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走れ至恩
走れ至恩1
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グラウンドに飛び交う声援。
勝者には惜しみ無い拍手と歓声を、敗者には労いの拍手と励ましの言葉を送る。
五色に別れたチームそれぞれが一丸となって優勝を目指して一喜一憂していた。
残念ながら僕ら白組の成績は下から二番目。
競技は終盤に差し掛かり逆転は不可能な点差に広がっていた。
白組は何と無く諦めムードが漂っているけれど、僕の戦いはまだ終わっていない。
僕の参加する男女混合リレーは体育祭プログラムの最後の競技だった。
『連絡します。次の男女混合リレーに参加する生徒は待機場所へ移動してください。繰り返します――』
女子生徒のアナンウンスが僕の闘争心のスイッチを入れた。
「気合いの入った良い顔してるね至恩」
話し掛けられて振り向くと、恵さんと麗さんがいた。
「大丈夫か至恩。ビビってキンタマ縮こまってたりしねえよな?」
麗さんは臆面もなく下ネタを言ってきた。
隣にいた恵さんは顔を赤くしている。
僕は麗さんを嗜めた。
「僕の気合いとやる気を削がないでください。女の子が人前でキンタマはやめた方がいいですし、恵さんが困っていますから」
「あ、ホントだ。てか恵、そんなに恥ずかしがるって事は……まだ処女か?」
「バージンの何がいけないのよ。それにキスの方は――ゴニョゴニョ」
「……へえ、至恩と恵の仲はあんまり進んでないみたいだな。なら私にもワンチャンありそうだな。おい至恩、勝ったご褒美に一発ヤってみるか?」
麗さんは顔を赤らめながら「ニシシ」と歯を見せて笑う。
当然、恵さんは黙ってはいない。
「駄目よ。絶対に浮気をさせないわ。麗がそんな簡単に体を許す女の子だったなんてガッカリだわ」
「いや、私もまだ処女だしな」
「人のことを言える立場じゃないし」
「へへへ、からかって悪かったな。でも恥ずかしがる恵はかわいかったぜ」
恵さんと麗さんの会話は僕以外の周囲の男子生徒にも聞こえていた。
男子生徒たちは、遠い空の彼方を見ているようだけど、緩んだ表情から察するに聞き耳を立てていたのは明らかだった。
「話はあと。待機場所へ行こう」
グラウンドの一角に用意された待機場所。
リレーを走る各学年の男女が集まっていた。
その中に赤いハチマキを巻く鈴村の姿があった。
目と目があってしばらく睨み合っていたが鈴村がニヤリと笑ってから視線をそらした。
鈴村の態度は僕の闘志に火をつけるには十分な燃料になるはずなんだけど、まだ何かが足りないような気がする。
期待を込めて辺りをキョロキョロとしていると肩を叩かれた。
振り向くと恵さんだった。
「亜希ちゃんを探してた?」
「よく分かりましたね恵さん」
「なんとなくね」
「どこかで応援しているのかなと。あれから亜希との会話が少しずつ増えてきましたが、恵さんの事となると、まだ違和感がありまして。今朝の朝食の時も『亜希と恵さんの為、皆の為に勝ってくる』と言ったんですが無反応でした」
「焦っちゃ駄目よ。私たちのペースじゃなくて、亜希ちゃんのペースに合わせなきゃね」
僕は恵さんのアドバイスに黙って頷いた。
「しょぼくれている場合じゃねえだろ至恩」
僕の背中に重い痛みが走った。
振り向くと麗さんが右の拳を付き出してシシシと笑っていた。
「走る前に余計なことを考えるな。鈴村に勝つことだけをイメージしろ!」
「ごめん、麗さんにも気を遣わせましたね」
「気にすんな。それよりウォームアップしとけよ。走っている最中に怪我したら言い訳にもならんぞ」
「そういえばまだでした」
「よしお前ら、私と一緒にウォームアップするぞついて来い」
「はいはい、分かったわよ町田コーチ」
恵さんは抑揚を欠いた声で返事をした。
僕らは麗さんの指示に従ってウォームアップをした。
前の競技が終わってリレーのスタートが近づいてきた。
僕ら白組のリレーチームのリーダーは恵さん。
彼女を中心にして円陣を作った。
「皆いい? 全国に名が知れた鈴村が相手だけど怖がる必要はないわ。この一週間、バトンタッチの練習も積んだ。個人では勝てないけどチームなら勝てる。大きなリードを広げてアンカーに繋いで逃げ切るよ。絶対勝つよーーーっ!」
「おおーーーっ!」
円陣は解かれてチームは二つのスタート地点へ散って行く。
グラウンドは一周二百メートルで、スタート地点は直線の真ん中に置かれ、校舎正面の第一、反対側の第二に別れている。
ゴールは第一スタート地点と同じである。
僕はアンカーなので第二スタート地点へ歩き始めると。
「ちょっと待ってくれ至恩」
麗さんに呼び止められる。
自信に満ち溢れた笑顔で僕の右手を両手で包み込みように握る。
「至恩ありがとう。私に走るチャンスを与えてくれたことを」
「僕ではない。白井先生だよ」
「誘ったのは白井先生だ。でも至恩が私の背中を押したんだ。今日はその恩返しでお前を勝たせてやるからな」
「僕は何もしていないし、ちょっと意味が分からないな」
「今は分からなくていい。いつか話すよ」
「わかりました。第一走者頑張ってください」
「おう、任せておけ」
僕は反対側のスタート地点から第一走者のスタートをドキドキしながら見ていた。
白井先生がスターターピストルを持って所定の位置に立つ。
「位置について、よーい――バンッ」
男女混合リレーの第一走者がスタートした。
勝者には惜しみ無い拍手と歓声を、敗者には労いの拍手と励ましの言葉を送る。
五色に別れたチームそれぞれが一丸となって優勝を目指して一喜一憂していた。
残念ながら僕ら白組の成績は下から二番目。
競技は終盤に差し掛かり逆転は不可能な点差に広がっていた。
白組は何と無く諦めムードが漂っているけれど、僕の戦いはまだ終わっていない。
僕の参加する男女混合リレーは体育祭プログラムの最後の競技だった。
『連絡します。次の男女混合リレーに参加する生徒は待機場所へ移動してください。繰り返します――』
女子生徒のアナンウンスが僕の闘争心のスイッチを入れた。
「気合いの入った良い顔してるね至恩」
話し掛けられて振り向くと、恵さんと麗さんがいた。
「大丈夫か至恩。ビビってキンタマ縮こまってたりしねえよな?」
麗さんは臆面もなく下ネタを言ってきた。
隣にいた恵さんは顔を赤くしている。
僕は麗さんを嗜めた。
「僕の気合いとやる気を削がないでください。女の子が人前でキンタマはやめた方がいいですし、恵さんが困っていますから」
「あ、ホントだ。てか恵、そんなに恥ずかしがるって事は……まだ処女か?」
「バージンの何がいけないのよ。それにキスの方は――ゴニョゴニョ」
「……へえ、至恩と恵の仲はあんまり進んでないみたいだな。なら私にもワンチャンありそうだな。おい至恩、勝ったご褒美に一発ヤってみるか?」
麗さんは顔を赤らめながら「ニシシ」と歯を見せて笑う。
当然、恵さんは黙ってはいない。
「駄目よ。絶対に浮気をさせないわ。麗がそんな簡単に体を許す女の子だったなんてガッカリだわ」
「いや、私もまだ処女だしな」
「人のことを言える立場じゃないし」
「へへへ、からかって悪かったな。でも恥ずかしがる恵はかわいかったぜ」
恵さんと麗さんの会話は僕以外の周囲の男子生徒にも聞こえていた。
男子生徒たちは、遠い空の彼方を見ているようだけど、緩んだ表情から察するに聞き耳を立てていたのは明らかだった。
「話はあと。待機場所へ行こう」
グラウンドの一角に用意された待機場所。
リレーを走る各学年の男女が集まっていた。
その中に赤いハチマキを巻く鈴村の姿があった。
目と目があってしばらく睨み合っていたが鈴村がニヤリと笑ってから視線をそらした。
鈴村の態度は僕の闘志に火をつけるには十分な燃料になるはずなんだけど、まだ何かが足りないような気がする。
期待を込めて辺りをキョロキョロとしていると肩を叩かれた。
振り向くと恵さんだった。
「亜希ちゃんを探してた?」
「よく分かりましたね恵さん」
「なんとなくね」
「どこかで応援しているのかなと。あれから亜希との会話が少しずつ増えてきましたが、恵さんの事となると、まだ違和感がありまして。今朝の朝食の時も『亜希と恵さんの為、皆の為に勝ってくる』と言ったんですが無反応でした」
「焦っちゃ駄目よ。私たちのペースじゃなくて、亜希ちゃんのペースに合わせなきゃね」
僕は恵さんのアドバイスに黙って頷いた。
「しょぼくれている場合じゃねえだろ至恩」
僕の背中に重い痛みが走った。
振り向くと麗さんが右の拳を付き出してシシシと笑っていた。
「走る前に余計なことを考えるな。鈴村に勝つことだけをイメージしろ!」
「ごめん、麗さんにも気を遣わせましたね」
「気にすんな。それよりウォームアップしとけよ。走っている最中に怪我したら言い訳にもならんぞ」
「そういえばまだでした」
「よしお前ら、私と一緒にウォームアップするぞついて来い」
「はいはい、分かったわよ町田コーチ」
恵さんは抑揚を欠いた声で返事をした。
僕らは麗さんの指示に従ってウォームアップをした。
前の競技が終わってリレーのスタートが近づいてきた。
僕ら白組のリレーチームのリーダーは恵さん。
彼女を中心にして円陣を作った。
「皆いい? 全国に名が知れた鈴村が相手だけど怖がる必要はないわ。この一週間、バトンタッチの練習も積んだ。個人では勝てないけどチームなら勝てる。大きなリードを広げてアンカーに繋いで逃げ切るよ。絶対勝つよーーーっ!」
「おおーーーっ!」
円陣は解かれてチームは二つのスタート地点へ散って行く。
グラウンドは一周二百メートルで、スタート地点は直線の真ん中に置かれ、校舎正面の第一、反対側の第二に別れている。
ゴールは第一スタート地点と同じである。
僕はアンカーなので第二スタート地点へ歩き始めると。
「ちょっと待ってくれ至恩」
麗さんに呼び止められる。
自信に満ち溢れた笑顔で僕の右手を両手で包み込みように握る。
「至恩ありがとう。私に走るチャンスを与えてくれたことを」
「僕ではない。白井先生だよ」
「誘ったのは白井先生だ。でも至恩が私の背中を押したんだ。今日はその恩返しでお前を勝たせてやるからな」
「僕は何もしていないし、ちょっと意味が分からないな」
「今は分からなくていい。いつか話すよ」
「わかりました。第一走者頑張ってください」
「おう、任せておけ」
僕は反対側のスタート地点から第一走者のスタートをドキドキしながら見ていた。
白井先生がスターターピストルを持って所定の位置に立つ。
「位置について、よーい――バンッ」
男女混合リレーの第一走者がスタートした。
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