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第四章 魔導王国
#122 少女との対談
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「ここは……」
「ようやく、お話が出来ますね」
真っ白な空間に放り投げられたフェーリエの目の前に、先程地面に倒れ伏した少女が立っていた。
「あ……」
「詳しく説明したいのですが、なにぶん時間がないので……今からして欲しいことを話させて貰いますね」
少女は申し訳なさそうに笑い、状況が掴めないフェーリエの手を優しく握った。
「こうしている間にもあの世界の時間は進んでいます。戻ったらガイアがあの子を生み出している頃のはず……まずは貴女に、私の身体をお貸しします。そうすれば、貴女はあの世界に干渉できます」
「え、え……でも、貴女がそのまま行動すれば……」
フェーリエに身体を貸し出すより、その方が早いはずだ。そう思ったフェーリエに、少女は首を振った。
「いいえ、それでは言霊の影響が残っているので自由に動けません。言霊が縛るのはヒトの精神部分です。貴女と私では魂が同じでも精神は異なりますから」
少女の言葉にフェーリエはようやく納得する。
「でも、身体を借りたからって何をすれば……」
「あの子を……今は『Abyss』と呼ばれている私の弟を、助けてください」
「……『Abyss』が、弟?」
「はい。私と『Abyss』は唯一ガイアに直接生み出された存在ですから。ただ、あの子は名前を貰えていないから……」
少女は悲しげに目を伏せた。悲しげにしている理由を尋ねると、名を貰うことが、自我を得る第一段階だと少女は言った。つまり『Abyss』は自我無く、本能のまま行動している事になる。
「あの子は、ガイアの破壊衝動から生まれました。このままでは、あの子は世界を滅ぼしてしまう。全ては私のせいです。だから……お願いします、あの子を助けてください!!」
少女はフェーリエの手を強く握り、懇願した。少女の様子は、まるで必死に懇願しないとフェーリエが行動しないかのように見える。世界が滅びると聞いて、無関係でいられる訳がないというのに。
「戻ったら、何をしたら良いの?」
「受けて、くれるのですか?」
「逆にこの状態で受けない馬鹿はいないわ」
少女は余程、ヒトを信じられないようだ。もしくは、自身の過失で起こった事の尻ぬぐいを誰かに、それこそ自分の生まれ変わりに頼むのは気が引けていたのかも知れない。
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます」
少女は涙を流して礼を述べた。しかし時間が無いのも事実。少女はキュッと目を閉じ、涙を乱暴に拭って真っ直ぐ前を向いた。
「貴女にして欲しいことは……」
彼女の声に、もう震えは無かった。
「うわぁぁぁぁあ!!」
「た、助けてくれぇ」
様々な叫び声が耳に入る。重い瞼をこじ開け、熱い胸部から剣を抜き取る。不思議なことに、血は吹き出なかった。
のっそりと身体を起こし、手が、足が、自由に動くことを確認する。そして、地面に触れることも。
「くそっ!なんでこんなことに!!」
一人の男が目の前に現れる。全身ぼろぼろで、転けたのか顔には泥が付いている。
男は、起き上がったこちらを見て分かりやすく目を見張った。
「お前っ!な……っ!?」
何かされる前に、その男の口を塞ぐ。男の力は音が出なければ効果は無い。また縛られないように、早い内に空気の振動を止めたのだ。
声が出ないことに驚いている男に一瞥を送り、口を開く。
「今、あんたに構ってる暇はないの。そこで大人しくしていて頂戴」
先程とは全く異なるその口調に、男……ウェルブムは呆然とした顔をした。
「さーて、『Abyss』とガイアはどこかなぁ?」
フェーリエは少女の身体で、フッと笑った。
「ようやく、お話が出来ますね」
真っ白な空間に放り投げられたフェーリエの目の前に、先程地面に倒れ伏した少女が立っていた。
「あ……」
「詳しく説明したいのですが、なにぶん時間がないので……今からして欲しいことを話させて貰いますね」
少女は申し訳なさそうに笑い、状況が掴めないフェーリエの手を優しく握った。
「こうしている間にもあの世界の時間は進んでいます。戻ったらガイアがあの子を生み出している頃のはず……まずは貴女に、私の身体をお貸しします。そうすれば、貴女はあの世界に干渉できます」
「え、え……でも、貴女がそのまま行動すれば……」
フェーリエに身体を貸し出すより、その方が早いはずだ。そう思ったフェーリエに、少女は首を振った。
「いいえ、それでは言霊の影響が残っているので自由に動けません。言霊が縛るのはヒトの精神部分です。貴女と私では魂が同じでも精神は異なりますから」
少女の言葉にフェーリエはようやく納得する。
「でも、身体を借りたからって何をすれば……」
「あの子を……今は『Abyss』と呼ばれている私の弟を、助けてください」
「……『Abyss』が、弟?」
「はい。私と『Abyss』は唯一ガイアに直接生み出された存在ですから。ただ、あの子は名前を貰えていないから……」
少女は悲しげに目を伏せた。悲しげにしている理由を尋ねると、名を貰うことが、自我を得る第一段階だと少女は言った。つまり『Abyss』は自我無く、本能のまま行動している事になる。
「あの子は、ガイアの破壊衝動から生まれました。このままでは、あの子は世界を滅ぼしてしまう。全ては私のせいです。だから……お願いします、あの子を助けてください!!」
少女はフェーリエの手を強く握り、懇願した。少女の様子は、まるで必死に懇願しないとフェーリエが行動しないかのように見える。世界が滅びると聞いて、無関係でいられる訳がないというのに。
「戻ったら、何をしたら良いの?」
「受けて、くれるのですか?」
「逆にこの状態で受けない馬鹿はいないわ」
少女は余程、ヒトを信じられないようだ。もしくは、自身の過失で起こった事の尻ぬぐいを誰かに、それこそ自分の生まれ変わりに頼むのは気が引けていたのかも知れない。
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます」
少女は涙を流して礼を述べた。しかし時間が無いのも事実。少女はキュッと目を閉じ、涙を乱暴に拭って真っ直ぐ前を向いた。
「貴女にして欲しいことは……」
彼女の声に、もう震えは無かった。
「うわぁぁぁぁあ!!」
「た、助けてくれぇ」
様々な叫び声が耳に入る。重い瞼をこじ開け、熱い胸部から剣を抜き取る。不思議なことに、血は吹き出なかった。
のっそりと身体を起こし、手が、足が、自由に動くことを確認する。そして、地面に触れることも。
「くそっ!なんでこんなことに!!」
一人の男が目の前に現れる。全身ぼろぼろで、転けたのか顔には泥が付いている。
男は、起き上がったこちらを見て分かりやすく目を見張った。
「お前っ!な……っ!?」
何かされる前に、その男の口を塞ぐ。男の力は音が出なければ効果は無い。また縛られないように、早い内に空気の振動を止めたのだ。
声が出ないことに驚いている男に一瞥を送り、口を開く。
「今、あんたに構ってる暇はないの。そこで大人しくしていて頂戴」
先程とは全く異なるその口調に、男……ウェルブムは呆然とした顔をした。
「さーて、『Abyss』とガイアはどこかなぁ?」
フェーリエは少女の身体で、フッと笑った。
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