上 下
6 / 16
03 キョージュ ト イウ人

01

しおりを挟む
 「わたし」はママの胎内から外へと離された。

 それで良かった。

 「わたし」の存在はママを苦しめる。「わたし」の存在そのものがママを苦しめていたから。
 「わたし」がママから離れてしまえば、もうママを苦しめることはない。

 だけどその日以来、「わたし」がママの声を聞けることはなかった。

 パパの声も、聞くことができない。

 パパの姿も、ママの姿も、1度も見ていない。その理由を、「わたし」は生まれてから幾日も経たないうちに知った。

 ママとパパは死んでしまったのだと、「キョージュ」がそう言ったから。

「運が良かったな」

 「キョージュ」は言った。

 その言葉は「わたし」に向けられたものではなく、「キョージュ」が自分自身を称えているような言葉だった。

「お前の両親は死んだよ」

 ガラスに隔てられた向こう側から、「キョージュ」の手が、「わたし」を撫でる。

 その手が「わたし」に届くことはなく、「キョージュ」の手が「わたし」に触れることは決してない。

 この先の、「わたし」の生の中で1度としてその日、その瞬間はこない――

「おかげで私はお前を手に入れることができた。本当に孝行者だよ、お前の両親は」

 そう言う「キョージュ」の悦ぶ感情に、どこか恐怖を覚えた。

 パパとママが死んだ事実を、哀しむことなく、むしろ悦んでさえいる「キョージュ」の姿に。

 そうさせている、「わたし」自身の価値というものに。

 けれど、それをどうにかできる術(すべ)を「わたし」は持ち合わせてはいなくて、閉ざされたガラスの箱の中からは、どうしたって抜け出すことはできない。

「これからは、私がお前の面倒をみよう」

 00年10月27日。
 パパとママが死んだ、次の日のことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...