上 下
1 / 14
01 プロローグ

01

しおりを挟む
 ざあざあと、激しく地面を打ちつける雨。
 鼻につく、土と水と埃の匂い。
 踏みしめる地面は泥でぬかるんで、何度も足をとられた。
 4月の雨はまだ冷たくて、体温を容赦なく奪っていった。

 それが、僕が――僕たちが初めて触れた外の世界。

 隔絶された壁の向こう側。
 天井のない世界。

 歓迎されているとは、到底思えなかった。

 僕たちが、アノ場所から逃げることを、世界が咎めているような、「お前たちの居場所はこっちじゃない。帰れ」と言われているような、そんな気がした。

 けれど、それでも、僕たちは進むのをやめなかった。

 どんなに身体が雨に濡れても。
 どんなに転んで泥にまみれても。
 どんなに身体が冷え切って、凍えても。

 アノ場所に戻るくらいなら。
 アノ場所で死ぬくらいなら。

 前を進む少女が、僕たちをどこに連れて行こうとしているのかはわからなかったけれど、アノ場所にいるよりはマシだと、そう思って着いて来た。

 目の前に佇む鉄格子の門。
 横に伸びる白壁の塀。

「あなたたちなら、ここで、ヒトとして生きていける」

 そう言った彼女はもういない。

 僕たちを案内し終えて、瞬く間に姿を消してしまった。

 彼女が立っていたはずの場所には何もなく、彼女の足跡すら残ってはいなかった。

 ――本当は、わかっていた。

 彼女の身体は初めから、僕たちと一緒ではなかった。

 彼女がその特別な能力で見せた幻覚が、僕たちをこの場所まで連れて来ていた。

 だから彼女は、1度だってぬかるみに足をとられて転ぶことはなかった。
 雨に濡れているはずのその服や髪が、彼女の身体に張り付くこともなかった。

「行こう」

 僕は、いつまでも彼女の姿を探して、来た道を見つめ続ける彼に声をかけた。

 この鉄格子の門を開いて、その先にどんな未来が待っていても、僕たちはもう、前に進むしかないんだ――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...