1 / 8
ゾンビ誕生?
ゾンビばばぁとその息子
しおりを挟む
なんであんなばあさんの言うこと聞かなあかんねん
何もしてもらってないで
服の1枚も買ってもらったことないんやで
電球が切れたとか、お金を貸してとか、しょっちゅう呼び出され、その度にぼやいているばあさんの息子、中谷誠(なかたにまこと)68才。
明るめのブラウンに染めた髪を毎朝セットして、いつもスポーツウェアを着ている。
誠の妻、真由美。
いつもTシャツとジーパン、地味なカーディガンを羽織っただけの飾り気のない63才。
子供に服の1枚も買ってやったことがないなんて、そんな親いる?
大袈裟なことばかり言ってる。
と以前は思ってた。
でも、会えば喧嘩ばかりしてるこの親子の仲の悪さを見れば、誠の言うこともあながち嘘じゃないのかも、と最近では思っている。
誠と真由美は、共に仕事を定年退職してマンション暮らしをしていた。
ある日、誠のスマホに何度も誠の母たよ子から着信があった。
たよ子はまもなく90才。
1人で暮らしていた。
誠が着信に気付いてたよ子ばあさんが住んでいる家に駆けつけた時には、たよ子ばあさんは玄関に倒れ込んでいた。
血の気のない顔。
意識はなく、虫の息。
誠はすぐ救急車を呼び、たよ子ばあさんは病院に運ばれた。
真由美は出かけていて、誠がたよ子ばあさんに付き添った。
小柄で細く、いかにもか弱そうなたよ子ばあさん。
なんとか心臓は動いていた。
だけど、
もう何時間も持たないでしょう
肺に水が溜まっていて、心臓も長くは持ちません
と担当医は誠に伝えた。
真由美が誠からの知らせを受けて、たよ子ばあさんが運ばれた病院に行ってみると、たよ子ばあさんは生死の境をさまよっていた。
酸素マスクに血の混じった泡を吹いている。
今にも呼吸が止まりそう。
誠と真由美はしばらく見守ったけど、その弱った心臓は止まりそうで止まらなかった。
とりあえずその日2人は家に戻った。
多分朝まで持たないだろうから、夜にでも病院から連絡があるだろうと思っていたが、何の連絡もないまま朝になった。
2人で病院に行ってみると、たよ子ばあさんは生きていて、時おり無意識に酸素マスクを払い除けようこする。
だめだよ、おかあさん
これしてないと、息できなくなるよ
真由美は、押さえつけるようにずっと酸素マスクをばあさんの口元で支えていた。
しばらくすると意識がはっきりしてきて、ベッドから出ようとしてもがいたりした。
今にも心臓が止まると思ってたけど、この様子では…
なんか持ち直すつもり?
すごい生命力ですね
でも、持ち直したとしても寝たきりになるでしょうし、在宅酸素も必要です
担当医はそう言ったのだけど…
次の日、行ってみると…
たよ子ばあさんはすやすやと眠っていた。
まだ生きとるがな
2人がばあさんの顔を除きこんでいると、看護師がやって来て、
疲れたのでしょう
夕べは大変だったんですよ
と言う。
え!何かありましたか?
誠が聞き返すと、
いつの間にかベッドを抜け出して廊下を歩いてたんです
と言う。
えーっ!歩いてた?死にかけてたばあさんが?!
そうなんですよ
ベッドから出ようとした時に鳴るはずのブザーが鳴らなくて…気がついて慌てて、探し回りましたよ
そんなに歩き回ってたんか?!
寝たきりになるんやなかったんか!
まるでゾンビやな!
誠がそう言って、思わず看護師も真由美も笑った。
そしてたよ子ばあさんは、死に際の患者が入る安らぎ病棟から一般病棟に移され、リハビリもあっと言う間に終えて、追い出されるように退院した。
だけどさすがにもう一人暮らしをさせる訳にはいかず、夫婦はたよ子ばあさんが暮らしてた家に同居することになった。
続く…
何もしてもらってないで
服の1枚も買ってもらったことないんやで
電球が切れたとか、お金を貸してとか、しょっちゅう呼び出され、その度にぼやいているばあさんの息子、中谷誠(なかたにまこと)68才。
明るめのブラウンに染めた髪を毎朝セットして、いつもスポーツウェアを着ている。
誠の妻、真由美。
いつもTシャツとジーパン、地味なカーディガンを羽織っただけの飾り気のない63才。
子供に服の1枚も買ってやったことがないなんて、そんな親いる?
大袈裟なことばかり言ってる。
と以前は思ってた。
でも、会えば喧嘩ばかりしてるこの親子の仲の悪さを見れば、誠の言うこともあながち嘘じゃないのかも、と最近では思っている。
誠と真由美は、共に仕事を定年退職してマンション暮らしをしていた。
ある日、誠のスマホに何度も誠の母たよ子から着信があった。
たよ子はまもなく90才。
1人で暮らしていた。
誠が着信に気付いてたよ子ばあさんが住んでいる家に駆けつけた時には、たよ子ばあさんは玄関に倒れ込んでいた。
血の気のない顔。
意識はなく、虫の息。
誠はすぐ救急車を呼び、たよ子ばあさんは病院に運ばれた。
真由美は出かけていて、誠がたよ子ばあさんに付き添った。
小柄で細く、いかにもか弱そうなたよ子ばあさん。
なんとか心臓は動いていた。
だけど、
もう何時間も持たないでしょう
肺に水が溜まっていて、心臓も長くは持ちません
と担当医は誠に伝えた。
真由美が誠からの知らせを受けて、たよ子ばあさんが運ばれた病院に行ってみると、たよ子ばあさんは生死の境をさまよっていた。
酸素マスクに血の混じった泡を吹いている。
今にも呼吸が止まりそう。
誠と真由美はしばらく見守ったけど、その弱った心臓は止まりそうで止まらなかった。
とりあえずその日2人は家に戻った。
多分朝まで持たないだろうから、夜にでも病院から連絡があるだろうと思っていたが、何の連絡もないまま朝になった。
2人で病院に行ってみると、たよ子ばあさんは生きていて、時おり無意識に酸素マスクを払い除けようこする。
だめだよ、おかあさん
これしてないと、息できなくなるよ
真由美は、押さえつけるようにずっと酸素マスクをばあさんの口元で支えていた。
しばらくすると意識がはっきりしてきて、ベッドから出ようとしてもがいたりした。
今にも心臓が止まると思ってたけど、この様子では…
なんか持ち直すつもり?
すごい生命力ですね
でも、持ち直したとしても寝たきりになるでしょうし、在宅酸素も必要です
担当医はそう言ったのだけど…
次の日、行ってみると…
たよ子ばあさんはすやすやと眠っていた。
まだ生きとるがな
2人がばあさんの顔を除きこんでいると、看護師がやって来て、
疲れたのでしょう
夕べは大変だったんですよ
と言う。
え!何かありましたか?
誠が聞き返すと、
いつの間にかベッドを抜け出して廊下を歩いてたんです
と言う。
えーっ!歩いてた?死にかけてたばあさんが?!
そうなんですよ
ベッドから出ようとした時に鳴るはずのブザーが鳴らなくて…気がついて慌てて、探し回りましたよ
そんなに歩き回ってたんか?!
寝たきりになるんやなかったんか!
まるでゾンビやな!
誠がそう言って、思わず看護師も真由美も笑った。
そしてたよ子ばあさんは、死に際の患者が入る安らぎ病棟から一般病棟に移され、リハビリもあっと言う間に終えて、追い出されるように退院した。
だけどさすがにもう一人暮らしをさせる訳にはいかず、夫婦はたよ子ばあさんが暮らしてた家に同居することになった。
続く…
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
華が閃く
葉城野新八
歴史・時代
会津松平家は、戦乱の世がおわり泰平の世に使命をもってつくられた家中だった。
武田、最上、蒲生、蘆名などの遺臣を集め、勇武と奨学の気風はとだえることなく脈々と受け継がれる。
19世紀。西からロシアやヨーロッパ、東からアメリカの軍艦があたらしい時代の波にのりやってきた。クリミアでは50万人が犠牲となる戦争があり、清国は西洋の技術革新のまえに敗れた。
そして日本では、一人の男の欲望からあるひとつの概念がつくりだされた。やがてそのプロパガンダは災害などの世情不安により加速をつけ、止まらなくなってゆく――
その時代に生まれた会津娘子のあさ子は、武芸と恋、結婚と子育に奮闘しながらも暮らしていたが、威信と権力の欲望と、恐怖にとりつかれた群衆の標的とされて攻めこまれる。
それでもあさ子をはじめ会津娘子たちは、故郷の実存をかけてそれぞれのやり方で戦った。
これは数々ある会津娘子の伝承のなかでも激烈に愛と義を貫いた、河原善左衛門の妻、あさ子の物語。
(※更新は不定期です。)
視線の先
茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。
「セーラー服着た写真撮らせて?」
……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった
ハッピーエンド
他サイトにも公開しています
悪役令嬢はご病弱!溺愛されても断罪後は引き篭もりますわよ?
鏑木 うりこ
恋愛
アリシアは6歳でどハマりした乙女ゲームの悪役令嬢になったことに気がついた。
楽しみながらゆるっと断罪、ゆるっと領地で引き篭もりを目標に邁進するも一家揃って病弱設定だった。
皆、寝込んでるから入学式も来れなかったんだー納得!
ゲームの裏設定に一々納得しながら進んで行くも攻略対象者が仲間になりたそうにこちらを見ている……。
聖女はあちらでしてよ!皆様!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる