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01 プロローグ
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ざあざあと、激しく地面を打ちつける雨。
鼻につく、土と水と埃の匂い。
踏みしめる地面は泥でぬかるんで、何度も足をとられた。
4月の雨はまだ冷たくて、体温を容赦なく奪っていった。
それが、僕が――僕たちが初めて触れた外の世界。
隔絶された壁の向こう側。
天井のない世界。
歓迎されているとは、到底思えなかった。
僕たちが、アノ場所から逃げることを、世界が咎めているような、「お前たちの居場所はこっちじゃない。帰れ」と言われているような、そんな気がした。
けれど、それでも、僕たちは進むのをやめなかった。
どんなに身体が雨に濡れても。
どんなに転んで泥にまみれても。
どんなに身体が冷え切って、凍えても。
アノ場所に戻るくらいなら。
アノ場所で死ぬくらいなら。
前を進む少女が、僕たちをどこに連れて行こうとしているのかはわからなかったけれど、アノ場所にいるよりはマシだと、そう思って着いて来た。
目の前に佇む鉄格子の門。
横に伸びる白壁の塀。
「あなたたちなら、ここで、ヒトとして生きていける」
そう言った彼女はもういない。
僕たちを案内し終えて、瞬く間に姿を消してしまった。
彼女が立っていたはずの場所には何もなく、彼女の足跡すら残ってはいなかった。
――本当は、わかっていた。
彼女の身体は初めから、僕たちと一緒ではなかった。
彼女がその特別な能力で見せた幻覚が、僕たちをこの場所まで連れて来ていた。
だから彼女は、1度だってぬかるみに足をとられて転ぶことはなかった。
雨に濡れているはずのその服や髪が、彼女の身体に張り付くこともなかった。
「行こう」
僕は、いつまでも彼女の姿を探して、来た道を見つめ続ける彼に声をかけた。
この鉄格子の門を開いて、その先にどんな未来が待っていても、僕たちはもう、前に進むしかないんだ――
鼻につく、土と水と埃の匂い。
踏みしめる地面は泥でぬかるんで、何度も足をとられた。
4月の雨はまだ冷たくて、体温を容赦なく奪っていった。
それが、僕が――僕たちが初めて触れた外の世界。
隔絶された壁の向こう側。
天井のない世界。
歓迎されているとは、到底思えなかった。
僕たちが、アノ場所から逃げることを、世界が咎めているような、「お前たちの居場所はこっちじゃない。帰れ」と言われているような、そんな気がした。
けれど、それでも、僕たちは進むのをやめなかった。
どんなに身体が雨に濡れても。
どんなに転んで泥にまみれても。
どんなに身体が冷え切って、凍えても。
アノ場所に戻るくらいなら。
アノ場所で死ぬくらいなら。
前を進む少女が、僕たちをどこに連れて行こうとしているのかはわからなかったけれど、アノ場所にいるよりはマシだと、そう思って着いて来た。
目の前に佇む鉄格子の門。
横に伸びる白壁の塀。
「あなたたちなら、ここで、ヒトとして生きていける」
そう言った彼女はもういない。
僕たちを案内し終えて、瞬く間に姿を消してしまった。
彼女が立っていたはずの場所には何もなく、彼女の足跡すら残ってはいなかった。
――本当は、わかっていた。
彼女の身体は初めから、僕たちと一緒ではなかった。
彼女がその特別な能力で見せた幻覚が、僕たちをこの場所まで連れて来ていた。
だから彼女は、1度だってぬかるみに足をとられて転ぶことはなかった。
雨に濡れているはずのその服や髪が、彼女の身体に張り付くこともなかった。
「行こう」
僕は、いつまでも彼女の姿を探して、来た道を見つめ続ける彼に声をかけた。
この鉄格子の門を開いて、その先にどんな未来が待っていても、僕たちはもう、前に進むしかないんだ――
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