上 下
169 / 182
6章 聖女ディヴァリアと勇者リオン

168話 友情と幸福

しおりを挟む
 今日はサクラとディヴァリアと一緒だ。
 俺の家ではなく、ディヴァリアの家。完全に仲直りというか、関係が元に戻っていると思えるな。
 演技だと思っていたとはいえ、ほんの少しくらいは本当だったらと考えていたからな。

「ねえ、サクラ。宰相の態度、面白かったよね」

「そうね。ところで、ディヴァリア。宰相が言っていた悪事って、あんたがやっていたの?」

「だとしたら、どうするの?」

 会話の内容は不穏なのだが、とても和やかな雰囲気だ。
 サクラは完全に俺達に染まってしまったな。嬉しいような、やらかしてしまったような。
 もはや、主人公らしさは大きく失われてしまったのかもしれない。
 でも、大切な友達であることは変わりはしない。そういえば、結婚相手にもなるんだよな。
 初めて出会ったときには、全く想像もしていなかった。

「前にも言ったと思うけど、あんた達と離れ離れになる善より、一緒に居られる悪がいいわ。あたしにとって何より大切なのは、あんた達だから」

「ふふ、嬉しいな。サクラは本当に私達が大好きなんだね」

「もちろんよ。リオンとも結婚できることだし、今の幸せを逃したりしないわ」

「サクラ達と居ると、俺がすごい人間なんだって思い込みそうになるよ」

 実際、俺は大した人間じゃないはずだ。
 周りに支えられるばかりで、自分で成し遂げられたことなんてほぼない。
 ディヴァリアの好意だって無視する有様で、とても自分を評価できないんだよな。
 みんなが褒めてくれるばかりで、勘違いしそうにはなるが。

「ふふっ、仮に大した人間じゃなくても、私にとっては大好きな人だから」

「あたしも同じよ。無理に自信を持てとは言わないけど、自身を持っても良いだけの事はしているのよ」

「2人とも、ありがとう。2人にふさわしい人になれるように、頑張るよ」

「もう十分よ。あたしにとって、あんたの代わりなんて居ないんだから」

「そうだね。リオン以外の人を選ぶつもりはないかな」

 ありがたいことだ。大切な人から求められる以上に嬉しいことなんてない。
 俺の心が満たされてく感覚があるな。俺は無価値では無いんだと思える。
 勇者としての名声こそあれど、やはりみんなには釣り合う気がしない。
 それでも、必要とされる限りはそばに居るんだ。大好きな人達の。

「自分に自信が持てそうだよ。どうしても、俺は大したことない存在に思えてな」

「あたしも気持ちは分かる気がするわ。周りに比べて、何も持っていないような感覚よね」

 そうなんだよな。ディヴァリアを始めとして、周りの人間がすごすぎる。
 俺はあくまで凡人なんだという考えが、いつまで経っても抜けなかった。
 トゥルースオブマインドに目覚めた俺は、力という意味では飛び抜けたとは思うが。
 ただ、ディヴァリアたちが好きでいてくれる俺を、あまり卑下するのもどうかという話だよな。気をつけよう。

「サクラも悩んでいたんだな。やはり、話してみるものだな」

「そうね。リオンが劣等感で苦しんでいたことは知らなかったもの。今なら言えるわ。リオンは最高だって。そんなあんたが好きで居てくれるあたしも、きっと悪くないんだって」

「なら、きっと俺も悪くないな。ディヴァリアとサクラ、他にも好きで居てくれる人がいるんだから」

「本当だよ。私達のリオンは最高なんだから。あまり、悲しまないでね」

 俺が自分を悪く言い続けたら、きっとディヴァリア達は苦しむ気がする。
 だから、ちゃんと自分を信じてあげよう。ディヴァリア達の隣にいて良いんだって。
 当たり前のことだが、ディヴァリア達は誰にでも好意を向ける人じゃないんだから。
 ちゃんと、俺のことを認めた上で好きになってくれたんだから。

 それに、ディヴァリアが私達のと言ってくれている事も大事にしないとな。
 つまりは、周囲の人間を大切にしていることの証なのだから。
 昔のディヴァリアならば、自分以外の人間と想い人が結ばれるなんて、きっと許さなかった。
 だからこそ、良い変化をしているのだと感じられる。俺の努力は無駄ではなかった。
 何もできていないと思い続けていたが、間違いなく影響は与えているのだから。

「ああ。俺はディヴァリア達が認めてくれる人間なんだって、自信を持つよ」

「それなら、あたしもね。リオン達が友達だと思ってくれて、大切にしてくれる。そんなあたしなんだって」

「2人とも、大好きだよ。私は2人と出会えてよかったし、一緒に居られて幸せだよ」

 ディヴァリアは、俺達2人共を抱きしめてくる。
 俺とサクラは顔を見合わせた上で、自然と笑い出した。
 本当に良い出会いができたものだ。間違いなく、俺だってサクラだって幸せだからな。
 お互いがお互いの幸福になっている今が、きっと夢よりも上なんだ。

「ディヴァリアも欲張りよね。あたしもリオンも自分のものにしたいんだから」

「そうだね。リオンもサクラも、誰にも渡さないよ。この先の人生すべて、私のものだから」

 ディヴァリアは間違いなく本気で、だからこそ嬉しい。
 それほどに執着してくれているのだと思うと、胸が暖かくなりそうだ。
 サクラも同じ気持ちみたいで、お互いにディヴァリアを抱き返していった。

「大歓迎だ。ずっと、一緒だからな」

「そうね。でも、ディヴァリアだってあたし達のものなのよ」

「うん。嬉しいよ。私を求めてくれて、ありがとう。絶対に離さないからね」

「こちらこそ、よ。あんたの隣も、リオンの隣も、絶対に奪わせないから」

 仲が良さそうで何よりだ。ここまでお互いを思い合っている2人が、原作では敵対していたんだからな。分からないものだ。
 サクラは自己肯定感が低そうだったから、そこに刺さったのだろうが。
 俺もディヴァリアも、サクラに大好きだと意思表示を続けていた気がするからな。

 サクラが原作で攻略対象と仲良くしていたのは、きっと共感だったのだろう。
 マリオ達は、どいつもこいつも自分を信じられていなかったからな。
 そう思えば、俺はサクラに共感していたのだろうか。
 暗闇の中を進む迷子のような気分に、長い間苦しめられていたからな。

「リオンとサクラは大切にするね。いつまでも、私の2人だから」

「あたしだって、2人を大切にするわよ。最高の友達であることは、未来でも変わらないから」

「俺も同じ気持ちだ。俺の日常の象徴で、幸せの形なんだから」

「私達は、ずっと仲良しでいられるよね。きっと、これから先もずっと。だから、永遠に幸せだよ」

 そうなれたら良いな。所詮は子供の約束かもしれないが、叶ってほしい願いだ。
 どんな未来が待っていたとしても、今この瞬間の輝きは色あせたりしない。
 それでも、ずっと未来まで続いてほしい幸福だからな。
 俺のできることを全力でこなして、よりよい未来を目指していこう。
 俺を大好きで居てくれる人たちへの、せめてもの恩返しだ。

「あんた達を嫌いになるなんて、ありえないわよ。あたしに幸福を教えてくれた人なんだから」

「お互い様だね。一番はリオンだけど、サクラも大切な気持ちを教えてくれたから」

「リオンのことも含めて、お互い様ね。ディヴァリアがいたからこそ、あたしは強くなれたの」

 こんな光景が続くように、俺にできること。
 きっと、大好きの気持ちを伝え続けることは大事になる。
 他にも、相手の気持ちを尊重していかないとな。お互いが幸せになれるように。

「ディヴァリアにサクラを紹介して、本当に良かった」

「リオンのおかげだからね。私達が友達になれるって信じてくれたから」

「だから、あたし達はリオンを離さないわ。どんな未来でも、繋がり続けるから」

「そうだね。リオンを奪おうとする相手は、2人とも許さないよね。だから、ね? 私達を離しちゃダメだからね。約束だよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...