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第2章 異世界の国、ソーンツェ
2.いざ、城の外
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ミーシャこと、ミハイル・ベールイ曰く、ここは異世界でソーンツェという国である。
そしてここはその城の中。
自分のことを騎士だと言っていたあの茶髪の外国人トーリャことアナトーリィ・サドーフニコフは、日本語を間違っていたわけではなく、本当に騎士という役職の人だった。
そして、黒髪の男。
キールこと、キリル・ソーンツェフ。
ソーンツェというらしいこの国を治める王様で、陛下。
私を運命の相手だとのたまう、自分勝手な人。
と、ミーシャにいろいろと教えられはしたけれど。
まるごとそのまま、「はいそうですか」と信じられるわけはなく。
部屋に1人、残された私は今。
いかにここを脱出するか、画策中。
ガチャリ。
廊下につながっている扉を開けてみる。
「ーーーーーーーー」
予想通りではあったけれど、見張りと思われる人が2人。
でも、言葉は通じない。
それをいいことに、部屋を出ようと試みる。
「ーーーーーーーーーーーー」
止められる。
なにか言っているけど、わからないので強硬突破を。
と思った矢先。
「どうかした?」
言葉のわかる人、トーリャが現れた。
見張りの2人の、助かった、っていうような顔。
私を外に出すなと、言われていたんだなと予想。
「ごはんが待ちきれなかった? それとも1人が寂しかった?」
まったくもって、見当違いなことを聞いてくるトーリャ。
そんなわけないって、わかっているくせに。
「家に帰らせてください」
連れて行ってなんて言わない。
自分でなんとかするから、ここから出して。
「それはダメって、昼間も言ったでしょ? いい子だから戻ろうね。もうすぐ夕食だからね」
問答無用で部屋の中に引きずり込まれる。
なに、この子供扱い。
「……いりません」
「ん?」
「ごはん、いらないんで、少し1人にしてください」
言って、私はベッドのある部屋へと、閉じ籠る。
昼間からずっと、ミーシャがいてトーリャがいて、私の専属の世話係だという茶髪美女のリーリアと金髪美女のマリーナがいて。
決して私を1人にはしない感が伝わってきて。
今やっと、1人になれたと思ったのに。
リーリアとマリーナは夕食を取りに行っただけだったっていう……。
すぐ戻ってくるじゃん。
イチかバチかで言ってみたけど、どうだろう。
私を1人に、してくれる?
「ーーーーー」
扉の向こうで、トーリャがなにか呟いた。
「リーリアとマリーナには、ここで待機させておくから。僕もここに残るから、なにかあったらおいでね」
!!
まさか。
1人の時間をくれた。
これはチャンス。
ここから出て行く、チャンス。
扉からの正面突破はできなくても、窓がある。
ここは2階だけど、この大きなベッドのシーツを拝借して、あとバスルームでみつけたバスタオルを何枚か縛ってつなげればロープの代わりになる。
漫画みたいにうまくできるかは、賭けだけど。
早く帰りたい。
お父さんもお母さんも、きっと心配してる。
静かに、音を立てないように窓を開けて。
私はバルコニーへ出た。
バルコニーにある柵。
手すりに、シーツを縛り付けて準備OK。
幸いなことに、下の階の部屋に明かりはついていなくて見つかることはなさそう。
静かに、静かに。
音を立てないように、即席ロープもどきのシーツを下に垂らしてつたって下りて行く。
せっかくのシーツ&バスタオル。
汚してごめんなさい。
思いながら、下りる。
途中、手が滑って落ちそうになったけど、なんとか持ちこたえて無事に下りることができた。
できちゃった。
漫画みたいに。
次は、と。
下り立った地面で、考える。
次はどうしよう。
外に出たはいいけど、ここはまだこの建物(城らしい)の敷地内。
まずはここから脱出しなければ。
とりあえず、部屋の窓から見えた壁、たぶん城壁というやつのところまで行こう。
壁をつたって歩けば、出入り口が見つかるだろうし。
よし。
そうと決まればさっさと行こう。
と、1歩踏み出したそのとき。
「ーーーーーーーーー?」
「ーー?」
人の話し声が聞こえた。
ゆらゆらと、近づいて来る明かり。
声からすると、たぶん男性が2人。
ヤバイっ!!
私はとっさにしゃがみ込む。
そして、1番近くにあった茂みへと身を寄せる。
どうか、気づかれませんように……。
「ーーーーーーーー」
「ーーーーーーーーーーーーーーーー」
近づいて来る、足音。
明かり。
人の声。
気配。
そして……。
「ーーーーーーーーーーーーー」
「ーーーーー」
遠ざかって行く。
よかった……。
ほっと、一息ついて去っていく人影のうしろ姿を見る。
その姿に。
正確にはその手にあるものに。
目を疑った。
松明……。
ウソ、でしょう……?
だって、このご時世、この時代に。
松明で明かりをとるって……。
懐中電灯とか使いなさいよ。
火事にでもなったらどうするの?
なんて思いながら、身を引く。
私は先を急がなきゃ。
身をかがめて、身を潜めながら、なるべくこっそり先を急ぐ。
どうやら、さっきの2人はこの辺りを巡回しているらしい。
2人以外にも数人、似たような人を見る。
けど、絶対に見つかるわけにはいかない。
それにしても。
遠い。
目的の壁までが遠いっ!!
身を潜めながらだから、余計に遠く感じる。
でも、ここで立ち上がろうものなら、即座に見つかってしまうことは必至。
そうなったら連れ戻されるか、怪しいヤツだと外に放り出されるかのどっちかだ。
そんな危険な2択には、さすがに賭けられない。
ようやく……。
ようやく、辿り着いた……。
ここまで来るのに、どれだけの時間を要したことか。
時計がないからわからないけど。
私の荷物……。
返してもらってない。
っていうか、どこに持っていかれた?
いや、今はもういいそんなこと。
今は、この果てしなく高い城壁をどう突破するか考えなきゃ。
身を潜めながら、ひたすら進んで来た私だけど、それは今も変わっていない。
だって、城壁近くまでうろうろと松明持った人がやってくるんだもん。
この人たちはたぶん、警備の人、なんだろうな。
そんなことを思いながら、身を潜め、とりあえず壁づたいに進んでみる。
果てしなく高い壁。
果てしなく、横にも長い。
少しずつしか進めていないのはわかるけど、それにしても出入り口らしきものまで辿り着けない……。
長いっ!
遠いっ!
もうそろそろ、足腰が限界。
そう思い始めたとき。
ようやく入り口らしきものが見えた。
城門、というやつだろうか。
見張りが2人。
門は開かれていて、ここでも松明で明かりをとっている。
その後、戻されるか放り出されるかわからないので今出て行くのは得策とは言えない。
どうにか2人の注意が逸れたところで、気づかれないように外に出なければ。
なにか、ないだろうか……。
ピーーーーーーーーィ。
響く、音。
なんの音?
鳥のような、でも、こんな夜に?
疑問を抱きながら、辺りの様子をうかがっているとなにやら少し騒がしいような気がする。
カサカサと、人が駆けて行く音が聞こえる。
そして……。
ウソ……。
まさか……。
見張りと思われる2人の姿がない。
いいのか、こんな警備で。
周りにも、人の気配はなくなっていて……。
出るなら今がチャンス。
今しかない。
もう1度。
よくよく周りの様子をうかがう。
どれだけ神経をとがらせても(たかが知れてるけど)、人の気配はないように思う。
よし。
3、2、1、で走ろう。
3……。
2……。
1……。
走るっ!!
近づいてくる、松明。
近づいてくる、門。
近づいてくる……。
そして……。
私の足が、門を踏み越えて。
城の外へと、出た。
1歩。
2歩。
3歩。
敷地を離れて進んで歩く。
外に、出られた。
*****
城を出られたのはいいけれど。
このあと、私はどうしよう。
お金はなく、ここがどこかもわからない。
一応ね、ここは異世界でソーンツェという国で、とは言われましたけども。
信じられるか、って話なわけですよ。
なので、自分の目で見て自分の居場所を把握したい。
いや、しなきゃ。
街まで行けば、地図とか置いてないかな。
見せてもらえるといいけど。
ただ、最大の難問が言葉が通じないかもしれないということだ。
目が覚めてから今日1日、日本語のわかる人が3人しかいないという現実。
実は本当はココは日本で、頭のおかしな危ない外国人集団にからまれました、っていう展開なら嬉しいんだけど。
さすがにプラス思考すぎるかな?
でも、普通に考えるとそれが1番自然な気がする。
寝ている間に人1人、パスポートも持たない人を外国に連れて行くとか、できるとは思えないし。
異世界とか、もってのほかだし。
でも、ここが外国である可能性も完全には捨てきれない。
もーうっ!!
なんでこんなわけのわからない事態になってるのーっ!!
私、誕生日なのにーっ!!
……あれ?
誕生日って……。
日付け、跨いだっけ?
寝てたから、わかんないや。
もしかしたら、誕生日は昨日で私1日家に帰ってない?
学校出たの夕方だったし。
起きたら外、明るかったし。
うわー。
お父さんもお母さんも心配してるよ、絶対。
行方不明で警察に駆けこんでるかもしれない。
うーん。
でもその方が、私帰れるかも。
見つけに来てくれないかな。
とてつもなく他力本願だけど。
帰りたいよー。
ギュギャアアア!!
っ!?
なんの音?
声?
真っ暗な夜道。
月明かりを頼りに歩く、1本道。
両脇には木。
森。
そして、響き渡る奇声。
不気味すぎる……。
ギュギャアアア!!
っ!?
えーん……。
せめて外灯がほしいよ……。
暗いよ、怖いよ、街まで遠いよ……。
でも、泣きごとを言って立ち止まったところで今の状況がいい方向に変わるわけはなく。
この足を進めないと、先には進めないわけで。
窓から見た、赤い屋根の建物と白い塔のある場所を目指して。
この道を歩いて行った先にあると信じて。
私は歩く。
歩く。
歩く。
ギュギャアアア!!
っ!?
でも怖いっ!
ただでさえ不気味な道のりを。
身体をビクつかせながら進み。
時折聞こえてくる奇声に、心臓を跳ねさせながら。
私は進む、しかなくて。
早く家に、帰れますように。
そんな思いだけが。
今の私を突き動かしている。
そしてここはその城の中。
自分のことを騎士だと言っていたあの茶髪の外国人トーリャことアナトーリィ・サドーフニコフは、日本語を間違っていたわけではなく、本当に騎士という役職の人だった。
そして、黒髪の男。
キールこと、キリル・ソーンツェフ。
ソーンツェというらしいこの国を治める王様で、陛下。
私を運命の相手だとのたまう、自分勝手な人。
と、ミーシャにいろいろと教えられはしたけれど。
まるごとそのまま、「はいそうですか」と信じられるわけはなく。
部屋に1人、残された私は今。
いかにここを脱出するか、画策中。
ガチャリ。
廊下につながっている扉を開けてみる。
「ーーーーーーーー」
予想通りではあったけれど、見張りと思われる人が2人。
でも、言葉は通じない。
それをいいことに、部屋を出ようと試みる。
「ーーーーーーーーーーーー」
止められる。
なにか言っているけど、わからないので強硬突破を。
と思った矢先。
「どうかした?」
言葉のわかる人、トーリャが現れた。
見張りの2人の、助かった、っていうような顔。
私を外に出すなと、言われていたんだなと予想。
「ごはんが待ちきれなかった? それとも1人が寂しかった?」
まったくもって、見当違いなことを聞いてくるトーリャ。
そんなわけないって、わかっているくせに。
「家に帰らせてください」
連れて行ってなんて言わない。
自分でなんとかするから、ここから出して。
「それはダメって、昼間も言ったでしょ? いい子だから戻ろうね。もうすぐ夕食だからね」
問答無用で部屋の中に引きずり込まれる。
なに、この子供扱い。
「……いりません」
「ん?」
「ごはん、いらないんで、少し1人にしてください」
言って、私はベッドのある部屋へと、閉じ籠る。
昼間からずっと、ミーシャがいてトーリャがいて、私の専属の世話係だという茶髪美女のリーリアと金髪美女のマリーナがいて。
決して私を1人にはしない感が伝わってきて。
今やっと、1人になれたと思ったのに。
リーリアとマリーナは夕食を取りに行っただけだったっていう……。
すぐ戻ってくるじゃん。
イチかバチかで言ってみたけど、どうだろう。
私を1人に、してくれる?
「ーーーーー」
扉の向こうで、トーリャがなにか呟いた。
「リーリアとマリーナには、ここで待機させておくから。僕もここに残るから、なにかあったらおいでね」
!!
まさか。
1人の時間をくれた。
これはチャンス。
ここから出て行く、チャンス。
扉からの正面突破はできなくても、窓がある。
ここは2階だけど、この大きなベッドのシーツを拝借して、あとバスルームでみつけたバスタオルを何枚か縛ってつなげればロープの代わりになる。
漫画みたいにうまくできるかは、賭けだけど。
早く帰りたい。
お父さんもお母さんも、きっと心配してる。
静かに、音を立てないように窓を開けて。
私はバルコニーへ出た。
バルコニーにある柵。
手すりに、シーツを縛り付けて準備OK。
幸いなことに、下の階の部屋に明かりはついていなくて見つかることはなさそう。
静かに、静かに。
音を立てないように、即席ロープもどきのシーツを下に垂らしてつたって下りて行く。
せっかくのシーツ&バスタオル。
汚してごめんなさい。
思いながら、下りる。
途中、手が滑って落ちそうになったけど、なんとか持ちこたえて無事に下りることができた。
できちゃった。
漫画みたいに。
次は、と。
下り立った地面で、考える。
次はどうしよう。
外に出たはいいけど、ここはまだこの建物(城らしい)の敷地内。
まずはここから脱出しなければ。
とりあえず、部屋の窓から見えた壁、たぶん城壁というやつのところまで行こう。
壁をつたって歩けば、出入り口が見つかるだろうし。
よし。
そうと決まればさっさと行こう。
と、1歩踏み出したそのとき。
「ーーーーーーーーー?」
「ーー?」
人の話し声が聞こえた。
ゆらゆらと、近づいて来る明かり。
声からすると、たぶん男性が2人。
ヤバイっ!!
私はとっさにしゃがみ込む。
そして、1番近くにあった茂みへと身を寄せる。
どうか、気づかれませんように……。
「ーーーーーーーー」
「ーーーーーーーーーーーーーーーー」
近づいて来る、足音。
明かり。
人の声。
気配。
そして……。
「ーーーーーーーーーーーーー」
「ーーーーー」
遠ざかって行く。
よかった……。
ほっと、一息ついて去っていく人影のうしろ姿を見る。
その姿に。
正確にはその手にあるものに。
目を疑った。
松明……。
ウソ、でしょう……?
だって、このご時世、この時代に。
松明で明かりをとるって……。
懐中電灯とか使いなさいよ。
火事にでもなったらどうするの?
なんて思いながら、身を引く。
私は先を急がなきゃ。
身をかがめて、身を潜めながら、なるべくこっそり先を急ぐ。
どうやら、さっきの2人はこの辺りを巡回しているらしい。
2人以外にも数人、似たような人を見る。
けど、絶対に見つかるわけにはいかない。
それにしても。
遠い。
目的の壁までが遠いっ!!
身を潜めながらだから、余計に遠く感じる。
でも、ここで立ち上がろうものなら、即座に見つかってしまうことは必至。
そうなったら連れ戻されるか、怪しいヤツだと外に放り出されるかのどっちかだ。
そんな危険な2択には、さすがに賭けられない。
ようやく……。
ようやく、辿り着いた……。
ここまで来るのに、どれだけの時間を要したことか。
時計がないからわからないけど。
私の荷物……。
返してもらってない。
っていうか、どこに持っていかれた?
いや、今はもういいそんなこと。
今は、この果てしなく高い城壁をどう突破するか考えなきゃ。
身を潜めながら、ひたすら進んで来た私だけど、それは今も変わっていない。
だって、城壁近くまでうろうろと松明持った人がやってくるんだもん。
この人たちはたぶん、警備の人、なんだろうな。
そんなことを思いながら、身を潜め、とりあえず壁づたいに進んでみる。
果てしなく高い壁。
果てしなく、横にも長い。
少しずつしか進めていないのはわかるけど、それにしても出入り口らしきものまで辿り着けない……。
長いっ!
遠いっ!
もうそろそろ、足腰が限界。
そう思い始めたとき。
ようやく入り口らしきものが見えた。
城門、というやつだろうか。
見張りが2人。
門は開かれていて、ここでも松明で明かりをとっている。
その後、戻されるか放り出されるかわからないので今出て行くのは得策とは言えない。
どうにか2人の注意が逸れたところで、気づかれないように外に出なければ。
なにか、ないだろうか……。
ピーーーーーーーーィ。
響く、音。
なんの音?
鳥のような、でも、こんな夜に?
疑問を抱きながら、辺りの様子をうかがっているとなにやら少し騒がしいような気がする。
カサカサと、人が駆けて行く音が聞こえる。
そして……。
ウソ……。
まさか……。
見張りと思われる2人の姿がない。
いいのか、こんな警備で。
周りにも、人の気配はなくなっていて……。
出るなら今がチャンス。
今しかない。
もう1度。
よくよく周りの様子をうかがう。
どれだけ神経をとがらせても(たかが知れてるけど)、人の気配はないように思う。
よし。
3、2、1、で走ろう。
3……。
2……。
1……。
走るっ!!
近づいてくる、松明。
近づいてくる、門。
近づいてくる……。
そして……。
私の足が、門を踏み越えて。
城の外へと、出た。
1歩。
2歩。
3歩。
敷地を離れて進んで歩く。
外に、出られた。
*****
城を出られたのはいいけれど。
このあと、私はどうしよう。
お金はなく、ここがどこかもわからない。
一応ね、ここは異世界でソーンツェという国で、とは言われましたけども。
信じられるか、って話なわけですよ。
なので、自分の目で見て自分の居場所を把握したい。
いや、しなきゃ。
街まで行けば、地図とか置いてないかな。
見せてもらえるといいけど。
ただ、最大の難問が言葉が通じないかもしれないということだ。
目が覚めてから今日1日、日本語のわかる人が3人しかいないという現実。
実は本当はココは日本で、頭のおかしな危ない外国人集団にからまれました、っていう展開なら嬉しいんだけど。
さすがにプラス思考すぎるかな?
でも、普通に考えるとそれが1番自然な気がする。
寝ている間に人1人、パスポートも持たない人を外国に連れて行くとか、できるとは思えないし。
異世界とか、もってのほかだし。
でも、ここが外国である可能性も完全には捨てきれない。
もーうっ!!
なんでこんなわけのわからない事態になってるのーっ!!
私、誕生日なのにーっ!!
……あれ?
誕生日って……。
日付け、跨いだっけ?
寝てたから、わかんないや。
もしかしたら、誕生日は昨日で私1日家に帰ってない?
学校出たの夕方だったし。
起きたら外、明るかったし。
うわー。
お父さんもお母さんも心配してるよ、絶対。
行方不明で警察に駆けこんでるかもしれない。
うーん。
でもその方が、私帰れるかも。
見つけに来てくれないかな。
とてつもなく他力本願だけど。
帰りたいよー。
ギュギャアアア!!
っ!?
なんの音?
声?
真っ暗な夜道。
月明かりを頼りに歩く、1本道。
両脇には木。
森。
そして、響き渡る奇声。
不気味すぎる……。
ギュギャアアア!!
っ!?
えーん……。
せめて外灯がほしいよ……。
暗いよ、怖いよ、街まで遠いよ……。
でも、泣きごとを言って立ち止まったところで今の状況がいい方向に変わるわけはなく。
この足を進めないと、先には進めないわけで。
窓から見た、赤い屋根の建物と白い塔のある場所を目指して。
この道を歩いて行った先にあると信じて。
私は歩く。
歩く。
歩く。
ギュギャアアア!!
っ!?
でも怖いっ!
ただでさえ不気味な道のりを。
身体をビクつかせながら進み。
時折聞こえてくる奇声に、心臓を跳ねさせながら。
私は進む、しかなくて。
早く家に、帰れますように。
そんな思いだけが。
今の私を突き動かしている。
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