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マーテエリア学園編

守護騎士契約

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『 これより、女神アンセルと精霊王の誓約のもと、守護騎士契約の儀を始める。地は三恵に天は紫陽の活日、安息は…』

 連れてこられた教会で司祭の長い説教に飽きて俺はあくびが出そうになるが、どうにか噛み殺す。


なげぇ、さっさと終わらんかなこれ


現在、俺は街の外れにあるマニークス正導教会にて結婚式の真っ只中にいた。

参列者はクソジジイとその執事のおっさん。
そして、緊急で立会人として俺が所属する冒険者ギルドのマスターが参加している。

実に枯れ木ジジイとムサイおっさんばかりで、華がない。

隣の可憐な花嫁を見れば先程から何か言いたげに俺をチラチラと見ている。司祭の長話に口が挟めないのだろう。可愛いなぁ。

「それでは、騎士ラウル前へ」

司祭に契約紋と呼ばれる光り輝く魔法陣に手招きされ、中に入ろうとした時服の裾をクイっと引っ張られ、振り向くとエリーゼが神妙な顔つきで俺を見上げている。

どうしたのだろうか?やっぱり俺では嫌なのだろうか?

「あの、本当に…よろしいの?」

「?」

「その、私みたいな、…出来損ないが貴方のお嫁さんになっても…」


 その言葉に目頭が熱くなる。本当に自信ないにも程がある。こんな美少女でスペック高いのに毒親の影響でこんな卑屈になってしまって…

むしろ仮の旦那が俺で申し訳ない。学園に行ったら良い婿探してやるからな!

「良いも悪いも、良いからこの話乗ったんだ。あんた、自信持ちなよ美人なんだからさ。」

思わず親戚の兄ちゃん的なノリで言うとエリーゼは眼を見開き、ほのかに頬を赤く染めた。

褒められたことがあまりないのか、あわあわしている。

可愛い、メッサ可愛い。


………ジジイが心配するの良く分かる。

この子、かなりの純粋培養だ。悪い男ひっかけちゃうレベルでチョロいんじゃね?

3年間、そう言う方面でも守ってやんなきゃな。


俺が魔法陣の上に降りると魔法陣の形が変化する。幾何学模様から、蒲公英を模した紋章に苦笑する。花紋と言って守護騎士の性質を表す花が契約紋になると聞いたが、どうやら俺は蒲公英らしい。雑草らしく生命力強い感じが実に俺にぴったりだな。

「ほれ、手をだせよ。段差あるから気をつけろよ。」

「…はいっ」

華奢な左手を取った瞬間ふわりと暖かな風があたりを包む。

「これは見事な風属性ですな。」

司祭のおっさんは納得したように肯くと、魔法陣の上に立った俺たちに微笑みかける。

その笑みにぞわりと鳥肌がたつ。

司祭の背後に何かいる。かなり巨大な感じの何かが。

エリーゼも感じてるのか、俺の手をギュッと握り込む。

「ーーーさあ、答えなさい。風の守護騎士よ。貴方の真名は?」

「ラウル」



「精霊の愛子よ、かの姫の末よ答えなさい。貴方の真名は?」

「…エリーゼですわ…」


その瞬間司祭の手がパァアンと音をたてて合掌する。その瞬間、右手の甲に鋭い痛みが走る。

確認するとそこには蒲公英の花紋が刻まれていた。

「…ここに守護契約は結ばれました。2人を死が別つまで、決して解けることのない精霊王と女神の祝福だと言う事を忘れずに誠実な良き人生を。、誠におめでとうございます。」

「は?」

 本婚姻?仮婚姻じゃなくて?

ハッとしてエリーゼを見れば、何故か顔を赤らめてもじもじしている。だから、儀式の前にあんなこと言ったのか!!この反応からしてクロではない。

 振り返ってクソジジイを見やればニンマリと笑う顔に血管がブチ切れそうになった。

「まあ、事情はおいおい聞いてやる。ジジイ、ちょっと教会の裏に来い。」

「え~、だってぇ。仮婚姻だとうちのバカ息子がまた介入してくるかもだしぃ。本婚姻の方が介入出来ないもん。」

「頭が悪い女みたいな喋り方してんじゃねぇぞコラ。孫の自由とか、意志とかな、もう少し考えて…。」

「お祖父様を責めないでっ!」

突如、割って入ったエリーゼの声に驚いて見れば、エリーゼはドレスの裾を握って、顔を真っ赤にして俺を見上げていた。

表情があまり変わらない少女が、初めて感情を表した様に、真剣な表情に俺は息を飲む。

それは、追い詰められた人間の顔だった。


「…私が…頼んだんです。私が悪いの…あの家に戻りたくないと、あんな…いやらしい人と結婚したくないと、私がお祖父様にお願いしたのです。その結果、貴方を巻き込んでしまった。」

ごめんなさいと泣きじゃくるエリーゼに、俺は言葉を失った。俺が思っていた以上にカスターク家の闇は深かったらしい。

「…本婚姻では、もう離婚ができないんだぞ?」

「はい、」

「…将来、あんたは好きな男ができても結婚できないんだぞ?」


「はいっ」


俺は盛大な溜息を着いた。

あ、これダメなコースだ。行き当たりばったりで将来を考えてない。だから、ジジイにいい様に利用されんだ。


あのジジイ、好好爺を装ったクソジジイだからな。

 事実上、ジジイのカスターク流剣術の免許皆伝者はジジイ以外には俺しかいない。理由はわかるだろう。あのジジイ、剣の鬼だかんな。

孫もめぼしい才能がないとぼやいていたジジイだ。よっぽど俺を手元に起きたかったのだろう。よりにもよってあのジジイ、孫娘を使いやがった!

ジジイからすりゃあ、慈善事業だろうな。孫娘が気に食わない奴より、自分の直弟子に嫁にやれば幸せじゃね的な?ついでに根無草な直弟子に可愛いい身内の嫁を用意すれば手元におけるから一石二鳥だ。

あんのクソジジイ、だから息子と孫に煙たがられんだよ。まあ、息子も息子で胸糞だがな。

くっそ、なんか悔しい。めっちゃ悔しい。

けど、エリーゼにあたる気持ちは不思議とない。

この子も利用された被害者だし…,。

はー、憂鬱。


「あんたは馬鹿だ。なんで、もっと自分を大事にしない。」

「.…っ、私は、後悔はしていません。」

「後悔とは後に悔いると書く。あんたは今はしていなくとも、これからきっと後悔するだろう。浅はかだ。あんたは拒むべきだった!」

「だとしでも、私はこの先、貴方と過ごすであろう日々に、わくわくしてしまいました。不思議です、初めてお会いした殿方に、こんな事言っても気持ち悪がられるかもしれませんが、この婚姻に未来を託したかった。」


涙を散らし、俺を見上げるエリーゼに俺は目を見張る。

美しい瞳は何一つ揺らぎはなく、どこまでも真っ直ぐな眼差しだった。

「ラウル様」

迷いのない声に、俺はぎくりと身体が強張る。伸ばしてきた柔らかい手が俺の手を覆うように添えられる。






「どうか、私の永遠の騎士となって下さいませ。」





………流石ヒロインのライバル。

殺し文句がマジで凄すぎる。


俺は握られてない手で顔を覆うと盛大なため息を溢した。

チラリとみたジジイは孫娘の大胆なプロポーズにビックリしたようだ。あんぐりと口を開けてるのが見れた。あー、良い間抜けヅラだ。ざまあ。

「……あんた、俺に好いた女がいたらどうすんだ?もしかしたら、結婚の約束だってしていたかもしれないんだぞ?」

「う、で、でも、今はいらっしゃはないんですよね?お祖父様だってその、ラウル様に良い人がいたら私と結婚させようとなんて流石にしませんわ!そうでしょう?お祖父様、」

「う、うむ。」

残念ながら、そのジジイは俺に恋人がいてもエリーゼと結婚させていたね。クソだからな。

 孫娘の信頼する純粋な眼差しにジジイはたじろぐ。その姿を鼻で嗤うと俺は再びエリーゼと向き合った。


「俺の人生を狂わせる覚悟はあるのか?」

「……正直、覚悟を問われるとわかりません、でも」

「でも?」

「……っ私の気持ちは嘘偽りはないことは、間違いのないこと、その、も、もう、これ以上は勘弁してくださいませ。」

 泣きが入ってしまったエリーゼにあちゃあーと、ギルドマスターのおっさんと執事のおっさんの視線が痛い。恋愛感情はないにしろ勇気を出した少女の必死のプロポーズにこれ以上の野暮は言うまい。

どうやら覚悟を決めるのは俺の方らしい。


「こんな美人な精霊姫に請われるなんて、果報者だな俺は。……良いだろう騎士にでも亭主でもなってやるさ。だから、誓え、」

「はい。」

「………俺より先に死ぬなよ。」

「っはい!」

エリーゼの今日一番の笑顔に、大概おれもお人好しだなと苦い笑みを返した。

これからの受難がどうでも良くなってしまうぐらい、彼女の言葉は俺に突き刺さったのだ。

少々癪だが、開き直る。

どうせ、一度は無くしてしまった人生だ。

今度の人生は、この美少女に狂わされるのも一興。まあ、その先に何があるかわからないが、彼女もまた俺に人生を狂わされるのだイーブンだろう。

この時俺は「もう、どうでもいいや」と諦めてていたので、忘れていた。


 この世界の悪役となる少女の人生フラグを完全にへし折ってしまったのを。

そして、乙女ゲームという世界シナリオがあらぬ方に飛躍し予想だにしない展開を迎えることになるとは知らずにいたのだった
















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