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6章 聖女ディヴァリアと勇者リオン

177話 いずれ母になるもの

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 エルザさんを家に招いていて、俺達の子供をどう扱うかの相談を行う予定だ。
 気が早いと言われるかもしれないが、急に予定が入ることも珍しくはなくなるだろうからな。
 できるうちにできることをする。それが大切になってくるはずだ。

「エルザも私達の部屋に入れるようにしようか。それとも、子供の部屋を分けようか」

「私としては、部屋を分けた方が良いのではないかと思います。幼いうちは、鳴き声で邪魔になるでしょうし。執務を行う必要だってありますからね」

 俺としては、子供を俺達の手で可愛がるより、ちゃんと育つようにする方が、正しい愛情だと考えている。
 結局のところ、親だから何かをしたいというのは、本人の幸福に関係しない。
 つまらないエゴで、子供の成長を台無しにする訳にはいかないからな。

 それに、領民の生活もかかっているからな。
 俺達が子供の世話に手を取られて執務が滞るのは、貴族として責任のある態度とは言えない。
 悩ましい問題ではあるんだ。自分の手で子供を育てたい感情もあるけれど。
 やはり、効率の良い手段となると、慣れた人間に任せてしまうことになる。

 もうひとつの問題は、エルザさんの負担がどれほどのものかという点だ。
 孤児院で働いていたのだから、子供の世話には慣れている。
 だからといって、赤子を孤児院で育てていた訳ではないからな。
 まあ、俺の家にも、ディヴァリアの家にも、専門家はいる。
 エルザさんと協力してもらえれば、いい感じなのだがな。

「エルザさんは、赤子の世話は大丈夫か?」

「最低限のことはできます。暗殺者だった頃に、潜入の手段の1つとして、そして手駒の育成のための手段として、実践も行っていますから」

 なら、エルザさんに任せきってしまうのも手の1つか。
 俺達はエルザさんを信用しているが、うちの人間も同じとは限らないからな。
 連携に不安があるのなら、1人に託すのも手段なんだよな。
 どうしたものか。本当に悩ましい。

「私はエルザに任せちゃって良いと思うけど。最悪の場合でも、シルクを呼べば済むからね」

 死人は治せないから、本当の最悪には対処できないんだよな。
 とはいえ、エルザさんが子供を死なせるほどのミスをするとは思えない。
 本当に死ぬのなら、誰にもどうにもできない事態ではあるだろう。
 だから、任せてしまうのに不安はない。
 基本的には、とても信頼している相手だからな。

「今のうちから、勉強してもらうのも良いかもな」

「そうだね。適当な妊婦をあてがって、実体験させるのも良いと思うよ」

 すぐにその発想が出てくるあたり、他人を道具くらいにしか思っていないのがよく分かる。
 とはいえ、練習をしてもらうというのは、お互いにとって良いことだろう。
 適当な妊婦は困るかもしれないが。いや、子供が邪魔な人間もいるな。やり方次第か。

「まあ、あまり恨まれないやり方を考えないとな。親から子を引き離すのだから」

「そうだね。でも、私ならどうにでもできるかな。孤児院に子供を預けたいって相談が来ることもあるし」

 子供を手放したい親なら、むしろ都合がいいのは確かだ。
 俺達の子供に何かあったら、エルザさんだって悔やむだろうからな。できる備えはしておきたい。
 もしかしたら、俺が理不尽にもエルザさんを恨む可能性だってあるんだから。
 理性では彼女のせいではないと分かっていても、実の子のことで感情を制御できるかどうか。

 お互いの不幸を避けるためにも、雑な仕事はやめたほうがいいな。
 ちゃんと経験を積ませるのが、最悪の事態を避ける手立てだ。
 なんとなく任せて何かあったら、ディヴァリアもエルザさんも苦しむのだから。

「なら、エルザさんには手間をかけるが。経験を積む方向で行こう」

「かしこまりました。お二方の子供を健やかに育てられるよう、努力いたします」

「お願いね。エルザなら、最悪の状況でも納得できるから」

 ディヴァリアはそう思っているのか。
 なら、エルザさんに預けた方が良いな。
 失敗した乳母が殺されるのも、あまり見たい光景ではないからな。
 もちろん、うまくいくのが一番いいにしろ。

 俺もディヴァリアも、性格的には最悪の場合を考えがちだ。
 理想的な展開を考える時もあるのだが、人の悪意を知っているからな。
 だからこそ、失敗しても許せる相手の存在は大事になる。

「お二方の子ですから、最善を尽くします。私にとっても、大切な子のようなものですから」

「ありがとう、エルザ。私達を想ってくれて、嬉しいよ」

「そうだな。エルザさんには感謝してばかりだ。ノエルといい、エリスといい、帝国との時といい」

「当然のことでございます。私を大切にしていただける、あなた方だからこそなのですから」

 エルザさんは暗殺者で、だからこそ嫌われるというか、忌避されていたみたいなんだよな。
 実際に過去を知っている訳では無いが、言動の節々から感じられる。
 なら、俺達でエルザさんに愛される喜びを教えていきたい。
 ディヴァリアだって、異性愛ではないにしろ、家族愛のようなものは持っているはずなのだから。

「エルザさんには助けられているんだから、当たり前だよ」

「そうだね。それに、一緒に過ごしていて心地良いから」

「ありがたき幸せです。闇に生きる私が、あなた方の光に照らされているようです」

 俺もディヴァリアも、光の側ではないと思うが。
 まあ、エルザさんが救われているのなら、それで十分ではある。
 俺達にとって、大切な家族のような存在だからな。
 そんな人が俺達の子供を大事にしてくれるのだから、頼もしい限りだ。

「エルザさんだって、俺達を照らしてくれる光だよ」

「そうだね。私にとって、幸せの一部であることは間違いないから」

「あなた方に出会えて、尽くすことができる。どれほどの喜びでしょうか」

 とても満たされたような顔で、見ているこちらも嬉しくなる。
 やはり、大切な人が幸せそうにしていることは、大事な幸福だよな。
 これからも、エルザさんが幸せで居てくれるように。子供も大事にしていこう。
 俺達の子供が健やかであることは、親代わりのエルザさんにとっても重要なことだろうから。

「俺達だって、エルザさんと出会えた喜びは大きいんだ。だから、お互い様だよ」

「珍しく、私がリオンに紹介したからね。私のおかげだね」

 サクラ、ミナ達、ユリアとフェミル。その辺は俺がディヴァリアに紹介したからな。
 そう考えると、俺が起点となって生まれた関係はとても多い。ディヴァリアが珍しいというのも分かる気がするな。
 それに、俺の伝手では暗殺者を雇えなかった。それに、孤児院に務めさせるというアイデアもなかっただろう。

 だから、エルザさんとの関係は、完全にディヴァリアが生み出したもの。
 本当に感謝しないとな。こんな素敵な人と出会えたきっかけには。

「感謝します、聖女様。あなた様のおかげで、私は幸福を知ることができた」

「俺だって、ありがとうと言いたいな。エルザさんのおかげで、色々なものが手に入れられたのだから」

「ふふっ、どういたしまして。ずっと私のそばに居てくれれば、感謝の証としては十分だよ」

 今のディヴァリアの顔は、本当に聖女みたいだ。穏やかで、優しくて、癒やされる。
 これから先の結婚生活で、きっと子供にも愛情を注いでくれる。そう信じられる。
 俺達は、きっとみんなで幸せになれる。そう信じる材料が、また一つ増えた。

「もちろんでございます。私の幸福は、あなた方のそばに居ること。ずっと離れません」

「こちらこそ、よろしくね。私こそ、ずっと離さないからね」

「リオンさんの子供を、私達でしっかり育てましょうね。そして、私達も幸福になるのです」
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