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第四章 魔導王国
#119 諦めない
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「あ、ああぁ、なんてことを……私は……」
グラディミーレの首を刎ね、その返り血を受けたエンティリーバは呆然と呟いた。
「呆気ない。実に呆気ない」
詰まらなそうに、ウェルブムは呟く。ウェルブムに扇動されていた村人達も、次は我が身かも、と身を震わせた。
「エンティリーバ、可哀想な弟よ」
「弟……?お前のような奴を、私は兄と認めない!!私は、お前を許さな……」
「『自分の首を斬れ』」
泣いて呪詛のような言葉を吐く弟に、ウェルブムは無慈悲に命令を下した。
エンティリーバの透明な涙と共に、赤い鮮血が宙を舞う。ウェルブムは、それすらも無感情に見下ろすだけだった。
(酷い……こんなのって……)
フェーリエは口を覆ってその光景から目を背けた。あまりにも残酷すぎた。これ程悲惨は光景を、フェーリエは今世でも前世でも見たことがない。
「『巫女を呼び出してこい』」
ウェルブムは無表情のまま、一人の村人に命令を下した。前回フェーリエが見た、少女を呼びに来た男だった。
オドオドと怯えながら、男は命令のまま神殿の方へ歩いて行った。
「『この見苦しい物を片付けろ』」
己が殺した二人を、見苦しいと言った。既に限界だったフェーリエの腸は更に煮えくり返った。フェーリエはギリッと歯を鳴らす。何も出来ない自分が口惜しかった。
(何か、この男を止める方法は……)
もし止められたとしても、これは遠の昔に過ぎ去った出来事だ。現実に影響はない。それでも、フェーリエは居ても立っても居られなかった。
死んだ二人の亡骸を余所へと運ぶ村人達を横切り、フェーリエは神殿に向けて走り出した。
神殿には、迷いの結界が張ってある。それは、目的地に簡単にたどり着けない魔法だ。少女を呼びに行った村人は、今頃迷っているだろう。だからこそ、少女が死ぬのに時間がまだあるのは分っている。それまでに、何か見つけなくては。
(このまま引き下がる訳にはいかない!!!)
迷う事などどうでも良い。元々どこに何があるのか分らないのだ。手当たり次第に壁を突き抜け、部屋を覗いていく。
魔法の存在が確立されていないこの時代で、知れることはたかが知れている。智慧と名付けられたエンティリーバが居ない今、最も最初に知性を得た者の元に、知識は集まるはずだ。フェーリエは少女の部屋を探していた。
(精神体の私に効く魔法って何よ!!力おかしいでしょ!!)
少々怒りながら、フェーリエは走り続ける。結局名付きの二人が少女の元を訪れなかったのは、この結界のせいなのだろう。迷っている間に、外の騒ぎに気づいてしまったのだ。
(っ!?通り過ぎるとこだった……)
フェーリエは少女の部屋にたどり着くことが出来た。慌てて次の壁に透過していた腕を引き抜く。
少女は物憂げに窓の外を眺めるだけで、他は何もしていない。まだ村人はたどり着けていないようだ。
フェーリエは少女の肩に手を置いた。いや、正確には置こうとした。手は肩をすり抜け、少女はフェーリエには気づいていない。
(やっぱりだめ、か)
前回も、何か触れる物が無いか触ろうとして何も触れる事が出来なかった。
フェーリエは眉を寄せ、唇を噛みしめた。触れなければ、話せなければ、知ることすら出来ない。どうすれば、この試練を乗り越えられるのだろうか。
グラディミーレの首を刎ね、その返り血を受けたエンティリーバは呆然と呟いた。
「呆気ない。実に呆気ない」
詰まらなそうに、ウェルブムは呟く。ウェルブムに扇動されていた村人達も、次は我が身かも、と身を震わせた。
「エンティリーバ、可哀想な弟よ」
「弟……?お前のような奴を、私は兄と認めない!!私は、お前を許さな……」
「『自分の首を斬れ』」
泣いて呪詛のような言葉を吐く弟に、ウェルブムは無慈悲に命令を下した。
エンティリーバの透明な涙と共に、赤い鮮血が宙を舞う。ウェルブムは、それすらも無感情に見下ろすだけだった。
(酷い……こんなのって……)
フェーリエは口を覆ってその光景から目を背けた。あまりにも残酷すぎた。これ程悲惨は光景を、フェーリエは今世でも前世でも見たことがない。
「『巫女を呼び出してこい』」
ウェルブムは無表情のまま、一人の村人に命令を下した。前回フェーリエが見た、少女を呼びに来た男だった。
オドオドと怯えながら、男は命令のまま神殿の方へ歩いて行った。
「『この見苦しい物を片付けろ』」
己が殺した二人を、見苦しいと言った。既に限界だったフェーリエの腸は更に煮えくり返った。フェーリエはギリッと歯を鳴らす。何も出来ない自分が口惜しかった。
(何か、この男を止める方法は……)
もし止められたとしても、これは遠の昔に過ぎ去った出来事だ。現実に影響はない。それでも、フェーリエは居ても立っても居られなかった。
死んだ二人の亡骸を余所へと運ぶ村人達を横切り、フェーリエは神殿に向けて走り出した。
神殿には、迷いの結界が張ってある。それは、目的地に簡単にたどり着けない魔法だ。少女を呼びに行った村人は、今頃迷っているだろう。だからこそ、少女が死ぬのに時間がまだあるのは分っている。それまでに、何か見つけなくては。
(このまま引き下がる訳にはいかない!!!)
迷う事などどうでも良い。元々どこに何があるのか分らないのだ。手当たり次第に壁を突き抜け、部屋を覗いていく。
魔法の存在が確立されていないこの時代で、知れることはたかが知れている。智慧と名付けられたエンティリーバが居ない今、最も最初に知性を得た者の元に、知識は集まるはずだ。フェーリエは少女の部屋を探していた。
(精神体の私に効く魔法って何よ!!力おかしいでしょ!!)
少々怒りながら、フェーリエは走り続ける。結局名付きの二人が少女の元を訪れなかったのは、この結界のせいなのだろう。迷っている間に、外の騒ぎに気づいてしまったのだ。
(っ!?通り過ぎるとこだった……)
フェーリエは少女の部屋にたどり着くことが出来た。慌てて次の壁に透過していた腕を引き抜く。
少女は物憂げに窓の外を眺めるだけで、他は何もしていない。まだ村人はたどり着けていないようだ。
フェーリエは少女の肩に手を置いた。いや、正確には置こうとした。手は肩をすり抜け、少女はフェーリエには気づいていない。
(やっぱりだめ、か)
前回も、何か触れる物が無いか触ろうとして何も触れる事が出来なかった。
フェーリエは眉を寄せ、唇を噛みしめた。触れなければ、話せなければ、知ることすら出来ない。どうすれば、この試練を乗り越えられるのだろうか。
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