刑事は、誠の胸ぐらを掴んでいた。
どういうつもりや、おまえ!
しかし誠は白目をむいていて、まともに話せる様子ではなかった。
何があった?
いったい何が?
床には血が流れ、血溜まりができつつあった。
見ると、誠のズボンには血の色に染まったシミができていて、若い刑事がそのズボンをまくり上げてみると、ふくらはぎの包帯が赤く染まり、そこから血が流れ落ちていた。
なんやおまえ、怪我しとったんか!
救急車を呼んでやれ
とりあえず、誠は担がれて、医務室に運ばれて行った。
誠に噛みつかれた刑事は
やってくれおったな!
と怒り狂っており、噛みつかれた手の甲をもう片方の手で押さえていたが、血がポタポタと落ちていた。
あいつ、精神状態がもうおかしなっとんな
それで、女の方はどうなんや!
吐いたんか?!
いや、手強いですわ
認知症がどうのこうのと…
夜も更けた、森の中の墓地。
満月の夜である。
たよ子ばあさんが埋まった土の盛り上がりの周りには、ミミズやムカデが蠢いていた。
2本のきゅうりに、土の中から這い出したミミズやムカデや、虫たちが群がり、きゅうりをむさぼり食っていた。
やがてきゅうりはあとかたもなく食い尽くされてしまった。
その時、土の盛り上がりがかすかに動いた。
ぱらぱらと盛り上がりの頂上から土が流れ落ち…
森の木立の隙間から月の光が差し込んでいた。
盛り上がった土の中から、すくっと細い腕が伸び出て来た。
そして、土の山が崩れて…
むくむくと、人間ではないナニモノかが姿を現した。
暗闇の森の中、スポットライトのように差し込んだ月明かりが、そのナニモノかを浮かび上がらせた。
それは、土にまみれたまま歩き出そうとしていた。
土と、ミミズと、ムカデたちを纏ったまま。
頭の上に
1輪の白い花を乗せて。
…終…
お母さんがどこにいるか、あなたは知ってますね?
それであなた、お母さんをどこに隠しました?
いえ、隠してなど…
本当のことを言えるだろうか
誰が信じる?
あぁ、また疼き出した。
うう、うぅん
誠は唸り声をあげて、机の上に突っ伏した。
どうかしましたか?
しっかりしてくださいよ!
お気持ちはわかりますがね
本当のことを言っていただかないとね
その時、誠が刑事の腕を掴んだ。
助けて、助けてください…
唸るように誠は叫び、次の瞬間、刑事はああっ!
と大きな声をあげた。
何をした?!
噛みついたな、おまえ!
しかし、誠は机に突っぷしていて反応がない。
どうしました?
若い方の刑事が飛んできた。
どうしたんですか?
噛みつかれた刑事は、誠の胸ぐらを掴んでいた。
どういうつもりや、おまえ!
しかし誠は白目をむいていて、まともに話せる様子ではなかった。
何があった?
いったい何が?
床には血が流れ、血溜まりができつつあった。
見ると、誠のズボンには血の色に染まったシミができていて、若い刑事がそのズボンをまくり上げてみると、ふくらはぎの包帯が赤く染まり、そこから血が流れ落ちていた。
なんやおまえ、怪我しとったんか!
救急車を呼んでやれ
とりあえず、誠は担がれて、医務室に運ばれて行った。
誠に噛みつかれた刑事は
やってくれおったな!
と怒り狂っており、噛みつかれた手の甲をもう片方の手で押さえていたが、血がポタポタと落ちていた。
あいつ、精神状態がもうおかしなっとんな
それで、女の方はどうなんや!
吐いたんか?!
いや、手強いですわ
認知症がどうのこうのと…
夜も更けた、森の中の墓地。
満月の夜である。
たよ子ばあさんが埋まった土の盛り上がりの周りには、ミミズやムカデが蠢いていた。
2本のきゅうりに、土の中から這い出したミミズやムカデや、虫たちが群がり、きゅうりをむさぼり食っていた。
やがてきゅうりはあとかたもなく食い尽くされてしまった。
その時、土の盛り上がりがかすかに動いた。
ぱらぱらと盛り上がりの頂上から土が流れ落ち…
森の木立の隙間から月の光が差し込んでいた。
盛り上がった土の中から、すくっと細い腕が伸び出て来た。
そして、土の山が崩れて…
むくむくと、人間ではないナニモノかが姿を現した。
暗闇の森の中、スポットライトのように差し込んだ月明かりが、そのナニモノかを浮かび上がらせた。
それは、土にまみれたまま歩き出そうとしていた。
土と、ミミズと、ムカデたちを纏ったまま。
頭の上に
1輪の白い花を乗せて。
…終…
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