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6章 聖女ディヴァリアと勇者リオン

163話 捨てられない心

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 今日はディヴァリアの家で、2人で過ごしている。
 俺の家だと、ユリアと顔を合わせることになるからな。
 どこまで不仲を演じるつもりなのか分からない。だが、徹底するつもりなら、お互いに顔を合わせないほうが良いだろう。
 俺としても、できればケンカする姿は見たくないからな。

「ディヴァリア。2人とは仲直りできそうか?」

 誰が聞いているのか分からないから、念のために俺も知らないふりをする。
 ディヴァリアは俺の本心に気づいているだろうから、返事で状況が分かるはずだ。
 自宅においても演技を続けるつもりなのかどうか。今のうちに知っておきたい。

「安心して。リオンの大切な相手なのは分かってるから、殺さないよ」

 さて、これはどちらだろうな。
 演技をやめてもいいという合図とも、続けろという意思表示とも取れる。
 まだディヴァリアを完全に理解できていないのだと思うと悲しくなるな。
 だが、これから関係を深めていける。前向きに捉えていこう。

「ああ。できれば、ディヴァリアの敵に回ってほしくないものだな」

「そうだね。私だって、本気で嫌いな訳じゃないよ。リオンにだから、言うんだからね」

 つまりは、今は演技だという前提の方が良いのだろうか。
 完全に答えを言わないのなら、おかしな判断ではないよな。
 しかし、疲れるな。俺が知っていてもおかしくない情報を、頭の中で計算し続けるのは。
 だが、慣れていかないといけないだろう。ディヴァリアは当然のように実行できるのだから。
 そうでなければ、聖女としての顔を保ち続けることなどできなかったはずだ。

 さて、ディヴァリアが想定している現在の状況はどうなんだろうな。
 ミナのような相手が敵側にいるのなら、納得できる話ではあるのだが。
 それとも、家の中に敵側の人間が居るとかか?
 ディヴァリアに限って、俺に対して警戒している訳はないのだし。

「サクラと友達になれたのも、ユリアを使用人にできたのも、俺の財産だからな」

 間違いなく本音ではある。同時に、ディヴァリアから言葉を引き出すためのものでもある。
 とりあえず、俺はディヴァリアの動きに合わせるつもりだ。
 だから、返事を返すバリエーションが多い言葉を選んだつもりだ。
 サクラについて返してもいいし、ユリアについて返しても良い。
 他にも、俺と2人の仲に言及しても良い。割と良い選択だと思いたいな。

「リオンは2人の命を助けたもんね。愛着があるのは分かるよ」

「そうだな。俺の命を助けてくれた相手でもある」

「うん。だから、仲直りのための努力はするよ。と言っても、相手次第なんだけどね」

 まあ、ディヴァリアの演技だと、俺を奪おうとしている相手だものな。
 自分から積極的に謝るなど、俺を諦めるのと同義くらいだ。
 そう考えると、仲がこじれてもおかしくはない。
 つまり、敵にとっては大きなスキになる訳だ。

「仕方ないよな。結婚相手を誘惑する相手に、できることは限られる」

「そうなんだよね。サクラもユリアも、リオンを諦めてくれたら良いのにね」

「難しいだろうな。感情というのは、制御できるものではない」

「私はいろいろ我慢しているけどね。2人は慣れていないのかな」

「まあ、貴族としての立ち回りを覚えている訳だからな。ただの平民とは違うだろう」

 俺はあまりうまくないが。
 サクラもユリアも、俺より演技がうまいくらいだと思う。正直に言って、少し怖い。女は役者という言葉が浮かんだ。
 だが、俺だって習得すべき技能なんだよな。これから、領地の運営、騎士としての働き、様々な場面で必要になるはずだ。

「生まれから何から、ぜんぜん違うもんね。なかなか合わせるのは難しいよ」

「それでも、俺とサクラ達は手を取り合えた。だから、きっと未来でだってうまくいくと信じるよ」

「リオンは割と誰でも受け入れるからね。私には難しいかな」

 そうでもないと思うが。
 俺は割と好き嫌いが激しいぞ。というか、親しい人に敵意を向けられたら仲良くできない。
 ディヴァリアを止めるために動いていた頃ですら、本気で殺そうとする人とは協力できなかっただろうからな。
 とにかく、俺が受け入れる相手は、今のところ輝ける人ばかりだからな。

「まあ、無理をしろとは言えない。親しくできない相手だって居るだろうからな」

「そこは大丈夫かな。リオンが隣にいてくれる限り、きっとね」

「なら、安心だな。ディヴァリアが折れる未来はないだろう」

「うん、ありがとう。私もリオンをずっと支えるからね」

 お互いがお互いを支える関係が、きっと一番うまくいく。
 だから、ディヴァリアとサクラ達も同じであってほしい。
 圧倒的な力の差はあるが、それでも。

「こちらこそ、ありがとう。それで、お前は苦しくないか? サクラ達と対立して」

「大丈夫だよ。私にはリオンが居てくれる。それだけで、どんなことにだって耐えられるから」

 ディヴァリアの真剣な瞳を見る限り、本音なのだろう。
 俺がいるのなら問題ない。あるいは依存なのかもしれないが。
 とはいえ、俺だってディヴァリアがいないと生きていけないからな。
 大好きな相手とはいえ、とんでもない感情だことだ。

「サクラ達と仲直りできるのなら、それが一番いいが。最悪の事態も考えておかないとな」

「そうだね。サクラ達の力じゃ、私を傷つけられはしないけれど。だけど、リオンは困るもんね」

 まるで自分は困らないような物言いだな。
 これまでのサクラへの態度を見る限り、ウソだとは分かるが。
 サクラのことは本気で親友だと思っている。間違いない。
 だからこそ、サクラとのケンカも見守るだけで済んだ。
 正直なところ、他の相手だったらもっと慌てていたと思う。

「まあ、攻撃が通じる通じないの問題ではないからな。親しい相手との仲がこじれるのは、つらいものだ」

 マリオ達を続け様に死なせることになった時もつらくはあった。
 だが、サクラやユリアが相手だと比較にならないだろうな。
 積み重ねてきた時間も、大切だと思う感情も、何もかもが違う。
 俺を支えてくれて、大好きだと言ってくれた相手なんだ。
 今は演技ではあるが、現実にならないことを祈るばかりだ。

「マリオ達が死んだのは、つらかった?」

「少しはな。当時は苦しんだが、今では感情を整理できたよ」

「だったら、サクラ達を忘れるのは……その顔を見ると、無理そうだね」

 今の言葉だけで、嫌な考えが浮かんでしまったからな。まあ、難しい顔をしていたのだろう。
 サクラ達と出会えたことは、決して失いたくない財産だから。
 俺が今までの道のりで手に入れてきたものの中でも、特に大きいものだから。
 サクラ達が居なければ、これまでのどこかで死んでいただろうから。

「悪いな、ディヴァリア。他の女に入れ込んで」

「ううん。仕方ないよ。命を助けて、助けられてだもんね。それは大事な相手になるよ」

 どこまで本音なのだろうな。
 ディヴァリアを傷つけるくらいならば、ある程度は遠ざけて良いと思う。
 サクラ達が幸せに生きていてくれるのならば、それで十分だから。
 まあ、ディヴァリア自身もサクラ達を大切に思ってくれているからな。
 今のところは、結婚を推し進めようとしているくらいなのだし。

「それでも、一番大事なのはディヴァリアだから。他の誰よりも優先するよ」

「うん、知っているよ。だから、大丈夫。きっと、リオンが悲しむ未来にはならないから」

「そうだと良いな。ディヴァリアだって、嫌われたい訳じゃないもんな」

「だから、約束するよ。また、みんなで笑い会える日を迎えるって。ね、リオン」

 ディヴァリアの言葉通りになるように、俺も頑張っていかないとな。
 結婚式でも、その先でも、みんなと一緒で居られるように。
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