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5章 トゥルースオブマインド

136話 妹の望み

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 今日はノエルと2人きりだ。いつもはユリアやフェミルも一緒だが、たまには個人だけで相手をしてほしいとのことだ。
 それで、ユリアやフェミルにも時間を用意することになった。
 フェミルは遠慮というか、別にいらない雰囲気ではあった。が、ユリアとノエルの勢いに押し切られる形になっていた。

「リオンお兄ちゃん、ディヴァリアお姉ちゃんに告白したんだよね。聞いたよ」

「ああ、そうだな。結婚の約束もした。ノエル達は、やきもきしていたよな」

「うん。リオンお兄ちゃん、どうして恋愛だけはダメなんだろうって、みんな疑問だったんだよ」

 ノエルの言葉は否定できない。
 ディヴァリアから想われていたことは、客観的には明らかだったはずだ。
 なのに、俺は気づかないフリを続けてきた。それは、ダメと言われるのも当然だよな。
 ノエルにも感謝しないとな。俺自身の想いに気づけたのにも、ノエルの言葉の影響は大きいから。

「ディヴァリアにも申し訳ないよ。ずっと好きで居てくれていたのにな」

「そうだよ! 流石にノエルもリオンお兄ちゃんをかばえないんだからね!」

「ああ、そうだな。ディヴァリアに埋め合わせをするために、あまり他の女には近づかないつもりだったんだが」

「まあ、ディヴァリアお姉ちゃんも、本音では嬉しいと思うよ。でも、ノエル達だってリオンお兄ちゃんと一緒に居たいって、我慢してくれてるんだ」

 なるほど。ディヴァリアにだって、大切な相手は多い。
 だから、友達たちとの関係を壊したくなかった。そんなところか。
 まあ、今の仮説が正しいとなると、俺と周囲の関係はメチャクチャだが。
 うぬぼれだったら、とてつもなく恥ずかしいことだ。俺が周囲の人に好意を持たれているなんて。
 とはいえ、立場が逆なら、俺なら惚れていてもおかしくはない。全くの見当違いではなさそうだ。

「ディヴァリアを優先したいような、我慢を尊重したいような。悩ましいな」

「リオンお兄ちゃんのやりたい形でいいと思うよ。もし遠ざけられたら、ノエルは泣いちゃうけど」

 そこなんだよな。泣かせたく無いからと言って、ディヴァリアに我慢を強いるのは問題だという価値観ではある。
 それでも、ディヴァリアにとってもノエル達は大切な人達だから。きっと、泣き顔なんて見たくない。分かってしまう。
 だからなんだろうな。サクラと俺が2人きりになるのを許したのも。

「ディヴァリアにも、相反する心がある。だからこそ、簡単には決められないな」

 要するに、俺を独占したいという心と、みんなを泣かせたくないという心。
 どちらもディヴァリアの想いだから、難しい問題なんだ。
 ノエル達を遠ざけることが、ディヴァリアの想いを尊重する行為な訳では無い。

「ノエルは2人と一緒に居たいけど。ディヴァリアお姉ちゃんもきっと同じだよ」

「まあ、そうだよな。ノエルに結婚式を祝われるのは、俺達2人の願いでもある」

「2人の妹だからね! 全力でお祝いするよ! 待ち遠しいなあ」

「ああ、楽しみにしていてくれ。時間はかかるかもしれないが、必ず開いてみせる」

「ノエルには、貴族の話なんて分かんないけど。でも、2人ならきっと大丈夫だよ」

 ノエルからは全力の信頼が伝わってくる。だから、その期待に応えたい。
 俺達2人にとって大切な妹の、大切な願いなんだ。絶対に叶えたい。
 ディヴァリアと結婚すれば、ノエルは俺達2人を世話してくれるだろうからな。
 いずれは、子供の面倒まで任せるかもしれない。ノエルなら、信頼できる。

「ああ、ノエルが喜ぶ姿を見るためにも、頑張っていくよ」

「ディヴァリアお姉ちゃんが一番なんだからね。そこは、間違えちゃダメだよ」

「もちろんだ。だが、ノエルは家族なんだからな。大切にするのは当たり前だ」

「ありがとう。リオンお兄ちゃんに拾ってもらえて良かった。出会えて良かった」

「俺だって、きっとディヴァリアだって同じ気持ちだ。だから、お互い様だ」

 ノエルの笑顔が、どれほど俺達を癒やしてくれたか。
 それを考えれば、俺達だってノエルにたくさんの物をもらっている。
 単なる偶然だったのだろうが、ノエルと出会えた運命には感謝したい。
 きっと、ディヴァリアの心を生み出すきっかけの、大きなひとつだろうから。

「うん! 2人とも、子ども達みんなに優しいけど。でも、ノエルにはもっと優しいからね」

「ああ、そうだな。ノエルが大切な存在だからだ。ありがとう、俺達と出会ってくれて」

「嬉しいな。ノエルだけが喜んでいるわけじゃないんだ。救われたのはノエルなのにね」

「いや。俺達を慕ってくれるノエルの存在が、どれだけ力になってくれたことか」

「ありがとう。これからもずっと、2人と一緒だからね」

「そうだな。ずっと一緒だ」

 俺達の大切な妹だからな。まあ、血は繋がっていないとはいえ。
 だが、そんな事は関係ないよな。俺達の紡いできた時間が、絆が、ノエルを家族にしたんだから。
 何があっても手放したりしない。ディヴァリアだって、きっと同じ気持ちだ。

 ノエルは勢いよく抱きついてくる。やはり、可愛らしい限りだ。
 守るべき存在だと、俺の心に強く刻まれていると思う。
 まあ、七色の杖との戦いでは、こちらが守られたくらいだったが。

 ノエルを抱き返すと、気持ちよさそうに頬をこすりつけてきた。

「ディヴァリアお姉ちゃんにも、ノエルみたいにしてあげてね。きっと、甘えたい時だってあるから」

「ああ。ディヴァリアが望むことは何でもするさ。ノエルを傷つけるのなら、例外だが」

「うん! 二人の結婚を邪魔する人は、ノエルがやっつけちゃうから! 任せてよ!」

「だからといって、無理はしないでくれよ。ノエルが傷つくことは、俺もディヴァリアも望まないんだからな」

「分かってるよ! 2人の妹だからね! この立場だけは、絶対に誰にも渡さないよ!」

 可愛らしい独占欲だ。俺達だって、他に妹を求めたりしないさ。
 ノエルとほどの絆を結べる相手など、想像もできないし。
 それに、俺の大切な人はもう十分な数だ。これ以上は、よくばり過ぎだよな。

「ああ。大切な妹は、ノエルだけだ。これからもずっとな」

「うん! ずっと一緒にいるからね。誰が敵になっても、同じ事だよ」

「ああ、頼りにしている。そして、俺達をいっぱい頼ってくれ。それが家族ってものだろ?」

「2人に頼りたいことなんて、あんまり無いけどね。一緒に居たい。それだけだから」

 きっと本音なのだろうな。我慢している表情ではない。
 でも、ノエルが直接求めなかったとしても、心の中にある願いは叶えたい。
 きっと、家族のぬくもりを求めている。だから、全力で大切にするんだ。
 そして、いつか誰からも俺達の家族だと認めさせてやる。

「ああ。当たり前にずっと一緒にいる。それが、家族としての答えだ」

「うん。ずっと離れたりしないよ。2人の妹として、2人を支えるんだから!」

「ありがとう。俺達だって、妹であるノエルの幸せを支える。約束だ」

「嬉しいよ。リオンお兄ちゃんの言葉は。だから、2人にいっぱい幸せをあげるね。これまでずっと、2人に幸せをもらったから」

 気にしなくても良いんだけどな。ノエルが大好きだから、苦痛ではなかった。むしろ、幸せだったくらいだ。
 それでも、ノエルの想いを否定するのは愚かなことだからな。

「ノエルが幸せなら、俺達だって幸せだよ。家族なんだからな」

「うん! ノエル達を引き裂こうとするのなら、誰だって許さないよ!」

「ははっ、ノエルが怒ったら、それは怖そうだ」

「ひどーい! でも、間違ってないよ。だって、殺したくらいじゃ足りないからね」

「まあ、気持ちは分かる」

「リオンお兄ちゃん、ずっと一緒だよ。じゃないと、邪魔した人たちは全員地獄に送っちゃうんだから!」

 ああ、これからもずっと一緒にいような。家族として、絶対に幸せにしてみせるから。
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