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第8章 イトコに、恋して
第2話 あくまで、従兄 *加瀬拓哉*
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彩梨ちゃんと交わした言葉。
『今から、やり直そうよ。イトコとしての関係を』
あれから、1ヶ月以上も過ぎていった。
少しずつ、話す機会を増やしていった俺たち。
今まで知らなかった彩梨ちゃんを知る。
部活動に一生懸命で、しっかり者に見えてちょっと抜けてる。
国語が得意で、数学が苦手。
でも、教えると、それを理解しようと一生懸命で、1度理解できてしまえば応用までスラスラと解けてしまう。
俺はちゃんと、彩梨ちゃんという1人の女の子とちゃんと向き合えているんじゃないかな、なんて。
でもときどき、「怖い」と思う瞬間がある。
お互いに会話をするようになって、彩梨ちゃんが俺に見せてくれるようになった笑顔。
ときどき、俺を見て顔を赤らめて背けられる表情。
勘違いしてしまいそうになる。
また、「好き」と口走ってしまいそうで。
もちろん彩梨ちゃんのことは今でも好き。
でも、彩梨ちゃんは俺と同じ「好き」を望んでいない。
『イトコとしてやり直そう』と、そう言った俺がこの一線を踏み外すわけにはいかないんだ。
*****
「で? 俺にどうしろって?」
05年6月3日金曜日。
今日は彩梨ちゃんの学校で、彩梨ちゃんが所属する演劇部の公演会があった。
舞台の上に立つ彩梨ちゃんは、勇ましくて、カッコよかった。
そんな彩梨ちゃんの新たな一面に、俺はまた恋をして、その気持ちを閉じ込める。
「彩梨ちゃんが、『たっくんに嫌われた』って言ったときはどうしてやろうかと思ったけど」
……あのときの章兄ちゃんは本当に怖かった。
桜ちゃん捜索の最中だったけど、黒い圧力がヒシヒシと……。
「仲は近づけたみたいじゃん? なにが不満なの」
今は学校近くのカフェ『Cherry Blossom』で章兄ちゃんと2人、彩梨ちゃんが来るのを待っている。
章兄ちゃんも、彩梨ちゃんの公演を観に来ていた。
年下だけど、俺にとっては兄ちゃんみたいなものだから、呼び方も『章兄ちゃん』のまま。
「だって、彩梨ちゃんがカワイ過ぎるんだ! 見た? 今日の彩梨ちゃん! 女神だよ! 女神! 現代に現れた女戦士! 女神!」
「はいはい」
「あんな彩梨ちゃんを見たら俺……! 変なこと口走っちゃいそうで……!」
「だから俺にどうしろって。もう言っちゃえば? 好きだって」
「できないよ! 俺が自分で言ったんだ。『イトコとしてやり直そう』って」
今の彩梨ちゃんとの関係は、イトコ同士としての認識の上に成り立っているものだから、それ以上を求めちゃ、また、前みたいに……。
「イトコじゃないとダメなんだよ!」
「……たっくんも、面倒な子を好きになったよね」
ポツリと唐突に章兄ちゃんが言った。
「彩梨ちゃんは面倒なんかじゃないよ!」
彩梨ちゃんをバカにするのは、章兄ちゃんでも許さないんだからなっ!
「彩梨ちゃんの幼馴染の視点から、特別にアドバイス」
章兄ちゃんは、ゴクリとコーヒーを飲み込んだ。
そんな章兄ちゃんを、俺は見つめる。
「彩梨ちゃんは、自分の気持ちにかなり鈍感だよ。たとえ誰かに恋をしても、それが恋だと認識できない程度にね」
その言葉の意味を、もっと詳しく聞こうとしたけど、叶わなかった。
「彩梨ちゃん、栞、お疲れ」
章兄ちゃんは、俺を通り越して、俺の遥か後ろへ声をかけた。
残りのコーヒーを一気に飲み干して、章兄ちゃんが席を立つのを見て、俺も慌てて章兄ちゃんを追いかける。
「待ってなくてもいいんですよ? 部活のみんなと一緒だし。今年からは栞ちゃんも一緒だし」
そう。
演劇部には、なんと章兄ちゃんの妹、栞ちゃんも所属していた。
舞台上で姿は見なかった、と思うから裏方だろうか?
1年生だし。
「毎回のことでしょ。俺が好きでやってるんだから、気にしない」
「そうそう。章兄、意外と世話焼きなんだから、好きに焼かせてボディガードさせとけばいいんだよ」
「栞は少し感謝の心を持とうか?」
「ありがとーおにーちゃん」
「拓哉君も、ありがとう」
章兄ちゃんと栞ちゃんのやり取りを聞きながら、かけられた彩梨ちゃんからの言葉にキュンとする。
「俺も、好きで待ってただけだから」
この関係が永遠に続けばいいと思う一方で、もう1歩踏み出したい衝動に駆られるのを必死で押し殺す。
俺はあくまでも従兄なんだから、それ以上を望んじゃいけないんだ。
『今から、やり直そうよ。イトコとしての関係を』
あれから、1ヶ月以上も過ぎていった。
少しずつ、話す機会を増やしていった俺たち。
今まで知らなかった彩梨ちゃんを知る。
部活動に一生懸命で、しっかり者に見えてちょっと抜けてる。
国語が得意で、数学が苦手。
でも、教えると、それを理解しようと一生懸命で、1度理解できてしまえば応用までスラスラと解けてしまう。
俺はちゃんと、彩梨ちゃんという1人の女の子とちゃんと向き合えているんじゃないかな、なんて。
でもときどき、「怖い」と思う瞬間がある。
お互いに会話をするようになって、彩梨ちゃんが俺に見せてくれるようになった笑顔。
ときどき、俺を見て顔を赤らめて背けられる表情。
勘違いしてしまいそうになる。
また、「好き」と口走ってしまいそうで。
もちろん彩梨ちゃんのことは今でも好き。
でも、彩梨ちゃんは俺と同じ「好き」を望んでいない。
『イトコとしてやり直そう』と、そう言った俺がこの一線を踏み外すわけにはいかないんだ。
*****
「で? 俺にどうしろって?」
05年6月3日金曜日。
今日は彩梨ちゃんの学校で、彩梨ちゃんが所属する演劇部の公演会があった。
舞台の上に立つ彩梨ちゃんは、勇ましくて、カッコよかった。
そんな彩梨ちゃんの新たな一面に、俺はまた恋をして、その気持ちを閉じ込める。
「彩梨ちゃんが、『たっくんに嫌われた』って言ったときはどうしてやろうかと思ったけど」
……あのときの章兄ちゃんは本当に怖かった。
桜ちゃん捜索の最中だったけど、黒い圧力がヒシヒシと……。
「仲は近づけたみたいじゃん? なにが不満なの」
今は学校近くのカフェ『Cherry Blossom』で章兄ちゃんと2人、彩梨ちゃんが来るのを待っている。
章兄ちゃんも、彩梨ちゃんの公演を観に来ていた。
年下だけど、俺にとっては兄ちゃんみたいなものだから、呼び方も『章兄ちゃん』のまま。
「だって、彩梨ちゃんがカワイ過ぎるんだ! 見た? 今日の彩梨ちゃん! 女神だよ! 女神! 現代に現れた女戦士! 女神!」
「はいはい」
「あんな彩梨ちゃんを見たら俺……! 変なこと口走っちゃいそうで……!」
「だから俺にどうしろって。もう言っちゃえば? 好きだって」
「できないよ! 俺が自分で言ったんだ。『イトコとしてやり直そう』って」
今の彩梨ちゃんとの関係は、イトコ同士としての認識の上に成り立っているものだから、それ以上を求めちゃ、また、前みたいに……。
「イトコじゃないとダメなんだよ!」
「……たっくんも、面倒な子を好きになったよね」
ポツリと唐突に章兄ちゃんが言った。
「彩梨ちゃんは面倒なんかじゃないよ!」
彩梨ちゃんをバカにするのは、章兄ちゃんでも許さないんだからなっ!
「彩梨ちゃんの幼馴染の視点から、特別にアドバイス」
章兄ちゃんは、ゴクリとコーヒーを飲み込んだ。
そんな章兄ちゃんを、俺は見つめる。
「彩梨ちゃんは、自分の気持ちにかなり鈍感だよ。たとえ誰かに恋をしても、それが恋だと認識できない程度にね」
その言葉の意味を、もっと詳しく聞こうとしたけど、叶わなかった。
「彩梨ちゃん、栞、お疲れ」
章兄ちゃんは、俺を通り越して、俺の遥か後ろへ声をかけた。
残りのコーヒーを一気に飲み干して、章兄ちゃんが席を立つのを見て、俺も慌てて章兄ちゃんを追いかける。
「待ってなくてもいいんですよ? 部活のみんなと一緒だし。今年からは栞ちゃんも一緒だし」
そう。
演劇部には、なんと章兄ちゃんの妹、栞ちゃんも所属していた。
舞台上で姿は見なかった、と思うから裏方だろうか?
1年生だし。
「毎回のことでしょ。俺が好きでやってるんだから、気にしない」
「そうそう。章兄、意外と世話焼きなんだから、好きに焼かせてボディガードさせとけばいいんだよ」
「栞は少し感謝の心を持とうか?」
「ありがとーおにーちゃん」
「拓哉君も、ありがとう」
章兄ちゃんと栞ちゃんのやり取りを聞きながら、かけられた彩梨ちゃんからの言葉にキュンとする。
「俺も、好きで待ってただけだから」
この関係が永遠に続けばいいと思う一方で、もう1歩踏み出したい衝動に駆られるのを必死で押し殺す。
俺はあくまでも従兄なんだから、それ以上を望んじゃいけないんだ。
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