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6章 聖女ディヴァリアと勇者リオン

172話 互いに貰うもの

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 シルクは最近、教会での仕事で忙しかったようだ。
 少し落ち着いたので、俺たちと一緒に過ごす時間を取ってくれたとのこと。
 やはり、時間ができた時に遊びたい相手だと思われているのは嬉しいな。
 俺にしろディヴァリアにしろ、友達と言える人間が多いわけではないから。

「シルクのおかげで、うまく教会に私達の手駒を送り込めたよ。ありがとう」

「当然です。ミナとディヴァリアが干渉してくれたほうが、私にとっても都合がいいですから」

 そんな事になっていたのか。俺の知らないところで、いろいろと動いているのだな。
 シルクが教会のことを好きでないのはきっと事実。だから、仮に教会が崩壊しても、あまり気にしないのだろうな。
 回復魔法を使い続けて、当然という顔をされて、あまつさえ仕事が遅いと罵られてすらいた。
 そんな環境に追いやった組織のことを、どうやって好きになるというのか。

 シルクとしても、必要だから仕事をこなしているのだろう。
 いくら優しい彼女でも、恨みを抱えないわけがないんだから。
 教会の全てが悪人ではないのだろうが、シルクから見ればな。
 まあ、嫌いだからといって踏みにじるような人じゃない。そこは信頼している。

「大司教になって、嫌な思いをしていたりしないか? 無理は禁物だぞ」

「問題ありません。リオン君のおかげで、環境は快適に近いです」

「教会は、ミナやリオン、私の機嫌を取らないといけないからね。教国のように壊されたくないから」

 そこに俺も混ざるのか。心を確かに持っていないと、悪事に手を染めてしまいそうだ。
 俺は弱い人間だからな。何でもできそうな状況で、自制が効くかは怪しい。
 顔色をうかがうばかりの人間達が相手だとしても、ちゃんと自分を保たないと。
 結局のところ、俺は小市民的な精神性の持ち主だからな。
 みんなから嫌われることのないように、気をつけていかないと。

「シルクが俺達の友達だってのは、知られているんだよな」

「そうだね。だから、教会はシルクを大司教に指名したんだよ」

「リオン君達の力になりたくて、仕事を引き受けたんです。権力は武器ですからね」

 権力によって、がんじがらめにならないか心配だった。
 だが、今のところは問題無さそうだな。俺はシルクを苦しめてまで、力になってほしくはないから。安心できる。

「シルクが苦しい思いをしていたら、手伝ってくれても無意味だからな。そこは安心できそうだ」

「リオンはちょっと優しすぎるかな。シルクだって、自分で立つくらいのことはできる人なんだよ」

「幸福ですよ。私を心配される感覚は、何度味わっても良い気分ですから」

 シルクは、というか俺の友達はだいたい、周りから軽んじられてきたからな。
 俺にとって当たり前の行動でも、嬉しいと感じてしまうくらいには。
 ただ、ディヴァリアの発言はシルクを子供扱いするなという注意なのだろう。
 当然のことだ。シルクは俺より優秀と言っていい人間なんだから。
 それに、自分の足で立てなくなるほど甘やかすのは本人のためにならない。やり過ぎには注意しないと。

「シルクに頼ってばかりの割に、偉そうな物言いかもな。悪い」

「否定します。リオン君の優しさは伝わっていますよ。あなたが私を大好きだということも」

「まあ、そうだね。偉そうというよりは、加減を知らないって感じだったし」

「肯定します。出会ったばかりのユリアさんやフェミルさんのために命をかける。優しさと言うには過激すぎる」

 シルクは、俺が命をかけるたびに苦しんでいたからな。
 根に持っていると言うと言葉が悪いが、相応に腹を立てていたのだろう。
 俺だって、親しい相手が危険な目にあっていて、心配しないはずがない。
 それを思えば、やり過ぎではあった。後悔はしていないが。ユリアもフェミルも、今では大切な相手だから。

「これからのリオンは、無茶をする必要もないよ。私も居るし、トゥルースオブマインドもあるからね」

「同感です。リオン君が傷つく姿は、もう見なくて済みそうですね。嬉しい限りです」

「なんだかんだで、シルクも優しいよね。もっと責めたって良いくらいだと思うよ」

「まあ、否定はできないが。何度も泣かせたもんな」

 俺が逆の立場なら、心配のあまりに厳しい言葉を投げかけてしまいそうだ。
 それを思えば、シルクがどれほど優しいかが伝わってくる。
 にも関わらず、シルクの悲しみを無視し続けていたんだからな。罪深いことだ。
 これからシルクを幸福にしていくことで、しっかりと償っていかないと。

「それでも、リオン君にもらったものの方が多いですから。気にしなくていいです」

「私達はみんな、リオンのおかげで幸せなんだからね。そこは確かな成果だよ」

 みんなが幸せであるのならば、誰の成果でも構わないが。
 それでも、俺の力が役立っているのだと思うと嬉しい。
 みんな大切な友達で、ディヴァリアは愛する人なんだから。
 俺の望みは、手の中にある小さな世界を守っていくことだ。

「ありがとう。お前達が幸福なのだと思うと、俺も幸せになれそうだよ」

「感謝します。相手の幸福を素直に喜べるあなただから、私は救われた」

「そうだね。私達のために、リオンはいっぱい尽くしてくれたから」

 大切な相手のために、全力を尽くす。当たり前のことではあるが、難しい。
 俺だって、何度も折れそうになりながら進んできたからな。
 他の誰かが俺と同じ立場なら、もっとうまくやれたのかもしれない。そう思ったことも一度や二度じゃない。
 そんな苦しみが報われたのだと思えるほどの価値が、シルク達の笑顔にはある。
 今穏やかに微笑んでいる顔は、きっと未来でだって忘れないだろう。

「お前達の感謝は、確かに俺の力になっていた。だから、お互い様だよ」

「ふふっ、リオンらしいね。自分の力だって誇ってもいいのに」

「ですが、そんなリオン君だからこそ出会えてよかったんです」

「確かにね。私だって、リオンにはいっぱい助けられてきたけど。感謝を求められたりはしなかったから」

「別に俺だって無欲じゃない。ディヴァリア達が好きだったからこそ、努力できただけのことだ」

 完全にどうでもいい相手からの感謝と、大事な相手からの感謝。比べるまでもない。
 大切な相手が幸せそうで居てくれる。俺にとっては最高の報酬だったと言うだけだ。
 金や名誉よりも、俺には大事だったというだけ。欲の種類が違っただけ。
 結局のところ、俺だって人間なんだから。報われないと分かっていても努力なんてできない。

「私達を好きになる相手が、どれだけ居たかってことだよ。今では別だけど、昔はね」

「同感です。リオン君が求めてくれた。それが私達の始まりだったんです」

「なら、俺という人間にも価値があったということか。ただ先に出会っただけという訳でもなく」

「ああ、そこを気にしていたんだ。心配しなくていいよ。私達みんな、リオンだから大切なんだよ」

「同意します。誰でも手を差し伸べられた訳じゃない。私達の前には、大勢の人が居た。それでも、リオン君だけだったんですから」

 俺が俺を認められなかった原因として、他の誰かでも良かったんじゃないかという考えはあるはず。
 だって、優しくしただけのことだったから。でも、確かに俺以外には居なかった。なら、大事な役割だったんだよな。
 そういえば、シャーナさんにも言われていた。俺だから救えたんだって。
 なら、誇りに思ってもいいだろう。誰に伝えるわけでもないけど、俺の中に抱えておく感情として。

「ありがとう。俺達は、お互いにお互いが救われているな」

「そうだね。最高の出会いだったって、みんな思っているよ。だから、この関係を永遠にしたいんだ」

「同感です。私達の手で、私達が幸福になれる世界を作りましょうね」
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