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03 忘れられない過去
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アイはずっと後悔していた。
もしもあのとき、アイがシノとリンを外の世界へ連れ出さなかったら、と。
ネオがヒトの手によって生み出されはじめた当初、ネオの扱いはひどいものだった。
ヒトが猛獣をムチで打つのと同じように、ネオの子供に暴力をふるっていた。
ヒトの社会ではそれが当然だった。
ネオは、ヒトの子ではなかったから。
ヒトの手で、人工的に作り出されたネズミと同じだった。
だから、何をしても許された。
そんな環境下で、アイは2人の少年の存在を知った。
ヒトが望む、わかりやすい能力を持たずに生まれてきたシノとリン。
もしもあのとき、アイが2人を放っておいたなら、2人はアイが存在を知った数日後には死んでいた。
けれど、そうしていれば、シノがアイという存在に執着することはなかった。
リンも、何度も死を繰り返し経験することはなかった。
そうしなければ、シノもリンも今という時間に生きて存在していることはできなかったけれど、そうしたからこそアイという存在がシノとリンを縛りつけているような気がしてならなかった。
けれど、その考えはある子供たちによって改めさせられた。
『手を出したなら、最後まで責任もちなよ』
それはとある少女の言葉。
『責任もって、最後まで縛りつけろよ』
それはとある少年の言葉。
『キミも視えるネオなら、こうなることはわかっていたはずだよ。それでもキミはそれを選んだ』
それはとある少年の言葉。
彼らの言葉はアイを苦しめ、そして救った。
それで、いいのだと。
消えゆく命の灯に、生きる道しるべを与えたのはアイ自身だった。
見殺しにすることもできたはずなのに、それをしなかった。
シノとリンが外へ出たことで、起こり得る未来の可能性のひとつとして「今」という未来がみえていなかったわけではなかった。
それでも、アイは救うことを選んだ。
アイ自身の選択だった。
彼らの生き方を、歪めてしまったのはアイなのだから、彼らが自由を望むまで縛りつける責任がある。
それでいいと、思えるようになった。
「僕はここへ戻ると決めたあの日から、キミに生かしてもらったこの命はキミのために使うと決めているんだ」
シノが言った。
大袈裟だとアイは眉を下げたけれど、シノをこうしてしまったのはアイ自身だった。
後悔は、許されなかった。
「僕も、アイには感謝しているよ。アイが望んでくれるなら、僕も一緒にいさせてほしいな」
リンの言葉に、「この子は透視を持っていたっけ」とアイはぼんやり考えた。
「あなたたちが飽きるまで、私に付き合ってね」
以前のアイなら決して言わなかったであろう言葉を言えるようになったのもあの子たちの――遥か遠くの青空の下にいる彼らのおかげかと、アイは微笑んだ。
もしもあのとき、アイがシノとリンを外の世界へ連れ出さなかったら、と。
ネオがヒトの手によって生み出されはじめた当初、ネオの扱いはひどいものだった。
ヒトが猛獣をムチで打つのと同じように、ネオの子供に暴力をふるっていた。
ヒトの社会ではそれが当然だった。
ネオは、ヒトの子ではなかったから。
ヒトの手で、人工的に作り出されたネズミと同じだった。
だから、何をしても許された。
そんな環境下で、アイは2人の少年の存在を知った。
ヒトが望む、わかりやすい能力を持たずに生まれてきたシノとリン。
もしもあのとき、アイが2人を放っておいたなら、2人はアイが存在を知った数日後には死んでいた。
けれど、そうしていれば、シノがアイという存在に執着することはなかった。
リンも、何度も死を繰り返し経験することはなかった。
そうしなければ、シノもリンも今という時間に生きて存在していることはできなかったけれど、そうしたからこそアイという存在がシノとリンを縛りつけているような気がしてならなかった。
けれど、その考えはある子供たちによって改めさせられた。
『手を出したなら、最後まで責任もちなよ』
それはとある少女の言葉。
『責任もって、最後まで縛りつけろよ』
それはとある少年の言葉。
『キミも視えるネオなら、こうなることはわかっていたはずだよ。それでもキミはそれを選んだ』
それはとある少年の言葉。
彼らの言葉はアイを苦しめ、そして救った。
それで、いいのだと。
消えゆく命の灯に、生きる道しるべを与えたのはアイ自身だった。
見殺しにすることもできたはずなのに、それをしなかった。
シノとリンが外へ出たことで、起こり得る未来の可能性のひとつとして「今」という未来がみえていなかったわけではなかった。
それでも、アイは救うことを選んだ。
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彼らの生き方を、歪めてしまったのはアイなのだから、彼らが自由を望むまで縛りつける責任がある。
それでいいと、思えるようになった。
「僕はここへ戻ると決めたあの日から、キミに生かしてもらったこの命はキミのために使うと決めているんだ」
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「あなたたちが飽きるまで、私に付き合ってね」
以前のアイなら決して言わなかったであろう言葉を言えるようになったのもあの子たちの――遥か遠くの青空の下にいる彼らのおかげかと、アイは微笑んだ。
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