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第四章 魔導王国

#87 彼は

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「しょ、書斎が……」
 フェーリエは声を上ずらせた。目の前には色とりどりの表紙をした本が並び、壁を埋めている。
 魔導書だけでなく、哲学書、生物学書、算術書などの、学問に精通した本まで所狭しと並んでいる。
 好奇心の塊である魔法使い。それがこの大量の本を前にして、飛びつかない方がおかしいのだ。
『ルナ様!他を探さないと』
「無理よ!ここの本をあらかた読むまで出ていけないわ!」
 フェーリエの目はキラキラしている。それは、何を言っても聞かない意思表示だった。
「........俺は先に調べに行くが」
『あっ、じゃあ僕が着いていこうかな』
 ウルティムがにこにこと笑いながら手を上げる。
「あら、ウルティムは読まないの?」
『屋敷にも興味があるからね。ご主人が読んだやつ、後で教えてね』
「そう、自分で読むのが楽しいのに……」
 ウルティムはひらひらと手を振り、ユースと二人で書斎を出て行く。そんな二人を横目に、フェーリエは手当たり次第に本を集める。
 気づけば十冊の本を抱えていたフェーリエは、埃が積もる机に向かって歩いて行った。
『……フェーリエ様、少しお話ししたいことが』
 珍しく、外で呼ばれた名前。それが意味することを受け止め、ちょっと待って、と声をかける。
 そよ風を起こして埃を払い、机に本を乗せた。上の一冊を手に取り、同じように埃を払った椅子に座る。
 本を開きながら、外に声が漏れないよう『沈黙サイレント』の結界を張る。
 フェーリエの意図を察したアウラは、フェーリエが開いた本を興味津々と言った顔で覗き込む。
 端から見れば、仲良く本を読んでいるようにしか見えないだろう。これで、彼らが戻ってきても誤魔化せる。
「それで、話って?」
 楽しそうに本を読んでいると言う顔をしたフェーリエは、アウラに話の続きを促す。
『ウルティムの事ですが……』
 フェーリエは口角を上げていた頬を、ぴくりと動かした。

「……これは」
『魔方陣だね。しかも、転移の』
 書斎を離れ、探索し始めて直ぐに、ユースとウルティムは床に描かれた魔方陣を見つけた。場所は屋敷の中心部。大広間の奥の部屋だ。
(これほど早く見つかるとは……)
 ユースは内心驚き、ウルティムの様子を伺う。
『取りあえず、これが何処に繋がってるかも分からない訳だし。もう少しこの部屋を探そうか』
 ウルティムは先程の冷たい雰囲気をがらりと変え、酷く明るく親しい……いや、馴れ馴れしい雰囲気で話しかけてくる。
(……一体、何を考えているんだ?)
 初めは、主人であるルナのことを思って行動していると思っていた。しかし、彼からは拭いきれない違和感がある。何を思って行動しているのか。
 彼は出会った頃からつかみ所が無かった。元リッチ、いや、今も変わらずリッチ、つまり魔物である彼が考えている事など、ユースには想像も出来ない。何処まで彼を信じて良いものか。
(ルナに危害を加える気は無いようだが……警戒はしておこう)
 至る所を眺めているウルティムに注意の目を向けつつ、ユースは帰るための手がかかりを探した。

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