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6章 聖女ディヴァリアと勇者リオン

160話 愛の約束

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 ディヴァリアとの結婚式も、そろそろ目の前と言って良いんじゃないだろうか。
 まだ1日2日で結婚する訳では無いが、ついに実感が湧いてきた感覚がある。
 今日はディヴァリアと、結婚式の後の話を進めている。
 気が早いと思うかもしれないが、やりたいと言ってすぐできる事ではないからな。
 今回の結婚式だって、なかなかに準備期間が長いのだし。

「サクラとの結婚は、まだみんなには内緒でいこう。いきなり発表しても、困惑させちゃうだろうからね。そもそも、こっそり結婚でも良いかもしれないね」

 まあ、俺とディヴァリアが結婚式を行うのは、勇者と聖女という名声、俺達の家が侯爵家と公爵家であることが大きい。
 その辺、サクラは単なる平民ではあるからな。目立たせる必要は薄いかもな。
 まあ、本人とも相談しないことにはな。勝手に話を進めるのは問題だろう。

「いろいろ可能性は考えて良いと思うが、サクラ次第でもあるな」

「確かにね。サクラが結婚式をしたいのなら、私だって叶えたいからね」

 ディヴァリアの表情は穏やかで、サクラが大好きだというのが伝わってくる。
 嫉妬心もあるかもしれないと考えていたが、制御できる感情なのだろう。
 そもそも、ディヴァリアは理性的なんだよな。殺しだって、冷徹な計算のもとに行われている。
 単純に感情を爆発させるディヴァリアなんて、見たことがない。
 むしろ、俺の方が心を制御できていないくらいだと思える。

 まあ、絶望の未来では怒りに身を任せていたか。
 だけど、だからこそ安心できる。大切な人が死んでただ耐える人間なんて、むしろ信用できないからな。
 病気や寿命なら、分かる。でも、殺されている訳だからな。
 多少理不尽であっても怒りをぶつけるくらいの方が、俺には理解できる。

「今でも驚いているな。ディヴァリアが複数の妻を容認するなんて」

「あはは、嫉妬深いって思われてた? 間違いじゃないけどね。ただ、サクラ達は大好きだから。ソニアやシャーナも、我慢できる範囲だから」

「無理はしないでくれよ。俺が一番好きなのは、ディヴァリアなんだからな」

「大丈夫だよ。リオンが私を一番に考えることは疑ってないよ。だから、耐えられるんだ」

 なら、しっかりと愛を伝えていかないとな。
 耐えられるという言い回しからして、苦しさは感じているのだろうから。
 周りとの関係と、自分の嫉妬心を天秤にかけているはずだ。
 その上で、友達だって大切にしたいと決断しただけなのだろう。
 ディヴァリアの決意に、俺だって応えたい。ちゃんと、幸せにしてあげたい。

「ありがとう、でいいのか? とにかく、大好きだ」

「ふふっ、急にどうしたの? 私も、大好きだよ。ずっと一緒だからね」

「ああ、もちろんだ。お前のことは、何があっても幸せにしてみせる」

「リオンがそばに居てくれるだけで、私は幸せだけどね。リオンが幼馴染で、本当に良かった」

 花開くような笑みを見ることができて、少し安心できた。
 ディヴァリアだって、サクラ達との関係で悩んでいたのだろう。
 俺も、異性である以上は付き合いを考え直すべきか悩んでいたからな。
 それでも、ディヴァリアは周りを大切にするという決断をした。
 俺の知っている原作のディヴァリアでは、きっとありえなかったと思う。

「俺だって、お前と出会えて良かった。苦しんだこともあったが、今では良い思い出だ」

「リオンは人を殺すのが嫌だもんね。知ってたよ」

 前世での価値観なのか、それとも人類共通の悩みなのか。
 ディヴァリアは人殺しが平気そうだから、余計に悩んでいたんだよな。
 俺が弱いだけなのか、あるいはディヴァリアがおかしいのかと。
 今となっては、ディヴァリアの存在が頼もしいのだが。

「まあ、シルクもルミリエも嫌みたいだからな。できれば俺がやりたかった」

「優しいね、リオンは。私も手伝ってあげたほうが良かった?」

「いや、皇帝レックスとの戦いまでの道筋は、絶対に俺にとって必要だった」

 自分の本心を理解できないまま、ずっと生き続けてきたわけだからな。
 仮にディヴァリアが敵を殺し尽くしていたとして、俺が好意を自覚できたかは怪しい。
 苦しい道筋ではあったが、確かに意味のある道だった。

「帝国と戦ってすぐだったもんね。リオンが告白してくれたのは」

「そうだな。命の危機になって、初めて自分の心を理解できた」

 逆に言えば、死ぬ直前まで自分の本心を分かっていなかった。
 ハッキリ言ってバカバカしいと思う。でも、多分死にかけなきゃ受け入れられなかっただろうな。
 ディヴァリアを外道と認識したままで好きになるのには、良心が邪魔だったから。
 理性も何もない裸の心が表出したからこそ、俺の心に納得できたんだ。

「リオンが危ない目にあったのは嬉しくないけど、おかげで好きになってくれた訳だからね。複雑だよ」

「まあ、逆の立場だったら似たようなことを思うだろうな。でも、俺は嬉しいよ。自分の想いが叶って」

「リオンのことは、ずっと大好きだったんだよ。気づいてくれなかったけどね」

「ごめんな。言い訳になるかもしれないけど、俺にも悩みがあったんだ」

「リオンの悩みって、何だったの?」

 言ってしまって良いのだろうか。悩ましいな。
 ごまかすとして、どこまでごまかすべきだろう。
 いや、ウソをついたって気づかれるよな。俺だって、ディヴァリアのウソは分かる気がするし。
 そうなると、素直に話すのが正解だろうか。仕方ない。話すとするか。俺がうかつなことを言わなければ良かっただけだからな。

「ディヴァリアが人を殺すのを止めたくて、ずっと悩んでいたんだ」

「今では悩んでないんだね。なら、もう大丈夫なの?」

「それこそ、サクラやノエルみたいな人がが死なない限りはな」

「なら、問題ないね。とはいえ、私だって積極的に殺すつもりはないよ。手間だからね」

 やはり、良心で止まる人間ではないという俺の判断は正しかった。
 今でも、人を殺すこと自体を問題視している訳ではないのだろう。
 それでも、ディヴァリアが好きなんだ。俺も罪深いものだ。
 だが、悪い気分ではないな。ディヴァリアが俺のことを考えてくれているのは。

「ありがたいな。人が死ぬのは、できれば少ない方がいい」

「それがリオンの望みなら、できるだけ殺さないようにするよ。どうしても必要なら、話は別だけどね」

 もしかしたら、初めからディヴァリアに頼めばよかったのかもな。人を殺さないでほしいと。
 なら、ずいぶんと遠回りをしたものだ。だが、当時の俺には選べない選択だった。ディヴァリアを恐れていたからな。
 反対すれば殺されるのではないかという考えは、いつも頭の片隅にあったから。

「まあ、今の王国で誰も殺すななんて言うやつが居るのなら、信用できないよな」

「そうだね。最低限、殺すべき敵はいるよ。好き嫌いを抜きにしてもね」

 実際、武力に訴えかけようとする人間は多い。
 これまで戦ってきた敵のほとんどが、力で現状を変えようとする人間だったからな。
 それを思えば、殺さずに生きるなんてことは貴族には無理だ。流石に、わきまえている。

「だな。それでも、犠牲が少ない方が嬉しいが」

「リオンの望みは、もうすぐ叶うよ。だから、安心して結婚式を待っていてね」

「ああ。お前との未来のために、もう少しだけ頑張るよ」

「ふふっ、今回は、私が全力を尽くす番。でも、少しだけ心配をかけちゃうかもね」

 シャーナさんも言っていたな。俺に負担がかかりそうだというような事を。
 それでも、ディヴァリアのことを信じるだけだ。簡単なことだよな。

「それが終わったら、結婚だな。きっと、俺達は誰よりも幸せになれるだろうな」

「うん。約束するよ。必ずリオンを幸せにする。私の全てをかけてね。だから、これからもよろしくね」

 ああ、もちろんだ。俺の命が続く限り、お前を愛し続けるからな。


――――――


 リオンとの結婚式まで、もうすぐだと言って良い。
 最高の舞台を整えるために、最後の敵を排除しないとね。
 私を理解している全ての人間に対する抑止が、完成する瞬間なんだ。
 脅しなんて通用しない。真実を明かそうとしても無駄。敵対すれば死ぬ。そう教えてあげるんだ。
 親切だよね。さっさと殺した方が、私にとっては楽なんだから。

 だけど、リオンは犠牲を少なくしてほしいみたいだから。
 少しだけ遠回りすることになるけれど、リオンのためなら悪くないかな。
 協力者は、リオンとの結婚を餌に集めた。ソニアもシャーナも、喜んで従ってくれたよ。

 リオンの師匠の持っているものは、恋愛感情ではないみたいだけど。それでも、一緒に居たい相手だもんね。
 私に何かあれば、リオンだって巻き込まれちゃう。私とリオンが結婚することは、周知の事実なんだから。
 リオンに希望を見た人達は、絶対に失いたくないと考えている。都合がいいよね。

 ソニアは私に敵意を持っていた。その感情は本物だから。
 だからこそ、私の計画にとっては都合がいい。私を排除したい人を、逆に潰してあげるためにはね。

――人はね、敵味方で境界を引きたがるんだ。中間を考えられる人は少ないよ。

 ソニアやサクラ、他の人達を味方って思っておいてね。
 最後には、絶望とともに死を贈ってあげる。
 どこまでも私の手のひらの上でしかないのだと、心から理解させてあげる。

 その後は、いよいよ私達の結婚式だ。
 かつて望んだように、誰からも祝福される結婚式になりそうだよね。

 楽しみにしていてね、リオン。
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