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5章 トゥルースオブマインド

138話 尽くす喜び

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 今日はフェミルと過ごす日だ。思えば、俺の使用人は俺が助けた相手ばかりだよな。
 ノエルはディヴァリアと一緒に拾ったし、ユリアは村ごと殺されるところを助けたし、フェミルは人質を取られていたのを救出した。
 昔の俺の行動が、今の俺を助けてくれていると思うと、善行はするものだなと思える。
 それに、単純に人助けは気分がいいからな。戦争なんかより、よほど楽しい。

「フェミル、改めてありがとうな。お前の転移のおかげで、大勢が救われた。もちろん、俺も」

「リオンにはエリスともども助けてもらったから。気にしなくていいわ。私だって、あなたが大切なのよ」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。でも、何か礼が必要なら言ってくれ。できる限り叶えるつもりだ」

「エリスと一緒に、大事にしてもらっているから。欲しい物なんて特にないわ」

「なら良いが。我慢はしなくていいからな」

 フェミルには色々と助けられているからな。皇帝との戦いでは、フェミルの転移のおかげで命を拾った。
 他にも、ノエルやユリアが極端に接近してくるのを、たしなめてもらっているし。
 使用人としても優秀で、とても世話になっている実感がある。

「本当に我慢はしていないのよ。リオンこそ、私に望むことがあれば何でも言って。聖女様と結ばれた以上、体は困るけれど」

「ああ、分かっている。だが、フェミルは優秀だからな。頼みたいことは特にないかな」

「ふふっ。お互い、相手に満足しているのね。いい関係だわ」

「そうだな。フェミルのおかげで、俺はいま幸せなんだ」

 フェミル1人の力ではないが、大きな役割を果たしていることは間違いない。
 だからこそ、困ったことがあれば何でもするつもりだ。それに、大切な相手だからな。
 使用人として、ずいぶんな期間を過ごしてきた。だから、けっこう大きい情がある。

「なら、良かった。リオンが幸せになるのなら、嬉しいわ」

「お前の幸福も、俺の幸せになってくれる。だから、自分を大事にしてくれよ」

「ええ、もちろん。リオンを放ってはおけないわ。心配になることが多いのよ。だから、おちおち死んでもいられない」

「まあ、理由は何でもいいが。とにかく、お前も無事でなければ、俺は満足できないんだ」

 とはいえ、心配をかけているのは反省すべきかもしれない。
 結局、割と高い頻度で死にかけているからな。トゥルースオブマインドに目覚めたおかげで、死ににくくはなっただろうが。
 それでも、今後も油断する訳にはいかない。女神アルフィラと出会う未来が待っている。
 敵としてなのか、味方としてなのかは分からない。だが、大きな事件に決まっているからな。

「リオンにとって親しい人が大切なのは、よく分かっているつもりよ。だから、犠牲になるつもりはないわ。それが恩返しにもなる」

「ああ。まあ、恩は十分に返してもらったとは思うが。命を助けられたのだし」

「エリスは2回命を助けられているし、私の分だってあるわ。まだ、足りないんじゃないかしら」

「フェミルの意志だから、止めはしないが。俺は満足しているんだぞ」

「リオンなんて、ちょっと助けたら満足するでしょ」

 酷い物言いだが、フェミルは穏やかな表情だ。だから、悪い気分ではない。
 きっと、フェミルの優しさなのだろうな。俺が満足しているのだから、恩なんて放棄しても良い。
 だが、これからも俺のために尽くしてくれるという宣言だと思う。
 嬉しくはある。フェミルに世話を焼かれているのは、間違いなく幸せだからな。

「どうだかな。まあ、フェミルの気持ちはとても嬉しい。これからも、よろしく頼む」

「ええ。ユリアやノエルを止める役割だって必要だからね」

 まあ、ディヴァリアと結ばれたと知っているのだし、2人もある程度は自重してくれるはずだ。
 とはいえ、以前のように風呂にまで突撃されてはかなわない。
 フェミルは使用人の中では重要な良心を担っている。とても大切な役割だ。

「ありがたい。あの子達は、自分の可愛さを理解していないんだよ」

「まあ、分かるわ。リオンが理性を失うことなんて、想像もしていない」

「だよな。俺だって男なんだから、変なことだって考えるんだぞ」

「それは、私でも?」

 フェミルも確かに美人なんだよな。濃い紫の髪と目は、強い意志を持ったような目つきによく似合っている。
 一見冷たそうな雰囲気もあるが、性格はどう考えても優しい。
 それらを考えると、とても魅力的というほかない。単純に、親しい相手だということもある。

「本人の前で言わせるのか。酷いやつだ」

「まあ、そうね。でも、答えは十分に分かったわ。悪くない気分ね」

 確かに答えを言っているようなものか。魅力を感じていないのなら、別の言い回しになるはずだ。
 実際、フェミルが一番距離を取ってくれるだけで、一緒に風呂に入るのは変な気分になる。
 それでも、誰とも一緒に入らないと、使用人としての仕事ができていないって父さんに評価されかねないからな。
 悲しいことだ。1人で風呂に入るのが、一番気楽なのにな。

「フェミルは十分に魅力的だぞ。そんな相手に世話を焼かれるわけだからな。つらい時もあるさ」

「まあ、リオンは女に囲まれてるし、1人になる時間もないものね。それは、変な気分にもなるか」

「否定はできないな。だが、ディヴァリアのためにも、お前達のためにも、しっかりと我慢しないと」

「恋人がいないのなら、私くらい好きにしてくれて良いんだけど。聖女様を裏切らせるのもね」

「自分を大事にしてくれよ。いくら使用人だからって、本当に何でも世話を焼く必要はないんだぞ」

 まあ、今はディヴァリアに遠慮しているみたいではあるが。
 とはいえ、簡単に体まで差し出そうとされると困る。どうでもいい相手じゃないんだ。
 フェミルを見ていると、無理をしてでも俺に恩返ししようとしていないか、不安になるんだよな。

「大丈夫よ。私はね、リオンになら何をされてもいいの。嫌だとは思わないし、無理もしていないわ」

「なら、良いのか? よく分からないな」

「私を大切にしてくれる。エリスだって大切にしてくれる。そんなあなただから、何でもしてあげたいのよ」

「気持ちは嬉しいが。俺としては、お前の幸せのほうが大事だぞ。せっかく助けた相手なんだからな」

「ふふっ。私は、リオンが大好き。ノエルやユリアほど極端ではないけど。あなたになら殺されても良い程度には、大切な相手なのよ」

 それは普通に極端なんだよな。まあ、フェミルの意思を否定はしないが。
 というか、フェミルを殺すのは絶対に嫌だぞ。例えだとは分かってはいるが、あまり想像したくはない。
 それにしても、普段はもっと軽い気持ちを装っていたような。誤魔化していたのだろうか。

「フェミルを殺すつもりはないけどな。お前だって、俺の大切な日常の一部なんだから」

「分かっているわ。でも、せっかくの機会だから、宣言しておこうと思って」

「まあ、珍しい2人きりではあるな」

「そうね。やっぱり、あなたに全てをかけて尽くしたい。そう思うのよ」

 とんでもなく重いな。まあ、俺だって似たようなものではあるが。
 俺のディヴァリアに対する感情は、もっと酷いかもしれない。
 だから、フェミルの気持ちは分かるような気がする。
 大切な相手の為なら、何だってしてやりたいものだよな。
 それほどに、俺を大事にしてくれている訳だ。ありがたい限りだよな。

「お前の望みなら、構わないが。無理をしていないかが心配だったわけだからな」

「じゃあ、決まりね。リオン、あなたの望むこと、何だってする。だから、ずっと幸せでいてちょうだい。それだけが、私の望み。よろしくね」

 それがフェミルの幸せだというのなら、是非もない。これからも、よろしく頼む。
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